デジタルネイティブ世代第1期が新卒社員として入社してから早3年。デジタルの隆盛とともに育ったこの世代は、上の世代と違う価値観を持つとも言われている。この世代の特徴を踏まえ、どう持ち味を生かしていけばいいのか。若手の人財育成に定評のあるシェイクの吉田実氏に聞いた。
選ばれる企業になるカギは、若手の望む成長スピードに合わせること
「デジタルネイティブ世代の優秀層は、一昔前の優秀層と明らかに違います」。15年間、若手の採用・育成支援を行ってきた吉田氏は、特にデジタルネイティブ世代の優秀層の成長スピードに驚くことが多いという。
これまでは成長意欲があっても、成長する機会を自ら創出するのは容易ではなかった。一方、今はネットやSNS を駆使して自分の興味関心を深掘りし、「自ら成長していく」ことができる。また、自分の憧れの人をSNS上でフォローし、その人たちの発信から学びの機会を見いだしたり、さらには、実際に連絡を取って会いに行く行動力も持ち合わせているそうだ。
「このような優秀層は、今後間違いなく日本経済を牽引する存在になっていくでしょう」。とはいえ、優秀層は一部であり、その数少ない人財を獲得するために、大手企業が競い合っている状況だという。ここ数年の変化として顕著なのは、この層を採用するために、今まで新卒社員をじっくり育成してきた日本の大手企業も、入社後の育成プランを見直している点だ。「優秀層は成長意欲が非常に高い。そのうえ、自分で成長機会をつくり出せるため、企業に対して求めるハードルは高い。成長できる環境を与えられない企業は、優秀な学生から選ばれなくなっていくでしょう」
「成長意欲の高さは、優秀層だけに限りません」と強調する吉田氏。企業選びに関しては、「8割の学生がいまだに安定志向」と前提したうえで、"成長"は若手をひもとくためのキーワードになるという。そして、この世代の成長意欲を深く理解するためのキーワードは"私"だと言及する。
「"私"はこう成長したい」「なぜ"私"がこの仕事をやるのか」という自身の価値観や成長ストーリーのほうが、企業の成長よりも大切だと考えている。ある企業では、配属先発表のあとに「なぜ、希望していた勤務地ではないのか」と人事部まで聞きにくる新卒社員が後を絶たないというが、これは決して珍しいことではない。この世代らしい行動だと分析する。
"私"を大事にする若手に響く、5つのポイント
このように"私"に重きを置く若手をどのように導けばいいのだろうか。ポイントは5つだと吉田氏は言う(図1参照)。
まず、前述したように早い成長を求めるため、短期的な支援が効果的となる。細かく気にかけるように心掛け、成長の実感を抱かせることが大事だ。また、仕事を依頼するときは、本人の成長ストーリーに合わせて、期待を伝えてから頼むのがいい。仕事への動機づけには、企業視点の昇進や昇格よりも、仕事の意義を語るのが効果的だという。両者に共通する理由は、自身の成長ストーリーに必要なのは、あくまで"自分"であって、企業や仕事内容が主人公ではないということだ。
次に、成長過程において、着実な成長を求めるのもこの世代の特徴。上の世代のように「失敗から学ぶ」のではなく、小さくてもいいので成功体験を積み上げていきたいと考える。なぜなら、この世代は物も情報もすべて、本人が望むよりも先に周囲から与えられてきたため、「教えられなくても、まずはやってみろ」という指導法に対して理不尽さを感じるという。
このように教えてもらうことは当然のことと受容する一方で、押しつけられたり、命令されたりするのを嫌う傾向がある。上下関係よりもフラットな関係を好み、上司には、自分の成長を支援してくれる存在であることを望むのだという。
そのためか、仲間意識が高く、個人で成果を出すよりもチームで何かを成し遂げたいと願う。「SNSで同調されることに喜びを感じる世代のため、個人ノルマではなく、みんなで一緒に、励まし合いながら業務を達成することに喜びを見いだすのでしょう」と吉田氏は分析する。
これらを踏まえたうえで、具体的に上司がどう言葉がけをすればいいのかをまとめたのが図2の「若手の持ち味を生かす、かかわり方」だ。特に大事なのは振り返りだと吉田氏は強調する。それは、上司からの振り返りが、成長を実感できる機会であり、仕事を遂行するうえでの喜びとなるからだ。
個性に重きを置くデジタルネイティブ世代がゆえ、ひとくくりに育成するのはご法度。とはいえ、特徴を意識することで、この世代の意欲を掻き立てることは、組織にとっても有益なはずだ。この世代が持つ成長意欲の高さをどう企業の成長の文脈に当てはめられるか。それが今後の若手育成のカギになるだろう。
Profile
大阪大学基礎工学部を卒業後、住友商事株式会社に入社。2003年シェイク入社。営業責任者、人材育成事業の立上げ拡大に従事。09年9月より代表取締役社長に就任。近年では若手・中堅社員育成の専門家として、メディアでも広く取り上げられている。著書に『「新・ぶら下がり社員」症候群』(東洋経済新報社)がある。