働き方改革や新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークを導入する企業が増えています。そうした流れのなかで注目を集めているのが、インターネット環境と機器さえあればどこでも研修を実施できる「オンライン研修」です。
新入社員研修などは、これまでひとつの場所に集まり、直接顔を合わせて学習する「集合型研修」が主流でしたが、今後は「オンライン研修」にシフトしていくことが予想されます。
本記事では、オンライン研修に必要なツールや、オンライン研修のやり方、スムーズに進めるための注意点をわかりやすく解説します。
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オンライン研修とは
オンライン研修とは、これまで対面で行われていた研修を、オンラインかつ非対面で行う手法を指します。
現在、働き方改革や新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、テレワークを取り入れる企業が増加中です。また業務だけをオンラインで行うのではなく、従業員の採用から入社後の研修までをオンライン化するケースも増えつつあります。
一般化しつつあるオンライン研修
テレワークの常態化によって、オンライン研修は一般化しつつあります。株式会社ビジネスコンサルタントが2020年5月に実施した調査によると「オンライン研修を導入している」と答えた企業は、49.8%と約半数に上ることが分かりました。導入しているオンライン研修のタイプは「新入社員研修」が最も多く、続いて多かったのが「ビジネススキル研修」という結果になっています。
また、株式会社manebiが2021年2月に実施した調査によると、オンライン研修のみの他に対面研修と併用する場合も含めると、6割以上の企業が「2021年の新入社員研修をオンラインで行う」と回答しています。
e-ラーニングとオンライン研修の違い
オンライン研修と似ている言葉として、「e-ラーニング」もあります。どちらもインターネットを使った研修です。e-ラーニングは、オンライン研修のひとつでオンデマンド配信ともいい、録画された講義動画をオンラインで視聴します。講師からの一方通行のコミュニケーションで進められるため、質問やグループディスカッションはできません。
またe-ラーニングは、マナー研修動画など、専門のサービス事業者があらかじめ用意した動画を視聴します。自社独自のノウハウやナレッジについては、既存のe-ラーニング教材ではまかなえません。
オンライン研修の定義は、上述したとおり、オンラインかつ非対面で行う手法のことです。e-ラーニングもオンライン研修に含まれますが、昨今では、Web会議システムなどを使ったライブ配信による研修も行われています。
「ビジネスマナーの研修はe-ラーニングを活用し、自社のナレッジについての研修はライブ配信を活用する」といったように、用途に応じて使い分けることが望ましいでしょう。
オンライン研修に必要なツール
オンライン研修を実施するときは、いくつかのツールを用意する必要があります。まず、ライブ配信でもe-ラーニングでも、共通で用意しなければならないのは、パソコンとインターネット回線です。テキストの用意は必須ではありませんが、参照できる資料が受講者の手元にあった方が、メモもできて理解度が高まるでしょう。
ライブ配信とe-ラーニングのそれぞれで必要なツールについては、下記にまとめました。
ライブ配信によるオンライン研修
- パソコン
- インターネット回線
- Web会議システム
- Webカメラ
- マイクやヘッドフォン
- 研修テキスト(PDFなど)
e-ラーニングによるオンライン研修
- パソコン
- インターネット回線
- e-ラーニングシステム
- 研修テキスト(PDFなど)
オンライン研修のやり方・進め方
オンライン研修を開催するにあたり、オフライン研修と同じスタンスで臨んでは、スムーズに進められません。そこで、オンライン研修をどのように進めるべきなのか、そのやり方を見ていきましょう。
- 1研修の役割や目的を整理する
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まず、オンライン研修を始める前にやるべきなのは、すでにある研修も含め、その役割や目的を明確にすることです。研修名や研修の内容、研修対象、研修のゴールなどをしっかりと決めておきましょう。
複数の研修があって一覧などがすでに用意されている場合も、オンライン研修を実りある時間にするため、あらためて必要な研修かどうかも含めて見直すことが大切です。
- 2研修内容とスタイルを分類する
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研修の役割や目的を整理した後は、その研修をどのような形式で行うのがベストなのかを考え、「e-ラーニング」「ライブ配信」「オフライン研修」などと研修スタイルを分類します。
e-ラーニングの場合は、映像を何度も見直したり、テストを行ったりすることが可能です。ライブ配信によるオンライン研修の場合は、講師への質問やグループディスカッションなど、双方向性のある研修を行える特徴があります。
一方で、実技が伴うような研修の場合は、オンラインでは行いにくいのが現状です。それぞれの実施方法の特徴を押さえ、研修の役割や目的に合ったスタイルを選びましょう。
- 3ツールやシステムを検討する
