裁量労働制とはどんな制度?
対象業務やメリット、注意点を解説

「裁量労働制」とは、勤務時間や業務の時間配分を個人の裁量に任せる働き方で、多様な働き方の一つとして考えられています。本制度を導入するためには、どのようなことに気をつけるとよいのでしょうか。

本記事では、「裁量労働制」のメリットや注意点、制度を導入するにあたってのポイントを紹介します。

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裁量労働制とは?

裁量労働制は、業務の性質上、それを進める方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある場合に導入することができます。その業務を進める手段や、時間配分の決め方など、使用者が具体的な指示をしないと決めたものについて、あらかじめ「みなし労働時間」を定めます。

その上で労働者をその業務に就かせた場合に、その日の実際の労働時間が何時間であるかに関わらず「みなし労働時間」分労働したものとする制度で、労働基準法第38条の3・4に規定されています。

裁量労働制を採用するには、使用者と労働者の間で事前に取り決めをしておくことが必要です。使用者が一方的に導入を決めることはできません。

裁量労働制の対象業務

現在、裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

「専門業務型裁量労働制」は専門性が高い業務で、「企画業務型裁量労働制」は企画・立案・調査・分析を行う業務で導入できますが、それぞれ対象になる事業場に条件があります。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、業務の遂行の手段および時間配分の決定などに関して、使用者が労働者に具体的な指示をすることが困難な業務において導入することができます。対象となる業務は、次の20の業務に限定されています。

  • 1.新商品・新技術の研究開発、または人文科学・自然科学の研究の業務
  • 2.情報処理システムの分析・設計の業務
  • 3.新聞・出版の事業における、記事の取材・編集の業務、放送番組の制作のための取材・編集の業務
  • 4.デザイナーの業務
  • 5.放送番組、映画等の制作の事業における、プロデューサーまたはディレクターの業務
  • 6.コピーライターの業務
  • 7.システムコンサルタントの業務
  • 8.インテリアコーディネーターの業務
  • 9.ゲーム用ソフトウェアの創作業務
  • 10.証券アナリストの業務
  • 11.金融工学等の知識を用いる金融商品の開発業務
  • 12.大学での教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
  • 13.M&Aアドバイザーの業務
  • 14.公認会計士の業務
  • 15.弁護士の業務
  • 16.建築士の業務
  • 17.不動産鑑定士の業務
  • 18.弁理士の業務
  • 19.税理士の業務
  • 20.中小企業診断士の業務

なお、「M&Aアドバイザーの業務」は令和6年4月1日に追加された業務です。この追加により、専門業務型裁量労働制の対象業務は19業務から20業務へ拡大しました。

参考・出典:厚生労働省「専門業務型裁量労働制について」

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、業務の遂行の手段および時間配分の決定などに関し、使用者が労働者に具体的な指示をしない業務で導入することができます。

専門業務型のように対象業務が限定されているわけではありませんが、どの事業場でも導入できるわけではありません。

具体的には、次の4要件の全てを満たした業務が存在する事業場に限られています。

  • 1.業務が所属する事業場の、運営に関するものであること (例えば、対象事業場の属する企業などに係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
  • 2.企画、立案、調査および分析の業務であること
  • 3.業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があることが、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
  • 4.業務遂行の手段および時間配分の決定などについて、使用者が具体的な指示をしない業務であること

参考・出典:厚生労働省「企画業務型裁量労働制について」

労働時間や残業代の仕組み

裁量労働制を導入したからといって、残業代が全く発生しないわけではありません。次のケースでは残業代が発生するので、覚えておきましょう。

みなし労働が法定労働時間を超えるとき

労働基準法では、原則1日8時間、週40時間までの法定労働時間が定められています。

労使で取り決めをした「みなし労働時間」が法定労働時間の8時間を超える場合、時間外割増賃金が発生します。

たとえば、みなし労働時間が10時間の場合、法定労働時間の8時間を超える2時間分の時間外割増賃金の支給が必要です。

参考・出典:厚生労働省「労働時間・休日」

深夜労働、休日出勤が発生したとき

裁量労働制を導入していても、休日に関する規定や深夜労働に関する規定は適用されます。

法定休日(週に1日の休日)に労働をした場合には、休日の割増賃金が発生します。

所定休日(完全週休2日の会社であれば、法定休日ではない休日)に労働した場合は、週の労働時間が40時間を超えると時間外割増賃金が発生する可能性があります。

深夜の割増賃金が発生するのは、夜の10時から朝の5時までの間に労働をした場合です。時間外労働と深夜労働、あるいは休日労働と深夜労働が同時に行われた場合には、それぞれの割増率を合算することになります。

