グローバル化、デジタル化により、経営にスピードと柔軟性が求められている。そうした時代の流れを受けて、これまでのようにマネージャーが部下に指示をして部下が動くのではなく、部下(≒フォロワー)が自発的に動き、上司(≒リーダー)を支援する「フォロワーシップ」に注目が集まっている。今知っておくべきリーダーシップとフォロワーシップについて、神戸大学大学院経営学研究科教授の金井壽宏氏と滋賀大学経済学部教授の小野善生氏に対談いただいた。
小野氏は滋賀大学を卒業後、金井氏が教授を務める神戸大学大学院経営学研究科の門を叩いた。いわば二人は師匠と弟子の関係にあたる。小野氏は金井氏からリーダーシップを学ぶことで、フォロワーシップの研究を進め、今ではその分野における先駆者の一人として知られる。現在とこれからのリーダーシップおよびフォロワーシップをどう考えるのか? 師弟で語り合っていただいた。
フォロワー視点からリーダーシップを考える
そもそも小野さんがわたしの研究室に入ったのはどのような経緯からでしたか?
大学院への進学を考えているとき、在籍していた滋賀大学の教授から金井先生のお話を聞いたのがきっかけです。そうして、金井先生の『変革型ミドルの探求』と『ニューウェーブ・マネジメント』の二冊を読んだのですが、それぞれの文章のタッチが違っていて、同じ人が書いたと思えない。これは「すごい!」という、ある種の感動が生まれました。僕はそれに感銘を受けて先生の研究室を目指すようになりました。
そこでわたしの研究室に来て、リーダーシップの研究をしてみようと思われたのですか。
そもそもは先生の研究室に入る前の話なのですが、実家が中央市場で食堂を営んでいまして、その手伝いをしていました。そこに来る親方と従業員の関係を見ていたら、親方の人使いが荒かったり、従業員の親方に対する愚痴が多いようなお店は、かなりの確率で潰れていたんです。一方、親方と従業員が仕事終わりに、一緒に飲んだりするようなお店は繁盛していました。リーダーとフォロワーの関係が経営に影響を与えることを肌で感じていました。
そんな身近なところからリーダーシップ論に興味を持つようになり、先生の研究室に入ってからは、先生がもっとも得意とされる領域での研究を続けたいと思うようになりました。
わたしがとても嬉しかったのは、小野さんがこのようにリーダーシップに、すんなりと、また、しっかりと興味を持ってもらったこと。小野さんの絶妙なところは、リーダーシップという研究領域のなかでも「フォロワー」に視点を置いたこと。ちょうどフォロワーシップの文献が出始めた頃ですが、よいタイミングでこのテーマに出合われましたね。
はい。ちょうどホランダー等のフォロワー研究に関する論文や書籍が散見されるようになった頃です。リーダーシップ論を研究するとどうしてもリーダーからの視点で研究されていることが多い。僕は市場に勤める人たちの愚痴を聞いてきたこともあり、リーダーからではなく、その受け手であるフォロワーから見たリーダーシップ論に興味を持ちました。この分野はまだ研究しつくされていないと考えたからです。
一味違ったリーダーシップの定義のなかに「喜んでついてくるフォロワーがいてこそのリーダーシップ」というのがあります。リーダーシップ論の重要なエッセンスは、「何でこのリーダーにフォロワーが喜んでついていく気になったんだろうか?」ということを解明する研究でもあります。
リーダーシップを発揮する主体はリーダーですが、その成否の鍵を握るのはフォロワーです。
リーダーのナラティブ(聞く人を物語に巻き込む話法)が部下の自主的行動を促す
フォロワーあってのリーダー、リーダーあってのフォロワーですからね。そんなフォロワーをいくつかのタイプに分けている研究者もいますね。
まず、ケリーが『指導力革命』のなかで、フォロワーシップの特徴を二つ挙げ、それらを踏まえて、フォロワーを五つのタイプに分類しています(表1参照)。一つ目の特徴が、自分で考えて建設的な批判を行う、独自の「批判的思考」方法を持っているかどうか。二つ目の特徴が責任を引き受けたり、積極的に参加したりするなど、フォロワーとして「積極的に関与」しているかどうかです。
表1 ケリーによるフォロワーの5類型
模範的フォロワー | 独自の批判的思考方法によって自主的に行動する。組織の非能率的な壁にぶつかっても、才能をいかんなく発揮して積極的に取り組んでいく人物。いわゆる優等生タイプ |
