ジョブ型雇用の基本をおさらい。メンバーシップ型との違いや成功事例など

新型コロナウイルスの流行によりテレワークが定着しつつある現在、「ジョブ型雇用」に注目が集まっています。

今回はジョブ型雇用とは何か、メンバーシップ型雇用との違い、メリットやデメリットについてご紹介します。成功事例や導入にあたっての留意点にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。

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ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは業務の内容を明確に定義したうえで、その職務にマッチした人と雇用契約を結ぶ手法です。具体的には職務記述書(JD、ジョブ・ディスクリプションとも呼ばれる)に職務内容や責任範囲、評価基準、報酬など詳しく記述し雇用契約を結びます。欧米ではすでに定着していますが、日本でも2019年に経団連の中西会長が「終身雇用の見直し」と合わせて言及したことで話題になりました。

ジョブ型雇用が注目されている背景

日本でもジョブ型雇用が注目されています。その背景としては大きく分けて4つあります。

(1)新型コロナウイルス感染症の拡大によるテレワークの急速な普及

ひとつめは新型コロナウイルス感染症拡大の影響による、テレワークの急速な普及です。2020年4月に緊急事態宣言が発令され、在宅で仕事をする人が急増しました。6月に発表された内閣府の調査によれば、東京都23区に絞るとテレワーク導入率は半数を超えています。

参考:新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査│内閣府

テレワークには通勤時間の削減や密を避けられるなどのメリットがあるいっぽう、勤務実態を把握しにくく、これまでの時間管理型の報酬制度では、従業員を適正に評価しにくいというデメリットも表面化しました。

ジョブ型雇用を採用することで、時間管理型の報酬制度から成果型へと移行しやすいため、新たに導入する企業も増えつつあります。

(2)働き方改革への対応

働き方改革へ対応するための手段としても、ジョブ型雇用は注目されています。育児や介護など、さまざまな理由で働き方が限定される従業員は少なくありません。勤務時間を柔軟に設定し、職務と成果で報酬を決めるジョブ型雇用は、柔軟な働き方の支援にもつながります。地域限定社員やアソシエイト社員も、ジョブ型雇用のひとつといえるでしょう。

「同一労働同一賃金ルール」もジョブ型雇用を後押ししているといえます。職務内容を明確に決め、市場価値にあった賃金を支払うことで、従業員間の不平等を是正し納得感を高められます。

(3)IT系など専門人材の人手不足

AIやブロックチェーン、IoTなどのIT系専門人材は慢性的な人材不足。その解消にジョブ型雇用が期待されています。そもそも新卒一括採用、年功序列、終身雇用という従来の日本型雇用では、オールラウンダーは育っても専門人材が育ちにくいという土壌がありました。

専門人材の獲得競争に勝つためには、「職務」に焦点をあてた柔軟な雇用の仕組み(評価や報酬制度)が重要になります。また社内の人材登用や機会提供により、専門人材の育成にもつなげられます。

(4)変化の激しい時代に競争力を高めるため

ジョブ型雇用は国内企業のグローバルな競争力を維持・向上させるためにも重要です。競争力を高めるために、企業は環境に合わせ常に変化し続けなければなりません。これまでの日本型雇用では人材の流動性が低く、外部の変化に内部が追いつきにくい状況でした。

企業が変わるためには、そこで働く従業員も仕事への向き合い方を変える必要があります。ジョブ型雇用ならば、市場の変化に対しポストを追加したり、職務記述書内容を変更したりすることで、専門人材の獲得のみならず企業内部の変革も目指せるでしょう。

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用との違い

ジョブ型雇用と対比される雇用形態として「メンバーシップ型雇用」があります。ジョブ型雇用が仕事内容をもとに報酬を決めるのに対し、メンバーシップ型雇用ではその人の勤続年数や勤務態度などをもとに報酬を決めることが一般的。いわゆる日本型雇用とはメンバーシップ型雇用を指します。主な違いを表にまとめましたので、参考にしてください。

ジョブ型雇用
職務内容
限定
転勤や異動
原則なし
採用方法
中途採用が多い
育成方法
自ら学ぶ
評価方法
スキル、成果
人材の流動性
高い
メンバーシップ型雇用
職務内容
非限定
転勤や異動
あり
採用方法
新卒一括採用が多い
育成方法
新卒一括研修など
評価方法
勤続年数、勤務態度
人材の流動性
低い

ジョブ型雇用のメリットとデメリット

注目されるジョブ型雇用ですが、当然ながら万能ではありません。メリットもデメリットもあります。

メリット

ジョブ型雇用のメリットは大きく分けて5つ。それぞれ詳しく解説します。

(1)優秀な専門人材を採用しやすい

ジョブ型雇用には優秀な専門人材を採用しやすいというメリットがあります。現在は企業名で勤務先を選ぶというより、その仕事内容に惹かれて選ぶというスタイルが一般的になりつつあります。

