社内の意識改革・風土改革を重視したグラクソ・スミスクラインのテレワーク施策

GSK グラクソ・スミスクライン株式会社

コロナ禍以前から職場環境の改革に積極的に取り組み、その一環として全社的なテレワークの導入に取り組んできたグラクソ・スミスクライン。

同社は、働く人のマインドセットやエンゲージメントを重視したテレワークの運用により、社員の生産性や自律性の向上につなげています。

テレワークの運用で課題となる「人材育成」や「マネジメントにおける支援」のポイントなどについて、グラクソ・スミスクライン株式会社の人財本部、エンプロイヤー・ブランディングマネージャーの大類涼子氏にお話を聞きました。

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どこにいても自律的に働ける環境整備を推進

コロナ禍を機にテレワークの導入が進む一方で、社員のコミュニケーション機会の不足やエンゲージメントの低下など、さまざまな課題が浮上しています。テレワーク環境で社員一人ひとりの能力を発揮させ、組織の生産性向上につなげていくには、人事制度の見直しやIT環境の整備などのハード面に加えて、社内の意識改革や風土改革などソフト面での取り組みが重要になります。

グローバルヘルスケア企業であるグラクソ・スミスクライン(GSK)は、テレワークを推進するなかで、社員の自律性の育成や、管理職層のマネジメント力の強化などに力を入れ、着実に成果をあげてきました。

「弊社は、より多くの人々に『生きる喜びを、もっと』を届けることを企業の存在意義として掲げています。1人でも多くの患者様、消費者の皆様に生きる喜びをお届けするためには、まず社員がそれを感じるところから始める必要があります。
そこで、『Be you(自分らしく)』『Feel good(いきいきと)』『Keep growing(成長を実感しながら)』という3つの観点から、GSKのすべての社員がよりよく働ける職場環境を目指して、2018年頃からフレキシブルな働き方ができる勤務制度の整備や、一人ひとりがパフォーマンスを最大限にできるような企業風土づくりに積極的に取り組んできました」

職場改革に対する基本的な理念や考え方について、大類涼子氏はこのように説明します。

「フレキシブルワークキャンペーン」でお試し体験

同社は改革の一環として、テレワークを含めたフレキシブルな働き方を推進してきました。
19年4月にはテレワーク勤務日数の上限を従来の「月4回」から「週4回」に増やすなど、在宅勤務制度を大幅に強化。さらに19年7月には「フレキシブルワークキャンペーン」と題して、実際にオフィス以外の場所で働く日を設け、非正規を含めた本社勤務の社員を対象にテレワークの実証を行いました。

「テレワークを本格稼働していくには、社員が新しい働き方に前向きに適応できるよう、実践を通じた風土改革が重要だと考えたのです。
2020年に開催予定だったオリンピック期間は都心への通勤や勤務が難しくなる可能性がありましたので、BCP(事業継続計画)対策としても、出社せずに仕事が継続できることを実感してほしかった。実際、9割以上の社員が当日は本社以外の場所で働き、経営会議も初めてオールリモートで実施しました。
この経験のおかげで、インフラを含めどこにどんな課題があるのかを洗い出すことができ、結果、今回のコロナ禍でも比較的円滑にフルリモートワークにシフトできたのだと思います」

実際にテレワークをしてみると、例えば自宅でのオンライン会議中に小さなお子さんが近くを走り回ったり、ペットが画面内に登場して、会議が一時中断してしまうといったハプニングはよく起こるものです。

同社ではコロナ禍より前に全社的なテレワークの試験運用をしていたため、こうしたハプニングに対する寛容な機運が醸成されていたそうです。

また、ほかの社員が皆出社しているなかで、自分だけ在宅で仕事をすることに抵抗感を感じる人も少なくありません。

「全社員が一斉に参加するキャンペーンとしてテレワークする日を設定してくれたおかげで、安心して在宅勤務を取得できたという声は多かったです」

テレワーク下でも成果が高まる組織づくりのポイント

Point1経営陣による情報発信「too muchなぐらいがちょうどいい」

コロナ禍という特殊な環境においても、グラクソ・スミスクラインは企業として成果を上げ続け、また社員一人ひとりが成長し続けられることを目指してきたといいます。
とはいえ、感染症の世界的なパンデミックという非常に不安な社会情勢で、しかもテレワーク下でコミュニケーション機会が不足しがちになるなか、個人がモチベーションやエンゲージメントを維持していくのは簡単ではありません。

