人材派遣サービスに求めるのは、いかに希望要件に見合う人材を紹介してもらうかです。しかし、受け入れがゴールではありません。派遣社員が安定して仕事を続けてくれるかどうかも大切なポイントです。そのためには事前の受け入れ準備や、就業開始後のコミュニケーションが大きなカギとなります。アデコで派遣社員のパフォーマンス向上とキャリア開発を担当するキャリアコーチの今井陽子に、派遣社員の早期終了を防ぐポイントを聞きました。
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専属として派遣社員の就業をサポート
――まずは所属しているキャリアコーチが発足した経緯について教えてください。
今井:現在の日本の労働マーケットは、労働力人口減少への対応が課題となっています。働く個人の価値観は多様化しており、グローバル競争に勝ち抜くためには、自社の競争力向上が求められています。これらの課題の解決策の一つがキャリア開発による労働者一人ひとりの市場価値の向上です。こうしたニーズに応えて、働く人のキャリア開発に力を入れていくため、当社では2016年に「キャリアコーチ体制」を発足しました。
一方で、労働者派遣法が改正されて、同一職場への派遣期間が最大3年間となりました。3年後を見据えてしっかり派遣社員をサポートしていく体制を整えるためにも、キャリアコーチの導入は必要なことでした。2019年4月現在、約200名のキャリアコーチが活躍しています。
――キャリアコーチは、どのような役割を担っているのでしょうか?
今井:キャリアコーチは、就業中の派遣社員へ継続的な支援を行います。就業中の派遣社員の悩みをケアし、モチベーションを高め、スキルアップに向けたコーチングを行うため、パフォーマンスや定着率の向上が期待できます。
――キャリアコーチが行う派遣社員へのサポートは具体的にどのようなものですか?
今井:キャリアコンサルティングを通して、派遣社員のキャリアビジョンやキャリアプランを明確にし、その実現に向けたサポートをしています。
就業開始時には、なぜこの仕事を選んだのか、また将来的なキャリアプランを確認します。就業中は、現在の就業先での安定就業や長期就業を目指し、派遣社員が感じている諸問題に対してカウンセリングを通して、解決へと導きます。また、3年満了や契約終了による転職を検討している派遣社員には、有期雇用派遣以外に、無期雇用派遣、人材紹介など、選択肢を広げるサポートも就業中から積極的に行っています。
さらにスキルアップや資格取得、他職種や他業種へのチャレンジなど、実現したい目標についてはコーチングを使って、目標設定~達成への手助けをしています。名前で呼ばれず「派遣さん」。ちょっとしたことが早期終了の原因に
――派遣期間を早期に終了する派遣社員は、どのような理由で終了となるのでしょうか?
今井:当社で退職理由についてヒアリングをした結果、①人間関係、②職場環境、③仕事の指示の3つが早期終了の大きな理由となっていることがわかりました。
特に①の人間関係については、仕事仲間として毎日顔を合わせるなかで感じる疎外感や孤独感が問題となっていることが多いようです。たとえば、わからないことが質問し難い雰囲気である、名前ではなく「派遣さん」と呼ばれることなどです。
③の仕事の指示とは、就業開始前に聞いていた仕事内容と実際の仕事内容にギャップを感じたということです。
――終了を希望された派遣社員から具体的にどのような声を聞くことが多いですか?
今井:②の職場環境について、「任される仕事がない」という声も意外と多く聞かれます。時間制で給料をもらっているのに、手持ちぶさたな状況が続くのも辛いものです。派遣社員には、その状況を指揮命令者や業務を教えてくださる方に共有するよう促しますが、社員とは違い自分で仕事を探せる立場にはないので難しいようです。
また前任者がいなく引き継ぎがままならない、マニュアルがない、具体的に依頼する仕事内容が決まっていなかったりということもあるようです。依頼する業務内容を明確にしたうえで、受け入れていただけるとスムーズに業務に就くことができると思います。
――職場環境について話が出ましたが、派遣社員が働きやすいと感じる職場環境は、どのようなものでしょうか?
