多重派遣は禁止されていますが、取引先との契約を派遣契約ではなく業務委託や請負で契約している場合でも多重派遣に該当することがあるのでしょうか。
契約名称にかかわらず実質的に業務委託、請負に該当しないと判断される場合は、多重派遣に該当します。厚生労働省公表「労働者派遣事業に係る行政処分(平成29年8月28日現在)」によると不適切な業務運営により改善命令を受けている派遣元7社中5社は多重派遣の指摘を受け、その多くは業務委託と称する契約により、実態として労働者派遣が行われたとみなされたものでした。
労働者派遣は、派遣先と労働者に雇用関係がなく指揮命令関係だけが存在することです。派遣先が受け入れた雇用関係のない者を第三者の指揮命令を受けて就業させた場合、職業安定法第44条で禁止されている労働者供給事業に該当します。多重派遣は、派遣元・先が重層的に派遣契約でつながっている場合だけではなく、多重請負が偽装請負状態となっている場合も該当します。
前述の厚生労働省発表資料は派遣元の行政処分を公表する資料なので、最終的に供給先がどのような処分を受けているか明らかではありませんが、供給先も労働者供給事業の禁止に違反しているので改善を求められていると思われます。
POINT労働契約申し込みみなし制度との関係
多重請負が偽装請負となっている場合、労働契約申し込みみなし制度の適用を受けますが、その際に労働契約の申し込みをしたとみなされるのは原則として(図の「供給元・派遣先」)であり、「供給先」は労働契約の申し込みをしたとみなしません。労働契約申し込みみなし制度が労働者派遣の役務の提供を受ける者としているため、雇用主である「派遣元」と直接契約している「供給元・供給先」が申し込みをしたとみなします。ただし、「供給元・派遣先」と労働者の間で労働契約が成立した後も偽装請負が継続した場合、供給先にも労働契約申し込みみなし制度が適用されます。
- ※労働契約申し込みみなし制度に関しては、Q22もご覧ください。
Profile
社会保険労務士 中宮 伸二郎 (なかみや しんじろう)
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。労働法に関する助言を通じて、派遣元企業、派遣社員双方に生じやすい法的問題に詳しい。2007年より派遣元責任者講習講師を務める。