予測できない変化の中でも新たな挑戦を果敢に続ける、若手~中堅人事を紹介するシリーズ「次代を担う人事たち」。今回は、オイシックス・ラ・大地株式会社の三浦孝文氏に登場いただきます。
1,700名を超える人事がフォローするコミュニティ「人事ごった煮会」の発起人として、社外からも多くの注目を集めている三浦氏。しかしそうした社外活動も、あくまで「所属している会社に還元すること」こそが目的だと語ります。
「経営に資する人事」に向けて試行錯誤を続ける三浦氏は、社員の活躍環境を進化させるために、そして会社の成長を実現させるために、何を考え実行しているのでしょうか。
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「世の中の役に立つ良いサービス」が、転職の軸に
――まずは、三浦さんのご経歴について伺っていきたいと思います。新卒で人事の部署に配属され、そこからクックパッドに転職されるまでの経緯を聞かせていただけないでしょうか。
三浦氏 NTTドコモと電通のジョイントベンチャーであるD2Cというモバイルインターネット広告会社に就職して、新卒としては初めて人事に配属されました。D2Cは4年半在籍していたのですが、最後の半年はメディア事業部に異動して、媒体の広告枠を代理店に販売していました。
そこで、日々いろいろなインターネットサービスを見たり、知ったりするうちに、「世の中に役立つ良いサービスって何だろう」と考えるようになったのです。そんな時、社外活動で知り合ってお世話になっていた人事の方から「クックパッドが人事を募集している」と聞いて、話を聞いているうちにユーザーファーストのカルチャーに惹かれて転職をすることにしました。
――社外活動とは、どのようなことをされていたのですか。
三浦氏 当時、ベンチャー企業の若手人事が集まって、勉強会やイベントを企画していました。D2Cで働いていた当時はベンチャー企業への就職は学生にとって一般的な選択肢ではありませんでした。各社採用に課題を抱える中で、「1社1社見てもらうよりも、ベンチャー企業全体で見てもらったらどうか」と考えて、50社くらいが出展する学生向けイベントを人事たち自ら企画・運営し、かなり濃密な活動をしていました
――その後、クックパッドからオイシックス(転職当時)に移られますが、どんな魅力を感じたのですか。
三浦氏 クックパッドの経営が大きな変化を経た後に退職を決めたのですが、「世の中に役立つサービスに携わる」ということは、転職の軸として明確にありました。
当初はインターネット領域のサービスを中心に考えていたのですが、色々な会社を見ていくなかで、オイシックスに話を聞きに行く機会があり、そこで初めて「リアルに扱うモノがあるって面白いな」と思ったんです。
当社は生鮮食品を中心に扱うビジネスです。在庫がある中で需要と供給を一致させながら、いかに昨対120%、130%の成長を描くか。そうしたチャレンジを続ける自社に魅力を感じました。
常に会社の成長と世の中への価値還元を考え、組織や人や経営に向き合う
――現在、オイシックス・ラ・大地で人材企画室 室長というポジションに就かれていますが、どういうミッションを持っていらっしゃるのでしょうか
三浦氏 派遣・パート含む採用全般と、制度企画のチームを管掌しています。会社が掲げているビジョンに対して、働きがいを大切に社員の活躍環境を進化させ、新たな仲間を増やしていくことが、私のミッションです。
オイシックス・ラ・大地という会社には、自分自身のメインの役割はもちろんあるのですが、そこに限定されない動きや、社員の意思を歓迎するカルチャーがあります。ですから、当社は収益性の高い組織を実現していくことや、社員がエンゲージメント高く働きがいを持てる組織づくりといったことに紐づいていれば、何でも挑戦できるような環境ですね。
――2度の経営統合を経て、日々色々なことが起っていると思いますが、特に印象的な出来事を教えてください。
三浦氏 ターニングポイントになったのは、2019年10月に人材企画室の責任者となったことです。経営に資する人事としての役割を、よりシビアに求められるようになりました。
経営が期待していることは、「人員計画を立てて採用予算と人件費を確保し、毎年何人採用して、研修プログラムはこうで」、というルーティン化された“人事”の仕事ではなく、事業を成長させて収益性を高め、社員や組織の成長機会を提供することです。採用や研修というのは、あくまでそのための手段ということですね。
また、施策を実行するうえでは「基本的にはファクトがあって、それから仮説が導き出されて、だからこういう打ち手に落ちます」という思考プロセスが常に会社から求められています。ですから、少しでも経営状況や事業部、社員の状態を見ていないような発言をすると、経営陣からすぐに「今の発言、人事っぽいな」とストレートに言われてしまいます。
