未経験の人でもチャレンジしやすいといわれるCADオペレーターという職種。簡単な作業から経験を積み重ね、コマンドの操作方法を覚えたあとは、段階にあわせてモデリングスキルを身に着けて、専門性をどんどん高めていきましょう。
ステップ1. 図面に従ってモデリング
最低限の操作コマンドを覚えたら、まずはオペレーターからスタートします。最初のうちは、簡単な形状の部品を2次元図面に記載された形状・寸法に従って立体化(3次元モデルを作成)する作業がほとんどです。慣れてくれば、2次元図形から立体形状を想像する感覚は身に着いてきますが、同時にスピードと正確さも要求されるようになります。
[図-1]2次元図面(ブロック玩具)
[図-2]3次元モデル(ブロック玩具)
[図-3]2次元図面(マニホールド)
[図-4]3次元モデルの作成(マニホールド)
2次元図面は「JIS B0001 機械製図」に規定されたルールに従って描かれていますので、その内容は事前に理解しておいたほうがよいでしょう。以下に目次の抜粋を記載しておきますので、これらをキーワードに検索してみると、関連する情報を得ることができます。
目次-抜粋
- 01~04.…省略
- 05.図面の大きさ及び様式
- 06.尺度
- 07.線(線の太さ、線の種類及び用途、線の優先順位)
- 08.文字及び文章(文字の種類及び大きさ、文字の種類、文字の大きさ、文章表現)
- 09.投影法(投影図の名称、第三角法、第一角法、矢示法、その他の投影法)
- 10.図形の表し方(投影図の表し方、断面図、図形の省略、特殊な図示方法)
- 11.寸法記入方法(一般原則、寸法補助線、寸法線、寸法数値、寸法の配置、寸法補助記号、穴の寸法の表し方、キー溝の表し方、テーパ、勾配、鋼構造物などの寸法表示、薄肉部の表し方、加工・処理範囲の指示、非剛性部品の寸法、非比例寸法、その他の一般的注意事項)
- 12.照合番号
- 13.図面内容の変更
ステップ2. 複雑形状のモデリング
簡単な形状のモデリングに慣れてきたら、徐々に複雑な形状の部品にも慣れるようにしましょう。派遣先が自動車関連メーカであれば、エンジンブロックやミッションケースなどの鋳物部品が複雑形状の代表です。単純な形状要素(フィーチャ)の組み合わせで作成してゆくとはいえ、数千フィーチャを超える部品では、完成までに数日~1ヶ月近く費やすこともめずらしくありません。
このような複雑部品では、やみくもに操作するのではなく、設計意図を理解しながら、モデリングのストーリーを考える(計画する)ことが重要となります。
[図-5]エンジンブロック
[図-6]ミッションケース(完成形状)
例えば、[図-6]のミッションケース(鋳物)は、ひとつの部品を外側の形状と内側の形状に分解してモデリングしています。その後、外側形状(緑色)から内側形状(黄銅色)を「引き算」して[図-7]完成させます。外側形状自体が複雑な場合は、さらに複数の形状に分解することがあります。
[図-8]では、外側形状(緑色)を基本形状(肌色)とフランジ形状(紫色)に分解しています。このようにすれば、ひとつの部品で数千フィーチャ必要な作業を、複数人で分担できますから、作業時間は同じでも作業期間を短くできるのです。
[図-7]ミッションケース(外側形状と内側形状)
[図-8]ミッションケース(外側形状の分解)
ステップ3. 曲面形状のモデリング
複雑形状のモデリングに加え、きれいな曲面データを作成できるようになれば、上級オペレーターとして認識されるようになります。自動車・家電・化粧品などの意匠デザインが重視される分野では、意匠デザイナの意図を汲み取って、自分なりの審美眼とセンスでモデリングできるスキルが要求されます。
スキルの差は、出来上がったモデルを見ると明らかです。[図-10、11]はバスタブの一部ですが、スキルのある人がモデリングしたものと、そうでない人のモデル[図-11、12]を比較してみましょう。スキルのある人のモデルのほうが面の構成が少なく、スマートに作られています。意匠デザインモデルでは、三角形の面を作ってしまうと色々なトラブルの原因になるので、三角形状は四角い面で作成するのがポイントです。
[図-9]スキルのある人のモデル(シェーディング)
[図-10]スキルのある人のモデル(ワイヤフレーム)
[図-11]スキルの無い人のモデル(シェーディング)
[図-12]スキルの無い人のモデル(ワイヤフレーム)
[図-13、14]はリモコンの例ですが、きれいな曲面でモデリングするのは意外に難しいものです。その他、身の回りにある小物なども、曲面形状で構成されていることも多いので、意識して見るようにすると良いでしょう。
[図-13]リモコン
[図-14]リモコンのモデリング
ステップ4. 設計意図を考慮したモデリング
さらなるキャリアアップを目指す場合は、設計意図を考慮(理解)したモデリングを理解しなければなりません。複雑形状のモデリングでも曲面形状のモデリングでも、設計意図を考慮することは必要ですが、さらに幅広い知識が必要となります。
[図-15]コップのモデリング
[図-16]コップの内容量
前回も説明したコップのモデリング例では、「設計基準」→「コップの水」→「水を包む容器」→「取っ手」という順番で考えましたが、実際にはCADの操作以外に、作業の過程では以下のような知識が必要となります。
コップの内容量
まず、内容量180ccというのはどれくらいの量になるのか、想像できるでしょうか?
