営業職の社員が昼の休憩時間を利用して顧客事業所から次の顧客事業所に移動した場合、休憩を与えたことになるでしょうか。
休憩とは、労働時間の途中に労働から離れ自由に利用できる時間のことです。労働時間とは使用者の指示命令を受けて行動している時間とされています。「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日基発第0827001号)によると移動時間が通常の移動に要する時間程度である場合は、労働時間として考えられるため、休憩時間を利用して移動したのであれば、休憩を与えたことになりません。ただし、この通達は訪問介護労働者の働き方に関するもので、すべての移動時間が労働時間として取り扱われるものではありません。自動車運転者のフェリー乗船時間は移動時間ですが、休息時間として扱われたり、裁判例も状況により異なる判断をしたり、移動の態様によって労働時間として取り扱われない場合もあります。
上記通達によれば、休憩時間60分、実際の移動時間が60分、通常の移動に要する時間も60分であれば、その時間は労働時間として取り扱われます。このような場合、別途必要な休憩時間を労働時間の途中で与える必要が生じます。労働基準法第38条の2で定める事業場外労働に関して、労働時間を算定しがたいときは所定労働時間労働したものとみなす、という規定を適用する場合でも休憩を与える必要があります。
一方、直行・直帰の場合は通達(昭和48年11月22日基収第2844号)に次のように定めています。「外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数カ所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が、業務終了の場所と認められる。」
そのため、自宅から最初の訪問先までの時間と最後の訪問先から自宅までの時間は通勤時間として取り扱うことが可能なので、最初の訪問先での業務開始から最後の訪問先での業務終了までの間に必要な休憩を与えることになります。ただし、一度会社に集合して現場に向かう場合は、自宅から集合場所までが通勤となるので、集合時刻が始業時刻となります。
POINT休日の移動
本社で行われる月曜日の朝の会議に出席するため日曜日に移動した場合、通達(昭和23年3月17日基発461号)で、「旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」としているため、移動時間が6時間以上に及んだとしても休憩の問題は生じません。
Profile
社会保険労務士 中宮 伸二郎 (なかみや しんじろう)
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。労働法に関する助言を通じて、派遣元企業、派遣社員双方に生じやすい法的問題に詳しい。2007年より派遣元責任者講習講師を務める。