人材派遣は、企業にとって有効な人材活用と働き方の多様化のニーズに応えるものとして活用されています。ただし、どんな業務でも派遣が認められているわけではありません。この記事では、労働者派遣が禁止されている業務について解説していきます。
さらに、業務以外の禁止されている事項についても合わせて紹介するので、人材派遣を活用する前にぜひご覧ください。
人事用語に関するお役立ち情報をお送りいたします。
メールマガジン登録
目次
労働者派遣法の改正で禁止業務の指定へ
労働者派遣法は、1986年(昭和61年)に施行された比較的新しい法律です。それまでも「業務請負」という形で派遣に似た形態のサービスを行っていた企業がありましたが、その評価が高かったこともあって、派遣労働を法律として明記し、適切な管理を行うことで労働者の保護につなげようという考えから成立しました。
当初は専門的な13の業務に限定して派遣を認めるというものでしたが、その後の法改正で16業務、26業務と対象業務は拡大していきます。1999年(平成11年)の改正では、それまで派遣可能な業務を限定していたのが原則自由化となり、逆に派遣を禁止する業務を指定する形に変わりました。
禁止業務がある理由
労働者派遣が禁止されている業務がある主な理由は以下です。
- 雇用を守るため
- チームでの業務が必要な専門職(医療関連業務)であるため
- 個人で委託をうける業務(士業)であるため
- 雇用調整をする派遣以外の制度があるため
派遣を認めると雇用が安定しなくなる業務や、業務の性質上、直接雇用すべき仕事では、労働者派遣は適していません。既存の法律や制度によって守られており、労働者派遣の活用を禁止しています。
労働者派遣法で指定されている禁止業務とは
派遣禁止業務(適用除外業務)として、以下の5つが指定されています。
- 1.港湾運送業務
- 2.建設業務
- 3.警備業務
- 4.病院・診療所などにおける医療関連業務
- 5.弁護士・社会保険労務士などの士業
それぞれの業務について、禁止の理由を解説します。
港湾運送業務
港湾運送業務とは、埠頭における貨物の輸送・保管・荷役・荷さばきなど、積卸しを主体とする業務です。港湾運送業務には、波動性といって需要のピークとオフピークの差が激しく、また循環的に発生する特徴があり、その特殊性から、港湾労働法において港湾労働の実態を踏まえた特別な労働力需給調整制度として「港湾労働者派遣制度」が導入されています。
この制度は1986年の労働者派遣法成立の前からすでに運用されており、新たな労働力需給調整システムの導入は必要がないことから、派遣禁止業務となりました。
具体的には、派遣法の元では以下の業務に労働者を派遣できません。
- 湾岸から船舶への貨物の積み込み、または船舶から湾岸への貨物の荷下ろし
- 船舶上での貨物の移動や固定
- 船舶に積んだ貨物や、船舶から降ろした貨物の荷造り・荷ほどき
- 船舶に積んだ貨物の梱包や、包装の修理
- 貨物の積み下ろし場所の清掃
- 船舶から下ろした貨物の港湾内倉庫への運送
- 港湾倉庫内での貨物の荷ほどきや仕分け
- 港湾倉庫でのトラックや鉄道への貨物の積み下ろし
建設業務
建設業務とは、建築土木現場における作業のことで、その準備も含みます。建設業務は重層的な下請け関係で行われることが多く、「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」の中で、労働者を雇用する者と指揮命令する者が一致する請負という形態になるよう措置が講じられています。
また、建設業務の特殊性を考慮して建設業務有料紹介事業や建設業務労働者就業機会確保事業についても定められています。港湾運送業務と同様に、労働者派遣事業という新たな労働力需給調整システムは不要なことから、派遣禁止業務とされています。
具体的には、派遣法の下では以下のような業務には労働者を派遣することはできません。
- 建築現場の資材の運搬/組み立て
- 工事現場での掘削/埋め立て/資材の運搬/組み立て
- コンクリートの合成や建材の加工
- 資材/機材の配送
- 壁や天井/床の塗装や補修
- 建具類の固定や撤去
- 電飾版/看板の設置や撤去
- 配電/配管工事や機器の設置
- 現場の入り口開閉や、車両出入りの管理/誘導
- 現場の整理/清掃
- 大型仮設テントや大型仮設舞台の設置
- 仮設住宅の組み立て
- 建造物や家屋の解体
警備業務
