新型コロナウイルスの感染が拡大する以前から、全社で勤務する社員が一斉にリモートワークを行う「リモートワークデー」を月に1度ほど設けるなど、積極的にリモートワークを推進してきた株式会社リコー。コロナ禍においては、全従業員は原則在宅勤務と定めていますが、生産性、はたらく歓び、ワークライフ・マネジメントなどの面において、リモートワークのプラス面の効果を感じているといいます。
なぜ円滑なリモートワーク推進が可能だったのでしょうか。また、在宅勤務が長期間続くなかで、チームのモチベーションを上げるためにマネジメントをどう工夫しているのでしょうか。リコー人事本部人事部ダイバーシティ推進グループの長瀬琢也氏に話を聞きました。
人事に関するお役立ち情報をお送りいたします。
メールマガジン登録
コロナ禍のなか、首都圏で出社率7%を実現
2020年2月末、新型コロナウイルス感染拡大防止策として全国の小中学校、高校の臨時休校が決定した際、いち早く「原則在宅勤務」に踏み切ったリコー。その後、首都圏のオフィスにおける出社率を7%に抑制するなど、リモートワーク推進の先進企業として知られるようになりました。
同社が最初にリモートワーク制度を導入したのは2016年4月。導入当初は、育児や介護を担っている人や外出で直行・直帰が多い人など、効果がありそうな対象者を限定してスタートさせました。そのときのリモートワーク利用者は、社員約8,000人のうち200人程度。さらに翌年に就任した新社長が旗振り役となり、組織を横断した「働き方変革を推進するプロジェクト」が本格化していきます。
2017年の1年間は制度の検討や社内周知に時間をかけ、その後リモートワーク対象者以外のニーズも高まったことで2018年からは全社員がリモートワーク制度を利用できるようになり、コロナ禍以前には約6,000人が利用するまでになりました。
どのようにリモートワークを浸透させたのか
- 1トップやマネージャーからメッセージを発信
- トップダウンで推進することが、社員の意識と組織風土の変革に必要不可欠と考えた同社は、社長自らビデオメッセージによる発信を行いました。今回のコロナ禍においても、「自分もリモートワーク中です」と当事者視点で語り、仕事の生産性における心配の声に対しては「私は社員の皆さんを信頼しています」と励ましたといいます。
- そのほか、マネージャー層に対するワークショップでリモートワークの理解を深める内容を含めて説明。また、部門長自ら働き方を変える実践者になることを部門員に宣言する「クールボス宣言」を取り入れました。「自分もリモートワークをするので会議はオンラインでOK。会議の資料は1枚でコンパクトに」など、部門長が部下に自分の働き方を示すことでチームの意識改革に努めたといいます。
- 2実践することによる課題の把握
- 一斉にリモートワークを行う「リモートワークデー」や「本社クローズ日」などのイベントを定期的に実施するなど、多くの社員が実践する機会をつくったことで、リモートワークの理解者が増えたと話す長瀬氏。「初めはリモートワークに否定的だったマネージャーも、部下が普段と変わらない成果を出してくれたことで、『全然問題ない』と理解者に回ってくれました」
- 長瀬氏は、「実践者が増えたことで、やってみないとわからないことや、やってみないと気づけなかったことなど、課題が徐々に浮き彫りになったのも良かった点です」と振り返ります。「おかげで今回のコロナ禍においても、紙の請求書の処理方法や出社人数の把握などの課題も想定できていたので、うまく対処することができました。
- また当社ではフレックスタイム制度を採用し、必ず勤務するコアタイムを設けていますが、時差通勤による勤務時間の変動を認めたり、子育てや介護に対応する社員のためにコアタイム内の中抜け時間を承諾したりと、従業員の声を聞いて柔軟に対応しています」
- 3コミュニケーション方法を改善
- 部下の仕事を現場でフォローできないことや進捗状況が把握しづらいというリモートワークのコミュニケーション上のデメリットも感じていました。以前から上司と部下での「1on1ミーティング」を取り入れ、悩みなどを気軽に話せる場を設けていた同社。「1on1ミーティング」は、社員の心理的安全性の向上や、モチベーション向上に寄与することがわかっており、リモートワーク中にもその機会を積極的に確保しているそうです。