36協定が必要なケース

裁量労働制は労使間で取り決めたみなし労働時間を基準としますが、法定労働時間を超える労働をさせる場合は36協定の締結が必要です。

具体的には、みなし労働時間が原則1日8時間週40時間を超える場合(時間外労働)、休日労働をさせる場合には、36協定の締結および届出をします。

参考・出典:厚生労働省「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」

裁量労働制の目的

裁量労働制の目的のひとつは、少子高齢化で生産年齢人口が減少していくなかで、多様な人材が働ける環境を整備することです。

出産や育児、介護や病気治療などさまざまな事情を抱える人材も、裁量労働制であれば個々の事情に合わせた勤務時間で働けます。従業員の労働負担の軽減や満足度向上につながり、ひいては企業の生産性向上に役立つでしょう。

また、裁量労働制の対象である専門性の高い業務や企画型業務は、始業時刻や終業時刻が固定されてしまうと、かえって業務遂行に支障が出るケースも考えられます。

裁量労働制を導入すると時間に固定されない働き方が可能となるため、効率的な業務遂行が期待できます。

みなし労働やほかの制度との違い

裁量労働制と同様の制度として、一日の労働時間をある一定の時間労働したものとみなす「事業場外労働のみなし労働時間制」があります。

また、「フレックスタイム制」や「変形労働時間制」、「高度プロフェッショナル制度」も、柔軟な労働時間に対応する点では近い制度です。それぞれ、裁量労働制とどういった違いがあるでしょうか。

事業場外労働のみなし労働時間制

事業場外労働のみなし労働時間制は、その名のとおり事業場外で労働する場合に導入することができます。外交セールスや記事の取材など、事業場外で業務に従事していて、かつ使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務が対象です。

ただし、従事者の中に労働時間を管理する者がいる場合や、携帯電話などで随時使用者の指示を受ける場合、業務の具体的指示を受けて帰社する場合などは対象になりません。

この制度では、原則として会社が定めた所定労働時間を労働したものとみなします。例外的に、その業務を遂行するためには所定労働時間を超えて労働する必要があるときは、その必要な時間を労働したものとみなします。

裁量労働制のように業務の専門性を問われることはなく、また労働者に裁量もありません。労働時間を算定しにくい部分に関して、みなし労働時間を採用するというものです。

フレックスタイム制

フレックスタイム制は、変形労働時間制のひとつです。変形労働時間制とは、繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするといったものを指します。

業務の繁閑や特殊性に応じて、労使が工夫しながら労働時間の配分などを行い、全体としての労働時間の短縮を図ろうとするものです。

フレックスタイム制は、3カ月以内の一定期間の総労働時間を決めておき、労働者がその範囲内で各日の始業および終業の時刻を選択して働きます。コアタイムと呼ばれる必ず労働しなければならない時間を含んでいれば、いつ出社して、いつ退社してもいいというのが特徴です。

以前は総労働時間を決められる一定期間は1カ月とされていましたが、2019年4月施行の法改正で3カ月に延長されました。総労働時間を調整できる期間が広がったことで、労働者がより自由に日々の労働時間を決められるようになりました。

裁量労働制は労働時間そのものを労働者の裁量に委ねるというものですが、フレックスタイム制は始業・終業の時刻のみに限られます。また、対象の業務は特に決められておらず、就業規則などでの定めと、労使協定の締結があれば導入することができます。

変形労働時間制

変形労働時間制には、上記のフレックスタイム制のほかに「1週間単位」「1ヶ月単位」「1年単位」も設けられています。

たとえば、1ヶ月単位の変形労働時間制の場合、1ヶ月以内の期間で平均して1週間あたり40時間の労働時間内であれば、法定労働時間を超えた労働日数や労働時間を設定できます。閑散期や繁忙期のある業種で、全体として労働時間の調整を図る制度です。

裁量労働制との違いは、原則として対象業務が限定されない点でしょう(1週間単位の変形労働時間制では規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業に限定)。また、割増賃金の計算方法も異なります。

参考・出典:厚生労働省 徳島労働局「変形労働時間制」

高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度は、高度な専門的知識を所持していて、職務範囲が明確かつ一定要件を満たす労働者を対象とした制度です。

高度プロフェッショナル制度では年間104日以上の休日や健康措置などを講ずる必要がある一方、労働基準法規定内の労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金の規定が適用されません。

また、対象業務には「金融工学などの知識を用いた金融商品の開発業務」や「資産運用の業務」などが挙げられており、裁量労働制とは範囲が異なる点も違いです。

参考・出典:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度の概要」

裁量労働制を導入するメリットと注意点

裁量労働制を採用することで、会社にも労働者にもさまざまな影響があります。いったいどのようなメリットや注意点があるのでしょうか。

メリット

専門業務型裁量労働制の対象業務は、どれも時間を区切って行うことができないものです。アイデアを生み出したり、分析や研究をしたりすることは、あらかじめ時間を決めておいたからといって、その中で成果を出せるとは限りません。

