社会保険料の計算方法・総務や人事労務担当者が知っておきたい知識
給与計算を行う場合、社会保険料の計算が必要です。社会保険は保険の種類ごとに保険料率が異なり、計算方法も複雑で理解が難しく、給与計算を担当する人が間違いやすいポイントでもあります。 今回は、社会保険の概要を含め、総務や労務の給与計算担当が知っておきたい、社会保険料の計算方法について解説します。
社会保険は社会保障制度のひとつ
社会保険とは加入者の生活を守る制度で、リスクに備え、万が一のときには給付を行う制度です。 具体的に、狭義の社会保険には、健康保険、介護保険、厚生年金保険があり、労働保険には、雇用保険、労災保険があります。これらを総称して、従業員が加入する「社会保険」といいます。このうち労災保険は事業主のみ、そのほかは被保険者である従業員と事業主で保険料を負担します。企業では、健康保険、厚生年金保険、介護保険の保険料をまとめて「社会保険料」と呼ぶことが多いため、ここではこの「狭義の社会保険料」の計算方法をご紹介します。
社会保険の加入対象
社会保険は、法人であれば加入を義務付けられており、従業員のいない一人経営であっても、社長自身が加入しなければなりません。法人化していない個人事業所でも、従業員を5人以上雇っている場合は、一部の業種を除いて加入義務が発生します。社会保険に加入している事業所を適用事業所といいます。
適用事業所で働く正社員や法人の代表者、役員は原則として社会保険の被保険者になります。パートタイマーやアルバイト等でも、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である人は、被保険者となります。また、これらが4分の3未満であっても、次の5要件を満たす場合は加入対象となります。(※)
<短時間労働者の社会保険の加入要件>
- (1)週の所定労働時間が20時間以上
- (2)2カ月を超える(2カ月と1日以上)雇用契約期間が確認できる
または2カ月以内の雇用契約であっても、就業規則や雇用契約書等にその契約が「更新される旨」または「更新される場合がある旨」が明示されている - (3)賃金の月額が8.8万円以上
- (4)昼間学生ではない
- (5)厚生年金保険の被保険者数が常時101人以上の事業所で働いている(厚生年金保険の被保険者数が常時100人以下の事業所で働いていても、労使の合意に基づき事業所が申し出をした場合)
社会保険に加入すると、社会保険料が給料から天引きとなって手取り額が減るため、「加入したくない」という人もいるかもしれません。しかし、加入の条件は法律で定められており、意図的に加入させない場合は事業主が罰せられる可能性が生じます。条件に該当する従業員は、雇用形態にかかわらず、必ず加入させなくてはなりません。
- ※2024年10月より被保険者数51人以上で要件(1)~(4)に該当する場合は、加入対象となります。
社会保険料が決まるタイミング
社会保険料は、「標準報酬月額」をもとに、所定の保険料率を掛けることで決まります。標準報酬月額とは、被保険者である従業員が受ける報酬の月額を、区切りのよい幅で区分した等級で表しており、傷病手当金や出産手当金などの保険給付や、将来受け取る年金の支給額の計算にも用いられるものです。標準報酬月額が決まるタイミングは大きく3つあります。それぞれを説明しましょう。
入社時
新たに入社した従業員の場合、手続きを行うタイミングでは、まだ給料が支払われていない状態です。そのため、入社後に受け取ると思われる給料の額をもとに、標準報酬月額を決定します。
定時改定
標準報酬月額は年に1回見直しがあり、毎年4~6月までの3カ月間の報酬の平均額を用いて、新たに決定されます。
算定基礎届に必要事項を記入し、7月10日までに日本年金機構に提出しなくてはいけません。この届け出内容をもとに、厚生労働大臣が標準報酬月額を決定する「定時決定(算定基礎届)」を行うことで、その年の9月分から翌年8月分までの社会保険料に反映されます。
社会保険料は標準報酬月額で決まるため、計算する場合は必ず標準報酬月額を確認する必要があるのです。
随時改定
昇給や降給、通勤手当の変更などの固定的な賃金の変動に伴い、報酬が大幅に変わった場合は、定時決定を待たずに随時改定」を行い、月額変更届を届け出る必要があります。
具体的には、次の3つの条件をすべて満たす場合に随時改定を行います。
<随時改定を行う条件>
- (1)昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
- (2)変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
- (3)3カ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である
給料額ではなく標準報酬月額で計算する理由
標準報酬月額を用いるのは、給料は月によって変動する性質があることから、毎月計算する手間を省くためです。標準報酬月額のベースとなる4~6月の3カ月間の報酬には、基本給や歩合給のほか、残業手当や家族手当、役職手当、住宅手当や通勤手当といった各種手当も含まれます。
標準報酬月額には祝い金や見舞金、出張時の旅費、年3回以下の賞与、退職金といった臨時で支給される手当は含まれません。なお、通勤手当は、所得税の計算では15万円まで非課税の扱いとなりますが、社会保険料では金額に関係なく賃金に含まれる点に注意が必要です。1カ月以上の定期を購入している場合は、定期代の総額を有効期間分の月数で割って、1カ月あたりの金額を算出して計上します。
社会保険料の計算
社会保険料を算出するときは、標準報酬月額を健康保険、厚生年金保険、介護保険それぞれの計算式にあてはめて計算します。介護保険については、40~64歳の被保険者のみ徴収の対象となる点に注意しましょう。
なお、社会保険料は労使折半となりますので、給与計算する際には、本人負担分の各保険料率を乗じるようにしましょう。
- ・健康保険料の計算方法
- 標準報酬月額×健康保険料率
健康保険の運営団体には、全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合の2つがあります。健康保険料率は、協会けんぽは都道府県によって異なり、健康保険組合は組合ごとに異なります。 例えば、協会けんぽで東京都の場合、2022年10月現在の保険料率は9.81%ですから、従業員負担分の保険料率は半分の4.905%です。標準報酬月額が20万円だったとすれば「20万円×4.905%」で健康保険料は9,810円ということになります。
- ・厚生年金保険料の計算方法
- 標準報酬月額×厚生年金保険料率
厚生年金保険料率は、かつては毎年改定されていましたが、2017年9月分以降は18.30%で固定されています。従業員負担分は半分の9.15%を掛けることで求められます。 例えば、標準報酬月額が20万円だった場合、計算式は「20万円×9.15%」となり、厚生年金保険料は月1万8,300円となります。
- ・介護保険料の計算方法
- 標準報酬月額×介護保険料率
介護保険料率は、健康保険組合によって異なります。協会けんぽの場合は、2022年10月現在は全国一律で1.64%です。従業員負担は半分ですから0.82%となり、標準報酬月額が20万円の場合は「20万円×0.82%」で、月1,640円になります。 なお、介護保険は40歳から対象となります。40~64歳までは第2号被保険者となり、健康保険料や厚生年金保険料と合算して給料から天引きする形で納めます。65歳以上は第1号被保険者となり、会社に勤めていても、個人で居住地の市区町村に納めなければなりません。
社会保険料の計算はマスターすれば難しくない
社会保険料は、収入や年齢で納める額が変わるため、計算はなかなか複雑です。各保険料率や標準報酬月額の改定にはくれぐれも注意しましょう。常に最新の情報をチェックすることが大切です。
〈監修者〉
人事労務コンサルタント、社会保険労務士、グレース・パートナーズ社労士事務所代表。中小・ベンチャー企業を中心に、人事労務管理・社会保険面をサポートし、親身なコンサルティングで多くのクライアントから支持を得ている。雑誌掲載、ラジオ出演など多数。著書に『採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本』(ソーテック社)など。