2020年に注目される「テクノロジーと働き方」についてのポイントや留意点について、独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口桂一郎氏に語っていただいた。
東京五輪は、テレワーク普及への起爆剤になるとの見方がある。12年のロンドン五輪の際、政府の呼びかけに応じてロンドン市内の約8割の企業がテレワークを実施し、交通混乱を回避。東京五輪でも大規模な混雑が予想されることから、政府や東京都もテレワークを推進している。
「かなり以前から技術的にはテレワークでの勤務は問題なくできるにもかかわらず、日本ではなかなか普及していません。企業で勤務する大半が職務や勤務地を限定しない無限定正社員であり、職務内容や成果のみで評価されるわけではないので、テレワークに馴染まない面があります。ジョブ型雇用の導入や評価制度の見直しも含めた議論が必要でしょう」(濱口氏)
テクノロジーと雇用との関係では、シェアリングエコノミーの普及によって生まれた個人の新しい働き方への対応に注目すべきだと濱口氏は話す。
「特に2019年頃から、インターネットを通じて飲食店の宅配代行を請け負うサービスが日本でも急速に普及し、働き手である個人の配送員をどこまで保護するかが重要な政策的課題として浮上しています」
課題の一つは、労働法による保護などが受けられない点にある。働き手が法的に「個人事業主(フリーランス)」として扱われるためだが、特定の企業から仕事を継続的に請け負い、実質的に労働者に近い立場になっている人は少なくない。
「厚労省はこれらの働き方を『雇用類似』と位置づけ、仕事中のケガや病気を補償する労災保険の適用や、取引先企業と契約ルールの整備を検討しています。働き方の多様化が一層進む契機になるかもしれません」
Profile
東京大学法学部卒業。
労働省(現厚生労働省)入省。
東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。
近著に『働く女子の運命』(文春新書)。