今、越境学習がさまざまな企業で 注目されています。
越境学習は他社への出向や社会人大学院入学など、勤務場所外での体験や学習を指します。
従業員にとって越境学習は新たな知見を得られる機会となり、企業は従業員が得た知見を生かして自社のビジネスにおけるイノベーション創出などに繋げられます。
越境学習を実現するにあたり、企業や人事はどのような点に留意してプロジェクトを進めていけばよいのでしょうか。
導入における注意点なども含めて、詳しく解説していきます。
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越境学習とは
越境学習とは、所属している企業や組織を離れ、他の環境で学ぶことを指す言葉です。
複雑性を増すビジネス環境においては、コンフォートゾーン※を出て、新たな学びや業務経験を積むことで自己啓発や能力開発を行うことが重要となっています。
越境学習の手法は多様で、企業の課題や得たい効果など目的に応じて選びます。具体的な手法については、本記事内で詳しく解説していきます。
- ※コンフォートゾーン:ストレスのない居心地のよい環境のこと。コンフォートゾーンから抜け出し、刺激を受けることで成長できるともいわれています。
越境学習が注目される背景
越境学習が注目される背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
高まるイノベーションの重要性
企業においてイノベーション創出が重要な課題となっています。
イノベーションを生み出すためには、新たな技術やビジネスモデルについての知見が欠かせません。
越境学習を通して得た新たな経験は、自社に持ち帰ることで、新規事業のアイデアやイノベーションへ繋げられる可能性があります。
高度なスキルや経験を持つイノベーション人材を採用する難易度は比較的高いです。自社内で越境学習をした人材がイノベーションを創出することで、採用コストを下げ企業の競争力も向上しやすくなります。
経済産業省も注目
先行きが不透明で、未来における予測が難しいVUCA時代において、イノベーション人材を育成するという観点から、経済産業省も越境学習に注目してきました。
不確実性が高まる現代では、自ら課題や正解を探し出し、事業を創造していける人材が強く求められているからです。
経済産業省では越境学習の実証事業を2年間行う中で、越境学習においては「社会課題の現場」「摩擦」「多様なステークホルダー」が重要な要素であるとしています。
これらの要素を通して異なる価値観に触れることで、より自律的な姿勢が磨かれ、イノベーションを生み出せる人材が育つと期待されています。
参考・出典:越境学習によるVUCA時代の企業人材育成│経済産業省
労働期間の長期化とキャリア形成
少子高齢化・労働人口の減少に伴って、60歳以上でも働く人が増えるなど、労働期間が長期化する傾向にあります。
労働期間が長期化することにより、労働者自らが自律的にキャリアを構築する必要性が高まっています。
越境学習を経験することで、長いキャリアの中で成長が期待できます。
越境学習の手法
越境学習の手法にはどのようなものがあるのでしょうか。6つの手法を紹介していきます。
他企業への出向
まずは他企業への出向が挙げられます。従業員は他企業へ出向することによって、現在所属している企業に籍を置いたまま、これまでにない業務や経験にチャレンジできます。
仕事にも慣れてきて、何か新しい知見や経験を得たいと思う人は多いでしょう。
他企業へ出向することにより、わざわざリスクを犯して転職することなく新しいフィールドに挑戦できる点は、従業員にとっても大きなメリットになっています。
企業にとっても、自社でできない業務経験を従業員に提供することによりイノベーション人材を育成できるメリットがあります。
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自社やグループ会社における異動
自社やグループ会社における人事異動も有効な越境学習の手段です。
社内で手続きを行えばよいので、他企業への出向よりも少ない労力で実現できる点がメリットです。
自社やグループ会社における異動で越境学習を実現させたい場合には、通常の配置変更とは異なるダイナミックな異動を行い環境の変化を大きくすることでその効果を高められます。
社会人大学院
社会人の学び直しや越境学習の手段として、働きながら社会人大学院にて学ぶという方法もあります。
社会人大学院にはさまざまな業種業態から人が集まるため、授業やディスカッション・プレゼンテーションを通して広い知見を得られます。
仕事で忙しい中、限られた時間を活用してあらかじめ定められた単位を取らなければならないため、スケジュール管理などについても上達するでしょう。
海外留学、駐在
海外留学や駐在は、まさに国境を越えた越境学習です。
海外MBAや駐在ポジションとなることで、日本国内の常識が通じない中、ゼロから現地での生活や仕事を築き上げる体験ができます。
駐在の場合は、あくまで自社に所属したままとなるので業務におけるカルチャーなどは大きく変わらない場合もあります。
副業
就業規則で許可しているならば、本業に支障をきたさない範囲での副業も越境学習の手段になり得ます。
副業を行う従業員だけでなく、高いパフォーマンスを出してくれる副業人材を雇えれば、副業を受け入れる企業側としても新たな知見を得られるメリットがあります。
プロボノ
