「伝えるのは、命」という理念のもと、動物たちのありのままの姿を紹介し、命の美しさやぬくもりを感じられる施設運営をされている旭山動物園さま。
それまで業界になかった展示方法や飼育スタッフによる取組みなどにより全国に名を馳せ、来園者が増加したものの、行列をつくってしまう売改札が課題となっていました。
そこで、入園から退園まで楽しく気持ちよく過ごせる動物園づくりのため、同園ではAdeccoのBPOサービスを導入。Adeccoは単なる受託業者としてではなく、同園の理念やブランドを守り、その発展に貢献するべく業務を遂行しています。
今回、旭山動物園 園長の田村 哲也さまへアウトソーシング導入の目的や、Adeccoにご依頼いただいた理由、導入後の効果などをお聞きしました。
インタビュイー:
旭山動物園
園長 田村 哲也さま
インタビュアー
アデコ株式会社
松田 雅人
導入前の課題
- 券売機の老朽化とスタッフ配置により、売改札に行列ができていた
- 入園者をスムーズに誘導することができていなかった
Adeccoを選んだ決め手
- スタッフへの教育体制が信用できた
- 単なる業務改善ではなく、より高いレベルを目指す意識があった
導入後の成果・効果
- 目の前の状況に対して柔軟に対応し、来園者に寄り添う接客ができるようになった
- 来園者国籍調査などの新たな取組みも現場に即した方法で開始できた
観光客だけでなく、旭川市民にとっても身近な存在でありたい
――田村さまは2024年4月に園長に就任されました。これまでと現在のお仕事について教えてください。
私はもともと、旭川市役所で子育て支援部等の仕事を経て、2019年から旭山動物園の職員となりました。
前園長は、動物たち本来の姿を見せる「行動展示」を考案した坂東です。獣医師として飼育現場を長く担当していた坂東は現在も統括園長という形で残っていますので、二人三脚で運営を行っています。
――Web上で公開されている「どうぶつえん日記」で、田村さまは「四季を感じる場所でありたい」と投稿されています。どのような思いで書かれた言葉なのでしょうか。
現在の旭山動物園は、野生に近い状態で動物たちの姿を見せる「行動展示」を1990年代に始め、国内外からお客様に来ていただける、いわば観光施設のようになりました。
それはもちろんありがたいことですが、一方で、地元の皆さまにとって少し縁遠い施設になってしまう側面もあります。
市外からのご友人を当園にお連れいただくだけでなく、やはり地域の方々自身にも身近に感じていただける、公園のような場所になれたらと考えています。
そして、私が動物園勤務6年目を迎えて思うのは、動物園では季節というものをより深く感じられるということです。
旭山エリアは旭川市内でも桜の名所として知られていて、園内も桜をはじめ、四季折々の樹木が豊かに生い茂っています。夏はセミが鳴き、秋は紅葉が鮮やかで、冬の凛とした雪の美しさも魅力です。
一年を通じて当園にお越しいただくことで、自然の豊かさと季節の移ろいを味わっていただけたらと思っています。
「伝えるのは、命」。流行ではなく、動物本来のすごさを伝える
――旭山動物園さまでは、「伝えるのは、命」という理念を掲げていらっしゃいます。どのような思いが込められているのでしょうか。
遊園地でもなんでも、人間は集客施設の内容に飽きてしまう生き物ですよね。モデルチェンジやマイナーチェンジをすれば飽きられないという考え方はありますが、動物を飼育している私たちは「飽きられたら動物をチェンジすればいい」というわけにはいきません。
これまで、ラッコやコアラが一大ブームになったり、現在もパンダが根強く人気だったりしていますが、人気だけを追いかけるのは本質的ではないと私たちは考えています。
飽きられるかどうかに関係なく、動物本来の姿は等しくすごいものですし、飼育スタッフたちはその魅力を特によく分かっています。でもお客様にうまく伝わっていないのなら、気づいていただけるようにしようということで、「行動展示」が始まりました。
お金をかけて施設整備をする前に始めたのは、手描き看板の作成や、飼育スタッフが担当動物についてより深い解説をする「ワンポイントガイド」、動物にエサを与えながら、特徴的な行動について解説を行う「もぐもぐタイム」などです。こうした取組みは今でこそ多くの動物園で行われていますが、はじめは当園だけでした。
