ペーパーレス化を進める方法とは? 効果やメリットデメリット、成功事例もご紹介

新型コロナウイルスや働き方改革の影響でペーパーレス化を進める企業が増えつつあります。しかし、紙で運用している業務をペーパーレス化することは容易ではありません。この記事ではペーパーレス化の概要やメリット、デメリット、成功事例などを紹介しながら、具体的な進め方や注意点について詳しく解説します。

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ペーパーレス化とは

ペーパーレス化とは紙の書類を電子化することを指します。広義には書籍の電子化や切符のICカード化なども含まれますが、ビジネス上では帳票類や契約書など紙でのやり取りを、OCRやクラウドサービスなどを使って電子化することです。

  • OCRとは、Optical Character Recognition/Readerの略で、光学的文字認識と訳されます。紙の書類をスキャンして文字を自動でテキスト化することです。

ペーパーレス化の現状

日本では法律で紙による保存を義務づけられた書類が多かったのですが、「e-文書法」※1や「電子帳簿保存法」※2の規制緩和で、ペーパーレス化の土壌も整いつつあります。

  • ※1e-文書法とは「電子文書法」ともいい、2005年4月に施行されました。法人税法や商法、証券取引法などで紙による原本保存が義務付けられている文書や帳票を、電子データで保存できるよう認めた法律です。
  • ※2電子帳簿保存法は1998年7月に施行された法律で、国税関係および電子取引に関する書類が対象です。2020年4月に改正されて、スキャナ保存の要件が追加されたことで、より運用しやすくなっています。

ペーパーレスは新型コロナウイルス感染症拡大の影響をうけ、テレワークが普及したことでさらに関心が高まっています。内閣府が2020年6月に発表した資料によると、テレワーク経験者の約4割がその利用拡大のために「書類のやりとりを電子化、ペーパーレス化」が必要と答えています。

参考:新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査|内閣府

また2020年6月政府は電子契約について見解を示しました。Q&A形式の文書ではあらためて契約書には押印が不要であると記載され、ますます電子化、ペーパーレス化は促進されそうです。

Q1.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。
私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。

参考:契約における押印の見直し|経済産業省

働き方改革とペーパーレス化

働き方改革を推進するうえでもペーパーレス化は避けて通れません。では、ペーパーレス化によって働き方改革をどのように進められるのでしょうか?

生産性の向上

ペーパーレス化の意義は紙を減らすことのみならず、それにより不要な業務を減らすことです。受発注伝票などの紙の帳票類や勤怠管理シートなどを手でシステムに入力しているケースは少なくありません。ペーパーレス化によってこれまで時間を割いていた事務処理を効率化でき、コア業務に時間をあてられるようになります。

テレワークの推進

ペーパーレス化によって自宅やサテライトオフィスなど離れた場所でも書類を確認できるようになります。

テレワーク下では取引先からのFAXを見るために出社する「FAX出社」も行われています。インターネットFAXなどの導入によりペーパーレス化が進めば、その必要もなくなりテレワークを推進しやすくなるでしょう。

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オンライン入社とペーパーレス化

新型コロナウイルス感染症拡大にともない、入社手続きをオンラインで完結させるケースも増えつつあります。クラウドサービスなどを活用することで入社手続きのペーパーレス化が可能です。

クラウドサービスでは雇用契約の締結から社会保険の電子申請などをインターネット上で行えます。契約更新も一元管理できるため、更新漏れなどのミスも抑制する効果がありそうです。

このように今後、採用業務をはじめとする人事領域においても、いっそうペーパーレス化が進むと予想されます。

ペーパーレス化のメリット

ペーパーレス化が進むのはメリットが多いためです。代表的なペーパーレスのメリットをご紹介します。

コスト削減

ペーパーレス化の大きなメリットとしてコスト削減があげられます。紙の印刷に関わる用紙代やインク代、キャビネットなどの費用や管理コストの削減も可能です。オフィスの省スペース化にもつながり、空いたスペースの有効活用も期待できます。

