【弁護士が解説】労働法制・コンプライアンス 最前線
第6回 2025年に向けて対応すべき人事関連の法的課題

来る2025年、労働者や、労働者の多様化する働き方を守るためのいくつもの法改正が予定されています。今回は、弁護士 岩出誠氏が、2025年以降の法改正のポイントを解説します。企業のご担当者はこれらの動向に十分留意し、是非法令遵守体制の参考にしてください。

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Ⅰ 2025年に施行が予定されている人事関連の法令

2025年に施行が予定されている法令改正を理解したうえで、法令改正に対応する就業規則などの整備をする必要があります。

1育児・介護休業法等改正 (2025年4月1日・10月1日施行予定)
育児・介護休業および次世代育成支援対策推進法の改正は、2025年4月1日と同年10月1日の2回に分けて施行されます。より多様なライフスタイルに合わせ、休業の対象や柔軟性を改善する改正です。
  1. (1)
    2025年4月1日施行分として下記事項があります。
    1. 残業免除の対象範囲拡大 ― 3歳以上小学校就学前の子も対象に
    2. 子の看護等休暇の拡大 ― 行事参加などの場合も取得可能に
    3. 育児休業取得状況の公表の義務化 ― 従業員数300人超の企業が対象に
    4. 介護離職防止のための個別の周知・意向確認、情報提供、雇用環境整備等の措置。
  2. (2)
    2025年10月1日施行分として下記事項があります。
    1. 育児期の働き方の柔軟化措置および個別の周知・意向確認義務の新設に
    2. 妊娠・出産の申し出に対する、仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮の義務化
2高年齢者雇用安定法の経過措置終了 (2025年3月31日施行予定)
まず前提として、高年齢者雇用安定法に基づき、事業主が高年齢者雇用確保措置として継続雇用制度を導入する場合は、原則として希望者全員を対象としなければなりません。

しかし、例外的に、2013年3月31日までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主については、経過措置として対象者の限定が認められていました。この例外的な経過措置が2025年3月31日で終了するという点が今回の法改正です。したがって2025年4月1日以降は、例外なく希望者全員を継続雇用制度の対象としなければなりません。
3雇用保険法等改正 ‐制度拡充と見直し (2025年4月1日・10月1日施行予定)
雇用保険法および子ども・子育て支援法の改正により、雇用保険制度の見直しが行われ、2025年4月1日と同年10月1日の2回に分けて、以下の改正が施行されます。教育訓練やリスキリング支援の充実、出産後・育児時の給付の創設など、労働者を支援し守るための制度設計の見直しがされました。一方、安定的な財政運営を担保するため、一部保険料率の引き上げの法改正も施行される予定です。
  1. (1)
    2025年4月1日施行分として下記事項があります。
    1. 自己都合退職者が、教育訓練等を自ら受けた場合の失業給付制限解除
    2. 就業促進手当の見直し (就業手当の廃止および就業促進定着手当の給付上限引下げ)
    3. 育児休業給付に係る保険料率引上げ(0.4%→0.5%)および保険財政の状況に応じて保険料率引下げ(0.5%→0.4%)を可能とする弾力的な仕組みの導入
    4. 教育訓練支援給付金の給付率引下げ(基本手当の80%→60%)および当該暫定措置の令和8年度末までの継続
    5. 雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付の暫定措置の令和8年度末までの継続
    6. 「出生後休業支援給付」・「育児時短就業給付」の創設
    7. 子ども・子育て支援特別会計の創設
    8. 高年齢雇用継続給付の給付率引下げ(15%→10%)
  2. (2)
    2025年10月1日施行分として下記事項があります。

    教育訓練休暇給付金の創設

  3. (3)
    2028年10月1日施行分として下記事項があります。

    雇用保険の適用拡大(週所定労働時間「20時間以上」→「10時間以上」)

4障害者雇用促進法改正による雇用義務の強化
2025年4月1日から、改正後の障害者雇用促進法が施行され、企業に対して障害者の雇用促進に関する義務がさらに強化されます。この改正により、一部の業種で適用されていた障害者雇用の除外率が、各除外率設定業種ごとにそれぞれ10ポイント引き下げられます。

即ち、これまで義務の対象外だった企業でも、一定の障害者雇用が必要となる可能性があります。
5改正労安法による退避や立入禁止等の措置
改正安衛法により、2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止などの措置について、 以下の①、②を対象とする保護措置が義務付けられます。
  1. 危険箇所などで作業に従事する労働者以外の人
  2. 危険箇所などで行う作業の一部を請け負わせる一人親方など
  3. 労安法に基づく省令改正により、作業を請け負わせる一人親方などや、同じ場所で作業を行う労働者以外の人に対しても、労働者と同等の保護が図られるよう、必要な措置を実施することが事業者に義務付けられます。即ち、労安衛法20条、21条および25条、25条の2に関して定められている省令で、 作業場所に起因する危険性に対処するもの(退避、危険箇所への立入禁止など、火気使用禁止、悪天候時の作業禁止)について事業者が実施する措置が対象です。

