ビジネス分野のレジリエンスとは?
注目される背景や高める方法を解説!

ビジネス分野のレジリエンスとは? 注目される背景や高める方法を解説!

人工知能(AI)、IoT、ビッグデータ、ロボット工学、ドローン、遺伝子編集など先進技術の普及、DX化の推進により、社会が大きく変化する中で、ビジネスパーソンに変化対応力(未体験の状況に素早く対応する能力)や柔軟な思考が求められています。
そのような背景もあり、急速な変化やストレスから迅速に立ち直り、前向きに対処する力「レジリエンス」が注目されています。レジリエンスを高めれば、変化の激しい時代に、ストレスに負けずに柔軟に対応できる能力を身に付けられます。

本記事では、レジリエンスの概要や、ビジネス分野でのレジリエンスの重要性、レジリエンスを身に着ける方法などを詳しく解説します。
社員や組織のレジリエンスを高めたいと考えている方は、参考にしてください。

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レジリエンス(resilience)とは?

レジリエンス(resilience)は、元々は「負荷がかかったものを跳ね返す力」を意味する物理用語で、近年は「回復力」「抵抗力」「復元力」を意味する言葉として、心理学やメンタルヘルスの分野で使われています。

レジリエンスとは、挫折や困難な状況が起こった後に経験を乗り越えるだけでなく、人間的成長も果たし、より健康的で生産的な状態になれる「しなやかな心の状態」を意味します。

レジリエンスとストレスの違い

レジリエンスと似た言葉に、ストレスがあります。

ストレスは、困難な局面で感じるネガティブな感情や違和感です。ストレス対処は、ネガティブな状態を元の状態まで回復させるための行動を意味します。

対してレジリエンスは、ストレスなどネガティブな状況に対して適応に対処する能力です。ストレスを受けても素早く回復し、時代の波に上手く乗ります。日々の努力で後天的に身に付くスキルなので、事前に「折れない心」を育てておくと、有事の際に役立ちます。

レジリエンスとハーディネスの違い

レジリエンスとハーディネスはどちらもストレスや困難な状況に対処する能力で、近年注目されている類義語です。

ハーディネスとは、高ストレス下で、健全な精神を保てる個人的な特性をさします。ストレスを感じる出来事に直面してもストレスを受けにくいことが特徴で、以下の3つの要素から成り立っています。

  • コミットメント
    自分の生活に深く関与していると感じる傾向で、自分が何者で何をしているかの信念
  • 挑戦性
    変化が標準の状態で、脅威ではなく成長を引き起こすチャンスであるとの信念
  • 統率感
    人生でさまざまな局面に直面したとき、自分自身が一定の範囲内でコントロールできると信じ、そのように行動する傾向

ハーディネスの高い人がストレスを感じる出来事を肯定的に受け止め、コントロールできると考えるのに対し、レジリエンスの高い人はストレスに対する認識を変容し、逆境から素早く立ち直るのが特徴です。

ハーディネスはストレスに強い性格特性、レジリエンスはストレスからの回復力という違いがあります。

出典:高崎経済大学 職場におけるストレス(4)ストレスに強いパーソナリティ特性

出典:南隆男/浦光博/角山剛/武田圭太『組織・職務と人間行動 効率と人間尊重との調和』株式会社 ぎょうせい1995年メンタルヘルス対策EAPのカウンセリングストリート用語集

ビジネス分野の「レジリエンス」とは?

ビジネス分野のレジリエンスとは? 注目される背景や高める方法を解説!

ビジネス分野のレジリエンスとは、危機的な場面や困難な状況など、ビジネス環境の変化に柔軟に対応し成長できる能力を意味します。

企業は近年、新型コロナウィルス感染拡大、異常気象など予測不可能な多くの変化に直面しています。企業が存続していくためには、内部や外部からのミスやショックに耐え得る力や変化適応能力が不可欠です。

そんな中、個人やシステム、社会のレジリエンスを高め、危機から回復できる柔軟性と即応性が求められています。

レジリエンスが注目される背景

先述のとおり、新型コロナウィルスの流行や金融危機など、次々に到来する未曽有の危機による、社会的不安は常に避けられません。

IT技術の進歩、人工知能(AI)の普及、デジタル化、外国人労働者の増加や働き方改革などにより、労働環境も大きく変化しました。コロナ禍以降は、テレワークやリモートワークが定着しつつあります。

社会や環境の変化が加速する中で、変化や逆境に柔軟に適応し、困難を乗り越えられるレジリエンスが高い人材が求められています。

社員のレジリエンスを高めるメリット

ビジネスでレジリエンスを高める主なメリットは、以下の3つです。

  • ストレスに強くなる
  • 目まぐるしい変化に対する適応能力を身に付けられる
  • 困難な課題を達成するスキルを習得できる

以下で、詳しく解説します。

ストレスに強くなる

現代はストレス社会と言われており、多くのビジネスパーソンがストレスにさらされています。厚生労働省発表の「令和2年版過労死等防止対策白書(本文)」によると、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合」は、平成14年から平成30年までの8年連続で6割程度と高い割合が継続しています。

ビジネス分野のレジリエンスとは? 注目される背景や高める方法を解説!