業務効率のアップ

ペーパーレス化によって業務効率のアップや生産性向上が期待できます。会議で紙をなくせば印刷や製本などの手間も不要です。

1.教育、研修業務の効率化

社内研修をペーパーレス化しオンラインにすれば、テレワーク中も研修を受ける環境を整えられますし、業務効率化にもつながります。

2020年4月から始まった同一賃金同一労働で、派遣元の求めがあれば派遣社員に対しても教育訓練を実施するよう措置を講じなければならなくなりました。ペーパーレス化を進め、モバイル端末などを利用することで手軽に教育訓練を実施できます。

参考:厚生労働省|平成30年労働者派遣法改正の概要<同一労働同一賃金>

2.各種届け出業務の効率化

人事関係の官庁への申請や届出、社会保険関係の申請もペーパーレスによる電子申請が推奨されています。2020年9月7日の日経新聞には労使協定書類の押印廃止についての記事が掲載されました。

労使協定書類の押印廃止は、協定の重要性からも労働者代表の押印が必須であったため、人事担当者としては驚きの内容だったのではないでしょうか? 政府もペーパーレス化を推進し、企業の業務効率化を後押ししています。

参考:日本経済新聞|労使協定書類の押印廃止
参考:労働基準法に基づく届出等における 押印原則の見直しについて|厚生労働省

資料の検索性の向上

スキャンした紙資料をOCRなどでデータ化すれば、データの検索もしやすくなります。OCRにかけなくても、クラウドストレージなどにPDFとして保存しておけば、社外からでも必要な書類にどこからでもアクセスできるため、テレワーク時でも業務効率が落ちません。

セキュリティ対策

紙の書類は紛失、漏えい、劣化のリスクがともないますが、データ化することでこれらのリスクを抑制できます。データ化することで、アクセス権限をコントロールできると同時に、アクセスログを残すことができるため、セキュリティを高められます。

またデータ化した書類は複製や復元も容易なため、バックアップを残すことで万が一に備えられます。

SDGsなど地球環境への配慮

紙を減らすことでSDGsなどをはじめとした地球環境保護の取り組みにつながります。取り組みの一環として企業のPRやブランディングにつなげている例も少なくありません。

行政もペーパーレス化(電子化)を進めています。政府は「ジャパンSDGsアワード」を開催してSDGsを推進し、電子申請や電子申告を推奨しています。

参考:ジャパンSDGsアワード|外務省

ペーパーレス化のデメリット

メリットが多い一方で、ペーパーレスには下記のようなデメリットもあります。

導入や運用のコスト

ペーパーレス化のデメリットとしては導入コストがあげられます。複合機やモバイル端末、クラウドサービスの導入などがペーパーレス化の推進には必要です。

いずれも導入コストや運用コストが必要なため、費用対効果をあらかじめ算出しておくとよいでしょう。コスト的に厳しいときは部分運用からはじめるという方法もあります。

一定のITリテラシーが求められる

クラウドストレージなどのITツールには一定のITリテラシーが求められます。ベテランの従業員のなかにはITに不慣れな人も少なくないため、導入研修やマニュアルの整備などの対応策を講じる必要があります。

可能であれば、紙での運用と並行してペーパーレス化をすすめるなど、導入後の混乱を避ける配慮も重要です。

機器の障害などのリスク

ファイルサーバーやクラウドストレージであってもIT機器やサービスには障害のリスクがあります。障害が発生した場合はその期間中データにアクセスできなくなる恐れがありますので、万が一に備えてバックアップ体制は整えておく必要があります。

資料の閲覧性が下がる

書類の書式や閲覧する機器によっては、かえって情報が見にくくなる可能性もあります。とくにモバイル端末のディスプレイは大きさも限られるため、スクロールしないと書類を見られない場合もあります。