「そこで、まず取り組んだのが経営陣による情報発信の強化です。
経営陣が全社を対象に、ライブストリーミングを通じてさまざまなメッセージを発信するとともに、社員から寄せられた質問にもその都度答えていくという機会を、20年4月の緊急事態宣言下で週1回設けました。宣言の解除後も現在に至るまで2週間に1回は実施し、経営陣のメッセージをタイムリーに届けることにかなり注力しています」

また、経営トップがファシリテーターとなり、部門横断的に複数の社員がオンラインで参加する少人数の意見交換セッションを定期的に実施。これは以前から取り組んでいたものですが、コロナ禍の2020年には計42回も開催したといいます。
このほか、社内の危機管理部門が社内SNSやメールを活用して、タイムリーな情報提供を行うなど、多種多様な情報発信に力を入れてきました。

「経営陣とともに、『情報はtoo muchなぐらいがちょうどいい』を合い言葉に、とにかく届けられる情報はできる限りきちんと届けようと取り組んできました。そうして経営陣が、社員に対し約束したことはきちんと果たしていくという姿勢を示し続けたことは、前向きな社内風土を醸成していく上で非常に大きかったと思います」

Point2マネージャーによる支援が重要

同社は以前から、社員が成長し続けるため、マネージャーによる支援を重要な要素として位置づけてきたと大類氏は話します。

「弊社では従来、トップダウン型のマネジメントではなく、上司と部下が頻繁に対話し、お互いの同意や共感を重ねながらより良いパフォーマンスを発揮できるようなマネジメントを目指してきました。そのため、マネジメント層にはコーチングやフィードバックのようなスキルが求められますが、コロナ禍というこれまでにない就業環境で働く部下たちをサポートするためには、こうしたスキルがますます重要になっています。
そこでマネジメント層に対する研修プログラムについては、今まで以上に注力してきました。ここには、部下へのメンタルヘルスのケアなども含まれています」

Point3社員の「自律性」「チームの一員としての責任意識」を伸ばす

マネジメント層への研修を強化すると同時に、働く人一人ひとりが自分の働き方を最大化することを目指すよう、社員の自律性を支援するような研修にも積極的に取り組んできたと大類氏は強調します。

「マネージャーの役割が大切だと言いましたが、あくまで社員一人ひとりが自分の働き方を最大化することを目指すのが大前提。また組織として成長していくには、各々が独りよがりにならず、チームとしてパフォーマンスを発揮していく意識も大切です。社員一人ひとりの自律性や、チームの一員としての責任意識を伸ばしていことはとても重要で、コロナ以降はそれを重視した研修を強化しています」

Speak Up!自ら発信しよう!

同社では研修の場だけでなく、日常的な会議の場などでも自律性を育くめるような工夫を取り入れているといいます。

「2018年から、『Speak Up』というキーワードを掲げて自ら声を上げるカルチャーを推奨しています。
その一環として、各部署で情報共有をする週1回のミーティングの場で、社員が自分の成功体験や失敗から学んだことを発表しあう機会を持つことも実践しています。

人前で自分のことを発表するのは、最初は抵抗感があるものですが、そういう機会を積み重ねることで、次第にみんなが主体的に発言することに慣れていきました。
ファシリテーターやタイムキーパーなどの役割も持ち回りで担当するようにしており、主体的な役割認識や責任感のある行動の大切さについても実感できるようになりました」

同社では、こうした小さな部内会議だけでなく、全社会議の場でも社員が手を挙げて同様の発表をする時間を設けているそうですが、最近ではぜひ発表したいと希望する社員が多数いるため、発表者の調整が必要になる場面もしばしばみられると大類氏は言います。

「最初は全社会議で手を挙げる社員は、ほとんどいなかったんです。
でも社長が『誰かが手を挙げるまでゆっくり待ちますよ』などと声をかけて発表しやすい雰囲気を醸成して、発表する社員が少しずつ増えていきました。結果的に、自ら情報発信することの大切さを学ぶことができましたし、経営陣の働きかけにより企業のカルチャーが変わっていくことを実感できたのも大きかったと思います」

Performance with Choice(パフォーマンスを最大化できる働き方を実践していこう!)