法令改正などの主な内容は以下の事項です。

  1. (1)
    危険箇所などにおいて事業者が行う退避や立入禁止などの措置の対象範囲 を、作業場で何らかの作業に従事する全ての者に拡大

    危険箇所等で作業を行う場合に、事業者が行う以下の措置については、同じ作業場所にいる労働者以外の人(一人親方や他社の労働者、資材搬入業者、警備員など、契約関係は問わない)も対象にすることが義務付けられます。

  2. (2)
    危険箇所等で行う作業の一部を請け負わせる一人親方等に対する周知 の義務化

    危険箇所等で行う作業の一部を請負人(一人親方、下請業者)に行わせる場合には、以下 の措置が義務づけられます。
    立入禁止とする必要があるような危険箇所等において、例外的に作業を行わせるために労 働者に保護具等を使用させる義務がある場合には、請負人(一人親方、下請業者)に対しても保護具等を使用する必要がある旨を周知すること

    なお、厚労省は、「今回の改正で請負人への保護具等の使用に係る周知が義務付けられるのは、立入禁止とする必要があるような危険箇所で例外的に作業を行わせる場面に限られますが、それ以外の場面であっても、 ① 作業に応じた適切な保護具等を労働者に使用させることが義務付けられている場面 ② 特定の作業手順や作業方法によって作業を行わせることが義務付けられている場面 については、事業者が作業の一部を請け負わせた請負人に対して、保護具等の使用が必要である旨や、特定の作業手順、作業方法によらなければならない旨を周知することが推奨されます。」と指摘しています。

参考・出典:厚生労働省「事業者・一人親方の皆さまへ」

Ⅱ 2025年に新たに立法が検討されている人事関連の法令

1ハラスメント法制の対象拡充と強化
厚生労働省は、かねて、労働政策審議会雇用環境・均等分科会での審議の中で、令和6年8月8日「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書 ~女性をはじめとする全ての労働者が安心して活躍できる就業環境の整備に向けて~」でカスハラ対策の強化を目指すことを明言していましたが、さらに進んで、職場でのハラスメント(嫌がらせ)根絶に向け、法改正する検討に入っているようです。
「企業に対策を義務付けているセクハラパワハラなど4類型を含め、全てのハラスメントが「許されない」との理念を労働施策総合推進法に明記する方向で、社会的な機運醸成につなげるのが狙いで、具体的な義務や罰則は設けない見通しです。近年、4類型に当てはまらないハラスメントが問題化するケースが相次ぐ。防止を強化するため基本的な理念を明確化する必要があると判断し、2025年の通常国会に法改正案の提出を目指しています。念頭に置くのは4類型に加え、顧客が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)や、就職活動中の学生に対するセクハラなど。推進法に「ハラスメント全般は許されるものではない」との趣旨を書き込む見込みだ。」

引用:共同通信 「【独自】ハラスメント根絶へ法改正 「許されない」と理念、明記検討」

2労安法の保護対象の拡大と内容強化
厚生労働省は、以下の内容を含んだ労働安全衛生法、関係労安規則などの改正を2025年に改正する意向を示している。
  1. フリーランスが業務で死亡または4日以上休業するけがをした場合、発注者などに労働基準監督署への報告を義務づけ
  2. 職場のストレスチェックを労働者50人未満の企業にも義務づけ
  3. 高齢者に配慮した作業環境の整備を企業の努力義務に
  4. 一般健康診断の問診票に女性特有の健康課題に関する質問を追加
  5. 病気の治療と仕事の両立を支援する措置を企業の努力義務に

参考・出典:厚生労働省「今後の労働安全衛生対策について(報告)(案)」

Ⅲ 今後の労働法制の予測

厚生労働省は既に、令和6年1月23日以来15回の研究会を開催し、11月11日には「労働基準関係法制研究会 (議論のたたき台)」も公表。2024年内に報告書が出されようとしています。そこでは、「テレワークなどの在宅勤務と出社を組み合わせて働く人向けに、在宅の日に限ったフレックスタイム制の導入を盛りこんだ。在宅で働く日に育児や介護で中抜けしたり、始業や終業時刻をずらしたりしやすくなる。」などの改正検討項目を提示して審議しており、早ければ2026年の労基法改正が見込まれており、その動きを注視して行く必要があります。

参考・出典:日経新聞WEB版(2024年11月13日)

Profile

弁護士・東京都立大学法科大学院非常勤講師 岩出 誠写真
岩出 誠氏
弁護士・東京都立大学法科大学院非常勤講師

<著者略歴>千葉大学人文学部法経学科卒業、東京大学大学院法学政治研究科修了、厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会公益代表委員、青山学院大学客員教授、千葉大学客員教授、明治学院大学客員教授を歴任、東京都立大学法科大学院非常勤講師、弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所代表パートナー(現任)
<著作等> 「労働法実務大系」第2版〔民事法研究会〕等著作・論文多数

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