会社や店舗の運営のために、長期的に使用する固定資産。そのうち、会社のために購入した備品や車両などは、「有形固定資産」に該当します。このような固定資産は、定められた期間内で取得原価を分割できますが、そのための会計処理が「減価償却」です。
減価償却のしくみは、きちんと理解していないと複雑なうえに、算出方法や仕訳方法にもいくつか種類があります。経理担当者は、基本から押さえておきたいところです。そこで今回は、減価償却の考え方や計算方法のほか、仕訳方法などについての基礎知識を解説します。
減価償却の基本的な考え方
減価償却とは、固定資産の取得原価を、耐用年数に応じて分割したうえで会計処理する方法です。
会社や店舗などで使用する備品や車両などの「固定資産」は長期的に使用する物が多く、時間の経過とともに価値が下がります。そのため、減価償却の対象である資産は、取得した時点で取得原価すべてを経費として計上するのではなく、その資産を使用できる期間内(耐用年数)で、分割して計上していきます。
例えば、「取得原価200万円」の固定資産の耐用年数が「10年」だった場合、1事業年度につき20万円ずつ、10年かけて費用として計上していくのが減価償却の考え方です。
減価償却の考え方は資産価値の算出にも使われる
減価償却の考え方は、対象となる資産の取得原価を分割して均等化するためだけではなく、その資産の「価値」を評価するためにも用いられます。自社で購入した固定資産は、購入した後も資産として残ります。年度末には「資産価値」として、その資産を金額に換算したうえで、貸借対照表に記入する必要があるのです。
しかし、固定資産というものは通常、所有年数が経過するとともに、その価値が下がっていきます。例えば、会社が200万円で購入した新車は、1年間使用すると購入時のような「200万円分の価値」はありません。当然、使用した分、購入時よりも価値は低くなるでしょう。
このような場合も、減価償却の考え方によって、現在の資産価値が金額となって算出されるのです。
固定資産の耐用年数は省令で定められている
減価償却における固定資産の耐用年数は、財務省の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で定められています。減価償却の際は、ここで定められた耐用年数に応じて、費用の計上や仕訳を行っていきます。
減価償却の例外となる有形固定資産も
原則、「形ある固定資産(有形固定資産)」であれば減価償却の対象となりますが、土地や骨董品、美術品といった、時間が経過しても価値が変わらない有形固定資産の場合は「非償却資産」となり、減価償却の対象外となります。
減価償却の計算をするときに押さえておきたいこと
減価償却の計算において欠かせないのが「取得原価」と「耐用年数」と「残存価額」です。それぞれの基本を押さえておきましょう。
取得原価とは、減価償却の対象である固定資産を「取得した時点」における資産価値を意味します。単純な購入金額だけではなく、購入するための費用として発生した引取運賃や荷役費、購入手数料なども、取得原価に含まれます。
耐用年数は、減価償却の対象である固定資産が「使用に耐えうると予想される年数」をいいます。先程解説したように、耐用年数は法律で定められています。
残存価額とは、減価償却の対象となる固定資産の、耐用年数が経過した後に残る価値のことをいいます。固定資産は、耐用年数が過ぎた後でも、必ずしも使えなくなるわけではなく、価値がなくなるわけではありません。
なお、以前は法人税法によって、残存価格は取得原価の10%までとされていましたが、2007年度に法改正があり、「2007年4月1日以降に取得した減価償却資産については、1円まで償却できる 」と規定されています。固定資産を取得した日によって減価償却できる価格が違いますので、注意してください。
また、固定資産の残存価格が1円になっても、処分したり売却したりするまでは1円として帳簿に残しておくことにも注意しましょう。この1円は「備忘価格」 といって、なくなった固定資産と存在している固定資産を区別するために必要です。
減価償却の定額法と定率法
減価償却の算出方法は、「定額法」と「定率法」の2種類に大きく分けられ、固定資産の種類ごとにどちらの算出方法で計算するかが決められています。固定資産の種類によっては、定められた償却方法以外で減価償却できる物もありますが、その場合は税務署に届け出が必要です。
また、定額法・定率法それぞれの償却率は、固定資産の耐用年数や取得時期によって変わってきます。国税庁が耐用年数に応じて償却率を定めているため、確認しておきましょう。
ここでは、定額法と定率法、それぞれの考え方を解説します。
定額法:毎年同額を減価償却費として計上
定額法では、毎年同額を減価償却費として計上します。ここでは、100万円で購入した固定資産が、耐用年数10年だった場合を例に考えてみましょう。
定額法は、「取得価格×定額法の償却率」で計算します。耐用年数10年の定額法償却率は「0.100」のため、取得額の100万円に定額法償却率の0.100を掛けて、毎年10万円ずつ経費計上することになります。