なお感染症が拡大している局面では、業種や職種に関わらず、できる限り在宅環境で働くことが求められますが、将来的なウイズコロナ・アフターコロナの時代においては、全社員に一律で出社率抑制を課すような方法が良いとは限りません。

「職種や家庭環境などによって、パフォーマンスを最大限発揮できる働き方はそれぞれ違います。週2回は出社した方が良い人もいれば、完全な在宅勤務の方がパフォーマンスが出せるという人もいるはず。
そこで将来的にはよりフレキシブルに働き方を選べるよう、"Performance with Choice"をキーワードに、社員それぞれがパフォーマンスを最大化できる働き方や環境を自律的に考えていくことを想定しています。個々の目標設定に合わせてどんな働き方を希望するか、上司と部下が対話を経て決定していくイメージです」

Point4レジリエンスのトレーニング・研修

もう1つ、コロナ禍においてグラクソ・スミスクラインが注力したのが、社員に対するレジリエンス(ストレスに対する心理的・身体的な回復力)研修でした。

「ウイルス感染症のパンデミックが世界的に広がるなかで、製薬会社である私たちが果たすべき社会的任務はとても大きいものです。多くの社員たちがその重みを自覚していましたが、だからこそ過度に頑張って働いてしまうリスクが懸念されました。
社員のメンタルヘルスをケアする意味でも、また当社の社会的任務を果たしていくためにも、社員のレジリエンスを育成することは不可欠でした」

具体的には、社内講師による1時間半程度のオンライン研修を実施。参加者はのべ700名以上にのぼったといいます。

「レジリエンス研修にはいくつかの要素があります。たとえば私たちを取り巻く社会・生活環境には、自分が直接変化を起こせる範囲と、間接的に影響を及ぼせる範囲、さらにその先には自分ではコントロールできない範囲があります。
まずは自分がコントロールできるところに集中しましょうという話からスタートして、身体的・感情的エネルギーを整える方法を学んだり、さらに参加者の皆さんとディスカッションしながら自分の心理的状況を振りかえり、明日の活力に繋げていくような内容の研修を実施しました。
研修の反響は非常に大きく、社員アンケートでの満足度も非常に高いものとなりました」

テレワークを確立しながら、企業カルチャーの醸成に力を注ぐ

経営層のコミットメント

グラクソ・スミスクラインでは、なぜこのような先進的で特徴的なテレワーク施策を実現できたのでしょうか。それには経営トップのコミットメントが重要だと大類氏は振り返ります。

「2018年に現社長が就任して以降、変革に前向きに取り組むというメッセージを強く発信していきました。
もちろん当初は社内に抵抗感もありましたが、社長をはじめ経営陣がコミュニケーションのあり方を見直すとともに、変わっていこうというメッセージを積極的かつ継続的に、社員との対話の機会を大切にしながら発信し続けることによって、企業風土の転換を図ってきました。前述のように、経営陣が社員と約束したことに対しきちんと実現していく姿勢(コミットメント)が、社内の雰囲気に大きな変化をもたらした面も大きい。

このように、変化を恐れず柔軟に受け入れていく土壌を醸成してきた結果、テレワーク実践が円滑に進み、成果へと結びついたのではないかと思います」

社内コミュニケーションの活性化やエンゲージメント維持など、取り組むべき課題はまだ多く残っていると大類氏。

「こうした課題に取り組んでいくうえでも、またHRのケイパビリティを高めていくうえでも、デジタル化が欠かせないと考えています。すでに人事データの基盤整備を進めており、今後はHRのDX(デジタルトランスフォーメーション)にも積極的に取り組みながら、企業風土の変革や社員のパフォーマンス向上などにつなげていきたいと考えています」

Profile

グラクソ・スミスクライン株式会社 人財本部 エンプロイヤー・ブランディング マネージャー 大類涼子氏
大類 涼子氏
グラクソ・スミスクライン株式会社
人財本部 エンプロイヤー・ブランディング マネージャー
新卒・中途採用担当を経て労務に異動し、組合や労務対応に携わる傍ら、インクルージョンとダイバーシティや健康経営、フレキシブルな働き方の促進といった社員のエンゲージメントを高める取組みに従事。現在はすべての社員が「自分らしく」「いきいきと」「成長を実感しながら」働ける職場環境の実現を目指した会社全体の取組みの企画・遂行を担当している。

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