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研修の実施方法を検討した後は、各研修内容に応じたツールやシステムを検討します。e-ラーニングを利用する場合は、複数あるe-ラーニングベンダーが提供する教材のなかから、どれを採用するかを決めましょう。e-ラーニングのシステムはさまざまで、オリジナル教材を作成できたり、受講管理ができたりなど、機能が異なります。
ライブ配信を利用する場合に検討するべきなのは、Web会議システムです。Web会議ツールによって、「録画や画面共有などの機能が豊富に備わっている」「セキュリティが高くて接続が安定している」など特徴が異なります。自社の環境やセキュリティポリシーなどと照らし合わせて、適切なWeb会議システムを選定しましょう。
- 4研修用スライド(テキスト)を作成する
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ライブ配信でオンライン研修を行う場合は、活用するツールやシステムを決めた後に、研修用のスライドを作成する必要があります。
研修用のテキストがすでにあったとしても、オンライン研修用のスライドは別途用意することが望ましいでしょう。なぜならWeb会議システムでは、画面のサイズが制限され、細かい文字だと視認性が悪くなるからです。
e-ラーニングを活用する場合、ベンダー側で映像とは別にPDFのテキストを用意していることもあります。
- 5リハーサルを行う
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ライブ配信でオンライン研修を行う場合は、必ずリハーサルを行いましょう。予期せぬハプニングが起こることを想定し、なるべくハプニングの種をつぶしておけるように、オンライン研修のスタートからゴールまで、通しで複数回行うことが望ましいといえます。
また、実際のライブ配信環境を想定し、在宅環境にてリハーサルを行うことも重要です。ライブ配信では「オフィスではスムーズに接続できたけれど、いざ本番で自宅からアクセスしたら接続に時間がかかってしまった」など、機器トラブルや通信環境トラブルのリスクがあるからです。
リスクを少しでも減らせるように、本番環境と同じ条件下でリハーサルを行いましょう。
- 6実施、評価を行う
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ライブ配信によるオンライン研修でも、e-ラーニングでも、終了後は研修の評価を行うことがポイントです。e-ラーニングの場合は、システム上で理解度テストや受講状況のチェックができるサービスがあります。
ライブ配信の場合は、e-ラーニングやオフライン研修とは違い、受講者一人ひとりを管理しにくく、テストの実施が難しいことがあります。そのため、受講者アンケートなどを行い、オンライン研修のフィードバックを集めましょう。
また、オンライン研修に限定した話ではありませんが、終了後に研修の評価を行うことで、来期の人事施策などに反映することも可能です。行った施策が企業経営や従業員の成長にどれだけ寄与したか、別途モニタリングしておくことが重要です。
オンライン研修のメリット
ツールやシステムを使い、オンラインで研修を行うことで、どのようなメリットが得られるのでしょうか?
在宅でも受講できる
オンライン研修を行う大きなメリットとして、自宅をはじめ、場所を問わず受講できることが挙げられます。
オフラインで行われる集合型研修は、同じ場所に受講者全員が集まる必要があります。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、3密を避ける流れが加速する現在、大勢が一カ所に集まる集合型研修を控える企業は少なくありません。
オンライン研修であれば、非対面で研修を進められて、3密を避けられます。従業員の感染対策を行いつつ、平等に学習機会を設けられるのです。
出張などの移動を伴わない
オンライン研修は、インターネット環境と機器さえあればどこでも受けられることから、出張など従業員の移動を伴わないのもメリットです。
遠隔地の拠点にいる従業員でも受講可能なため、移動時間や出張費などを効率化し、コストを削減できます。オフラインの集合型研修に参加し、移動時間が取られてしまうことによる通常業務への影響も、最小限に抑えることが可能です。
録画によるフォローが可能
e-ラーニングはもちろんのこと、ライブ配信を録画できることも、オンライン研修のメリットのひとつです。ライブ配信のオンライン研修を録画することで、当日参加できなかった従業員にもオンライン研修の内容をそのまま共有し、フォローできます。
録画映像としてアーカイブしておくことで、オンライン研修の内容が同じであれば、次回以降は準備を省略できるのもポイントです。2回目以降のオンライン研修では、「録画した映像を配信し、質問だけライブで行う」といったハイブリッドな研修ができるようになります。
オンライン研修のデメリット
オンライン研修には「在宅でも受講できる」「出張などの移動を伴わない」といったメリットがある一方、デメリットも存在します。
実習やワークが伴う研修は実現しにくい
オンライン研修を行うデメリットとして、実習や実技、ワークショップなど、受講者が何かを発信したり行動を起こしたりするのが難しいことが挙げられます。
例えば、商品などの製造工程を学ぶには、実際に機械などを動かしてみなければ分からないことが多くあります。ホワイトボードに付箋を貼り、考えを整理しながらディスカッションをするようなワークショップも、Web会議ツールだけで実演することは難しいでしょう。