定率法:初年度に大きな額を計上し、少しずつ減らしていく
定率法は、購入初年度に減価償却費を大きな金額で計上し、その後は一定の「償却率」を掛けながら、毎年少しずつ減少させていく方法です。定率法での減価償却費は、「未償却残高(初年度は取得価格)×定率法償却率」で計算します。
ここでも、100万円で購入した固定資産が、耐用年数10年だった場合を例に考えてみましょう。
耐用年数が10年の固定資産の定率法の償却率は「0.200」 のため、初年度は「100万円×0.200=20万円」が減価償却費となります。2年目は取得原価100万円から、初年度の20万円を差し引いた80万円に償却率0.200を掛けて、減価償却費を出します。定率法ではこのように、「未償却残高」に対して規定の償却率を掛けて、減価償却していきます。
定率法では年々、未償却残高が小さくなり、1円になるまでかなりの時間を要します。そこで、定率法では減価償却費が一定の金額を下回るとき、そこから「改正償却率」を使って計算することになります。この一定の金額を「償却保証額」といい、税法で定められた「保証率」を取得価格と掛けることで計算できます。
先程例に挙げた100万円の固定資産の場合、耐用年数10年の保証率は「0.06552」ですから、償却保証額は65,520円になります。年々下がっていく償却費が、償却保証額の65,520円を下回ったら、その後は、初めて償却保証額に満たないこととなる年の期首未償却残高である「改定取得価額」に、「改定償却率」の「0.250」を掛けて償却額を計算します。
減価償却の直接法と間接法
減価償却の仕訳方法は、「直接法」と「間接法」に分けられます。どちらの方法で仕訳するとしても、かかる税金は変わらず、どの方法で記帳していくかは、企業や経理担当者によって異なります。
一般的には、一人経営の個人事業主や小規模な企業の場合は、固定資産に投資する金額もそこまで大きくはなく、詳細は固定資産台帳から確認しやすいということもあり、直接法で問題ありません。
直接法は、減価償却費を固定資産から「直接差し引いていく」仕訳の方法です。借方科目には「減価償却費」を、貸方科目には「固定資産」をそれぞれ記入します。どちらの科目にも、同じ金額を記入します。
直接法では、固定資産の取得原価から減価償却費を直接引いて、その差額を貸借対照表に記載することになります。固定資産に現在どれだけの価値があるかという帳簿価格がひと目でわかりますが、帳簿価格とこれまでの減価償却費を足さないと取得原価はわからなくなります。
間接法は固定資産から直接減価償却費を減らすのではなく、借方科目に「減価償却費」を、貸方科目に「減価償却累計額」を記入します。貸方には決算期間(1年間)の償却額の合計を記入するという方法です。
間接法では、固定資産から直接減価償却費を引くわけではないので、そのまま貸借対照表に取得原価が記載されます。帳簿価格は、貸借対照表上で固定資産の取得原価から減価償却累計額を差し引かなければ、わかりません。
直接法と間接法の仕訳の例
ここでは、「取得原価50万円・耐用年数5年」の固定資産を、定額法で購入2年目に計上する場合を例に、直接法と間接法それぞれの仕訳方法を見ていきましょう。
<直接法での減価償却の仕訳の例>
ここでは、定額法で計上するため減価償却費は10万円となります。
直接法で仕訳する場合、下記のように記入します。
借方
減価償却費 10万円
貸方
固定資産 10万円
この仕訳では、減価償却費によって固定資産が10万円減ったということを表しています。
<間接法での減価償却の仕訳の例>
間接法で仕訳する場合、下記のように記入します。
借方
減価償却費 10万円
貸方
減価償却累計額 10万円
先程解説したように、間接法の場合は固定資産を直接減らさずに、決算期間の償却額を「減価償却累計額」として表示します。2年目なので減価償却累計額は合計で20万円と考えたくなりますが、個々の仕訳では合計額を記載しません。
減価償却費の合計を記載するのは、貸借対照表だということを覚えておきましょう。
減価償却をきちんと理解して業務を遂行しよう
法人税を算出するにあたって、減価償却費は損金に算入されます。そのため、減価償却の利用の仕方によっては、大きな節税効果を得られるというメリットも。
減価償却は長期にわたって税金の申告に影響してくるため、固定資産を購入したら、まずはきちんと記録を残し、適切に記帳していくことが大切です。
監修:梅澤真由美
profile 2002年公認会計士試験合格。管理会計ラボ(株)代表取締役。監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)、日本マクドナルド(株)およびウォルト・ディズニー・ジャパン(株)を経て、管理会計ラボを開設。
管理会計や経理実務の分野を中心に、セミナー講師、書籍や雑誌の執筆、コンサルティングに活躍中。 著書に『今から始める・見直す 管理会計の仕組みと実務がわかる本』(中央経済社)がある。