プロボノとは、プロフェッショナルとして保有しているスキルを無償で提供する社会貢献活動です。
社会奉仕的な意味合いが強く、さまざまなスキルを持つプロボノがチームを組んで活動することも多くあります。NPOや地域に根ざす団体を支援するケースが多くなっています。
越境学習のメリットとデメリット
越境学習のメリットとデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。まずはメリットから見ていきましょう。
メリット
(1)従業員に対する成長機会の提供
越境学習は、従業員に対する大きな成長機会の提供となります。
環境を変えることでステークホルダーとの摩擦などを含め、自社では得られない経験を得て、ビジネスパーソンとして成長することが期待されています。
若手だけではなくミドルクラス従業員の刺激や、業務上で必要となるスキルの学び直しであるリスキリングの機会としても生かせるでしょう。
(2)幹部候補生の育成
不確実性の高い時代(VUCA時代)に企業として生き残るには、幹部候補生育成が重要です。
越境学習により異なる環境で働くことで、経営層に欠かせないタフなメンタルや判断力や柔軟性、アイデアをつくる力が養えるでしょう。
(3)リテンション
従業員が転職を検討している場合などに、他社を経験できる越境学習ができれば、新たな気付きや成長実感を得られるため人材流出が防げる可能性もあります。
「新たな仕事や環境に挑戦したい」というニーズも自社に所属しながら満たせるのは、従業員にとって大きなメリットです。
デメリットや注意点
越境学習の実現にはデメリットや注意点もあります。
(1)人材選定が難しい
越境学習の対象者を募集する際に希望者が多すぎたり、少なすぎたりする場合が想定されます。希望者が多かった場合には全員が対象となるわけではないため、不満の元となる可能性も考えられます。
(2)費用やプログラム実施の負担がある
越境学習者を派遣する企業、受け入れる企業ともにプログラム開始までの手続きや業務調整などの負担が発生します。
とくに人事部には、プログラム実施に関するサポートなどを含め、実務負担が増えることとなってしまうことも。
(3)効果や結果測定が難しい場合も
プログラムを実施後、振り返りは重要なステップとなります。しかしながら、効果測定が簡単でないこともあります。
何を基準に評価を行うか事前に議論しておくとよいでしょう。
人事が越境学習を活用する上でのポイント
越境学習は中長期的な取り組みであるため成功するか否かは、人事にかかっているといっても過言ではありません。
人事が自社において越境学習を活用する上でのポイントや、留意しておくべき点を見ていきましょう。
越境学習実施の目的を明確にしておく
自社に足りないものは何か、越境学習実施の目的を明確にしておくことでターゲット選定などもスムーズに進みます。
例えばプロパー社員向けのプログラムを作成し、将来のマネージャー候補を育てたいなどが考えられます。
社内の理解を得る
帰ってきた人材が円滑に業務を再開できるように、社内のステークホルダーに十分な理解を得ておくことも重要です。
事前に経営幹部や管理職向けの説明会を行い、施策の意義やビジョンを伝えておくことが望ましいでしょう。
また、越境学習の対象者となる人材のモチベーションも欠かせません。
越境学習の目的や意義を本人の納得いくまで説明しましょう。
ベンダー選定
自社でプログラムを組み越境学習先について選定・打診することもできますが、リソースが十分割けないケースもあります。
その場合は、越境学習プログラムを提供するベンダーに依頼しましょう。
Adeccoの出向サービスである「CAREER BRIDGE」は2017年の提供開始以降、人材開発に課題を抱えているさまざまな企業向けに800件以上の出向支援を行ってきました。
受け入れ先の候補は1万社を超えるため豊富な選択肢がご提供可能です。越境学習が終了し対象者の帰任後には、新たな視点やナレッジによる社内活性化が期待できます。
導入目的と期待できる効果には
- 視野拡大、スキル取得(幹部育成)
- キャリアプラトー脱却
- リスキリング、アンラーニング
- セカンドキャリア開発
などが挙げられます。
Adeccoではお客さまの課題のヒアリングから秘密保持・業務委託契約の締結、出向開始まで総合的にサポートいたします。
出向支援ソリューション(CAREER BRIDGE)
人材出向を検討中の企業、人材を受け入れたい企業の架け橋をアデコが行います。両社の希望をマッチングさせ、現職中の専門人材の活用をサポートします。
まとめ
越境学習は、経営幹部やマネージャー育成だけでなく従業員の成長機会として注目されています。イノベーション人材を育成するという観点から、経済産業省でも2年に渡って越境学習の実証事業が行われてきました。
越境学習の具体的な手法には、
- 他企業への出向
- 自社やグループ会社における異動
- 社会人大学院
- 海外留学、駐在
- 副業
- プロボノ
などが挙げられます。
また、従業員に対する成長機会の提供・幹部候補生の育成だけでなく、人材流出に歯止めをかけるリテンションの効果もあります。
自社でプログラムを策定・実施するリソースがない場合などは、支援実績が豊富な外部ベンダーの利用もぜひ検討してみてください。
Adeccoでは、上記のような人事関連のキーワードを分かりやすくまとめ、定期的に更新しております。
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