ここ数年、固定残業代制度に関する裁判が多くみられますが、固定残業代制度は違法なのでしょうか。適法な場合、適正に運用するにはどのような注意が必要でしょうか。
時間外、休日労働の割増賃金を毎月定額で支払う賃金制度は固定残業代とよばれ中小企業を中心に導入している会社があります。毎月一定時間分の割増賃金を固定的に支払うこと自体は適法ですが、不適切な制度設計のため裁判で無効と判断されることが近年増加しています。無効と判断される場合の傾向として以下の4つがあります。
- 1.固定残業代を区分していない
基本給に残業代が含まれているというだけで残業代相当額が不明確な場合 - 2.対象時間が不明確
時間外労働、休日労働、深夜労働それぞれ何時間に相当するのか不明確な場合
役職手当を時間外手当とし対応する時間外労働時間を明示していない場合 - 3.設定を超過した際に別途残業代が支払われていない
固定残業代は時間数を明示して支払っているが、それ以上残業しても追加の残業代が支給されない場合 - 4.36協定で定める時間を超える固定残業代の設定
36協定で定めた延長時間を超える固定残業代が設定されている場合
上記4つは裁判の傾向であり、4つの条件をクリアしていても個々の会社の運用状況によって無効と判断されることはあります。会社の説明不足から固定残業制度を労働者が理解していないことも不利に作用します。固定残業代を導入している場合は入社時、昇給時など機会があるごとに制度の周知に努める必要があります。
POINT求人の際には固定残業制度を明確に説明
若者雇用促進法指針において青少年の募集に際し、固定残業代に関して明示すべき事項が定められていますが、2018年1月1日から適用される求人に関する指針※により固定残業制度を適用する場合、すべての募集で明示することとなりました。
- 1.固定時間数
- 2.固定残業代を除外した基本給の額
- 3.固定残業時間を超える時間外・休日労働・深夜労働についての割増賃金を追加で支払うこと
指針の対象は、求人媒体等外部機関を活用する場合だけではなく、自社で行う求人活動にも適用されます。自社サイトで募集を行う際は、固定残業代について最低でも上記3つは明示しなければなりません。
- ※求人に関する指針とは:「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針」を指します。
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答える人
社会保険労務士 中宮 伸二郎 (なかみや しんじろう)
社会保険労務士 中宮 伸二郎 (なかみや しんじろう)
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。労働法に関する助言を通じて、派遣元企業、派遣社員双方に生じやすい法的問題に詳しい。2007年より派遣元責任者講習講師を務める。