「cc」は「cubic cm」、つまり「立方cm」の略なので、体積180㎤という意味になります。
中の水を円柱と考えて、おおよその寸法を計算してみましょう。
円柱の体積は半径×半径×円周率×高さで求められます。
直径=6cm(半径=3cm)と仮定し、円周率=3.14も暗算しやすいように、約3と考えましょう。
円柱の体積(内容量)=3cm×3cm×3(円周率)×高さ=180㎤ということになります。
図面にはコップの深さ(円柱の高さ)は記載されていませんが、仮に高さを7cmにしてみます。
そうすれば、円柱の体積(内容量)=3cm×3cm×3(円周率)×7cm=189㎤となりますから、おおよその数値は合っていますね。
この段階で、正確な数値は必要ありません。
小・中学生の頃に学習した内容ですが、「内径=6cmで深さ7cmくらいのコップなんだな」という感覚が理解できれば十分です。
抜き勾配
樹脂(プラスチックス)製のコップの場合は、どのように製造されているかご存知でしょうか?
多くは、射出成形という方法が使われます。溶けた樹脂材料をコップの形に加工した金属の型(金型)に注入(射出)して、コップが冷えるまで待ち、金型を開いてコップを取り出します。鯛焼きのように、同じものを大量に作るのに適した方法です。
図面を見ると、コップの口側と底側で直径が異なっていますが、これは金型からコップを取り出しやすくするための勾配で、抜き勾配と呼ばれています。
[図-17]金型とコップのイメージ
樹脂材料
ひとくちに樹脂(プラスチックス)といっても、用途によって色々な種類の材料が使われています。最近はリサイクルの関係で、使用されている材料の記号が、製品に印刷または刻印(例:>ABS<)されているはずです。
よく使われる材料とその記号を記載しておきますので、身の回りのものにどんな材料が使用されているのか、確認してみて下さい。
- PS…安価な玩具やプラモデルなどに使用される。発泡させたもの(発泡スチロール)は、魚のトロ箱や食品トレイに使用される。
- ABS…高価なブロック玩具、家電製品などの外観ケースなどに使用される。美観・強度・価格のバランスが良い。
- PMMA(アクリル)…無色透明の樹脂で、レンズや透明容器、定規などに使用される。
- POM…歯車や各種の機構部品、自動車部品、ファスナーなど、剛性が必要な部品に使用される。
- PE…ポリエチレン袋、フィルム、シャンプーやリンスの容器、日用品などに幅広く使用される。
- PP…耐熱性が比較的高く、機械的強度にも優れるので、自動車・家電部品、食品容器、医療器具などに幅広く使用される。
- PC(ポリカ)…無色透明の樹脂で機械的強度にも優れているので、CDやDVD、カメラレンズ、ヘッドライトなどに使用される。
- PVC(塩ビ)…水道管、床材、壁紙、電線の被覆、ビニールレザーなどに使用されている。
CADオペレーターとしてスキルアップしていこう
CADオペレーターの仕事から始めて、(3)曲面形状のモデリングや(4)設計意図を考慮したモデリングのスキルを身につけると、専門性が高くなるので、個人を指名しての仕事も増えてきます。そうなれば、在宅で仕事を受託するなど、ライフステージに合わせて働くことも可能になります。
就業先や派遣で経験を積み、スキルアップ次第で思い描く将来が実現できるCADのお仕事。ご興味のある方は是非挑戦してみてはいかがでしょうか。
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