出典:厚生労働省「令和2年版過労死等防止対策白書(本文)」2職場におけるメンタルヘルス対策の状況

レジリエンスを高められれば、困難や逆境などのストレス下でも、楽観的に乗り越えられるようになります。ストレスを上手く受け流したり、エネルギーに転換したりする力を身に着けることが可能です。

結果として、社員は精力的に仕事に取り組めるため、新入社員の定着率の向上や離職率の低下なども期待できます。

参考・出典:厚生労働省「令和2年版過労死等防止対策白書(本文)」

目まぐるしい変化に対する適応能力を身に付けられる

現代社会は変化の連続で、人工知能(AI)やビッグデータ、ロボット工学などの技術革新、少子高齢化や核家族化、外国人労働者の増加による社会構造の変化など、さまざまな側面で目まぐるしい変化が起きています。

レジリエンスを習得すれば、社員は次から次へと起こる変化に柔軟に対応し、新しい環境を自分のものにできます。変化を恐れずに、何事にも積極的にチャレンジできる精神にもつながるでしょう。

困難な課題を達成するスキルを身に付けられる

ビジネスでは、市場環境の変化や多様化する顧客のニーズに、スピーディーに対応する能力が求められます。

思いどおりに目標を達成できない場合も多いですが、レジリエンスを事前に高めておけば、困難な課題に適切に対応できます。

どんなに困難でイレギュラーな状況でも、冷静に柔軟に対応できれば、途中で失敗しても決してあきらめることなく、最終的に目標を達成できるでしょう。

レジリエンスが高い人の特徴

レジリエンスが高い人の特徴は、以下の5つです。

  • 柔軟な思考を持つ
  • 感情のコントロールが上手い
  • 常に新しいことにチャレンジする
  • 自己肯定感が高い
  • 周囲と信頼関係を築いている

以下で、詳しく解説します。

柔軟な思考を持つ

レジリエンスが高い人は、柔軟性のある思考を持っています。

物事をさまざまな角度から多面的に見るため視野が広く、ポジティブな要素を見つけて柔軟な対応が可能です。

感情のコントロールが上手い

レジリエンスが高い人は、環境の変化や仕事、人間関係などストレスを感じる出来事が起こっても、平常心を保てます。自身の感情をコントロールできるため、冷静で迅速な対応が可能です。

目の前の出来事に一喜一憂せず、常に物事を客観的にとらえます。

常に新しいことにチャレンジする

新しいことにチャレンジして失敗すると、自責の念にかられて気持ちが落ち込み、再チャレンジが怖くなる人は珍しくありません。

レジリエンスが高い人は、失敗を事実としてのみ振り返り、どうすれば同じ問題を繰り返さないか、原因と対策を考えます。

失敗した際に、楽観性を重視する点も特徴です。「次は上手くいく」「次はこうしてみよう」「必ずいつかできる」と楽観的かつ前向きにとらえ、常にチャレンジし続けます。

自己肯定感が高い

レジリエンスが高い人は、自己肯定感が高いところが特徴です。自身に対して確かな自信を持ち「自分ならできる」と強く信じられます。

周囲と信頼関係を築いている

レジリエンスが高い人は、多角的な考え方を受け入れ、さまざまな人の立場に立って物事を考えられるため、周囲との信頼関係の構築が得意です。

仕事仲間を信頼すれば、必然的にチームワークが良くなり、仕事を効率的に進められます。

社員のレジリエンスを高める方法

ビジネス分野のレジリエンスとは? 注目される背景や高める方法を解説!

社員のレジリエンスを高める方法は、以下の3つです。

  • 自己肯定感を上げる
  • ABC理論を理解して思考パターンを変容する
  • レジリエンス・トレーニングを受ける

以下で、それぞれの方法を詳しく解説します。

自己肯定感を上げる

人はできたことより、できなかったことに意識が向きやすく、自信を無くす原因になります。

社員がモチベーションを維持しながら仕事に取り組むためには、上司の適切な指導やフォローが欠かせません。

上司が社員のできたことに目を向ければ、社員の自己肯定感が上がり、レジリエンスも向上するでしょう。

「自分ならできる」「自分には能力がある」と信じられる自己効力感に繋がり、社員のチャレンジ精神がアップします。

ABC理論を理解して思考パターンを変容する

ABC理論とは、アメリカの臨床心理学者であるアルバート・エリスが提唱した認知行動療法の基礎となる理論です。

Aが出来事と経験、Bが認知の仕方、Cが感情だとすると、Aの出来事がCの感情の原因になるのではなく、Bの認知の仕方を変えればCの感情が変わる理論です。

出来事に対する感情は自身の受け止め方に原因があるという考え方で、ABC理論を実践すると、自身の思考パターンや思い込みに気付いて不愉快な感情を改善できます。

レジリエンス・トレーニングを受ける

レジリエンス・トレーニングとは、レジリエンスの特性(困難に直面した時に素早く立ち直る力)を鍛えるトレーニングです。

実際に、海外の軍隊や教育現場、企業などで導入され、効果が科学的に立証されています。スキルなので、トレーニングすれば誰でも習得が可能です。

組織のレジリエンスを高める方法

社員がレジリエンスを高めるだけでなく、組織全体もレジリエンスを高める必要があります。働く環境がレジリエントになると、個人も自然とレジリエンスを高められるからです。

