国内の外国人労働者数は過去最高を更新しています。人手不足が深刻化するなかで、企業にとって外国人材の活用、そして関連する労働法制や制度について正しく理解することがますます重要な課題となるでしょう。
本記事では、弁護士の福井大地氏が、外国人雇用の最新状況、および在留資格や関連する制度について、わかりやすく解説していきます。
人事に関するお役立ち情報をお送りいたします。
メールマガジン登録
Ⅰ 外国人雇用の状況
厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)」によれば、令和5年10月末時点での外国人労働者数は2,048,675人であり、前年比で225,950人増加し、過去最高を更新しています。また、同時点での外国人を雇用する事業所は318,775所であり、前年比で19,985所増加し、こちらも過去最高を更新しています。在留資格別にみると、特に「専門的・技術的分野の在留資格」や、「技能実習」が増加しています。
労働力不足に陥る我が国において、外国人雇用は今後も増加し続けることが予想されます。そのため、労働関係の法令、出入国管理、および難民認定法(以下「入管法」といいます)なども踏まえ、適切な対応を理解しておく必要があります。
Ⅱ 在留資格について
そもそも在留資格とは、入管法に基づき外国人が日本に在留することが認められる資格であって、在留中に行う活動や、その有する身分・地位に応じて類型化されています
外国人は、在留資格を有さなければ日本に在留できず、また在留資格を有する外国人も当該在留資格の範囲外の活動はできません。
在留資格は29種類あり、活動内容に応じた在留資格と、身分・地位に応じた在留資格に大別されます。後者においては活動内容に制限がないのに対し、前者においては制限があり、就労の可否・範囲は各在留資格によります。
また、在留資格には在留期間があり、在留期間経過後も在留するには更新手続が必要です。
以上の在留資格との関係において、事業主としては不法就労助長罪(入管法73条の2)に留意する必要があります。すなわち、在留資格を有しない者(在留期間が経過した場合も含みます)、または当該活動について在留資格の範囲外である者について、事業活動に関し就労させた場合には、不法就労助長罪が成立し得ます。その刑罰としては、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科するものとされています。
ゆえに、外国人を雇用する場合には、在留カードなどにより当該外国人の在留資格の有無と、その内容が当該事業活動に関し就労可能な在留資格であるかどうかを確認しておく必要があります。仮に、当該外国人が当該事業活動に関し就労可能な在留資格を有しない場合に就労を可能とするには、在留資格変更許可を受ける必要があります。
Ⅲ 外国人技能実習制度・特定技能制度について
- 1外国人技能実習制度
-
外国人技能実習制度とは、人材育成を通じた開発途上地域などへの技能、技術または知識の移転による国際協力を推進することを目的とする制度です(外国人技能実習法1条)。入管法上の「技能実習」の在留資格に基づき技能実習の活動が行われます。
技能実習は、第1号技能実習として1年間の実習が実施され、次に第2号技能実習として2年間の実習が実施され得ます。また、第2号技能実習の修了後、第3号技能実習として、監理団体および実習実施者が優良基準に適していると認めるなど一定の要件の下、さらに2年間の実習が実施され得ます。
第1号技能実習の対象職種については制限がないのに対し、第2号技能実習、第3号技能実習の対象職種については特定の職種に限定されています。
- 2特定技能制度
-
平成30年の入管法改正により、「特定技能」の在留資格が設けられています。特定技能制度は、国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とする制度です。前述の外国人技能実習制度が国際協力の推進を目的としており、労働力の需給の調整手段として行われてはならないものとされている(外国人技能実習法3条)こととは対照的に、特定技能制度は、労働力確保それ自体を目的としている点が特徴的です。
特定技能1号は、特定の産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事することを認める在留資格です。日本語試験・技能試験に合格するか、第2号技能実習を良好に修了することにより取得し得ます。
特定技能2号は、特定の産業分野で熟練した技能を要する業務に従事するための在留資格です。特定技能1号よりも取得要件が厳格であるため、令和6年6月末時点において特定技能2号在留外国人の総数は153人と公表されています。
Ⅳ 雇用管理について
外国人の雇用に関し、労働総合施策法は、外国人が我が国の雇用慣行に関する知識および求職活動に必要な雇用に関する情報を十分に有していないことなどをかんがみ、雇用管理の改善などの努力義務を課しています(7条)。
また、同条に基づき事業主が講ずべき必要な措置について、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号、以下「外国人雇用管理指針」といいます)を定めています。
同指針も踏まえ、雇用管理について注意すべき点を解説します。
- 1募集・採用
-
外国人労働者に限らず一般に、事業主は、労働者を募集・採用するに際し、労働者に対し、書面の交付などの方法により一定の労働条件を明示する義務があります(職業安定法5条の3、労働基準法15条)。
同明示について、外国人雇用管理指針上、外国人に対しては母国語その他の当該外国人が使用する言語または平易な日本語を用いるなど、当該外国人が理解できる方法により明示するよう努めることを求めています。
厚生労働省のホームページには、8言語の外国人労働者向けモデル労働条件通知書のひな型が公開されており、参考になるでしょう。
また、就業規則については、一般にその内容が労働契約の内容となるためには「周知」(労働契約法7条)が必要であるところ、外国人労働者の日本語能力において理解でない状況では、「周知」がなされていないと評価されるおそれがあります。
そのため、母国語訳を作成、または母国語や平易な日本語による解説を説明するなど、外国人労働者に理解させるための措置を講ずることが望まれます。
- 2均等待遇
-
労働基準法上、「使用者は、労働者の国籍…を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」として国籍に基づく均等待遇を求めており、ここにいう「労働条件」には解雇も含まれると解されます(播磨造船事件・神戸地龍野支判・昭和38年9月19日・労民集14巻5号1181頁など)。
そのため、外国人であることを理由として賃金を少額とすることや、賞与を支給しないなどの措置は、同条の均等待遇の原則に反します。また、日本語能力の不足を理由とする解雇についても、雇用契約の締結の際に前提としていた日本語能力次第では、均等待遇原則、または労働契約法16条の解雇権濫用法理により無効なる場合があるため注意が必要です。
- 3外国人労働者の雇用状況の届出
-
事業主は、新たに外国人労働者を雇い入れた場合またはその雇用する外国人労働者が離職した場合には、その氏名、在留資格などの一定の事項を当該事業主の事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に届け出ること(労働総合施策法28条1項)が義務付けられています。届出を怠ったり、虚偽の届出を行った場合には、30万円以下の罰金の対象となるため、注意する必要があります。
Profile
同志社大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。2022年東京弁護士会所属。
主な著書(共著)に「2024年版 年間労働判例命令要旨集」(労務行政研究所/2024)、「2023年版 年間労働判例命令要旨集」(労務行政研究所/2023)、「ハラスメント対応の実務必携Q&A─多様なハラスメントの法規制から紛争解決まで─」(民事法研究会/2023)、「労災の法律相談〔改訂版〕」(青林書院/2023)などがある。