---|---|
孤立型フォロワー | もともとは模範的フォロワーだったが、何かの拍子に嫌気がさし、自分は不当な扱いを受けた犠牲者であると考えている。そのエネルギーは仕事に向かうのではなく、組織の嫌悪する部分への挑戦として表れる。このタイプは独自の批判的思考方法があるが、組織に対して積極的に役割を果たそうとしない人物。いわゆる一匹狼タイプである |
順応型フォロワー | リーダーに服従し、順応することが義務であると考える。したがって組織に対して積極的に関与はするが、独自の批判的思考方法に欠けるタイプの人物。俗に言うゴマすりタイプ |
実務型フォロワー | いい仕事はしたがるが、自ら進んで危険に身をさらすことはなく、失敗を避けたがるタイプ。俗に言う現実主義者タイプ |
消極的フォロワー | リーダーに頼り、仕事に対する熱意はゼロ、積極性と責任感に欠け、与えられた仕事も指示がなければできない。自分の分担を超えるような危険は犯さない、いわゆる無気力タイプである |
出典:R.ケリー『指導力革命』(一部小野善生氏改訂)。
また、カーステン等は、アメリカとカナダで働く、いくつかの業種や組織階層に属するビジネス・パーソンへインタビュー調査による質的分析を実施し、フォロワーシップの捉え方に三つのタイプがあることを明らかにしています(表2参照)。
表2 カーステンによるフォロワーシップの3タイプ
受動的(passive)フォロワーシップ | 組織の秩序を重視する |
---|---|
積極的(active)フォロワーシップ | 機会があれば表明すべき意見を持っているが基本的に秩序を重視する |
能動的(proactive)フォロワーシップ | 秩序に従うというよりもリーダーとはパートナーの関係とみなして率先して参加する |
出典:Carsten. M. K., Uhl-Bien. M.,West, B. J., Patera, J. L., and McGregor, R.(2010),“ Exploring Social Constructions of Followership: A Qualitative Study,” The Leadership Quarterly 21, 549(一部小野善生氏改訂)。
しかし、そのなかでも単に喜んでリーダーについていくだけのフォロワーでは問題がありますよね?
そうなんです。ケリーにおける「順応型フォロワー」「消極的フォロワー」や、カーステン等における「受動的(passive)フォロワーシップ」のように、リーダーにいわれるがままにしか振る舞えない依存的なフォロワーだけだと、イエスマンばかりの集団が良いことになります。フォロワー視点で考えると、依存させるリーダーは、フォロワーの成長を止めてしまいます。リーダーにはフォロワーの成長に必要なアドバイスやヒントを授けること、それによりフォロワー自身に気付きを与えることが必要です。
そうしないとリーダーが誤った方向へ進んでも、そのまま全員が同じ方向に進んでしまう。また仮にリーダーが不在になった場合、その集団は崩壊してしまいますからね。歴史を紐解けばいくつもの悲劇があります。
フォロワーシップとは、簡単に説明すると「フォロワー自身が能動的に行動して、リーダーをフォローする」ということですが、よほど目的達成への意味や意義がフォロワーに浸透していないと、そういう行動はできません。そのためにリーダーはナラティブに対する能力が必要です。ナラティブとは聞く人が参加している気持ちになる(聞く人を物語に巻き込む)話法ですよね。つまりリーダー一人ひとりが主体となって語るイメージを共有する能力が求められるのです。
リーダーが語るナラティブを聞くことで、フォロワーは物語(目標に向かうプロジェクト)に参加したくなり、自分の役割を見いだし自主的に行動するようになります。
フォロワーへの取材で見えてくるリーダー
金井先生のご紹介で、ある製薬メーカーの新薬開発のリーダーを取材させていただきました。新薬の開発は長い期間と莫大な費用がかかるわりに、成功する可能性は極めて低いプロジェクトです。またかかわる人材も多く、多岐にわたるチームが同時進行で作業するので、トップに立つ人のリーダーシップが問われると考えました。
実際はどうだったのですか?
