【連載企画】人的資本経営トップ対談 #2
「ヒトにこだわる『新・人的資本戦略』」

大東建託 代表取締役社長 竹内啓 × 法政大学教授 田中研之輔

 今、「人的資本経営」が急速な広がりを見せています。この連載企画では、人的資本経営を牽引する業界のトップリーダーにスポットを当て、その実態に迫ります。

 第二回目となる今回のゲストは、大東建託株式会社の代表取締役社長・竹内啓氏。2023年に制定した「託すをつなぎ、未来をひらく。」というグループ・パーパスに込められた想い、そして人的資本経営に対する考え方を、法政大学教授の田中研之輔氏と共に紐解きます。


「ウィッシュリスト」が、キャリアを充実させる道標となる。

田中研之輔(以下田中):新たに発表された中期経営計画の中では、「人的資本経営の推進」を第一の柱として掲げられています。人的資本経営でも特に重要といわれる社員のキャリア自律支援において、これから大東建託様で大切にされていきたい「キャリア」とはどのようなものなのか、ぜひとも竹内社長のお考えを聞かせてください。

(※参考:大東建託グループ「新中期経営計画 FY2024~2026」

竹内啓(以下竹内):今までキャリアといえば、「学歴」や「スキル」など、一般的に履歴書に記載されているような内容を指していたように思います。しかし仕事だけに偏った考えでは、本当の幸福感はきっと得られにくい。そこで私は、キャリアを充実させるためには、ふたつの大事なことがあると考えました。ひとつは「仕事をうまくいかせるためのキャリア」。もうひとつは、「家庭をしっかりおさめていくためのキャリア」。例えば仕事で成功しても、家庭を犠牲してしまうようでは幸福とはいえないでしょう。だからこそ、仕事もプライベートも両方を充実できるようなキャリア構成を、自分で選んでいただくことが大切だと思っています。

田中: 大賛成です。やはり「働くこと」と「生きること」、このバランスを自分で取っていく。すなわち、「自分がキャリアのオーナーになって整えていく」ことが大切であると私自身も考えております。ワークライフバランスという言葉も広まりましたが、それこそが前提だと思います。せっかくですから、より充実したキャリアを描くための、竹内さんなりのコツを教えてもらえませんか?

竹内:以前、プロテニスプレーヤーの杉山愛さんにお会いした時、「ウィッシュリストを作ってください」と言われたことがあるんです。

田中:つまり、どんなことを叶えていきたいか、書き出してみるということですね。

竹内:はい。仕事でもプライベートでも、とにかく自分がワクワクしそうなことを考えてみてくださいと。正直に書いてみたのですが、最初は30項目くらいしか書けませんでした。今は60項目ほどありますけどね。私の場合は「自分でサウナを作りたい」とか、「みんなを連れて行ってキャンプをしたい」とか。それらの項目の内、達成したものから丸をつけています。

田中:私も企業参謀として様々な会社を支援しておりますが、「一年後や三年後に何がしたいか」というウィッシュリストのような未来思考で取り組まれている部署は、やはりどんどん伸びていきますね。

竹内:私はこれを、社員のみなさんにも書いていただいています。自分が何にワクワクするのかを考えることは、キャリアを考える上でとても大事なことですから。

田中:おっしゃるとおりです。例えば、私はよくセミナーの冒頭に、「皆様が没頭していることは何ですか? 仕事でもプライベートでも構いません。」と問いかけることがあります。するとたくさんの回答をいただけます。例えばゴルフに没頭している方が何をしているか。自分とプロのスイングを比較して、自主的に研究しているんですよね。なぜなら、本人はそれが楽しくて仕方がないから。しかし「それをお仕事でできていますか?」と尋ねると、なかなかそうはいかない。今後の働き方の理想を言えば、「没頭しているときのワクワク感で仕事をしていく」ということがポイントではないかなと思っています。

竹内:まさにその通り。仕事も家庭も大切にしながら、自分自身がワクワクする。この考えは大切にしたいですね。

肩書が無くなっても、「この人と働きたい」と思われる社員を育てたい。

田中:新しい中期経営計画の下で、「キャリア」に力を入れていくにあたり、どういった取り組みをされようと思っていますか?

