自社の経営目標を達成するため、経営戦略として業務のアウトソース化を進める企業が増えています。その主な狙いは、社員がよりコアで事業の成功につながる業務に注力できるようにすることや外部の専門的スキルを活用すること、そして効率アップによるコスト削減につなげることです。
しかし、現状の業務をそのまま外注してもアウトソーシングの成功にはつながりません。アウトソーサーと発注企業が協力して業務内容やオペレーションを見直したり、デジタルツールを活用したりすることで、生産性・品質の向上とコスト削減につながります。
今回はアデコ株式会社のアウトソーシング&ソリューション事業本部で民間企業領域のアウトソーシングを担当する久田昭紀さんに、アウトソーシング成功の鍵と失敗を避けるためのポイントを聞きました。
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現場からフロントまで、20年以上アウトソーシング領域にコミット
――まず久田さんのキャリアについて教えてください。
私はアデコ株式会社のアウトソーシング&ソリューション事業本部に所属し、民間企業向けアウトソーシングの事業部門を担当しています。アデコには、企業から受託したプロジェクトの現場運営責任者を務める「SV(スーパーバイザー)」として2001年に中途入社しました。
入社当時は国内大手通信企業様の営業代行業務でSVを約2年担当した後、フロント業務へ移り、西日本エリアでアウトソーシングサービスのソリューション営業に従事し、企業様のアウトソーシングニーズに対する企画立案・提案活動を行いました。
2006年に一度退職して、6年ほど同業他社のHR領域を経験した後、2011年にアデコへ再入社しました。
――現場のSV職から企画立案・提案まで、さまざまな角度からアウトソーシングに携わってこられたのですね。
そうですね。アデコ再入社後は関西エリアの営業部門での責任者、そしてアウトソーシングの営業部門責任者を担当し、昨年までの5年はアウトソーシングに関わる全社の営業推進部門を担当していました。
今期からは民間企業におけるアウトソーシングビジネスの事業部門を担当していますので、通算で20年以上アウトソーシングの領域に携わってきました。
派遣は「労働力」を提供し、アウトソーシングは「業務」を遂行する
――基本的な質問ですが、アウトソーシングと人材派遣では、どのような違いがあるのでしょうか。
人材派遣は、企業様に人材を派遣する、つまり「労働力」を提供するものです。企業にとっては労働力を確保することが一番の目的となります。一方、アウトソーシングが提供するのは「業務」そのものです。企業様に代わって業務を遂行し納品することが目的となります。
指揮命令においても違いがあります。人材派遣の場合、指揮命令を行うのは発注元・派遣先である企業様です。人材派遣を活用する企業様は、派遣社員に対して自社で直接の指揮命令を行います。
アウトソーシングの場合は、受託企業(アウトソーサー)が指揮命令を行いますので、業務を発注した企業様は指揮命令を行いません。
――アウトソーシングの導入が特に進んでいる業界・業種はありますか?
業務を大きく「定型業務」「非定型業務」に分けた場合、アウトソース化されるのは定型業務であることが多いです。その理由の一つは、定型業務は自社の社員ではなく、外部の働き手も担えるケースが多いことに起因します。
今まで自社の社員が履行していた定型業務をアウトソース化することで、社員を会社の利益に直結するようなコア業務に注力させられるというメリットがあります。
もう一つの理由は、アウトソーシングを活用することによって、業務効率と生産性を向上させることが可能だからです。業務効率と生産性を向上させるために、定型業務をあえて専門家にアウトソースするという場合もあります。
業界でいうと、製造業界やBtoCのビジネスをされている企業様ではアウトソーシングの活用が特に進んでいるのではないでしょうか。具体的には、工場の製造ラインやカスタマー向けのコールセンターなどです。これらの領域はノウハウを持っているアウトソーサーが特に多いため、アウトソースする傾向が増えています。
また、近年は新たな人材の採用が難しくなっていることもアウトソーシングのニーズが高まっている理由です。私自身もお客様からよく「なかなか採用が進まない」と相談を受けますし、2050年には、2021年時点から3割近くの労働人口が減ると見込まれています。
自社での人材確保が難しくなっていることによって、アウトソーシングのニーズが業界・業種を問わず高まっているのは間違いありません。
アウトソーシングは業務以外の間接コストも削減可能
――アウトソーシング導入のメリットについて詳しく教えてください。