また、当園では珍しい動物だけでなく、「北海道の小動物コーナー」を設けるなど、地元の動物もしっかり紹介しています。例えばキツネやタヌキは、この地域だと「いるのが当たり前」ですが、私たちはポスターの写真にも彼らを登場させているんです。
日本最北の動物園として、北海道の動物にもフォーカスを当てて紹介すること、彼らの魅力を伝えることも大切な役割だと考えています。
チケット購入の行列を改善するため、売改札・団体受付業務を委託
――貴園では、2007年より団体受付業務や展示館案内業務などをAdeccoに委託いただいています。当時、委託に至るまでどのような課題があったかお聞かせください。
その頃当園にあった券売機はかなり古い機械で、ほとんど稼働させられていませんでした。スタッフの役割分担もうまくいっておらず、チケットの購入場所で行列ができてしまっていたのです。
また、キャッシュレス化の必要性も感じていました。来園前にインターネット上やコンビニでチケットを事前に購入していただくなどして混雑を解消すること、そして来園者をスムーズに誘導することも想定していました。
そこで、お客様の満足度を上げるため、各門での売改札・団体受付とともに質の高い接客を行って入園者に気持ちよく見学していただくことを目的とし、売改札・団体受付業務に従事する事業者を募集しました。
――弊社を選んでくださった理由を教えていただけますか?
複数の事業者さんに企画内容を提案していただきましたが、Adeccoさんはスタッフの方の教育体制がしっかりしていると感じました。現状のレベルで満足するのではなく、より上を目指すという意識を会社全体で持たれていると思います。
また、実際にAdeccoさんに委託して感じているのは、状況に応じてどのような対応をしたら良いか、どうしたらお客様にもっと気持ちよく過ごしていただけるのかを常に考えていいただけているということです。
入園者と接する現場では、仕様書に書ききれない仕事が生まれます。その場の状況によって臨機応変に判断し、お客様に寄り添って対応してくださっているので安心感がありますね。
――Adeccoを導入してから、新たに開始された業務はありますか?
2023年から、インバウンドのお客様の国籍調査を始めました。これまで、予約の団体ツアーのお客様以外は、国や地域の統計をとれていなかったからです。
Adeccoさんに依頼したところ、現場の運営に即した方法をすぐに検討してくださいました。「業務内容を細かく指定してください」というスタンスの事業者もあると思いますが、Adeccoさんは現場をよく理解されているので「こういうやり方はどうでしょうか」と具体的な提案もしてくださっています。
指示待ちの姿勢ではなく、私たちが課題だと考えていることに対して真摯に向き合ってくださることがAdeccoさんらしさではないでしょうか。
――海外からのお客様に対して、Adeccoスタッフの接客対応はいかがでしょうか。
言葉の壁があるときは指さし確認で伝えるなど、工夫を凝らして対応してくださっています。
私たちから対応を細かく指示しなくても、現場ならではの知恵で「こういう方法ならうまく伝えられるのではないか」と積極的に考えて対応されているのは、インバウンドのお客様に対してであっても変わりません。
今後は教育活動にも注力。動物と「人」の力で、より魅力ある場所へ
――今後のご活動について、展望をお聞かせください。
旭山動物園は、法律上の博物館としての要件を満たしていることが認められ、令和6年2月29日付で博物館法に規定する登録博物館として登録されました。
動物園が登録博物館になったのは、昭和32年に登録された愛知県の日本モンキーセンターに続く2番目です。
これまでも私たちは動物を対象とした調査・研究を行い、「伝えるのは、命」というメッセージの発信をはじめ、社会に還元する取り組みを長年行ってきました。
今後は、登録博物館になったことを受け、地域経済を牽引する役割だけでなく、教育活動にも注力していきたいと考えています。
博物館や美術館というと、「何かを学ぶところ」というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。一方、動物園は気負わずにふらりと入れる場所でありながら、思いがけない発見や学びを持ち帰ることができる場所だと思います。
今後は、博物館としての旭山動物園が持つ可能性を広げて、次世代を担う子どもたちに対して積極的にアプローチしていくことを計画中です。
――すでに取り組まれていることは何かありますか?