警備業務とは、事務所・住宅・興行場・駐車場・遊園地などの施設における事故の発生を警戒し、防止する業務のことです。他にも、運搬中の現金や貴金属などの盗難に関する警戒・防止や、人や車両が多く集まる場所での負傷といった事故発生の警戒・防止、あるいは人への危害の発生を警戒・防止する、いわゆるボディーガードの業務も含まれます。
先にも触れたとおり、警備業法上では請負形態で業務を処理することが求められています。労働者派遣を認めてしまうと、業務が適正に行われなくなる恐れがあるため、派遣禁止業務とされています。
病院・診療所などにおける医療関連業務
労働者派遣が禁止されている医療関連業務は、以下の業務があります。
- 医師
- 歯科技工士
- 歯科医師
- 臨床検査技師
- 薬剤師
- 理学療法士
- 看護師
- 作業療法士
- 准看護師
- 視能訓練士
- 保健師
- 臨床工学技士
- 助産師
- 義肢装具士
- 栄養士
- 救急救命士
- 診療放射線技師
- 言語聴覚士
- 歯科衛生士
病院・診療所のほかに、介護医療院への派遣も原則禁止されています。ただし、助産所・介護老人保健施設などでは、薬剤師など一部の業務は派遣可能です。
医療業務は、医師・歯科医師を中心に専門職が一つのチームを形成して行っています。適正な医療を提供するためには、チームの十分な意思疎通が不可欠なことから、派遣元が人員を決定する労働者派遣では支障を生じかねないため、派遣禁止業務とされています。
士業
労働者派遣が禁止されている士業は、以下の通りです。
- 弁護士
- 税理士
- 外国法事務弁護士
- 弁理士
- 司法書士
- 社会保険労務士
- 土地家屋調査士
- 行政書士
- 公認会計士
これらの業務は、資格者個人がそれぞれ業務の委託を受けて行うことから、指揮命令を受けることがありません。そのことから、労働者派遣の対象からは除外されています。その他にも建築士事務所の管理建築士の業務は、建築士法において専任でなければならないとされていることから、労働者派遣の対象になりません。
この他にも、人事労務管理関係のうち、派遣先での団体交渉や労働基準法に規定する協定締結にて、使用者側の直接当事者として行う業務についても、業種に限らず労働者派遣が禁止されています。
派遣禁止業務の例外
ここまで労働者派遣が禁止されている業務を見てきましたが、一部例外もあります。例えば、建設業務の施工管理や、湾岸地域であっても事務であれば派遣が可能となります。
医療関係業務に関しては、次の①~③に該当する場合は労働者派遣を行うことが認められています。
- 1.紹介予定派遣(派遣先への職業紹介を予定して派遣をする制度)をする場合
- 2.産前産後休業・育児休業・介護休業を取得した労働者の業務に派遣する場合
- 3.医師の業務で、その就業の場所が以下のいずれかに該当する場合
- 離島などのへき地にある場合
- へき地以外で、地域における医療確保のためには医業に派遣労働者を従事させる必要があるとして厚生労働省令で定める場所である場合
また、士業において以下の業務では、一部に限って労働者派遣が可能です。
- 公認会計士
- 派遣元が公認会計士を含む監査法人以外のものであって、かつ、派遣の対象となる公認会計士が公認会計士法第2条第1項に規定する業務(監査証明業務)を行わない場合
- 税理士
- 派遣元が税理士および税理士法人以外のものであって、かつ、派遣の対象となる税理士が派遣先の税理士または税理士法人の補助者として業務を行う場合
- 弁理士
- 相談に応ずること(いわゆるコンサルティング)に係るものに関し、特許業務法人以外を派遣元とする場合
- 社会保険労務士
- 社会保険労務士法人が派遣元となり、同法人の使用人である社会保険労務士を派遣対象者として、かつ、他の開業社会保険労務士または社会保険労務士法人を派遣先とする場合
- 行政書士
- 行政書士および行政書士法人が派遣元となり、他の行政書士または行政書士法人を派遣先とする場合
禁止業務に従事させた場合の罰則
労働者派遣法には、重い順に次の4段階の罰則があります。
- 1.1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
- 2.1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 3.6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 4.30万円以下の罰金
今回解説している、派遣禁止業務について労働者派遣を行った場合に適用されるのは、2の罰則です。届出を怠り、虚偽の陳述や報告をした場合などは3、4の罰則の対象になります。