――「人事っぽい」という言葉が、ネガティブなニュアンスで使われるんですね。
三浦氏 採用ひとつとっても、その背景には事業部が解決したい課題や、期待効果があります。それを事業部に「人が足りないから何人欲しい」と言われるままに供給するのではなく、事業部の収益構造を見て、「今本当にここに人を入れるのが正しいのか」といったコミュニケーションを事業責任者と行います。
場合によっては組織構造を変えることを提案し、実際に採用をした後も、その人材が期待効果を出しているのかレビューします。このように、常に会社の成長、世の中への価値還元を考え、その上で組織や人や経営に向き合うのが、HRの役割だと考えています。
――「何のためのHRか」を常に考えて行動していらっしゃるのですね。
三浦氏 そうですね、まだまだ全然出来ておらず、経営や事業責任者側の期待に応えられているわけではありませんが、その軸だけはしっかり持って動くようにしています。だから、会社や事業のことを考えている、社員の人と積極的にコミュニケーションを取っているという文脈で「人事っぽくないですね」と言っていただけると、とても嬉しいですね。
独りよがりの人事施策にしないため、対話を重ねる
――経営の考えを、社内に浸透させていくこともHRの重要なミッションだと思います。何か具体的な施策を実施していらっしゃるのでしょうか。
三浦氏 オイシックス・ラ・大地が大切にしている7つの行動規範「ORDism」を体現した事例を取り上げ、毎週個人やチーム問わず2組前後表彰しています。また、その事例をインタビューして、社内ポータルや社内報、採用オウンドメディアに掲載したりして、より多くの社員が目につく機会を作り、社員が表彰されて嬉しいという状態をつくるように試行錯誤しています。
――現場からは、積極的に推薦があがってくるのでしょうか。
三浦氏 現場からも推薦はあがってきますが、こちらから事例を掘り起こしにいくことが多いです。数字が見えやすい部署や積極的に推薦を行う部署に固定化されてしまうと、表彰が形骸化しがちです。表には見えていないけれど、「ORDism」を日々体現している部署だったり、推薦を遠慮しているけれど実は素晴らしい行動をしていたり、掘り起こさなければ見えない事例がたくさんあるんですよね。それを見出して、大きな芽に育てていかなければ、社員の気持ちもついていかないと思います。
――お話しを伺っていると、「経営陣」「事業部=現場」「そこで働く社員」との対話を非常に大切にしている印象があります。
三浦氏 人事部って、いろいろな施策を実行しがちですよね。もちろん社員を思ってのことですが、現場の状況を知らずに行うと、「繁忙期なのに、なんで今なんだ」、「現場を全然分かっていない」と社員からの反発につながりかねませんし、今でもそういう声をもらってしまうことがあります。
そういった声を未然に防ぐためにも、対話を重視しています。対話は、現状をおさえるということ。そして現状から課題を抽出するということです。それがなければ、事業や組織、人の成長は成し得ないでしょう。また、現場だけではなく、経営企画との連携も大切にしています。
――過去に教訓となる出来事などがあったのでしょうか。
三浦氏 人事が現場の社員にアンケートを取った直後に、経営企画も同じようなアンケートを送ってしまうようなことがありました。現場からはもちろん、経営陣からも「縦割り」と言われ、その通りだなと。だからこそ、タテヨコナナメで意識して連携を取っています。
こう話すと、今はうまくいっているように聞こえますが、現場ははっきり言って良い意味でもカオスです(笑)。
オイシックスが大地を守る会、らでぃっしゅぼーやと経営統合し終え、様々な文化や事業が混ざり合うなか、次のステージに向けてあるべき事業や組織はどういうものか、そしてマネジメントとしていかにメンバーに成長機会を提供し、共に学べるか、施策の優先順位や費用対効果はどうか、すべてが過渡期、変革期にあります。
コロナ禍で浮き彫りになったマネジメントの課題
――組織として過渡期にあるなか、さらにコロナ禍という状況で、新たにHR領域で課題となったことはありましたか。
三浦氏 「コロナ禍だから」という課題はそれほど多くありません。当社では働くパパママが多いため、以前からリモートワークが出来る風土は浸透していました。ひとつ大きな課題を挙げるなら、入社後の活躍をつくっていくオンボーディングの部分ですね。ただ、これは分かりやすい課題ではあるため、解決策も考えやすいと思います。
また、マネジメントの課題も見えてきました。これはコロナ禍だからというよりは、コロナによって顕在化されただけだとも感じますが。今までは出社してお互いに阿吽の呼吸でやっていたことが、リモートが前提になることで、上司からの方針や目標など、Whyから正しくブレークダウンされてメンバーに落ちていないといったことがあり、正しいKPIの設計とは何かと議論が起こっていたりします。