労働者が自由に労働時間を決めることができれば、時には仕事をいったん離れてリラックスすることで、より良い商品やサービスを作り出すことにつながることもあるでしょう。

企画業務型裁量労働制も同様で、企画・立案・調査・分析となると、かなりの時間を要する可能性があります。

また、事業の運営に影響を及ぼすものであったり、企業戦略に関するものであったりとなれば、細かいところまで検討して慎重に議論しなければなりません。

裁量労働制を導入することで、労働者が時間に縛られることなく、成果を生み出すことに専念してもらえるというメリットがあります。

注意点

一方、注意点としては、導入にあたってかなり詳細に労使協定で取り決めをしなければならず、厳重な時間管理が必要であることが挙げられます。

労働時間を労働者の裁量に任せたからといって、使用者が時間管理をしなくてもいいというわけではありません。成果を求めすぎることで長時間労働につながる恐れがあることから、労働基準監督署への届け出や報告が義務付けられます。

あまりに労働時間が長かったり不規則だったりすると、体調を崩す労働者が出て、人材が定着しない可能性もあります。労働者の裁量に任せっきりにするのではなく、使用者がしっかりと健康面も含めて労働者を管理する必要があります。

裁量労働制を導入する前に知っておきたいポイント

裁量労働制は、一般の労働時間制度と異なる特徴を有します。導入する際は、次のポイントを事前に確認しましょう。

裁量労働制にできない業種がある

先述どおり、専門業務型裁量労働制を導入できるのは20業務のみです(令和6年4月1日から「M&Aアドバイザーの業務」が追加され、19業務から20業務に範囲が拡大)。

企画業務型裁量労働制は、対象業務が限定されていませんが、要件を満たさねばなりません。裁量労働制を検討する際は、まず自社が導入できるかを確認しましょう。

評価が難しい場合がある

裁量労働制は労働時間があらかじめ決められている(みなし時間の)特徴から、仕事の内容や成果で評価されます。

労働時間が基準となる一般的な労働時間制度に比べ、評価が難しい側面がある点に注意しましょう。

場合によっては、従業員が人事評価に不満を持つケースも想定されます。そのため、企業側が制度をしっかりと把握し、透明性の確保された人事評価制度を構築することが重要です。

長時間労働させてしまう可能性がある

裁量労働制は、業務の遂行手段や時間配分が従業員に委ねられるので、長時間労働をさせてしまう可能性があります。

従業員の過労や労働災害を防ぐため、適切な勤怠管理や健康管理が大切です。

裁量労働制を導入するには?

裁量労働制の導入には、労使協定の締結または労使委員会の決議が必要です。専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の導入方法を解説します。

参考・出典:厚生労働省「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」

専門業務型裁量労働制の導入方法

専門業務型裁量労働制を導入するには労働者本人が同意し、労使で協議のうえ、以下の内容を協定、決議している必要があります。

  • 1.制度対象業務
  • 2.みなし労働時間
  • 3.業務の遂行手段、時間配分の決定などに関し具体的な指示をしない
  • 4.健康、福祉を確保する措置
  • 5.苦情処理に関する措置
  • 6.制度適用による本人の同意
  • 7.制度適用に同意しなかった場合に不利益な扱いをしない
  • 8.制度適用に関する同意撤回の手続き
  • 9.労使協定の有効期間
  • 10労働時間の状況、健康や福祉を確保する措置、苦情処理に関する措置、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中およびその後5年間(当面の間は3年間)保存する

労使協定は、所轄の労働基準監督署に届け出てください。

企画業務型裁量労働制の導入方法

企画業務型裁量労働制を導入するには、本人の同意を得る手続きと、関連する記録の保存を労使協定と労使協定委員会の決議に定める必要があります。

  • 1.対象業務
  • 2.対象労働者の範囲
  • 3.みなし労働時間
  • 4.健康、福祉を確保する措置
  • 5.苦情処理に関する措置
  • 6.制度適用による本人の同意
  • 7.制度適用に同意しなかった場合に不利益な扱いをしない
  • 8.制度適用に関する同意撤回の手続き
  • 9.対象労働者に適用される賃金、評価制度を変更する際、労使委員会に変更内容を説明
  • 10.決議の有効期間の定め
  • 11.労働時間の状況、健康と福祉を確保する措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意および同意の撤回の労働者ごとの記録を有効期間中およびその後5年間(当面の間は3年間)保存する

労使委員会は6ヶ月以内に1度開催し、定期報告が必要です。

まとめ

この記事では裁量労働制について解説しました。対象の業務を行う会社にとっては、労働者も使用者も満足できる働き方が選択できる可能性があります。

しかし、導入へのハードルは高く、またすべての労働者に向くものではないかもしれません。

導入を検討する際には、どのような形で、どういった範囲の労働者を対象にすれば最も効果的なのかをしっかり見極める必要があります。長時間労働につながることのないよう注意しながら、うまく活用していきましょう。

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