そこでは総責任者が、各分野でそれぞれにチーム・リーダーを立て、「リーダーシップの分担」を行っていました。総責任者は各プロジェクトのチーム・リーダーとの調整を行い、予算やスケジュール、さまざまなクレームなど外部からの圧力に対しての壁の役割を果たしました。現場の作業をスムーズにするために、総責任者が外部からの騒音を実働部隊に届かないようにコントロールしていたのです。
リーダーになって、自分がピラミッドの頂点にいると思ってしまうと、そのリーダーはリーダーとして適切ではないですね。組織は階層になっていますから、上には上があるわけです。正しいリーダーとは、外圧から部下を守りつつ、フォロワー間の問題を調整し、現場の作業をしやすくする。結局、フォロワーは「自分たちを支えてくれるリーダーには何かしたくなる」という気持ちになりますよね。
このプロジェクトに参加したフォロワーの方々を取材すると、現場の仕事がしやすいように各責任者が動いてくれたことに感謝し、「その分がんばろうと思った」と話していました。興味深かったのは、フォロワー全員が総責任者のリーダーシップを認識していたわけではなかったことです。フォロワーのなかには、総責任者とのやりとりがないために、そのリーダーシップを認識せず、間に立つ担当分野の責任者のリーダーシップのみ認識していたのです。
総責任者としては自身が必ずしもリーダーシップを全面に発揮する必要はなく、権限委譲で各責任者へリーダーの役割を任せることで、組織を上手に運営することができるということでしょう。
フォロワー視点からもう一点、この総責任者は対外交渉する姿をオープンにしていたこと。これにより部下の能動的なフォロワーシップを喚起することができたのです。
この例をわかりやすくいうと、総責任者はサーバント・リーダーシップで部下のことを考えて外圧からの壁になり、各部門間のリーダーはリーダーシップ・シェアリングを発揮して作業効率を高めた。そして現場は、働きやすい環境をつくってくれた上司のことを考えてフォロワーシップが発揮された。
このように考えると、これからのリーダーシップ論は場面に応じて、多様なリーダーシップ論を活用して、問題解決しながら、目標を目指すことが重要になってくるのでしょうね。
Profile
1954年神戸市生まれ。1978年京都大学教育学部卒。マサチューセッツ工科大学(MIT)のPh.D.(マネジメント)と神戸大学の博士号(経営学)を取得後、1994年神戸大学経営学部教授、1999年に大学院経営学研究科教授に就任。経営学研究科長を経て2012年から社会科学系教育研究府長。経営学のなかでもモティベーション、リーダーシップ、キャリアなど、人の心理・生涯発達にかかわるトピックを主に研究している。研究・教育の分野だけではなく、企業における研修、講演など幅広い分野で活躍している。『変革型ミドルの探求』(白桃書房)、『リーダーシップ入門』(日本経済新聞出版社)など、著書は50冊以上。
1974年生まれ。滋賀大学経済学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。関西大学商学部准教授を経て、現在、滋賀大学経済学部教授。専門は、組織行動論、リーダーシップ論、フォロワーシップ論。フォロワーの視点からリーダーシップを明らかにする研究に取り組んでいる。主要著書として『ライトワークス ビジネスベーシックシリーズ リーダーシップ』(ファーストプレス)、『まとめ役になれる! リーダーシップ入門講座』(中央経済社)、『最強の「リーダーシップ理論」集中講義』(日本実業出版社)、『フォロワーが語るリーダーシップ』(有斐閣)、『リーダーシップ徹底講座―すぐれた管理者を目指す人のために』(中央経済社)がある。ほか、論文多数。