2024年7月、アデコ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:川崎 健一郎、以下「アデコ」)において、招待制の対面型イベント「人的資本ラウンドテーブル」が開催されました。
法政大学の田中研之輔教授と共に主催する本イベントは、その名の通り人的資本経営の推進を担う企業の経営者様や人事様が直接議論を交わす学びのための交流会です。今回で通算4度目の開催となりました。
優秀な人事は「考古学者」であり、「民俗学者」でもある。
田中研之輔教授は、「人事に求められるセンス」をこのように語ります。
「時にアルケオロジスト(考古学者)であり、時にエスノグラフィスト(民俗学者)のような姿勢が求められています。すなわち、歴史的な時間軸を持ちつつも、社員一人ひとりのリアルな声を大事にしながら見抜いていくことが重要です。」
イベントの最中、田中研之輔教授は積極的に参加者と議論を交わし、熱意溢れるプレゼンテーションによって示唆に富むヒントをたくさん発信してくださいました。(お集まりいただいた経営者様や人事様からは「近年稀に見る有意義なイベント」という声もいただいており、すでに次回開催に向けた期待も高まっている模様です。)
開催テーマは「財務・IRで加速する人的資本」
企業に対する金融機関からの評価は、今や財務指標のみならず、「非」財務指標(≒人的資本情報)も踏まえた上で行われる時代になりつつあります。本イベントではその潮流の先駆けともいえる特別ゲストとして、2023年5月に企業の人的資本経営における取り組みをスコアリングし、一定以上のスコアを取得したお客さまに融資を行う「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」の取り扱いを開始したみずほグループ様をお招きし、金融市場における企業評価と人的資本についてご講演をいただきました。
人事部門は、企業財務におけるもう一人の主役と言っても過言ではない。
泉屋祐介氏(株式会社みずほ銀行/サステナブルプロダクツ部)は、お客様のESG(サステナビリティ)に対する取り組みを資金面から支援をする役割を担っておられます。泉屋氏は、様々な社会課題が顕在化するこれからの時代こそ人事の取り組みが、企業価値の向上や資金調達に非常に重要であると強調しました。
金融機関が投融資の対象として企業を評価する際、財務指標を重要視する点は、特に短期的視点において不変であるが、中長期的な視点においては、企業価値の源泉ともいえる「非財務情報」の重要性が増していると語りました。気候変動や少子化といった様々な社会課題が顕在化する中、企業には利益を追求するのみでなく社会課題の解決に挑むスタンスが求められております。すなわちサステナブル経営の根幹ともいえる「人的資本情報の開示」には、ますます投資家の視線が注がれており、その中核を担う人事部門は今後の企業経営においてさらに重要な立ち位置となってくるだろうと訴えました。
その人事施策に、論理的な整合性はあるか。
続いてのゲストであるの田中文隆氏(みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社/社会政策コンサルティング部)は、企業の非財務情報を評価し、それを基に資金調達を支援する「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」と絡めながら人的資本経営の重要性について語りました。
「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」における詳細な評価指標は非公表であるものの、特に「経営戦略に紐づく人事課題」と「人事施策」の論理的な整合性を重視されているとのことでした。すなわち「企業としてどのような姿を目指しており」「そのためにどんな人事課題を解決していくのか」「どのような人事施策を実行し、そのアウトプット(結果)やアウトカム(成果)をモニタリング(指標)を通じて実践に役立たせ、開示をしていくか」といった論理の繋がりを、人事部門自らが主体的に明確にすることが極めて重要となっていると田中文隆氏は示します。
すなわち、人事部門が企業価値向上に大きく寄与するためには、より戦略的に非財務情報と向き合い、エビデンスを重視した全体設計が重要といえるでしょう。
※「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」に関してはこちらのリンクをご覧ください。
みずほFG:独自融資で人的資本経営の未来を変える(MIZUHO SX) (mizuho-fg.co.jp)
田中研之輔教授監修の新作ワークショップを実施
当日は、アデコが開発した新作ワークショップを通じて、「施策」と「効果」、そして「財務アウトカム」までの繋がりをゲーム感覚で体感していただく機会を設けました、参加者それぞれが架空企業のCHROとなった設定で、納得性のあるストーリーを構築していただくといった内容です。実際に手を動かし、議論を交わしながら、非常に盛り上がった時間となりました。以下にワークショップの内容を紹介します。
ワーク解説 ①その人事施策は、一体どんな成果につながるか?
