
経営の神様といわれるピーター・ドラッカーは、成果を上げる人々に唯一共通している点として『習慣の力』を挙げ、同じことを同じように繰り返し続ける力が非常に重要だと述べています。
実はストレスマネジメントにおいても、『習慣の力』は大切なんです」。精神科産業医の吉野聡氏はこう語る。
生活のリズムを維持することは、心身の健康にとって非常に重要だ。特に「調子のいいときの習慣」をきちんと繰り返していくことが望ましい。
しかし最近は、テレワークやコアタイムなしのフレックスなど働き方の多様化が進んでおり、自由度が高まったぶん、意識的に生活のリズムを組み立てる必要が出てきた。
そこで吉野氏が勧めるのが「モーニング・ルーティン」だ。図のように、朝の起床時間や、朝食をとる時間・場所・メニューなど、朝の過ごし方をあらかじめ決めておき、それを習慣化するのである。

「習慣化のなかでも、朝の過ごし方が特に大切だと思っています。生活のリズムが整いやすくなるし、脳の状態もフレッシュなので論理的思考がはかどりやすい。
毎朝起きてから仕事を始めるまでの行為を習慣化すれば、『今日は何をしようかな?』と悩む必要もありません。無駄に時間とエネルギーを消費することなく、やるべき仕事に取りかかれます」
一流のスポーツ選手らが、毎日同じメニューを食べるなどのルーティンを行うことはよく知られている。これは、試合時のみ実践すればいいものではなく、日常でも欠かさずルーティンとして行うことで、いつもの力をコンスタントに発揮するのが目的だ。
「われわれの業界でよくいわれるのですが、なぜか日本人は調子が悪いときほど、気分転換と称して普段やらないことをやってしまいがち。ストレスマネジメントのセオリーからいえば真逆です。普段以上のエネルギーを使うので疲れますし、ルーティンを崩すことでストレスにもなります。うまくいかないときこそ、自分が好調だったときの生活のリズムとイメージを取り戻すことが大切。そのためにも、普段から自分なりのルーティンを築いておくとよいでしょう」
Profile

2003年、筑波大学医学専門学群卒業、2007年、筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。東京都知事部局健康管理医、筑波大学医学医療系助教・付属学校教育局統括産業医などを経て、2012年に𠮷野聡産業医事務所を設立。これまで50社以上の産業医として、メンタルヘルス対策・指導に取り組んできた。著書に『「職場のメンタルヘルス」を強化する』(ダイヤモンド社)など。