職務記述書で職務内容や報酬を明確にすることで、そのスキルに長けた人材を確保しやすくなるでしょう。個人のキャリアイメージとマッチすれば、企業規模に関係なく優秀人材を得られるチャンスにもなります。

(2)多様な働き方を支援できる

仕事内容や働き方を限定することで、従業員の多様な働き方を支援できます。介護や育児などの事情で規定の時間での勤務が難しく、就業を見送るケースは少なくありません。職務記述書で働き方に見合った職務内容を定義すれば、テレワークをはじめとした柔軟な働き方にも対応しやすくなり、雇用の機会を広げられます。

(3)企業の状況にマッチした人材を確保できる

ジョブ型雇用には日々刻々と変化する企業の状況にマッチした人材を確保しやすいというメリットもあります。たとえば新規事業を立ち上げる際には、企業内のリソースでは必要人材をまかなえないケースがあります。ベンチャー企業など、めまぐるしく状況が変わる組織の場合も同様でしょう。

その時どきに必要な人材を柔軟に確保する手法として、ジョブ型雇用は有効な手立てといえます。

(4)成果を可視化しやすく評価がしやすい

期待する成果を具体的に職務記述書で明確にするジョブ型雇用は、成果を可視化しやすく評価もしやすいというメリットがあります。テレワーク環境のもとでは、従業員の働きぶりやそのプロセスは不透明になりがち。今までのプロセス重視、勤務時間管理による評価では十分機能できないため、ジョブ型雇用へ切り替える企業も増えています。

(5)人材育成や人材開発につなげられる

ジョブ型雇用は採用だけでなく、内部人材の育成やリーダー候補の育成にも活用できます。職務記述書内で求める役割や責任範囲を明確にすることで、従業員の行動変革や理念浸透につなげられます。どのような成果や行動が評価されるのかという評価基準を明確にすることで、動機づけにもなるでしょう。

デメリット

ジョブ型雇用にもデメリットはあります。こちらも5つご紹介します。

(1)会社都合の転勤や異動がしにくい

職務記述書では勤務地なども含め職務内容を明確に決めるため、一方的な会社都合による転勤や異動がしにくいというデメリットも。メンバーシップ型雇用では、転勤や異動は会社の都合でほぼ自由に行えましたが、ジョブ型では難しくなります。職務記述書に記載のない業務に従事させる場合は、従業員がその内容に合意し契約を更新しなければなりません。

(2)優秀な人材の転職リスクが高まる

ジョブ型雇用を導入することで、優秀な人材が他社に転職するリスクが高まるケースもあります。ジョブ型雇用の場合、求職者は職務内容や報酬に魅力を感じ応募します。もし他社が今より魅力的な報酬であったり、現在の職場環境に不満があったりする場合は、優秀な人材であればあるほど機会も豊富なため、流出するリスクが高まるでしょう。

(3)報酬に競争力がないと採用がしにくい

上述した内容と少し似ていますが、いかに詳細に職務記述書を定義したとしても、報酬に求人市場での競争力がないと人材確保は難しいでしょう。スキルや経験のある有能な人材は、当然ながら市場価値も高くなります。

だからといって、自社の他職種とあまりにもかけ離れた給与水準にしてしまうと、チームでの業務遂行に支障が生じるかもしれません。報酬相場を意識しながら、慎重に採用戦略を練る必要があるといえます。

(4)多能工人材を育成しにくい

ジョブ型雇用では基本的に職務記述書に記載された業務以外は行わないため、多能工(マルチスキル)人材を育成しにくいデメリットがあります。中小企業やベンチャー企業では、複数業務の兼務や、業務そのものが変わることも珍しいことではありません。

大きく業務が変わったり、追加されたりする場合はそのたびに職務記述書を更新し、合意形成する必要があるため手間もかかってしまいます。

(5)合意形成をきちんと行わないとトラブルにつながる

これまで述べたように、ジョブ型雇用では労使間で職務記述書にもとづく合意形成をきちんと行うことが前提。職務内容に大きな変更があれば、都度契約を更新する必要がありますし、口頭だけで書面化されていない条件や業務などがあると、後でトラブルにつながることもあります。運用には十分な注意が必要でしょう。

ジョブ型雇用の導入事例

新型コロナウイルスをきっかけに本格的にジョブ型雇用へ舵を切った企業や、以前から取り組み、成功している企業などがあります。ここでは3つの事例をご紹介します。

日立製作所

2020年7月、株式会社日立製作所は翌年春に国内15万人の全従業員に、ジョブ型雇用を導入すると発表しました。2021年3月までに全職種の職務記述書を作成し、2024年までに従業員が必要なスキルを身につける機会を提供するとしています。

同社は2016年から働き方改革を推進。新型コロナウイルスの影響を受け、ニューノーマル時代に持続可能な在宅勤務態勢を確保するため、大がかりな変革に着手しており、今後の動向に注目が集まっています。

