アルバイトや派遣社員に変形労働時間制を適用することはできるでしょうか。また、適用できる場合、何か注意しなければならないことはありますか。
変形労働時間制の制度上の手続きと運用が適正であれば、アルバイトや派遣社員にも適用することはできます。
変形労働時間制とは、一定期間(1カ月、1年など)の所定労働時間を週平均40時間以内とすることで1日8時間超、週40時間超の所定労働時間を定めることができる制度です。例えば、病院の夜勤のように1勤務を8時間以内とすることが困難な場合に用いられています。この制度を導入するには就業規則に変形労働時間制に関して規定し、必要に応じて労使協定の締結という手続きが必要となります。手続きが適正であればアルバイトにも変形労働時間制を適用することができます。また、派遣社員の場合、派遣元で適正な手続きがとられていれば派遣先の変形労働時間制度を適用することができます。
変形労働時間制はあらかじめ定めた勤務スケジュール通りに勤務する必要があります。1カ月単位の変形労働時間制であれば1カ月の出勤日と始業終業の時刻をあらかじめ定めておかなければなりません。アルバイトの出勤日を自己申告で毎週定めていく方法は、変形期間中の労働時間があらかじめ定められているとはいえません。また、あらかじめ時間を定めずに勤務実績が週40時間を超えていなければ1日の勤務時間が8時間を超えていても残業代を支払わないという扱いも違法です。日本レストランシステム事件(東京地裁H22.4.7)では、「会社が採用していた変形労働時間制は就業規則によれば1カ月単位のそれであったのに、半月ごとのシフト表しか作成せず、変形期間全てにおける労働日及びその労働時間等を定めず、変形期間における期間の起算日を就業規則等の定めによって明らかにしていなかったものであって、労基法に従った変形労働時間制の要件を遵守しておらず、かつ、それを履践していたことを認めるに足りる証拠もない」と判断されました。そのため、変形期間中勤務日をあらかじめ定めることができないアルバイトに変形労働時間制を適用することはできません。
派遣社員の場合も同様に単に派遣元の就業規則に定めがあるというだけでは足りず、勤務日・勤務時間をあらかじめ確定させる必要があります。派遣契約では、いつ、何時間働くのか明らかにする必要があるので、派遣先の勤務カレンダーに従うのであればその旨を書き、一人ひとり勤務日ごとに所定労働時間が異なるのであれば、契約締結時に派遣契約期間を通じた勤務表を作成してください。3カ月契約を結ぶのであれば原則として3カ月分の勤務表を作成する必要があります。
POINT派遣社員に適用されない労働時間制度
弾力的な労働時間制度のうち、1週間単位の非定型的変形労働時間制度と企画業務型裁量労働制度は派遣社員への適用はできません。派遣先がこれらの制度を導入していたとしても派遣社員には適用できないので、原則どおり1日8時間・週40時間の範囲で労働時間を定めてください。
Profile
社会保険労務士 中宮 伸二郎 (なかみや しんじろう)
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。労働法に関する助言を通じて、派遣元企業、派遣社員双方に生じやすい法的問題に詳しい。2007年より派遣元責任者講習講師を務める。