自分も相手も大事にする気持ちの伝え方 アサーティブ・コミュニケーションのすすめ

嫌われたくないという思いから本音を言えなかったり、忙しさのあまり、感情のままに言葉を発してしまったり。そんな経験はありませんか。大切なのは、言葉を選んで、自分の気持ちを正確に伝えること。周囲とよりよい関係を築くためのコミュニケーションの方法をご紹介します。

「言葉」にしなければ自分の考えは何も伝わらない

人に何かを伝える時、「こんなことを言ったら不愉快に思われるのでは」「だめな人間だと判断されてしまったら」など、あれこれ悩んで、気持ちをうまく伝えられなかったという経験は誰にでもあるでしょう。

しかし、自分の気持ちや考えは、言葉にしなければ伝えることはできません。「黙っていても以心伝心で伝わるものだ」と思う人もいるかもしれませんが、そこに「分かってもらえて当然」という思い込みがありませんか。一言が足りないために、人間関係をこじらせてしまうことは少なくありません。

考えを言えなかったり、気持ちを伝えなかったりと、自分を抑えながらコミュニケーションをしていると、次第に不満がたまってしまいます。我慢していることに気づかない相手に対して、「なんで察してくれないのだろう」と、不快感に繋がることにもなるでしょう。

満たされない気持ちが積み重なれば、何かの弾みで今までの不満をぶつけてしまい、自分も相手も嫌な気持ちになり、人間関係を悪くすることも考えられます。「自分の気持ちを率直に表現する」という意味での自己主張はすべきであり、それは決してわがままではありません。

自分も相手も尊重するアサーティブ・コミュニケーション

では、どのように自己主張をすれば、自分の思いを相手にきちんと伝えられるのでしょうか。そこで役に立つのが、自分を大切にし、相手も同じように大切にする「アサーティブ・コミュニケーション」術です。

例えば、レストランで注文したものとは違う料理が出てきた時、あなたなら、どうしますか。①店員を大声で怒鳴る。②何も言わず、出てきたものを食べる。③丁寧に取り替えてほしいと頼む。この場合は、③がアサーティブ・コミュニケーションになります。

このコミュニケーション術を身に付けることで、「言いたいけれど、言えない」から、「言いたいことを言える」ようになり、さらに状況に応じて「言えるけど、言わない」ことを選ぶことができるようになります。何を言うか、言わないか、自分の意志で選ぶことが大切なのです。

アサーション(Assertion)とは「断言」「主張」という意味の英語。日本語で考えると、強いニュアンスの言葉に聞こえますが、アサーティブ・コミュニケーションとは、「自分を大切にし、相手も同じように大切にする」コミュニケーション方法という意味として使われています。自分の気持ちを把握し、感情をコントロールしながら、言葉を選んで伝える。相手の権利を侵害することなく自分を表現する方法です。心理療法の一つである「行動療法」の一環として「アサーション・トレーニング」(アサーティブな態度や思考を身に付けるための自己主張訓練)も行われています。

Check Testあなたは、どのくらい自分の気持ちを言えますか?『アサーティブ度チェックテスト』

Case Study

手一杯の仕事を抱えているのに、上司からさらに仕事を頼まれた時、あなたはどう自己主張しますか?

A「無茶言わないでください!これ以上、仕事しろって言うんですか?」

B「…分かりました(そんなの無理だよ…)」

C「今、○○をしています。どちらを先にすればいいですか?」

D「分かりました(自分がやらなければ)」

チェック結果

A .自己主張パターン1 攻撃的(アグレッシブ)
自分のことだけを考えて相手のことは考えない

忙しさのあまり余裕がなくなり、感情にまかせて暴言を吐いてしまう。このような言い方では、相手には怒りの感情しか伝えられません。

B .自己主張パターン2 ノンアサーティブ
いつも相手を優先し、自分をあと回しにする

忙しくて目が回りそうなのに引き受けてしまう。うまく断れないことでイライラしたり、仕事が自分のキャパシティを超えてしまった場合には成果を出せず、マイナス評価されてしまうことも。

C .自己主張パターン3 アサーティブ
自分を大切にしながらも、相手への配慮もする

感情的にならず、適切に自分の状況を伝え、上司に優先順位を決めてもらう。適切に情報を伝えることで、上司に自分の状況を理解してもらうことにもつながります。

D. 自己主張パターン4 アサーティブもどき
自分も相手も大切にしている「つもり」になっている

余裕がなくても、相手の希望を叶えるためにすべて引き受けてしまう。「自分さえ頑張れば」などと考え、自分を追い込んでしまい、結果として自分だけでなく周囲へも迷惑をかけることにも…。

解説
アサーティブ・コミュニケーションは「C」。あなたの仕事の状況を把握していないかもしれない上司に現状を伝えることが大切。相手が自分を分かってくれることで仕事がしやすくなります。