2024年6月29日に、子どもたちだけを見学対象とした「あさひやま・キッズ・Zoo」を開催しました。1時間半程度ですが、子どもたちだけが動物と向き合い、彼らの命を感じてもらうことを目的とした夜の特別開園です。大人の方には、休憩所でお待ちいただきました。
通常、子どもが動物園に来るには保護者の方や先生など、大人が付き添いますよね。でもその場合、大人の都合や大人の感覚が子どもに介入してしまいます。
例えば、前園長の坂東が当園の運営を立て直そうとしていた頃、世間ではラッコがブームになっていました。
ある日、幼稚園の遠足で当園を訪れたお子さんが、プールで泳ぐアザラシの姿に夢中になっていたそうです。その頃はまだ「行動展示」を始めておらず、アザラシの泳ぎ方の習性に合わせた円柱型の水槽はありませんでした。
いたって普通のプールだったのですが、そのお子さんは夢中でアザラシを見ていたそうです。すると、次のコーナーへ移動させたい引率の先生が「〇〇くん、もう行くよ」と声をかけました。
その先生の次の言葉が「それ、ただのアザラシだよ。ラッコじゃないよ」だったそうです。するとそのお子さんも「なんだ、ただのアザラシなんだ」と興味を失ってしまいました。
その場に居合わせた坂東はショックを受け、「大人の価値観が子どもに植え付けられた瞬間」だったと感じたそうです。子どもが自由な視点で楽しんでいても、大人の一言で「ただのアザラシ」になってしまう。このときの悔しさが、のちのあざらし館オープンや今回の特別開園につながっています。
――たしかに大人は「動物園では珍しい生き物を見ないともったいない」という感覚がありそうです。
本当は別に動物を見なくても、例えば動物園で見つけたアリに興味を持ったっていいんですよね。私自身も子育てをしているので親の気持ちも分かりますが、その子にとっての「今の一番」を大事にすることが必要だと思います。
――旭山動物園さまが教育的な働きを広げていく上で、Adeccoに期待されていることはありますか?
お客様と直接接する機会が多いAdeccoさん側から、さらにいろいろな業務提案をいただけたらと思います。
「実はこういう要因で満足度を少し下げてしまっています」「もっとこういうふうにしたほうが喜ばれるのではないか」といった、私たちに見えていない気づきも多々あるのではないでしょうか。
日々の園内コミュニケーションをより密にして改善していくのはもちろん、大きな費用がかかる内容であっても、ぜひご提案いただけたらと思います。
――Adeccoには、人材躍動化を通じて社会を変えていくという理念がございます。旭山動物園さまで働くAdeccoスタッフは、生き生きと働いておりますでしょうか。
お客様に寄り添いながら、生き生きとした笑顔で働いてくださっています。
動物園の運営というものは、実は動物の飼育をするだけでは成り立ちません。お客様に来ていただける動物園は、事務職の職員、飼育スタッフ、獣医師、園長などさまざまな「人」がつくっています。
Adeccoさんに対応いただいている売改札の業務も、お客様に動物園としての最初の印象と、お帰りになる際の印象を与える場ですから、非常に重要です。
正職員だけでなく、委託業者さんや売店で働いてくださっている方なども含めて、全ての「人」が生き生きと働ける環境が、より魅力ある動物園運営につながります。園長就任時、そのことを私も改めて感じました。
動物園は、「社会に必要不可欠だ」と言われるようなインフラ的存在にならなくてはいけないと常々考えています。
これからの時代、まだまだ果たしていくべきことや期待されている役割がありますので、それに応えるだけでなく、常に一歩先をいく存在であるためにも、Adeccoさんとともに取り組んでいきたいですね。
※インタビュー内容は、2024年7月時点の取材にもとづき掲載しています。