社員の職場配置や処遇の指標となる人事考課は、企業活力を左右するといわれるほど重要な業務。しかし、実際に人事考課を行おうとすると、考課対象となる要素があまりにも多く、そのポイントの絞り込みに迷いがちです。どうすれば適切な考課ができるでしょうか。
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人事考課の目的
人事考課とは、評価者(通常は部門の管理職)が社員の業績、職務能力などを評価し、その結果を昇給・昇格に反映すること。人事考課の目的は、基本的に次の4点です。
- 社員にどのような行動や成果を期待しているかを理解してもらう
- 社員の適性や職務能力の的確な把握により、人材配置の最適化を図る
- 社員の業績貢献度や能力を適正に評価することにより、社員の適切な育成を図る
- 適正な評価に基づく適切な処遇により、社員のモチベーションを高める
人事考課の運用は、社員個々の目標が明確になってモチベーションが高まると同時に、企業にとっては適材適所の人材配置により生産性を最大化できるメリットがあります。
人事考課において留意すべき5つのポイント
しっかりとメリットを得るためにも、人事担当者は人事考課において以下の5点を留意すべきでしょう。
- 1.目標の認識共有
社員が目指すべき目標を明確化し、その目標に対する認識を管理職と社員が共有することが大切です。認識共有によって目標に対する企業と社員のベクトルが一致するようになります。 - 2.数字目標と行動目標の設定
目標達成には、数字目標と行動目標のセットが不可欠です。数字目標は結果が、行動目標はプロセスが考課対象となります。結果だけでなくプロセスも評価することで、考課に対する社員の信頼感が生まれ、社員のモチベーションを高める要素となるでしょう。 - 3.考課の透明性
人事考課の考課基準や評価項目を明らかにしなければなりません。透明性のある評価により、社員は自分に不足している行動を自覚し、改善に向けて自ら行動するようになります。 - 4.人事考課のフィードバック
社員に対して人事考課の結果を定期的にフィードバックすることで、高まった社員のモチベーションが持続します。 - 5.評価者の教育
評価者に客観的で公平な人事考課をするスキルがなければ、社員のモチベーションが高まる考課はできません。考課に対する納得性が低いと社員に不満が生じ、場合によっては離職のきっかけとなってしまいます。したがって評価者に対する人事考課の教育が不可欠です。
人事考課制度の仕組みと人事考課評価項目
人事考課は「業績考課」、「能力考課」、「情意考課」の3つの基準で評価するのが基本です。3つの基準のバランスを保ちつつ、「営業等事業部門の社員は業績考課を重視」、「管理部門の社員は能力考課を重視」、「若手社員は情意考課を重視」など、職務内容により考課基準の重視ポイントを変えることで適正な考課が可能になります。具体的な考課基準の概要は次の通りです。
- 1.業績考課
業績考課は「社員が数字目標をどこまで達成できたか」の考課基準です。業績考課は数値化できるので、客観性と公平性を担保しやすいのが特徴です。さらに「業績は低かったが大口案件の受注に成功し、会社の評判を高めた」など「難易度の高い仕事をやり遂げた」などのプロセスも評価できます。 - 2.能力考課
能力考課は「社員がどれだけの職務能力を身につけているか」の考課基準です。裏方仕事に徹して陰で会社の成長に貢献した、経営リスクを未然に防いだ、○○運動でリーダーシップを発揮したなど、数値で計れない能力を評価できるのが特徴です。 - 3.情意考課
情意考課は「社員の勤務態度」に関する考課基準です。「経験が浅く、業務知識・スキルも不足しているが、伸び代があるので今後の活躍が期待できる」といった業績考課や能力考課だけでは把握できない社員の適性や潜在能力の評価に適しています。
人事考課の実施手法
人事考課を具体的に実施する方法は「人事考課手法」と呼ばれています。代表的なものには「目標管理評価」、「コンピテンシー評価」、「360度評価」があります。
- 目標管理評価
上司と話し合いながら社員が自主目標を設定し、社員自ら目標を管理し、その結果を評価する手法です。目標は努力をすれば達成できる範囲内で設定し、目標達成のプロセスも具体的に定めておくのがポイントです。社員のモチベーションが高まりやすい手法とされています。 - コンピテンシー評価
社内で高業績を上げている社員に共通する行動特性(コンピテンシー)をモデル化し、それを基準に社員の行動を評価する手法です。コンピテンシー評価は明確なモデルがあるので、「自分はどのように行動すれば業績を上げられるのか」をイメージしやすく、若手社員の育成に適した手法とされています。 - 360度(多面)評価
部門内の上司・同僚・部下、関連部門の社員など複数の評価者が一人の社員を評価する手法です。360度評価は複数の評価者がいるので、評価結果には当然ばらつきが出ます。そのため、この手法は考課を処遇に反映するのが目的ではなく、本人に評価結果を伝え、本人の気づきを促すために用いられるケースが一般的です。
人事考課の評価項目
人事考課を行うためには、「何を評価するのか」の「評価項目」が必要です。評価項目は各企業の経営理念、事業特性、人材育成方針などにより異なり、雛型となる公式的なモデルやガイドラインはありません。しかし、一般に次のような評価項目に自社独自の視点をプラスして運用している企業が多いようです。
考課基準 | 評価項目 | 評価内容 |
---|---|---|
業績考課 | 業績目標達成度 | 設定した数値目標の達成度 |
課題目標達成度 | 設定した課題の達成度 | |
日常業務成果 | 日常業務における成果 | |
プロセス | 目標達成までの行動 | |