――そういったマネジメントやコミュニケーションの課題に向けて、どのようなことをしていますか。
三浦氏 緊急事態宣言下では、毎週代表の高島からのビデオメッセージを配信していました。そしてメッセージを浸透させるために、社員総会や全社MTG、表彰もオンライン配信をしたり、そういった情報も社内報だけではなく社内モニターで動画を流したり、経営企画と連動したりと、有効なタッチポイントを探るために施策を網の目のように張り巡らせ、トライしています。
ただこれも、経営のメッセージをただ配信すればいい、情報を流せばいいというものではありません。ニューノーマル時代で社員が変わろうとしているなかで、HRが大量の情報を発信すれば負荷になってしまいます。そこで、なぜこの時間に発信するのか、どんな内容を、どのくらいのボリュームで伝えるのか。意図や意味を明確に持ち、社員とコミュニケーションをとる必要があります。常に考え続けること、試行錯誤を続けることだと思います。
社外活動で得たものは、会社に還元してこそ意味がある
――社外活動についても少し伺いたいのですが、三浦さんが発起人となって運営している「人事ごった煮会」について聞かせてください。
三浦氏 色々な企業の人事の方々と勉強会をしていたことがきっかけで、立ち上げたコミュニティです。いまは少し活動をペースダウンしていますが、以前は毎月1回実施し、現在は1,700人を超える人事の方々にフォローしていただいています。
「自社の課題解決に向き合う人にキッカケや繋がりをつくる」をミッションとして掲げ、人事における様々な課題をテーマにディスカッションを重ねてきました。ここで議論したことや聞いたことが、メンバーそれぞれの企業に還元されることで、初めてこのコミュニティの意義があると思います。
――当初から、そうした意義を考えていらっしゃったのですか。
三浦氏 もちろん、はじめは繋がること、コミュニティを作ることが目的でした。しかしこれは私も反省しているのですが、社外のコミュニティでいくらフォーカスされても、たとえばSNSでフォロワーがたくさんいたとしても、結局人事の仕事というのは、所属している会社のためのものです。ですから、外でいくら活動をしていたとしても、そこで得たものが会社に還元されていなければ意味がありません。その軸はぶれることなく持ち続けていきたいです。
――やはりここでも、行動の目的や意義を考えていらっしゃるのですね。
三浦氏 意外と打算的ですよね(笑)。こうしたメディアの取材はもちろんありがたいのですが、これを社内の人が見て「あんな立派なこと言ってるけど……」と、否定的に捉えられてしまったら、それで終わりです。
そうならないよう、自社に常に還元して、試行錯誤をしなければいけない。これは、当社に入る前から考えていることです。
1,000億円、3,000億円企業への成長を支える人事の姿とは――
――最後に、今後の目標について聞かせてください。
三浦氏 企業の成長フェーズが変わる中で、経営にひもづく人事が何に直面し、何を考えるべきか、そこが今一番関心のあるテーマです。当社は社員850名、従業員1,700名、2019年度の売上は710億円という規模で、そう遠くない未来に、1,000億円の売上を見据えています。その先、3,000億、5000億規模の組織に成長していく過程で、その規模や成長フェーズならではの組織の課題が出てくるはずです。
それは例えば、縦割り組織になりがちだったり、経営と社員との距離が遠くなったり、新しいサービスや事業が生まれにくくなったり、色々とあると思います。では、今までそのフェーズを経て成長してきた企業は、当時どんな仕掛けや施策を打って、事業成長を継続させたのか、興味が尽きません。
また、当社は平均年齢が40歳を超え、シニア世代も増えています。その中で、社員の次のチャレンジや、社外との関わりなどを、会社がどう支援すべきか。子育て中のパパママが、どう働きがいを感じられるようにするのか。過渡期のなかで、優先順位をつけながら、会社の成長を支えていきたいです。
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Profile
2010年、新卒でインターネット広告ベンチャー株式会社D2Cに入社。新卒で人事部に配属となり、中途採用、新卒採用を経験後、メディア事業部に異動。その後、クックパッド株式会社に転職し、採用全般、そして制度企画に携わる。2017年、当時のオイシックスに採用責任者として入社。大地を守る会、らでぃっしゅぼーやとの経営統合を人事として経験。2019年10月より、人事企画室の室長として、採用全般や入社後のオンボーディング、社員の働きがいに向けた制度企画などに携わる。カラビナテクノロジー株式会社 Peopleʼs Advisor、株式会社リクメディア顧問。