今井:当社でアンケートをとった結果、以下の通りになりました。いずれも、すぐに取り入れられる職場環境や業務ルールの整備に関することです。職場環境を見直すことで、受け入れ側が歓迎しているという雰囲気が伝わり、派遣社員の業務効率の向上にもつながります。
――派遣社員が就業するにあたり企業に希望していることはどのようなことでしょうか?
今井:まずは第一に業務の指示を具体的にしてもらうことです。「何の仕事を」・「いつまでに」・「どのような方法で処理し、誰に渡すのか」。業務が複数ある場合は、優先順位も明確になると仕事のスケジュールが立てやすくなります。業務の責任範囲を限定し、きちんとした指揮命令系統のもとで、具体的な指示をお願いしています。
また、派遣社員の呼び方は「派遣さん」ではなく、個人名で呼びかけてあげてください。派遣社員が所属部署のメンバーとして受け入れられていると感じることが、仕事へのモチベーションを大きく左右します。
受け入れ初期のコミュニケーションが派遣社員の定着に影響
――派遣社員を受け入れる前に、企業側が準備すること、心がけることは何でしょう?
今井:人材派遣会社へ依頼するときの業務内容と実態がかい離していないことが重要です。派遣先企業での経験を生かして次のキャリアにステップアップしたいと考える派遣社員にとっては、当初聞いていた業務内容と異なると、スキルが生かせない、キャリアアップできないという判断をして早期終了につながりやすくなります。
「派遣さんだから何でもやってくれるでしょ」ではなく、「このポジションではこういうことを期待しているので、こういう人に来てほしい」という具体的なイメージを持ってご依頼いただいたほうが、抱いたイメージに合った方をご紹介できますし、就業を開始した後もスムーズです。
ほかにも事前に机、電話、文房具、パソコン、座席表など受け入れ準備をしっかり整えておいていただけると効率的に仕事を始めることができます。
――派遣社員の受け入れ後に、企業側にしていただきたいサポートは?
今井:大事なのは初期のコミュニケーションです。仕事の開始時に、上司や指揮命令者から「あなたにはこういうことを期待している、困ったときはこうしてね」という依頼するポジションの役割が共有されると、派遣社員側も期待されているという気持ちが伝わり、働く楽しみと安心感が醸成されると思います。わからないことが出てきたときに聞ける教育担当を1人置くことも効果的です。
――派遣社員とのコミュニケーションで気をつけるべきことを具体的に教えてください。
今井:初めて派遣社員を採用する企業の場合は、派遣社員に遠慮して言いたいことが言えない場合もあるようです。判断に困る場合は「こういうことは言ってもいいのか」と、人材派遣会社に気軽にご相談ください。雇用先は人材派遣会社ですが、派遣社員が日々働いているのは派遣先の企業なので、ざっくばらんにコミュニケーションをとっていただいた方がいいと思います。
また、企業や所属部署の目標に対して成果を出すメンバーの一員であることを派遣社員にお伝えいただいた方が、派遣社員の帰属意識も芽生えます。キャリアコーチからも組織の目標に貢献する一員として働く意識を持つことを促しています。
――そのほか、企業が見落としがちな点はありますか?
今井:オフィス環境(トイレ、机回り、ロッカーなどの設備や駐車場、駐輪場)、また最近ではフリーアドレス、フレックス制度など、社員の方々には当たり前になっていることでも、気にする派遣社員もいます。特にフリーアドレスやフレックス制度などで、派遣社員が孤立するケースもありますので、受け入れのタイミングや引き継ぎが終わるまでの期間は、そばにいていただけるようご調整いただけると派遣社員も安心します。
まとめ
派遣社員が早期終了をする理由はいろいろありますが、同じ職場で働く仲間としての受け入れ体制を整え、就業したらコミュニケーションをとって、お互い働きやすい環境をつくることが定着率を高めることにつながります。
これからはさらに、さまざまな立場の人が一緒に働くことが当たり前の時代になっていきます。将来を見据えて、誰でも働きやすい職場環境をつくっておくことは、企業にとっても大切になってくるでしょう。
弊社では、上記のような人事ノウハウをわかりやすくまとめ、定期的に更新しております。
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