- 「人事部では各部門に対し、週1回の『1on1ミーティング』を推奨しています。各部門でもオンラインで朝礼や終礼、ランチ会などを工夫しながら実施し、なるべく意識的にコミュニケーションの時間をつくるように心がけています」(長瀬氏)
- 4リモートワークにも左右されない評価制度へ
- 期初に立てた目標に対して、成果やプロセスがどうだったかを評価する制度であるため、リモートワークが中心になったとしても制度の変更はしていません。ただし、リモートワークが長期化すると「評価の材料となる仕事の成果やそこに至るまでのプロセスが見えにくくなる」ということはあり得ます。それに対しては「日々のコミュニケーションや情報共有を以前に増して図っていくことが必要」と長瀬氏は指摘し、オンライン会議ツールやチャットを利用した気軽で密なコミュニケーションが重要になっていると語ります。
- 5全従業員が区別なく同じ条件で働く
- オリンピック期間中の対応としてコロナ以前に一斉リモートワーク「リモートワークデー」を実施したときに、「出社している派遣社員がいるため、出社している社員がいる」という実態が明らかになったといいます。そこで、派遣会社各社と覚書を結び、派遣社員も社員と同じようにリモートワークができるように環境を整備したそうです。このような事前準備が功を奏し、コロナ禍においても、スムーズにリモートワークに移行できました。社員も派遣社員も不安が解消でき、イキイキと働けるようになったといいます。
数値目標よりも「働き方が良くなっているか」
着実にリモートワーク制度を拡大してきたリコーですが、驚くことにリモートワーク利用者数や出社率の達成などの数値には重きを置いていないといいます。「それよりも社員の働き方が良くなっているかが重要です」と長瀬氏は強調します。
「リモートワークは『時間と場所にとらわれない働き方』を実現するための手段だと考えています。これはリコーの働き方変革の一環として、リモートワークを制度として本格的に導入することに決まった際に掲げたコンセプトです」(長瀬氏)
また同社では2036年に向けて、「“はたらく”に歓びを」というビジョンを掲げ、「働きがい改革」の周知や達成にも尽力しているそうです。つまり、会社のコンセプトやビジョンの目的を達成する手段として「リモートワーク」を推進してきたことが、社員の意識を変えて社内の風土も変えていき、浸透も進みました。加えて、長瀬氏は「リモートワークを経験した社員が生産性を落とさずに働いてくれたこと」が、リモートワークへの理解者が増えていった理由だと語っています。
リモートワーク推進の一歩先を見据えて
「これからは今の働き方がベースとなり、元の働き方に後戻りすることはないでしょう」と話す長瀬氏。ニューノーマル時代の働き方に備え、リモートワークやフレックスタイムの見直しを含めたより柔軟な働き方を目指し、就業規則の改定を進めている最中だといいます。
そのなかで同社は、コロナ禍の7月に従業員アンケートを実施。「生産性」「仕事と生活の調和」「健康・睡眠」「はたらく歓び」がどう変化したかを分析したといいます。生産性は8割の方が向上したか変わらないと回答するなど、ポジティブな結果も多く挙がりました。
一方で、課題として見えてきたのが、リモートワークの期間が長くなったことで、「通勤や移動時間が減り、運動量が落ちた」「オンオフの切り替えが難しい」といったことでした。
社内のイントラネットで全従業員に向けてエクササイズ動画を配信したり、メンタルケアの情報を掲載したり、在宅勤務中の工夫や悩みを共有するサイトを構築するなど、さまざまな取り組みをしており、今後も課題に対して改善を続けていくといいます。このようにリコーではトップダウンでの推進だけではなく、各部門と連携を図りながら働き方における課題を見つけ、改善し、組織の成長につなげています。
弊社では、人事関連のお役立ち情報を定期的に更新しております。
メールマガジンにご登録いただくと、労働法制や人事トレンドなどの最新お役立ち情報をチェックいただけます。