また、文字数の多い書類などは目も疲れてしまうため、結局紙で出力することも珍しくありません。

業務によっては効率が落ちる

ペーパーレス化する業務によっては、効率が落ちることも考えられます。紙の書類はメモしやすいですが電子データはしにくいので、校閲などが頻繁に生じる場合は効率が落ちがちです。

また手書き帳票などはOCRの読み取り精度に限界があり、後から手直しが必要になる場合もあります。

ペーパーレス化の方法

次に、ペーパーレス化するための具体的な方法をご紹介します。社会的に関心が高いこともあり、様々なサービスが登場しています。

電子化代行サービス

紙の書類をスキャンしたりデータ入力したりすることで、電子化してくれるサービスです。ペーパーレス化には過去文書の電子化も必要です。通常業務をこなしながら対応するには負荷が大きい場合は、業務効率を下げないために、電子化代行サービスの利用が有効です。

AI OCRやRPA

近年、AI技術とOCRを組み合わせた「AI OCR」というサービスも提供されています。AI OCRでは従来までのOCRでは難しかった手書き帳票の文字認識率が大きく向上しています。またRPAと組み合わせることで、手書き帳票のシステム入力が半自動化できます。

  • RPAとは、Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略で、パソコンで行う定型業務をソフトウェアロボット(プログラム)で自動化する技術です。

クラウドサービス

ペーパーレス化に役立つさまざまなクラウドサービスも提供されています。

1.クラウドストレージ

データをクラウド上に保存・共有できる「クラウドストレージ」を利用すれば、PDFなどを社外からでも閲覧できます。アクセス権限の設定もできるため、セキュリティも高められます。

「どこでもサービスを利用できる」利便性の高さは大きな魅力といえるでしょう。テレワークで問題になりがちなVPNがつながらないといった課題も回避できます。

  • VPNとは、Virtual Private Networkの略で、仮想専用線と訳されます。社外から社内のネットワークに安全にアクセスするため、通信を暗号化する方法です。
2.バックオフィス業務のクラウドサービス

経費精算や労務管理、電子契約など、バックオフィス業務をクラウド化できるサービスも提供されています。

ワークフロー管理ができるサービスもあるので、稟議の承認ルートを社内の決裁権限にあわせて設定すれば、どこで書類が承認待ちになっているかをリアルタイムに確認でき、紙で管理するよりも業務効率がアップします。

3.クラウド校正ツール

自動で文章をチェックしてくれるクラウドの校正ツールを使えば、資料やパンフレットの校正もオンラインで可能です。制作会社とのやり取りも手書きやFAXを使う必要がないため、効率化できます。

校正した原稿の世代管理が可能なシステムもあり、校了までの過程でトラブルが起きたときにも対応できます。

ペーパーレス化の成功事例

これまで説明してきたように、ペーパーレス化はきちんと導入・運用できれば大きなメリットがあります。実際にペーパーレス化を導入し、成功した事例を3社ご紹介します。

コニカミノルタジャパン株式会社

コニカミノルタジャパン株式会社は従業員と組織に最適な「いいじかん」のためにテレワークを推進しています。

経営トップが旗振り役になり、ペーパーレス化にも積極的に取り組んでおり、2016年には「保管文書ゼロ化」の運用をスタートしました。結果、2014年から2018年にかけて社内保管文書は88%削減、1人あたりの月間印刷枚数15%削減に成功し、日本テレワーク協会が開催する第20回テレワーク推進賞を受賞しています。

さらに2020年8月には電子請求サービスへの移行を発表しています。このようにペーパーレス化を推進し、そこで得たノウハウをもとに、顧客に対してペーパーレス推進の提案を行うなど、事業活動にも活用しています。

参考:コニカミノルタジャパンの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策・対応について|コニカミノルタジャパン株式会社

TRIPORT株式会社

TRIPORT株式会社は従業員のライフスタイルを重視し、テレワークなどに積極的に取り組んでいます。その実績は「輝くテレワーク賞」特別奨励賞受賞をはじめ、テレワーク先駆者100選や東京ライフ・ワーク・バランス企業に認定されるなど、高く評価されています。