集中力が持続しにくい
画面を見続けなければならないオンライン研修は、オフライン研修よりも集中力が持続しにくいのもデメリットです。
イスに座り、同じ姿勢でパソコンの画面を見続けることで、疲労感も増しがちになります。そのため、1日研修など、長時間の研修をオンラインで行うことは難しいでしょう。
ながら受講になると効果が薄れてしまう
受講者がオンライン研修を受けている途中に、別の作業などに取り組む「ながら受講」をすることで、効果が薄れてしまうのもデメリットのひとつです。
多くのWeb会議システムでは、顔を非表示にしたり音声をミュートしたりといった操作ができます。受講者がライブ配信のオンライン研修で、顔を非表示にしてしまうと、正しく受講できているか判断ができません。
また、顔が画面に映っているといえど、研修を受講しながらメールを返信するなど、別の作業に取り組むことができてしまいます。こうした「ながら受講」を許容してしまうと、オンライン研修の効果が薄れてしまう可能性があります。
オンライン研修を行う際の注意点やコツ
インターネット環境と機器を使うオンライン研修は、オフライン研修のようにスムーズに進まない場合があるため、注意しなければなりません。そこで、効果的なオンライン研修を開催するために押さえておくべき注意点・コツを7つ解説していきます。
通信環境をしっかり整えておく
オンライン研修は、インターネット回線を使って行われるため、通信環境をしっかりと整えておく必要があります。特に、ライブ配信によるオンライン研修は、ネットワークに接続できないといったトラブルが起こりえます。
トラブルが起こった際にどのような対応を取るか、あらかじめルールを決めておくと、当日に慌てなくて済むでしょう。
ツールの使い方マニュアルなどを整備しておく
従業員の中には、ITに苦手意識をもつ層や、ツールを使うのに不慣れな層も一定数います。当日になって「ツールやソフトウェアの使い方が分からなくて、オンライン研修に参加できない」といったトラブルが起こるのを避けるため、受講者が自力でツールを使えるようなマニュアルを整備しておきましょう。
場合によっては「Web会議システムの使い方研修」を事前に行うのも、スムーズにオンライン研修を行うにあたり効果的です。
危機トラブルなどに備え、ライブ配信時にはサポート役をつける
通信環境を整え、入念にリハーサルを行ったとしても、トラブルが起こる可能性はゼロではありません。
トラブルが起こってしまったとき、研修講師が慌てずに済むように、ライブ配信時にはサポート役をつけると良いでしょう。トラブルがあった場合は、講師ではなく、サポート担当に連絡が届くようにしておくと、スムーズな解決につながります。
原則、顔出し参加とするなどルールを設ける
ライブ配信でオンライン研修を行う場合は、受講者は原則顔出しするなど、ルールを設けておきましょう。
「自宅を映したくない」といった理由などから、顔出しに抵抗感を示す従業員も一定数いる可能性があります。その場合は、背景に表示できる画像を選べる「バーチャル背景機能」の利用を許可することで、フォローすることが可能です。
また、「顔出ししなければならない」とルールを押し付けるのではなく、顔出しする意味や意義についても明確にしておくと、受講者は納得して気持ち良くオンライン研修に参加できるでしょう。
なるべく少人数で行う
ライブ配信でオンライン研修を行う場合は、少人数で行うのがベストです。なぜなら、直接顔を合わせてコミュニケーションを取れるオフライン研修と違い、オンライン研修では相手の反応がつかみにくいからです。
顔出し参加にしたとしても、30名など大人数になってしまうと、相手の顔をきちんと見ることはできません。特にディスカッションなどを行う場合は、グループを分けるなどして、5~10名程度の少人数で行うことが望ましいでしょう。
実施時間を通常の研修よりも短くする
上述のとおり、オンライン研修はオフライン研修よりも集中力が持続しにくく、疲労も蓄積しやすいデメリットがあります。そのため、研修時間はできるだけ60分以内に抑え、1日に複数回のオンライン研修を実施する場合は、10分以上の休憩を挟むといいでしょう。
休憩の際は、「できるだけパソコンの前から離れ、手足を伸ばすようにする」など、疲れないような工夫を受講者に呼びかけることも大切です。
アンケートなどで振り返りを行う
e-ラーニングやライブ配信のオンライン研修を行った後は、従業員アンケートなどで振り返ることが重要です。特に、初めてライブ配信を行う場合は「音声は聞きやすかったか」「集中して研修に取り組めたか」など、次回以降の改善につながるような意見を収集しておくと良いでしょう。
e-ラーニングの場合、テストや受講状況のチェックだけでなく「どれだけ業務の役に立っているか」など、オンライン研修を受けたことによる効果についてのアンケートを取っておくと、次の施策に生かせます。
まとめ
働き方改革や新型コロナウイルス感染症のパンデミックなどの影響を受け、注目が集まっている「オンライン研修」。「在宅でも受講できる」「出張などの移動を伴わない」といったメリットもあり、オンライン研修に取り組む企業が増えています。
これからオンライン研修に挑戦する際は、紹介した注意点やコツを押さえることで、当日のトラブル回避につながり、実りのある時間になるはずです。
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