アウトソーシング導入のメリットはその企業様の導入目的によって異なりますが、多くの企業様がまず思い浮かべるのは、「コスト削減」ではないでしょうか。
確かにアウトソーシングによってコスト削減にはつながるのですが、正確には、業務の効率化や生産性の向上によって、その業務自体の品質が向上していくというメリットがあります。それが結果としてコスト削減につながることが多いですね。
例えば10種類の業務を担当する人数が10人から5人に減ったら、数字上は5人分の人件費が下がります。でも、一人当たりの業務負荷が増えるため業務品質や生産性も下がるはずです。
アデコでは、コスト削減と業務量や品質の維持・向上の両立が実現可能なアウトソーシングを検討し、お客様の了解を得るプロセスを大切にしています。
――アウトソーシングには「目に見えない」コスト削減効果もあるそうですね。
はい。アウトソーシング導入によって、給与だけでなく福利厚生や自社のテナント料、水道光熱費などの間接コスト削減につながるケースが増えています。なぜかというと、アウトソーサーが所有するBPO(Business Process Outsourcing:業務プロセスの一部をアウトソース化する)センターで業務を遂行するという方法があるからです。
コロナ禍以降テレワークが進み、自社のオフィスを縮小し、賃料負担を下げたいという企業が増えています。私たちは従来通りお客様先で業務を遂行するだけでなく、東京に2拠点、大阪に1拠点ある当社のBPOセンターでも業務を受託しています。
業務そのものにかかる費用だけでなく、目に見えない間接コストの削減につなげられるのもBPOセンターを活用したアウトソーシングのメリットです。 企業様の自社内で履行している業務をアウトソースする際にBPOセンターを活用して頂くことでコストメリットを享受できるケースもありますので、是非ともご相談下さい。
アデコは約900人のスーパーバイザーから適任者を配属
――アデコが提供するアウトソーシングの特徴を教えてください。
同業他社と比較して、アデコに在籍しているSV(スーパーバイザー)社員の人数はおそらく最大ではないかと思います。現在、日本全国に約900人のSVが在籍しており、その役割は私たちが受託した業務に対して遂行から成果の納品まで責任を持って運営することです。
アウトソーサーの中には、契約社員など有期契約の担当者を採用してお客様企業に配置する会社もありますが、アデコは基本的に全員が実務経験豊富で訓練された正社員のSVです。責任を持ってお客様の業務を請け負うことが、アウトソーシングを何よりも成功に導くと考えています。
また、アウトソーシング&ソリューション事業本部内には、アデコで受託した業務を運営するための、SV職による組織があります。部門と課ごとにSVの上司、部下、同僚が組織化されていて、各エリアで受託したプロジェクトに配属するSVの調整が行われます。そのため、いつご相談をいただいても、多数のSVから適任者を配属することが可能です。
――SVの組織を設けたのはなぜでしょうか。
SVは企業様先で業務を管理しているケースが多い為、SV同士がコミュニケーションをとる機会があまり多くありません。その為、課題や成功事例を共有する機会を得ることが難しい環境にありました。そこで全国のエリア毎にSV組織を編成し、組織内でのナレッジを蓄積していくことで、アデコのアウトソーシングサービスの品質向上に努めてきました。
能動的な課題解決メソッド「バリューチェーン・イノベーター」
――アデコが取り入れている課題解決メソッド「VI(バリューチェーン・イノベーター)」についても教えてください。
VIはもともと海外のコンサルティング領域で広まった課題解決のメソッドです。アデコグループにAKKODiS(アコーディス)コンサルティング株式会社という、技術系の人材ビジネスを展開している会社があります。その前身であるVSNが取り入れたVIをアデコのアウトソーシングにも導入しました。
一般的には、目の前の業務に対する課題を解決するために、アウトソーシングや人材派遣を活用します。
一方VIは、私たちが受託している現場運営を通じて、より経営に近い事業課題を明らかにし、解決に向けて企業様に寄り添った提案を継続していくメソッドです。企業様の業務プロセスを一連の価値(Value)の連鎖(Chain)として捉えた考え方に基づき、お客様企業の業績・成長への貢献につながるように能動的なアウトソーシングのサービス提供をしています。
普段からよくメンバーに話しますが、単に業務を遂行して納品するだけであれば、企業様にとってアデコを選ぶメリットはありません。企業様がアデコを選んでくださるのは、アデコならではの付加価値サービスを提供できるからだと伝えています。
――課題解決に向けた提案は、どのように行われるのでしょうか。