竹内:例えば、「技術職であれば一級資格取得」といったように、これまでは職種ごとにある程度の道筋が決まっていたと思います。しかし、今後はどんな職種の人であっても自分がキャリアアップのために必要だと思えるものを選択していける、そんなプログラムの準備を進めている最中です。

田中:素晴らしいですね。社員の方々が色々な制度を生かし、躍動してキャリア資本を貯めていく。
大東建託様に在籍する二万人もの一流プレーヤーの方々がそのように動き出すと、これからのキャリア自律プログラムや施策すべてが、事業をグロースさせるためのエンジンになると思います。

竹内:まさに、そういう形を作らないといけませんね。

田中:人的資本経営の実現にあたって、私がよく参照しているのは「医療」と「アスリート」の領域です。例えば医療は「統計」が凄い。私の血液を採り分析すると、過去の症例と照らし合わせて症状を予測してくれます。人的資本経営を推進するにしても人の成長は目に見えにくいため、可視化する必要があります。その時にはデータが不可欠です。また、アスリートの領域にもキャリア開発の大きなヒントがあります。彼らには「育成プログラム」や「レンタル移籍」といった制度があり、これはまさに人財開発のパフォーマンスプログラムです。

竹内:確かに、他の領域からも学べることは多いですね。

田中:だからこそ、大東建託様がどのように躍動していくか、非常に楽しみです。企業として持続的な成長を続けながら、新しいチャレンジも行う。そしてライフも楽しい。色々なお話を伺いましたが、改めて人的資本経営にコミットしていくことに対する想いを聞かせてください。

竹内:今まで日本人が大切にしてきた気質、例えば清潔感や倫理観などが、だんだん薄れてきているのではないかと感じております。その気質を大事にする一方で、自らの意見はしっかりと主張できる。そんな人になっていかねばならないと思います。また、肩書や会社の名前というものに頼らずとも、それぞれが持つ人間性で「この人を信用したい」「この人と働きたい」と思っていただけるような人間が世の中にはたくさんいるはず。うちの社員にもそうあってほしいなと思うと共に、会社としてもしっかりと育てていきたいと考えております。

→対談の全編はこちらからご覧ください。

竹内啓氏 プロフィール

代表取締役 社長執行役員 CEO
建築事業本部長
指名・報酬委員会委員
ガバナンス委員会委員

(経歴)

1989年 4月大東建託株式会社入社
2007年 4月首都圏営業部長
2010年 4月東海営業部長
2012年 4月執行役員 テナント営業統括部長
2014年 6月取締役 執行役員 テナント営業統括部長
2015年 4月取締役 執行役員 中日本建築事業本部長2017年 4月取締役 不動産事業本部長
2018年 4月常務取締役 不動産事業本部長
2020年 4月常務取締役 西日本建築事業本部長
2021年 4月常務取締役 建築事業本部長
2023年 4月代表取締役 社長執行役員 建築事業本部長
2024年 4月代表取締役 社長執行役員 CEO 兼 建築事業本部長(現任)

田中研之輔氏 プロフィール

博士号 専門:キャリア開発 組織アナリスト
株式会社 キャリアナレッジ 代表取締役社長
一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事
法政大学キャリアデザイン学部 教授
UC.Berkeley 元客員研究員/Melbourne University 元客員研究員
日本学術振興会 元特別研究員(PD:一橋大学/SPD:東京大学)
著書32冊・社外顧問 35社歴任

<著作リスト・一部>

『プロティアンシフト』(2023.5)
『社員がやる気をなくす瞬間』(2022.12)
『人的資本の活かしかた』(2022.8)
『キャリアワークアウト』(2022.7)
『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』(2022.4)
『新しいキャリアの見つけ方』(2022.1)
『プロティアン教育ー三田国際学園のキャリアエスノグラフィ』(2021.11)
『ビジトレー今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』(2020.6)
『プロティアンー70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』(2019.8)
『教授だから知っている大学入試のトリセツ』(2019.3)
『辞める研修 辞めない研修ー新人育成の組織エスノグラフィー』(2019.3)
『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(2018.7)
『ルポ 不法移民ーアメリカ国境を越えた男たち』(2017.7)
『実践するキャリアオーナーシップー個人と組織の持続的成長を促す20の行動指針』(2024.3)
『進化するキャリアオーナーシップ』(2024.3)
『キャリアスタディーズーこれからの働き方と生き方の教科書これからの働き方と生き方の教科書』(2024.9)
※『グロース・マネジャー』(2024 刊行予定)

■大東建託株式会社

(会社ホームページ)

大東建託は、建物賃貸事業の企画・立案から設計・施工、入居者様募集、管理・運営に至るまで、オーナー様に代わりトータルで賃貸経営をサポートする独自のシステム「賃貸経営受託システム」を展開しています。グループ・パーパス「託すをつなぎ 未来をひらく。」のもと、コアビジネスである建設事業と不動産事業に加え、コアビジネスに関連したガス供給事業や介護・保育事業などをグループ会社と共に展開し、賃貸住宅専業から総合賃貸業を核とした「生活総合支援企業」を目指しています。

ご参考① 人事・ダイバーシティ領域の全体MAP(提供:大東建託株式会社様)

ご参考② 直近のダイバーシティ推進の取り組み(提供:大東建託株式会社)

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※本内容は、2024年6月時点の取材にもとづき掲載しています。

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