能力考課 | 企画力 | 担当職務の企画能力 |
実行力 | 担当職務の実行能力 | |
改善力 | 担当職務の改善能力 | |
リーダーシップ | 周囲を巻き込む力 | |
リスク管理能力 | リスクに対する察知能力と対処力 | |
情意考課 | 規律性 | 社内規則の遵守性 |
責任性 | 担当職務の責任意識 | |
協調性 | 周囲と協力して職務遂行にあたる姿勢 | |
積極性 | 担当職務に対する熱意 |
人事考課制度の策定と運用のポイント
人事考課制度は3つの考課基準から各々の評価項目設定を行い、続いて評価内容設定の順で策定するのが基本手順です。
まず評価項目においては、職位・職務別に設定するのがポイントです。この設定が「社員と管理職」のように大ざっぱだと、考課基準自体が曖昧なものになってしまいます。社員・主任・係長・課長・部長など、職位ごとに評価すべき項目を設定しましょう。
次に評価内容設定です。流れとしては、例えば業績考課の場合、自社の経営計画に掲げた売上目標などを部門、課、係と落とし込んでゆき、さらに職位・職務・個人別に設定するのがポイントです。この手順で設定しないと、個人ベースの目標は達成できたのに部門目標は未達という珍現象が起こります。
また個人ベースの目標設定においては、職位・職務別の平均値を基準にするのがポイントです。なぜなら、スキルの高い社員には高い目標、平均的な社員には低い目標など、曖昧な設定をしてしまうと、前者のハードルは高くなり、後者のハードルは低くなってしまいます。これでは公平な目標設定とはいえません。評価内容自体に偏りがあり、論理性が見いだせません。個人ベースの目標設定は、データに基づいた数値を提示すべきでしょう。
人事考課の運用においては、「期中の定期的な目標達成度確認と上司のサポート」と「期末の評価とフィードバック」が鉄則とされています。前者においては四半期ごとなど定期的な確認をすることで、進行状況が確認でき、必要に応じて軌道修正を加えられるため、目標達成度が高まる可能性があります。後者のフィードバックは、良かった行動と悪かった行動を上司が講評することで、良い行動は継続し、悪い行動を改めることで、次期の目標達成度の向上が期待できます。
加えて、後者の「期末の評価」においては、次の4つを意識してみましょう。
- 絶対評価
人事考課においては、絶対評価を採用するのが良いとされています。評価要件を満たした被評価者を人数制限なしにランク付けする絶対評価は、客観的で公正な評価になるので被評価者も納得しやすく、モチベーションが高まりやすい効果があります。 - プロセス重視
人事考課においては、プロセス重視も大切な要素です。数値化された結果のみで評価するのではなく、目標達成行動のプロセスも評価することで、社員は目的達成のための行動が明確化し、行動の改善も容易になります。 - 具体的な考課結果の通知
社員に対する考課結果の通知は、具体的であることが重要です。たとえば「評価70点」、「評価B」など、数値やランクで結果を通知されても、社員にはその根拠が分からず、人事考課に対する不信感が残るからです。総評だけではなく「この行動は優れていた、この行動は努力不足だった」と具体的に伝えれば、社員は納得感が得られ、人事考課に対する信頼感も高まるでしょう。 - 評価項目の周知
人事考課制度は評価基準が明確であり、かつ社員に分かりやすい制度であることが重要です。評価項目を作成してもそれが社員に伝わっていなければ、社員は何を目指して行動すれば良いのか分かりません。結果として毎期同じ行動を繰り返し、自己成長が止まってしまう結果に陥り、モチベーションが低下の一途をたどるでしょう。
「人事考課エラー」に注意しよう
もう1つ、人事考課制度の運用で人事担当者が注意しなければならないのが「人事考課エラー」です。人事考課において、評価者が無意識に自分の感情や心理状態に支配されて評価をする現象のことで、さまざまなパターンがあります。特に起こりやすいと言われているのが次の現象です。- ハロー効果
- ……出身大学や過去の実績などの印象に影響され、主観的な高評価をする現象
- 寛大・厳格化傾向
- ……部下に対する私情に影響され、評価が甘くなったり厳しくなったりする現象
- 中心化傾向
- ……「部下に嫌われたくない、良く思われたい」などの心理に影響され、評価が平均値に偏ってしまう現象
- 論理誤差
- ……「業績が良いから情意も積極的なはず」など、考課基準や評価項目の違いを無視し、自分の推測で評価する現象
- 対比誤差
- ……考課基準ではなく、自分の基準(評価者自身の能力など)との比較で評価する現象
- 近隣誤差
- ……1年間の評価期間を通して俯瞰的に評価をするのではなく、期末の業績や能力を見て評価する現象
人事考課は、感情を持った人間が人間を評価する行為である以上、こうした現象は避けられない面があります。特に数値ができない能力考課や情意考課においては起きやすいでしょう。それだけに公正性を担保するための評価者教育はとても重要です。
制度定着のコツは会社・社員双方の協力関係構築
人事考課制度の運用においては、考課項目の設定によって成果が大きく左右されます。考課項目が曖昧だと社員の間に不信感が生じ、企業活力の低下要因になるからです。逆に項目が明確であれば、社員は自らが果たすべき役割もはっきり見えてきます。人事考課をきっかけとした能力の客観的把握、気づきなどが社員のモチベーションを刺激して自己成長を促し、企業活力を高める源泉になるともいわれています。人事考課制度は企業が社員に対して一方的に実施する制度ではなく、双方の協力で実施するものです。協力体制があってこそ、制度の定着や改善を促せることを理解しておきましょう。
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