ワークショップでは、人事施策の内容が書かれたカードが配られました。カードには施策タイトルと共に、「施策自体を計測する指標(例)」が、提示されています。以下がその一例です。
- キャリア研修 → 研修参加者の人数、研修自体の満足度
- ベンチャーへの越境体験プログラム → 越境体験への参加人数、説教体験後の満足度
これらの計測指標は、施策自体の成功や影響を短期的に判断するためには有効な数値と言えるでしょう。しかし、例えば「研修参加者の人数」は、あくまで施策自体の規模を示すための数値であり、研修自体がもたらす効果まで示すものではありません。したがって、これらの人事施策がどのような成果や数値に紐づくか検討を行うことから、このワークショップは始まります。
人事施策の成果を示す数値とは、例えば以下のようなものが挙げられます。(ワークショップでは、多数のカードより特に重要と思われる数枚のみを選んでいただくことで思考を深めました。)
- 採用者数アップ
- 労働生産性アップ
- 時間外労働時間ダウン
- エンゲージメントスコアアップ
- 上司に対する心理的安全性アップ
上記の数値は「人事施策の成果」としてイメージできる内容かと思います。実際、ここまでの紐づけは順調に進んでいる様子でした。しかし、ワークショップのクライマックスはまさにここからスタートするのでした。
ワーク解説 ②施策が与える「財務への影響」を考える。
先程のワークで、私達はそれぞれの人事施策がどのような成果をもたらすかまでイメージを固めました。次は、これらの成果が「財務」に与える影響について考察を進めていただくこととなります。つまり「財務的アウトカム(成果)」に対する紐づけに取り組んでいただきました。
「財務的アウトカム」を分類すればまさに無数の種類が挙げられますが、あえてシンプルに表現するならば「売上アップ」や「コストダウン」もしくは「将来起こりうるロスコストへの備え」などをイメージするとイメージしやすいでしょう。そして、最も重要なポイントは、「人事自らがストーリーを語れるようになる」という点です。
ワーク解説 ③整合性の取れた全体ストーリーを語る。
例えば、「エンゲージメントスコアアップ」を例に取ってみましょう。まず「離職者が減るため、膨大であった新人教育にかかる『コストダウン』が狙える」といったストーリーが成り立ちます。さらに別の観点では、「従業員の士気が高まることで生産性が上がり、結果として『売上アップ』につながる」というストーリーも存在するかもしれません。
ワークショップでは、「人事施策 → 人事の成果 → 財務的アウトカム」という流れをわずか一本の線のみで表現したチームはなく、誰もが幾通りもの可能性を見つけておられた様子でした。しかし、すべての可能性を論じることは、かえってメッセージの解像度を下げ説得力の低下につながるでしょう。
つまり人事施策から無数に波及していく影響先から自社の状況に合わせた一本のラインを見出し、自社ならではの人事ストーリーとして戦略的に語れるようにする。これこそが、人的資本経営を推進する人事にとって求められる働きなのではないかと、私たちは考えております。
人的資本ラウンドテーブルにご参加した企業様より、すでに様々な活動が始まっているとご報告をいただく機会が増えました。人的資本経営はまさに経営の切り札です。アデコはグローバル企業として国内外に広がる知見を元に、皆様と一緒に人的資本経営のさらなる加速を目指していきたいと考えております。
田中文隆氏プロフィール
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社 社会政策コンサルティング部 ヒューマンキャピタル創生チーム 次長 プリンシパル 1997年早稲田大学政治経済学部卒業後、都市銀行を経て2001年早稲田大学大学院修了(国際関係学修士)、同年みずほリサーチ&テクノロジーズ(当時:富士総合研究所)入社。2004~2006年厚生労働省出向(労働経済白書執筆に従事)。昨今は、人的資本経営の可視化・開示、ビジネスと人権、労働市場の流動化に資する官民支援に従事。21年博士(経済学)。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー
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<講演・執筆等>
- 日本経済新聞出版 日経MOOK「実践!人的資本経営」監修(2024年3月発刊)
- 日経電子版オンラインセミナー「SX実現に向けた「人的資本経営」の実践と課題~先進事例に学ぶ、企業価値向上にむけた取り組みとは~」(2023年、講演)
- 金融財政事情「企業のブランド力向上につながる「アルムナイ」との向き合い方」(2024年、寄稿)
泉屋祐介氏プロフィール
株式会社みずほ銀行 サステナブルプロダクツ部 参事役
2006年みずほ銀行に入行し中堅中小企業の営業を担当。2016年よりサステナブルファイナンスを含む大企業向けのシンジケートローン組成に従事した後、2023年より現部署にて、サステナブルファイナンスの推進とMizuho人的資本経営インパクトファイナンスを始めとする新商品開発を担当。
田中研之輔氏 プロフィール
博士号 専門:キャリア開発 組織アナリスト
株式会社 キャリアナレッジ 代表取締役社長
一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事
法政大学キャリアデザイン学部 教授
UC.Berkeley 元客員研究員/Melbourne University 元客員研究員
日本学術振興会 元特別研究員(PD:一橋大学/SPD:東京大学)
著書32冊・社外顧問 35社歴任
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<著作リスト・一部>
- 『プロティアンシフト』(2023.5)
- 『社員がやる気をなくす瞬間』(2022.12)
- 『人的資本の活かしかた』(2022.8)
- 『キャリアワークアウト』(2022.7)
- 『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』(2022.4)
- 『新しいキャリアの見つけ方』(2022.1)
- 『プロティアン教育ー三田国際学園のキャリアエスノグラフィ』(2021.11)
- 『ビジトレー今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』(2020.6)
- 『プロティアンー70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』(2019.8)
- 『教授だから知っている大学入試のトリセツ』(2019.3)
- 『辞める研修 辞めない研修ー新人育成の組織エスノグラフィー』(2019.3)
- 『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(2018.7)
- 『ルポ 不法移民ーアメリカ国境を越えた男たち』(2017.7)
- 『実践するキャリアオーナーシップ』(2024.3)
- 『進化するキャリアオーナーシップ』(2024.3)
- 『キャリア・スタディーズ』(2024.9.20) ※『グロース・マネジャー』(2024 刊行予定)
古河原 久美 プロフィール
アデコ株式会社 コンサルティング部 部長/ISO 30414リードコンサルタント/アセッサー
2007年大学卒業後、大手証券会社に入社。2014年米国へ渡米し現地にてMBA取得、大手総合商社の米国法人にて勤務。帰国後、2016年より大手IT企業にて幅広い人事課題解決に取り組む。2021年7月にアデコに入社し、コンサルティング事業の立ち上げに参画。2022年6月より現職。
アデコが提供する「人的資本経営コンサルティング」
持続可能な企業経営を目指し、人的資本経営の導入を検討されている企業担当者様におすすめのサービスが、アデコの「人的資本経営コンサルティング」です。
人事方針策定/KPI策定~施策推進・システム基盤整備+開示戦略まで、組織の持続可能な成長を支える人的資本経営をご支援します。
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このイベントは企業人事様や経営者様を対象にした、招待制の対面型フォーラムです。特別ゲストとして法政大学の田中研之輔教授をお迎えし、人的資本経営に関する知見を深めながら、参加者同士の交流を図ることを目的に開催されました。