労働契約法の無期転換制度に備えて各社対応を行っていますが、必ず何か対応をしなければならないのでしょうか。
何も準備しなくてもよい会社もあります。労働契約法の無期転換制度は、原則として、有期労働契約を無期労働契約に転換するだけでそれ以外の労働条件は変更されません。無期転換により時給を月給にしたり、パートタイマーをフルタイムにしたり、限定社員等の異なる雇用区分を新設したりする義務はありません。無期転換にあたり、契約期間以外の労働条件の変更が必要であれば「別段の定め」をすることにより労働条件の変更が可能となるため、各社の必要に応じて無期転換の際の労働条件の変更をあらかじめ就業規則に定めていますが、変更の必要がなければ対応は不要です。
別段の定めが必要となる理由のひとつに適用される就業規則の問題があります。契約社員就業規則の対象者を有期雇用の者に限定している場合、無期転換後に契約社員就業規則を適用できなくなります。その場合、同じ無期雇用の正社員就業規則が適用される可能性があり、そうなると職務が異なっていても正社員と完全に同一な待遇をすることになってしまいます。実際に正社員就業規則が適用されるかどうか個々の事案ごとに判断は異なってきますが、不要な紛争の種を放置することもできないので、長期雇用を前提とした正社員と異なる雇用区分の就業規則を作成することが解決策になります。しかし、配置転換や定年退職等の長期雇用を前提とした制度が現在の契約社員就業規則に定められているのであれば、あえて新しい雇用区分を作らずとも、現在の契約社員就業規則の対象を無期転換者も含むものに改正するだけで足りることもあります。
無期化により自社の制度変更が必要かどうか検討することは必須ですが、その結果、特別な対応をしなくても支障がないこともあります。
POINT最低限のチェックポイント
制度見直しの際に最低限チェックすべきポイントは以下の項目になります。
- 1.定年退職制度
有期雇用には設定しないことが多いので、必要であれば無期雇用化の際に定める。 - 2.配置転換
職務、勤務地の変更が想定される場合、異動の範囲をあらかじめ定める。 - 3.解雇
有期雇用に関する解雇規定を設けず雇止めで対応している場合は、無期雇用化の際に定める必要がある。 - 4.有期雇用特有の制度
期間満了時の退職慰労金等の制度がある場合、無期化に伴う取り扱いを定める。
Profile
社会保険労務士 中宮 伸二郎 (なかみや しんじろう)
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。労働法に関する助言を通じて、派遣元企業、派遣社員双方に生じやすい法的問題に詳しい。2007年より派遣元責任者講習講師を務める。