同社のテレワークを支えるのがクラウドストレージや勤怠管理、電子契約などのクラウドサービスを活用したペーパーレス化です。クラウドサービスを上手く活用しテレワークしやすい環境を実現しています。

ペーパーレス化によって情報漏えいのリスク低減、かつ各種コスト削減が進みました。生産性も向上し、経常利益率15%以上を達成しています。

参考:『テレワーク推進賞(日本テレワーク協会)』実践部門において「優秀賞」を受賞致しました。|TRIPORT株式会社

日本電気株式会社

日本電気株式会社は2017年にテレワークガイドラインを制定するなどテレワークに力を入れており、日本テレワーク協会が開催するテレワーク推進賞を受賞しています。

2020年4月の緊急事態宣言下ではグループ企業、パートナー企業を含め6万人以上がテレワークを実施。押印に関する課題を解決するため、社内システムを活用し承認の電子化を進めました。

同社は今後もITを活用し、テレワークを軸としながらもニューノーマル時代の新たな働き方を実現していくとしています。

参考:NECグループが実践する働き方 緊急事態宣言で6万人が一斉にテレワークへ移行|日本電気株式会社

ペーパーレス化のステップとポイント

では実際にどのような手順でペーパーレス化をすればいいのか、ポイントを交えて解説します。

1ペーパーレス化の意義や目的の明確化

ペーパーレス化を進めるうえで必要なのは、その意義や目的を明確にすることです。目的が明確でないと従業員の理解が十分得られず、せっかく導入した仕組みもうまく活用されません。

コスト削減目標や業務改善目標などを部署ごとで具体的に決めると、社員の意識も共有でき行動につながりやすくなります。

2ペーパーレス化する業務や文書の特定

すべての業務や文書を一律にペーパーレス化するのではなく、その範囲や優先順位を決めて進めましょう。ペーパーレス化にはコストも労力も必要ですので、まずは業務プロセスなどの見なおしが重要です。

業務プロセスを見なおすなかで、ペーパーレス化による効果が見込めそうな業務から推進していくとよいでしょう。

3電子化された文書の運用ルールの策定

ペーパーレス化を推進する際、電子化された文書をどう扱うかというルールを決めることも重要です。キャビネットは不要になりますが、記録のためのサーバー容量は必要です。文書の保存期間や保存するフォルダ、アクセス権限などのルールを定めることが望ましいでしょう。

法定文書など保存期間の明確なものは、紙媒体の管理と同様に定期的に破棄し整理するなど、ルールを定めると運用しやすくなります。

4従業員や取引先への周知

ペーパーレス化の意義や目的、ルールなどが決まったら、従業員や取引先へ周知しましょう。世の中全体でペーパーレス化が進みつつあるとはいえ、取引先などに対しては移行期間を設けるなど配慮が必要です。

ITツールが苦手な従業員に対しては、研修をしたりマニュアルを作成したりするなどの対応を検討して、円滑に導入できる体制を整えましょう。

5過去文書の電子化

意外と手間がかかる過去文書の電子化。新規に発生する書類だけでなく、過去の書類もペーパーレス化しなければ業務改善にはなりにくく、効率アップも期待するほどの効果があがりません。

とはいえ、業務文書は多種多様で膨大な量です。電子化する際には、AI OCRや代行業者などを活用する方法も有効です。

まとめ

働き方改革や生産性向上に効果が見込めるペーパーレス化。推進したい企業は多くありますが、実際に取りかかると思いのほか負担が大きいものです。社員への周知不足で運用を開始しても、結局印刷して各自で文書を保管しているという事例も耳にします。それではペーパーレス化の意味がありません。

ペーパーレス化することで効率アップを見込める分野からピンポイントで導入し、社員の理解を得ながら範囲を拡大していくのも円滑にすすめる方法のひとつではないでしょうか。

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