組織のレジリエンスを高める方法は、以下の3つです。

  • 組織のブランド力を強化する
  • 周囲にサポートしてもらえる環境を作る
  • ミスを許容する職場にする

以下で、それぞれの方法を詳しく解説します。

組織のブランド力を強化する

組織のレジリエンスを高めるためには、環境変化へのスピーディーな対応だけでなく、環境変化に揺るがない組織のブランド力の強化も大事です。

長い歴史を持ち、顧客に愛されるヒット商品を多く持つ企業は、時代や環境が変化しても揺るぎません。同じ商品やサービスを長期間利用する顧客を持てるため、高い収益性を持続できます。

周囲にサポートしてもらえる環境を作る

社員同士がコミュニケーションをとりやすい環境の整備も重要です。具体的には、食事会やメンター制度など、上司と部下、先輩と後輩が交流を持つ機会を作り、強い絆を育てましょう。

困難に直面しても、周囲の協力を得やすい状況なら、個人だけでなく組織としてのレジリエンスも高められます。

ミスを許容する職場にする

ミスを悪ととらえず、許容する雰囲気作りも重要です。

ミスを責めずに学ぶ機会ととらえ、次回の対策を一緒に考える職場なら、社員は失敗を恐れずにチャレンジし、イノベーションを起こしやすくなります。

困難な状況に陥っても互いに協力し合えば、心理的安全性の高い職場になるでしょう。

レジリエンス・コンピテンシーとは?

レジリエンスは、全ての人が持つ特性です。以下の6つのコンピテンシー(行動特性)を理解すると、高められます。

1. 自己認識

自己認識とは、自身の気持ちや行動、生理的反応に注意を払う能力です。自身の強みと弱みを客観的に認識する力をさします。

2. 自己コントロール

自己コントロールは、ネガティブな状況で単に落ち込むのではなく、望ましい未来になるよう自分の思考や欲求をコントロールできる力です。

3. 現実的楽観性

現実的楽観性とは、ポジティブな物事に意識を向け、目標を持って行動できる力です。以下の2種類があります。

  • 気質的楽観性:「明日は良い日に違いない」と自然に思える
  • 現実的楽観性:ネガティブな状況に直面した時、自分に原因があると決めつけるのではなく、相手や状況など多角的な要因を考えらえる

4. 精神的柔軟性

精神的楽観性とは、感情のままに行動するのではなく、状況を多角的にとらえて臨機応変に行動できる能力です。創造的で柔軟な考え方ができる力を意味します。

5. 強みとなる特性

強みとなる特性とは、キャラクターの強みや性格、考え方など、自身が持つ強みを最大限に活かし、ストレスに対処する力です。

自身の価値観に沿った人生を想像する力を意味します。

6. 関係性

関係性とは、周囲と良好な人間関係を築き、信頼できる関係を維持する力です。周囲に頼ったり、助けてもらったりすると、ストレスに対処できる選択肢が増えます。

レジリエンスの危険因子と保護因子とは?

レジリエンスの危険因子と保護因子を解説します。

危険因子とは?

危険因子とは「ストレスをもたらす要素」です。

  • 喪失体験
  • 家庭環境、職業問題、生活問題
  • 病気
  • 災害
  • 犯罪被害

レジリエンスを高めて、危険因子によるマイナス感情をコントロールすれば、心身の負担を減らせるでしょう。

保護(防御)因子とは?

保護因子とは、ストレスなどネガティブな状態から立ち直るための要素です。

  • 心身の健康
  • 安定した社会生活
  • 支援者の存在
  • 利用できる社会制度

高品質な保護因子を増やすと、レジリエンスが高まります。

まとめ

レジリエンスは、元々は「復元力」を意味する物理学用語で、現在は心理学の用語としても使われています。

ビジネス分野のレジリエンスとは、目まぐるしい環境の変化に柔軟に適応、対応できる能力です。現代社会では、次々にやってくる危機や困難に対して、折れない心で乗り越える力が求められています。

レジリエンスを高めると、社員は変化やストレスをチャンスととらえて精力的に仕事に取り組めるようになり、生産性や収益性の向上につながります。

ストレスやプレッシャーに負けることなく困難な課題を乗り越えられるようになるため、離職率低下にもつながるでしょう。

さらに、時代やニーズの変化に迅速に対応できるようになることから、顧客満足度の高いサービスや商品を提供できるようになります。顧客と良好な関係を構築できれば、多くのリピーターを獲得できるでしょう。

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