「同僚となかなか溶け込めない」「新しい勤務先でうまく馴染めるか不安」「上司に話しかけるのが苦手」…このような悩みや不安な気持ちをもったことはありませんか?社内でのコミュニケーションはちょっとした受け答えの工夫でスムーズになるものです。ここでは居心地のよい職場をつくるコミュニケーション術をご紹介します。
新しい派遣先、異動先でのコミュニケーション
まずは小さなコミュニケーションから始めよう
新しい職場というものは、多くの人にとって未知の環境です。新たな派遣先や異動先で、すぐ同僚と打ち解けるのは簡単なことではなく、周囲に溶け込めずに悩んでいる方も少なくありません。
職場に馴染めない理由は、大きく分けて三つ考えられます。一つ目は、本人が派遣先、異動先の同僚のことを知ろうとしていない場合。二つ目は逆に、相手に対して自分のことを伝える働きかけが不足している場合。最後にその両方が不足している場合です。
一つ目の場合なら、「相手のことを知る」ために、雑談などで距離を縮める努力をすることです。難しい会話は必要ありません。相手の話に「へえ、そうなんですね」と相づちを打つだけでもコミュニケーションが一歩進みます。ちょっとしたタイミングを逃さず、小さなコミュニケーションを積み重ねます。職場のムードメーカー的な人を通じて溶け込むのもよい方法です。ムードメーカーさんを囲む輪に近づいて、話を聞くだけでも十分ですし、あえて同じコピー機を使うようにして、一緒になる機会を増やすのも効果があります。
二つ目の「自分のことを伝えていない」場合は、「おはようございます」「お疲れ様です」などの挨拶から入って、徐々に親しくなることです。エレベーターなどで一緒になったときに、自分から声をかけて挨拶や報告、相談をして、少しずつ自分のことを知ってもらいます。気を付けないといけないのは、相手との仲を一気に深めようとしないこと。マメなコミュニケーションで徐々に近付くように心がけることです。
いずれのケースでも、問題の根っこにあるのは同僚との接触不足。少しのやりとりでもよいので、コミュニケーションの頻度を増やせば、同僚と打ち解けるきっかけになります。人に話しかけるのが苦手でも、挨拶をするときに顔を上げる、仕事の報告はいつもより明るい態度でする、といったことを心がければ大丈夫です。その繰り返しが、溶け込みやすい環境づくりにつながります。
ここがPOINT!
- 接触の機会をつくらないのはNG。
- マメなコミュニケーションで一歩ずつ関係性を深めること。
仕事で報告するときのコミュニケーション
上司への報告、説明は「明確」で「簡潔」に
派遣先の職場においては、仕事中の同僚への声かけや、上司への報告の仕方で悩まれる方が多いです。忙しそうな同僚や上司への上手なコミュニケーションは、派遣先での良好な職場環境を築くために不可欠です。
まず、上司や同僚がどういうコミュニケーションを欲しているのかを観察し、把握することが大切です。相手に余裕がありそうなときに声をかけ、そのリアクションを見ます。相手が仕事の内容だけを端的に伝えたいタイプだったら、それ以上余計な話はしないほうが無難です。一方、雑談を好む人なら、おりを見て趣味の話などを聞いてみると、より良好な関係性構築につなげられます。
また、忙しい上司には、何を言いたいのか、何を聞きたいのかをきちんと伝えることが重要です。話しかける前に、報告する内容、伝えるべき要点や、教えてほしい点などを整理しておきます。具体的には、「この点がわからないので教えていただきたいのですが、今、お時間よろしいでしょうか?」「この件についてご相談したいのですが、ご都合のよいタイミングで声をかけていただけるでしょうか?」と言ったり、急ぎの場合には、「この仕事で至急ご指示をいただきたいので、お願いできますでしょうか?」などと、明確かつ簡潔に伝えることです。
仕事に慣れてくると、効率のよい作業方法を提案したい場合も出てきます。その際は提案するタイミングが重要になってきます。業務が集中する時期は避けて、社内の空気が穏やかなときに話すことです。「教えていただいたAのやり方で仕事をしているときに、Bの方法もよいのではないかと考えました。ご相談できたらうれしいです」と話すことです。単に「Bのやり方がよさそうです」と言うと、提案したという点が強調されるので、一歩引いた“相談”という言葉を使うことが大切になってきます。その際に、従来のAの方法を「効率が悪い」「無駄」などと否定しないこと。「Bのやり方はみなさんの仕事の簡略化につながると思います」などと話すと、相手も感情を害さずに聞いてくれます。
ここがPOINT!
- 相手の時間をもらっているという意識を忘れずに。
- 上司の方とちょっと居合わせたときなどに雑談でもしておくと、報告などの仕事も円滑に進めることができます。
仕事でアドバイスするときのコミュニケーション
親身になって相手のメリットになることを伝えよう
仕事を続けていると、自分の業務を後から入ってきた方に教える時がきます。その際も、上司とのコミュニケーション同様、気遣いと適切な距離感がカギとなります。業務内容を教えるときは、「こういう手順でお願いします、説明不足な点や疑問があったらお声がけください」と、相手を気遣いつつ、簡潔な会話を心がけることです。何か仕事をお願いするときも「初めてでわかりづらいこともあるでしょうから、途中まで進めたら声をかけてください」と伝えるのが有効です。相手に気遣いが伝わるだけでなく、慣れない仕事における大きなミスの防止にもつなげられます。仕事を仕上げてもらったら、まず感謝の言葉を伝える。その後アドバイスすべき点があれば伝えるようにします。そのときも大事なのは簡潔でわかりやすくという点を心がけることです。アドバイスする意図とメリットを織り交ぜれば、相手も伝えたい意見を聞いてくれるようになります。
一方で、相手に伝えづらいことも出てきます。その最たるものは、上司や先輩の失敗や過失です。当然、数字の間違いなどの重大なミスは、ただちに知らせなければいけません。しかし、「ここが間違っているのではないでしょうか」とミスを長々と追及したり、指摘したりするのはよくありません。相手の気分を必要以上に害すだけとなってしまいます。「この部分をこういうふうに直してもよろしいでしょうか」などと簡潔に伝えることが、上司への気遣いにもなります。
ここがPOINT!
- 自身が教える立場となっても、相手への気遣いと距離間は常に意識すること。“育てる視点”をもつと、より有効になります。
- 上司のミスを長々と指摘することはNG。「自分が直す」と手短に伝え、了承を得ることが大事です。
派遣先などの職場では、いろいろな立場の方とさまざまな状況で関わるので、迷うことも出てきます。意識することは、相手が誰であっても、コツコツとマメなコミュニケーションを続けることと、気遣いを忘れないこと。挨拶はもちろん、相手に「余裕がありそう」と感じたときは意識して接触するように心がけてください。そのためには、職場の方の様子に気を配り、観察をおこたらないことが大事になってきます。居心地のよい職場は日々の積み重ねで生み出すことができます。
Profile
コミュニケーション・インストラクター。長年、大学や短期大学、専門学校などでコミュニケーションやマナーの講義を行っている。39万部を超えるベストセラー『話し方のマナーとコツ(監修)』(学研教育出版)、『頭がよくてかわいく見える話しかた』(講談社)など、著書多数。