どのお客様とも毎月レビューの場を設けておりますので、業務進捗や成果に関する定例報告にプラスして、新たに見えてきた課題や提案をさせていただいています。
導入時に大切なのは、業務の棚卸と合意形成
――アデコのアウトソーシング導入事例をお聞かせください。
例えばある大手通信キャリア様でのコールセンター業務では、複数社にまたがる委託構造や、現行の委託会社による業務のブラックボックス化によって、業務マニュアルがなく、業務が属人化しているという課題がありました。
そこで私たちは、属人化されている業務を可視化・標準化することでアウトソーサーも実行できるようにきちんとマニュアルに落とし込みました。その結果、業務効率と品質が上がり、現行の月間発注時間6,000時間を1,100時間への削減を実現しました。
こうした事例自体は特別なものではありませんが、私たちは人以外の、デジタルツールの導入も含めて解決策を設計します。お客様企業からそのままの業務プロセスで請け負うのではなく、現状を理解した上でいかに業務プロセスを改善・再構築していくか、デジタルツールの活用も含めてコスト削減効果や生産性向上の効果を検討し、お客様と合意形成して進めることが重要です。
――まずはもともとの業務を可視化することが大切なのですね。
アウトソーシングを検討する際、お客様企業も「そもそもこの業務は外注できるのだろうか」と疑問に思われていることがあります。まずは私たちがご相談いただいた業務の調査・棚卸をすることで、アウトソース化できるかどうか、あるいはアウトソース化するために業務内容を整理するケースが多いです。
ちなみに、業務調査や棚卸を私たちのような第三者のアウトソーサーがお手伝いをすること自体にも意味があります。
お客様企業の社員様は本来の業務がありますから、アウトソーシングの検討も並行して進めるのは大変です。また、社員様の中には、アウトソース化の検討を知ることで「自分たちの業務がなくなる」と感じる方もいらっしゃる為、業務調査の履行を難しくする場合があります。そのため、企業様のご協力のもと、アウトソーシングの検討目的を客観的にきちんとお伝えした上で、業務調査を進めることを大切にしています。
成功の鍵は「導入目的」と「提案の根拠」を明確にすること
――アウトソーシング成功の鍵は何でしょうか。
アウトソーシングを導入する目的、自社にとってどのようなメリットを得たいのかをはっきりさせることだと思います。コスト削減だけを目的としてアウトソーシング導入を検討することはお勧めしません。
「この業務に従事している社員に他の業務で活躍してもらいたい」「この業務の生産性・品質を上げたい」など、最終的なゴールは企業様によってさまざまです。
その最終ゴールを自社内で検討した上で、一緒にゴールを実現できるアウトソーサーと事前にしっかりと認識合わせをすることが、アウトソーシング導入の成功につながると私たちは考えています。
――アウトソーサーとの認識がずれてしまうと、導入に失敗してしまう可能性があるのでしょうか。
発注側の「発注目的」と、受託側の「何を成果としてお客様に返すべきか」がずれてしまうと、うまくいきません。アウトソーサーとしっかりコミュニケーションを取ってくださる企業様の場合は、アウトソーシング導入後、確実に良い成果が生まれています。
もちろん、コスト削減を目的にアウトソーシングを検討することは当然です。ただ「安ければどこでもいい」というように額面のみでアウトソーサーを比較してしまうと、失敗しやすくなります。
よくある例として、「金額は安価だがレポート回数が少なく品質も良くない」というケースがあります。あるいは、発注側としては当然含まれていると思っていた業務が委託費に含まれていない、提案を受けたDXツールの使用料は実際の委託費に含まれていない、といったケースが無いかも事前の確認が必要です。自社にとって、どのような内容であれば「安い」のかを考えて頂くのが大事ではないでしょうか。
また、業務内容・フローは変わらないのにコストが下がるアウトソーシングの提案に対しても、本当にそれが履行できるかどうかを具体的に確認して頂くのが良いのではないでしょうか。
「コストを下げる代わりに、オペレーションをこのように見直します」という具体的な提案がないにも関わらず低価格を提示するアウトソーサーを選択するのは危険です。実現性があるかどうか、裏付けは何か、実績を持っているかどうかの確認をしていただくことをお勧めします。
アデコでは、私たちの意向と提案内容の根拠を企業様にしっかりお伝えすることを大切にしてきました。導入検討の窓口の方だけでなく、最初から決裁者の方も同席していただいて直接お話していますので、結果としてお客様の高い満足度につながっています。
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