「仕事で目指したいことは?」「どんな人生を送りたいか?」「少し先の未来で自分はどうありたいか?」―。
こう問われたとき、自分のありたい姿を答えることはできますか?
今、私たちが生きる世の中は、すさまじいスピードで変化しています。仕事や人生でのさまざまな選択が必要になるなかで、自分の軸となるキャリアビジョン・ライフビジョンを明確にする必要があります。とはいえ、「自分のやりたいことが分からない」という人もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、数多くの女性のキャリア支援に力を注いでいるキャリアコンサルタントの岩橋ひかりさんに、キャリアビジョン・ライフビジョンの描き方のヒントについて、ご紹介いただきます。
「キャリア」は人生そのもの
「キャリアとは何か?」と聞かれたときに、皆さんはどんなふうに答えるでしょうか。
私は、キャリアは「人生そのもの」だと考えています。キャリアを一般的にとらえると、狭義には「仕事」「働くこと」「職業」などを指しますが、私は「ライフイベント」や「地域活動」「家族」まで含めて、広い意味で人生そのものを「キャリア」ととらえています。
少し前までは、よい大学、よい会社に入ってポジションと給料を上げていくという王道ルートというものがあり、仕事を追い求めていれば、幸せになりやすいという道がありました。しかし、今は幸せのカタチが多様化しています。「この仕事をしていれば、幸せ」というものはなくなりつつあります。だからこそ、働き方や生き方について、自分自身でどうしたいのかを考える必要があるのです。
自分について、見つめてみよう。
でも、いきなり自分がなりたい姿や理想の生き方を思い描くことは難しいものです。
社会的な常識やまわりの目、自分の中にある「こうあるべき」という思い込みに覆われてしまって、考えていることが整理できていないという人もきっといらっしゃるでしょう。この状態のままでは、一般的によいとされている理想の姿を、自分の理想だと思い込んでしまうだけです。望んでいる本来の理想の姿からずれてしまうことになります。
そこで私は、自分の思い込みを取り払う作業から始めることを、おすすめしています。
それは、普段「嫌だ」と思っているけれど仕方なくやっていることを自覚することです。自分が嫌だと思うことを引き出して言語化するために、私は普段のコンサルティングの中で、「嫌なことを100個書き出す」ワークをお願いしています。たとえば、「ストッキングを履くこと」「満員電車での通勤」「子どものお弁当づくり」など、思いつくままに挙げてみてください。どうしたらやめられるのかはいったん抜きにして、誰にも見せないことを前提に書き出していきます。
このワークを実践すると、実際にはやめられなくても、自分がどうなりたいかに気づくことができます。目的は、自分がどうしたいのかを言語化して、日常的に自分について考える感度を上げていくことです。
「こんなことを言われて嫌だった」「こんなシチュエーションに腹が立った」など、思いのままに書きためる、日常的な「憤りノート」をつくってもいいでしょう。普段、嫌だと思っているのに我慢している人は多く、そのこと自体に気づいていないと理想を描きにくいものです。だからこそ、嫌なことから書き出していくのが効果的なのです。
理想のキャリアビジョン・ライフビジョンにたどり着くために
「嫌なこと」のリストアップをすることで、自分の本当の気持ちに近づくことができます。
それを裏返せば、やりたいことのイメージが湧いてきます。さらに、「自分のありたい姿」を次の3つのステップに分けて考えることで、キャリアビジョン・ライフビジョンが徐々に明確になっていきます。
「自分らしさ」を理解する…
自分の得意なことや苦手なこと、好き嫌いなどをいかに言語化できるかがポイントです。できるだけ格好つけたものではなく、自分が本当にそうしたいと思うことを見つけてみましょう。
「理想のライフスタイル」をイメージする…
どんな自分でありたいか、どんな働き方をして、どのような家族を持ちたいか、10年後になっていたい姿をイメージしましょう。
「つくりたい未来」をイメージする…
どんな社会にしていきたいか、社会についての不便や不満を自分が改善することを想像してみましょう。
こうして導き出した「自分のありたい姿(キャリアビジョン・ライフビジョン)」は、人それぞれで、そのときどきで変化するものです。
「自分だけの正解でよい」し、ひとまず「仮決定」でも大丈夫です。自分の思いや考えをさらに深めてバージョンアップしていきましょう。そう考えると、少し気軽に決められるのではないでしょうか。
自分の中の“情熱”は、我慢しない。
女性は、結婚、出産、育児などのライフステージの変化が、仕事や働き方に影響することがありますが、「働きたい」「この仕事がしたい」と思うのならば、自分の意欲を我慢しないでほしいです。
私のまわりには「フルタイムで働きたくても、夫は家事・育児をしてくれないし、実家も遠い。すべて自分でやらなくてはいけない」と言う人もいらっしゃいます。本気で「働きたい」「この仕事がしたい」と自覚し、そのビジョンを言葉で伝えられるようになって、その言葉に本気度が加わると、職場やパートナーにも意思が伝わり、応援してもらいやすくなります。
今まで、「すべて自分一人でやらなくてはいけない」と思っていたのは、自分だけの思い込みである場合もあるのでないかと私は考えます。「土曜日は資格取得のために、セミナーに参加したいから、子どもを見ていてほしい」や、「自分はこの時間に働きたいから、この家事をお願いしたい」など、きちんと伝えられるようになると、応援してもらえるようになる事例は多くあるのではないでしょうか。
こういった時に大切なのは、自分のビジョンが言語化されていること。
大事なことは、理想の働き方や生き方がはっきりしていて、そこに思いを乗せて伝えることです。
職場でも、自分の中に情熱を持って小さな行動を始めている姿は、何となく仕事をしている人が多い中では、とても目立つものです。一人が頑張っていることの波及効果は、ご自身が思うよりもとても大きいのです。
「私にもできる」が社会を良くする。
今や、収入やポジションを上げていくことだけが目標ではなくなっています。大切にしたいことや時間の過ごし方は人それぞれ。もはや理想の生き方に合わせて、働き方を合わせていくくらいの感覚になってきているのではないでしょうか。
変化が激しい時代だからこそ、「自分はこうしたい」というビジョンを言葉にして、それをまわりに発しておくことが大事です。そうやって声をあげる人が増えると、社会での雇用や働き方にもどんどん変化が生まれてくるのではないかと思います。
「私なんて…」と思っている方も多いと思うのですが、どんな人にもすばらしい能力があります。
私は、みんながそれぞれ小さなチャレンジを起こしていくことで、日本全体が底上げされていくようなイメージを持っています。今回お伝えしたような、自分の「キャリアビジョン」「ライフビジョン」を明らかにし、健全な成長意欲を取り戻すメソッドを使って、「私にもできる」と考える人をもっと増やすことが、きっとこれからの社会を良くしていくことにつながるのではないかと思っています。
アデコは、あなたがこの先どうしていきたいか、じっくり耳を傾け、あなたの将来像やキャリアビジョン、ライフビジョンを描くためのサポートを行っていきます。
アデコがどのようにあなたのサポートを行っていくのか、以下のページで詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
Profile
お茶の水女子大学生活科学部卒業。同大学院修了後、株式会社アイワイバンク銀行(現セブン銀行)に入社し、広告、人事部門等に従事。第二子出産後独立し、2017年に女性に特化した個人向けキャリアコンサルティング事業を展開するMYコンパスを設立。WEBとコミュニティを活用したオンラインキャリア講座等を通じて、のべ1万人以上の女性のライフキャリア支援を行う。著書に『最強のライフキャリア論。~人生まるごと楽しむための思考法~』(時事通信社)。