なお、派遣先が労働者を派遣禁止業務に従事させている場合でも、派遣元企業が労働者派遣の停止命令を受けることになります。もちろん派遣先にも、派遣就業を是正するために必要な措置や、派遣就業がおこなわれることを防止するために必要な措置を取るよう勧告がなされ、従わない場合には企業名が公開されます。
また、派遣先が以下の違法派遣を受け入れた場合は、その時点で派遣先が派遣元と同じ条件で派遣労働者に労働契約の申し込みをしたものとみなされます。この申し込みに派遣労働者が承諾すると、派遣先はこの労働者を直接雇用することになります。
労働者派遣法で定められている派遣禁止業務以外の5つの禁止事項
労働者派遣法では、業務の縛り以外にも5つの禁止事項を設けています。
- 二重派遣
- 日雇い派遣
- 離職労働者の1年以内受け入れ
- 面接や書類での派遣スタッフの特定行為
- 3年を超えた派遣受け入れ
それぞれ、具体的に禁止されている内容を解説していきます。
二重派遣
二重派遣とは、派遣会社から受け入れた派遣労働者をさらに別の企業に派遣し、その企業の指示のもとで働かせることです。
二重派遣では、派遣労働者の雇用責任が不明確になるリスクがあります。さらに、賃金の支払い元もあいまいになり、仲介手数料も二重に取られるため、不当な条件になることから禁止されています。
日雇派遣(原則)
雇用期間30日以内の日雇派遣は、原則禁止です。ただし、例外として以下の業務は日雇い派遣の活用が認められています。
- ソフトウェア開発
- ファイリング
- 添乗
- 書籍などの制作・編集
- 機械設計
- 調査
- 受付・案内
- 広告デザイン
- 事務用機器操作
- 財務処理
- 研究開発
- OAインストラクション
- 通訳・翻訳・速記
- 取引文書作成
- 事業の実施体制の企画、立案
- セールスエンジニアの営業、金融商品の営業
- 秘書
- デモンストレーション
また、日雇い労働者が以下に当てはまる場合も例外として、30日以下の労働者派遣が認められています。
- 60歳以上
- 雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる昼間学生)
- 副業として従事する者(生業収入が500万円以上の場合)
- 主たる生計者以外の者(世帯年収が500万円以上の場合)
離職労働者の1年以内受け入れ
直接雇用していた労働者は、離職1年以内に元の勤務先に派遣できません。直接雇用から派遣労働者に置き換えて、労働条件が切り下げられるのを避けるためです。
ただし、60歳以上の定年退職者は、例外として離職後1年以内の受け入れも認められています。
面接や書類での派遣スタッフの特定行為
派遣労働者を受け入れる企業は、労働者派遣法第 26 条により、面接や書類での派遣労働者の特定を目的とする行為をしないように努める必要があります。たとえば、試験を行ったり履歴書を求めたりできません。
ただし、派遣労働者側が自主的に履歴書を送ったり、業務開始前に事業所を訪問したりすることは認められています。
3年を超えた派遣受け入れ
派遣可能期間である3年を超えて、同一の事業所で派遣労働者を受け入れることはできません。ただし、以下の場合は、雇用制限の対象外です。
- 派遣元で無期雇用されている場合
- 60歳以上の派遣労働者
なお、一定の要件を満たした場合、3年を限度として派遣可能期間を延長できます。
まとめ
どの業務も専門性や特殊性が高いことから禁止されていますが、建設業や医療業などは比較的身近な仕事であることから、つい知らずに労働者を派遣してしまう危険性があります。派遣が認められる例外もしっかり理解した上で、法違反がないように留意しましょう。
Adeccoでは、人事関連の法令を定期的に解説しております。
メールマガジンにご登録いただくと、労働法制や人事トレンドなどの最新お役立ち情報をチェックいただけます。
最新の人事お役立ち情報を受け取る(無料)
Profile
おひさま社会保険労務士事務所
1977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。
(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部
【人事・労務 担当者必見】人材派遣活用のチェックリスト
人材派遣を活用するにあたって外せないチェックリストをご紹介します。
- 【初めての方向け】派遣先担当者がはじめに確認すべきこと
- 労働法制を遵守するための派遣活用チェックリスト
- 定着率向上のためのチェックリスト