アサーティブ・コミュニケーションで言いたいことを伝える方法

どうすれば、アサーティブな態度をとることをできるようになるのでしょう。自分を変えるには、普段のちょっとした心がけが大切です。ここでは、アサーティブ・コミュニケーションの具体的な方法をお教えします。

1いまの自分の気持ちを受け止める
アサーティブな態度をとるために一番重要なのは、今、自分がどんな気持ちかをきちんと把握すること。例えば、怒っているのに、それを自分で認めないと、感情だけが先走って暴言を吐いてしまったり、声が震えたり…と、意志を正確に伝えることが難しくなります。まずは自分が、何をどのように考え、感じているのかを自己分析してから、それをどのように言葉に乗せていくかを考えましょう。
2相手が理解しやすい言葉を選ぶ
「ちゃんとして」「しっかりして」など、曖昧で、しかも強制的な表現を使ってしまうことはありませんか。これらの言葉は漠然としていて、いったい何を、どこまで求めているのか、相手には伝わりません。例えば、「もっとちゃんとやって」ではなく、「資料は人数分そろえて、日付を入れるのを忘れないでください」など、具体的に相手に分かる言葉にして伝えましょう。
3人に責任を押しつけない
「みんな○○しているから、○○してください」「上司に注意されるから」などと、責任を周囲の人に押しつける表現をしてしまうことはありませんか。これでは相手に率直なメッセージは伝わりません。メッセージを受けた人は、遠回しな表現が理解できずに聞き流してしまったり、他人事のような言動をする人に無責任さを感じて不信感を持ったり、いったい誰に何を言われているのかが分からず当惑したります。
4「私」を主語にすればスッと伝わる
「私はこう思う」「私はこう感じる」と、「私」の視点で、責任の所在を明らかにする話し方を「アイ・メッセージ(I Message)」と言います。逆に、相手に視点を置いた「ユー・メッセージ(You Message)」は、売り言葉に買い言葉になりがち。例えば、取引先に頼んでいた資料がなかなかできあがらない時。「資料はまだですか? ちゃんとしてください」ではなく、「(私は)○日までに資料を届けてもらえないのは困ります。間に合わないようでしたら、すぐに連絡してください」としたほうが受け取りやすくなります。
5事実と、自分の要望を具体的に伝える
個人を批判する言い方は、相手のプライドを傷つけてしまい、結局は自分が言いたいことが伝わりません。例えば、「○○さんに連絡しないなんて、配慮が足りないと思います」は、「営業担当者本人に連絡しないと、業者さんが待ちぼうけしてしまうから(事実を述べる)、あの手の電話はすぐに担当者の携帯電話に連絡を入れるようにしてください(具体的な要望を述べる)」など、言い方を替えてみましょう。
6自分の言葉癖に気づく
言葉癖は、相手に与える自分の印象を大きく左右します。例えば、語尾が強いと命令口調に聞こえ、少しゆっくり話したり、心持ち声を低めにすると、ソフトな印象になります。人から敬遠されるように感じている場合、次のような理由が考えられます。
  • 早口で話す癖がある
  • 語尾を強めて話す癖がある
  • 声が小さい
  • 「あのー」「えっとー」など間合いの言葉が多すぎる
  • 前置きが長い
  • 相手の話に相づちを打たない。

以上をヒントに、普段の自分の話し方を振り返ってみましょう。

7ポジティブな表現でよい人間関係を築く
ねぎらいや感謝の言葉=ポジティブな表現は、気持ちのよいコミュニケーションを生み、よい人間関係につながっていきます。例えば、エレベータの開ボタンを押して待ってくれている人がいたら、会釈するだけでなく、「ありがとうございます」と声をかけてみましょう。こうしたポジティブなコミュニケーションも、立派な自己主張です。
8外見からアサーティブになる
コミュニケーションの要素には、言葉だけでなく、表情、声、服装、アイコンタクト、ボディランゲージなどもあります。親しい友人や家族に自分の印象を聞いて、今より自分の魅力を生かせるようにアドバイスを受けたり、必要であれば、ボイスレコーダーやビデオに記録して、自分で確認してみてもよいでしょう。

Profile

監修:岩舩展子さん

IS・キャリア開発研究所代表。(株)日本交通公社、(株)トラベランド興業を経て、2000年産業カウンセラーとして独立。産業精神保健専門職、シニア産業カウンセラー。労働者健康福祉機構「東京産業保険推進センター」相談員、「女性と仕事の未来館」特別相談員。アサーティブワークショップを行うほか、企業や自治体で産業カウンセラーとして活躍。著書に『アサーティブ・コミュニケーション』(共著・PHP研究所)などがある。

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