なぜ人事評価改革が起きているのか、その背景と本質について専門家に聞いた。
「パフォーマンスマネジメントの見直しをはじめとする人事評価改革は、すでに世界的な潮流になっています」
こう語るのは組織変革や組織の活性化などを手掛けるヒューマンバリュー研究員の霜山 元氏だ。
「米国のリサーチ機関の調査によると、2017年時点で米国において人事評価の見直しに取り組んでいる企業は400社以上にのぼり(図2参照)、『フォーチュン500』企業の50%以上の会社も見直しに取り組むのではないかという予測がBetter WorksのCEOによってなされるなど、すぐに当たり前に取り組まれる改革になることでしょう」
これまで欧米で広く見られたレーティングでは、能力や成果を相対評価でランク付けしたため、チーム内に必ず高評価と低評価の者が出てきた。それによって社員の競争意識を高めるはずが、むしろパフォーマンスの向上を阻害していたと指摘されている(図3、4参照)。
「経営環境への柔軟な対応と、イノベーション創出には、社員同士のコラボレーションが重要ですが、社員が互いに敵対しているような風土ではそれも望めません。社員同士が仲間として共感できる範囲を広げ、新しいことにチャレンジしやすい環境をつくっていくことが大切です。つまりレーティングを廃止し、面談を増やすというのは表面的なことなのです。GEやマイクロソフトなどの取り組みの本質は、制度の見直しではなく、企業カルチャーの変革です」
ヒエラルキー構造が生まれにくいカルチャーの醸成が重要
良好な関係をベースに新たなチャレンジに踏み出しやすい職場環境を実現するさまざまな取り組みが必要だと霜山氏は強調する。
「アドビシステムズにはもともと上司や部下が自由闊達に意見をいい合えるカルチャーがあったため、大胆な人事制度改革の実行や、急激な変革への対応が可能だったといわれています。同じくジョンソン&ジョンソンも、改革実施の数年前から、社員が気軽に語り合える環境づくりに取り組んでいたといいます」
一方、多くの日本企業は、上司と部下が気軽に会話するカルチャーには不慣れだといえる。まずは挨拶や雑談からはじめて、徐々にメンバー同士が仕事ぶりを評価し合える空間をつくっていく必要がある。
「部下のなかに評価への恐れや不安が強いと、上司が成長や価値の創出の話をしたとしても、評価ばかりに気がいってしまいます。日常的なフィードバックでは、できるだけ評価のスタンスから離れて、本人の能力向上やキャリア形成のためのアドバイスを中心に会話すると良いでしょう」
社員間の良好な関係性を築いても、上司が部下を一方的に評価するヒエラルキー構造が強いままでは、「上司に嫌われたくない」「出世コースからはずれたくない」といった思考が生まれてしまう。
「単に人事評価をなくすのではなく、評価のパラダイム自体の見直しが重要です。米ギャップはノーレーティングをいち早く取り入れただけでなく、同社が『パフォーマンススタンダード』と呼ぶ独特の評価基準も打ち出しました。これは経営ビジョンに即した非常に抽象的な評価基準です。各部門の社員は、パフォーマンススタンダードと自分たちの業務を照らし合わせて、『どんな活動や成果が評価に値するのか』をディスカッションしなければならない。話し合いを持てば、組織が目指すべき方向性がそれぞれのなかで具体化され、社員の多様性や事業環境の変化にも柔軟に対応できるようになります。また評価によるヒエラルキー構造も生まれにくくなるのです」
Profile
さまざまな企業や行政体・地域において、クライアントと協働して変革プロセスのデザインとファシリテーションを行う。また、自律的な変化を通して、人的価値・事業価値・社会的価値を創造し続ける組織経営の実現に貢献すべく、Webアプリ「Ocapi(組織変革プロセス指標)」の開発や、パフォーマンスマネジメント革新の調査といった研究に従事。訳書に『研修効果測定の基本』(ヒューマンバリュー出版)