【連載:これからの人事部門について考える】個々の志向を見極めた人事施策が生産性向上に寄与

2019年4月に「働き方改革関連法案」が施行されました。これを「人事部が歴史上最も活躍できる機会」と捉えるのは、20年にわたり人材開発に関わってきた山口博氏です。年間100社、約5,000名のビジネスパーソンに向け、国内外で演習を実施している山口氏に、従業員のモチベーションを上げ、生産性アップにつなげるポイントを伺いました。

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働き方改革……高まる人事部への期待

2019年4月から働き方改革関連法が順次施行され、現在、企業の人事部は働き方改革の推進、さらにはその目的である生産性向上の実現という課題に直面しています。また、働き方改革だけでなく、AIやテクノロジーの進化に伴う作業の転化も始まっており、定型業務はAIにとって代わられていく時代になりました。管理する人事部から、タレントを育成して生産性向上につなげ、ビジネスの発展に貢献する人事部になるときがやってきています。人事部に対する期待値が高まると同時に、それが実現できるかどうかが問われている、正念場ともいえるでしょう。

働き方改革を実現し、生産性を上げていくうえでの決め手は「多様化への対応」です。これには組織で働く従業員一人ひとりが、それぞれに持っているモチベーションをどう高めていくかが、とても重要なポイントとなるでしょう。
例えば、人事部の重要な役割の一つに、社員の能力開発があります。多くは、企業研修という形で実施されていますが「理屈はわかったが、行動で再現できない」「理論は勉強したが、実践でどう役立てればいいかわからない」という声は少なくないようです。

また、マネージャーとの面談でも、部下からは、「面談をしても、いいか悪いかしか教えてくれないので、自分のスキルをどう磨き、キャリアアップにどうつなげればいいのかわからない」という声も聞かれます。具体的なことが示されないため従業員のモチベーションが下がり、がんばろうという気持ちが起きないというのです。これでは育成面談にならず、社員の能力を開発することはできません。

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日産自動車で開発、企画、人事の3部門を経験し、カルロス・ゴーン氏の教えを独自に発展させ、「利益を生む組織と人材をデザインする」ための戦略人事を提唱する山極毅氏にお話を伺った。

仕事のパフォーマンスを上げるモチベーションファクターの活用

こういった事態にならないよう、まずは相手がどんなときに意欲が高まるかに着目し、気づきを与えてほしいと思っています。私はこの要素を「モチベーションファクター®」と称し、組織・人材開発、リーダーシップ開発、採用・面談などのプログラムとして演習を行っています。

モチベーションファクターは、個人は2つの志向に分かれ、さらに6つの要素に細分化されると捉えています。2つの志向は「牽引志向」と「調和志向」。牽引志向には「目標達成」「自律裁量」「地位権限」の要素があり、調和志向には「他者協調」「安定保障」「公私調和」の要素があります。

モチベーションの高まり方は、どのタイプかによって異なります。例えば、「自律裁量」のタイプでは、独自の方法で仕事に取り組むことで意欲が向上します。逆にいえば、仕事の仕方を細かく指示して型にはめようとすると、とたんにモチベーションが下がってしまうのです。

このように自分の志向や要素を知っておくと、タイプと異なる仕事を振られても「これはちょっと苦手な仕事かもしれない」と、気持ちを切り替えることができ、ストレスも抱えにくくなります。また、上司として部下がどのタイプかがわかってさえいれば、タイプに合わせて付与する仕事を変えて、意欲を向上させることも可能です。それぞれの要素によってやる気が出るワードも異なりますから、話法を変えることで部下のパフォーマンスを上げることもできます。

例えば、働き方改革の一環で、一定時刻になったら電気を消し退室を促すという方針があった場合、一方的に「決めごとだから電気を消して退室するように」と伝えるのではなく、目標達成型や自律裁量型の人に対しては「短時間で目標を達成する方法にチャレンジしてください」という表現にすることで、モチベーションのあり方は大きく変わるのです。

一方的で一律の人事施策から、一人ひとりの多様性に応じた人事へ

このモチベーションファクターを見極める力を養うためには、演習を繰り返して行動や話法をその場で身につけていくことが重要です。これを私は「分解スキル反復演習®型能力開発プログラム」と名付けています。

例えば、上司と部下との人事評価や日常の面談の場での質問は「やってみてどうだったか」「どう改善したいか」「サポートできることはあるか」など、5つの問いかけをします。わずか5つの簡単な質問ですが、相手にはサポートまでを考慮してもらえているという安心感を与えることで、心理的安全性が高まり、生産性の向上にもつながります。このとき、相手のモチベーションファクターに合わせた言葉を選び、語りかけ方を工夫するといっそう効果的でしょう。

派遣社員や中途入社の社員を受け入れるにあたっては、その人のモチベーションファクターと自社のモチベーションファクターが合致しているか、受け入れる組織メンバーが相手のモチベーションファクターをふまえて巻き込めるかもポイントになります。

雇用形態も働く人も多様な現在において、一律の人事施策やトップダウンの一方的なやり方はもはや限界です。今、求められているのは、組織のメンバーを巻き込みながら、一人ひとりの生産性向上に貢献できる、頼りになる人事部なのです。

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Profile

山口 博氏
モチベーションファクター株式会社 代表取締役

国内外金融・IT・製造企業の人材開発部長、人事部長を歴任後、PwC/KPMGコンサルティングのディレクターを経て、現職。横浜国立大学大学院非常勤講師。日経ビジネスオンライン「目からウロコ!エグゼクティブのための10分間トレーニング」、ダイヤモンド・オンライン「トンデモ人事部が会社を壊す」などを連載する人気コラムニストでもある。主な著書に『99%の人が気づいていない ビジネス力アップの基本100』(講談社)、『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社)。

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