富士通

2020年4月に富士通株式会社は幹部社員約1万5,000人を対象に、ジョブ型雇用制度を導入すると発表。同社ではグローバルレベルで統一された「FUJITSU Level」という基準を設け、報酬へ反映しています。

カゴメ

カゴメ株式会社は2013年から、世界中の従業員の自発的キャリア形成を促すテーラーメイド型の人事制度である「グローバル人事制度」の仕組みづくりに着手しています。2014年には職務の大きさと市場価値に配慮した「グローバル・ジョブ・グレード」を役員の人事制度に導入。

2015年には同制度を課長職にまで拡大し、年功序列型から職務等級制度(ジョブ型)への移行を推進しています。

日本でジョブ型雇用は定着するのか

withコロナでジョブ型雇用への関心は高まっており、大手企業をはじめ導入する企業も増加しています。日本でジョブ型雇用は浸透し定着するのでしょうか? 今までメンバーシップ型が中心だった日本の場合、定着までには3つの壁があります。

職務記述書の壁

ひとつめは、職務記述書の壁です。メンバーシップ型雇用では、総合職として新卒一括採用を行うため、明確な業務内容を定義していない企業が多く存在します。その場合、あらためて業務の定義からスタートする必要があります。全社導入となるとあらゆる職務を詳細に定義しなければならず、膨大な工数がかかる可能性があるでしょう。

新卒採用の壁

もうひとつは新卒採用の壁です。日本企業には新卒一括採用、総合職エントリーの文化が大手企業を中心に採用慣習として存在します。ジョブ型雇用の浸透にともない、通年採用も増加する可能性がありますが、採用担当者の負担増加を考えるとすぐに移行することは難しいでしょう。

学生側も定義された職務記述書に対応するため、将来のキャリアを見据えた準備に早くから取り組む必要が生じます。採用業務の効率化だけでなく、学校教育のあり方までも含めた抜本的な改革が必要といえます。

解雇規制の壁

最後は解雇規制の壁です。欧米で浸透しているジョブ型雇用は、定義された業務が必要でなくなったり、成果が不十分だったりすると従業員は解雇されます。しかし日本ではすでに雇用されている人の多くが終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用。

安定した雇用環境から、解雇規制の緩和も想定されるジョブ型雇用へ移行する際には、労働組合をはじめとした従業員との十分な対話も必要となるでしょう。

ジョブ型雇用を取り入れる際に留意すべきこと

企業が新たにジョブ型雇用を取り入れる際に、留意すべきこととはどのようなことでしょうか?

「ジョブ型雇用ありき」で考えないこと

ジョブ型雇用ありきで考えないことは重要でしょう。ジョブ型雇用にはメリットもあれば、デメリットもあります。基本的にジョブ型雇用では職務記述書に詳細な条件を記述し、従業員と契約を結びます。業務を明確に限定できない、近い将来変更する可能性が高い職種や企業の場合、ジョブ型は向いていません。

事例でご紹介したように、職務やポジションを限定するなど、トライアルを行いながら導入するのがよいでしょう。

求める役わりとともに評価基準も明確にする

職務記述書を作成する際、求める役割はもちろんですが、どうすれば評価されるかという基準も明確にしておきましょう。評価基準を明確にすれば、従業員の動機づけになり成長にもつなげられます。

反対に評価基準があいまいで従業員の納得感を得られない場合、人材流出の危険性が高まります。当然ですが「気が利かない」など職務記述書にない主観的な理由で、安易に評価を下げることは厳禁です。

機会を提供する

従業員に成長する機会を与えることはジョブ型雇用になっても重要です。ジョブ型雇用は基本的に従業員の自発的な成長とキャリア形成が前提。しかしその実現には、企業側の支援も必要になります。

たとえばテレワークなどの労働環境整備、職務やプロジェクトへの公募制度や、再雇用制度などが挙げられます。従業員にきちんと機会を提供することで、エンゲージメント向上にもつなげられるでしょう。

ワークエンゲージメント向上に取り組む

ジョブ型雇用を推進するならば、企業はよりいっそうワークエンゲージメントの向上に取り組むべきでしょう。報酬額が同程度で「働きがい」のある企業が他にあれば、従業員が自社にとどまる理由はありません。

エンゲージメント向上は生産性向上にもつながりますが、労働市場での自社競争力といった観点からも重要でしょう。ジョブ型雇用だけにフォーカスするのではなく、その他の人事制度改革も視野に入れて、導入を検討するとよいでしょう。

まとめ

新型コロナウイルスは私たちの暮らしを大きく変えました。テレワークはニューノーマルとして定着する可能性を秘めています。柔軟な働き方に対し、企業は従業員の自発的な成長を促し、ワークエンゲージメントを高めるために、雇用のあり方を見直す必要に迫られています。そのなかで中心的な役割を発揮するのは、いうまでもなく人事部門です。ジョブ型雇用はあくまで従業員と企業の成長を促すための手段のひとつ。幅広い視野で、自社にあった雇用のスタイルを構築していきましょう。

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