働き方改革とは?背景や目的、いつから何をすべきなのかをわかりやすく解説

2018年6月に成立した「働き方改革関連法」が、2019年4月から順次施行されていきます。目前に施行を控えた今、改めて働き方改革関連法とは何か、人事担当者として、いつまでに何をするべきかを解説します。疑問を抱きやすいポイントに関してはQ&Aもまとめましたので参考にしてください。

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働き方改革関連法とは?法令の背景と目的を知っておこう

働き方改革関連法の概要と、法令が成立した背景と目的を改めておさらいしておきましょう。

働き方改革関連法は8本の労働法改正の通称

働き方改革関連法は、関連する8本の労働法の改正を行うための法律の通称です。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といいます。

関連する労働法は以下の通りです。

  1. 1
    労働基準法
  2. 2
    労働安全衛生法
  3. 3
    労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
  4. 4
    じん肺法
  5. 5
    雇用対策法
  6. 6
    労働契約法
  7. 7
    短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
  8. 8
    労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

働き方改革関連法成立の背景と目的

現在の日本は、少子高齢化に伴う生産年齢人口(15歳~64歳)の減少や、育児や介護との両立による働くニーズの多様化などの状況に直面しています。長時間労働や正規と非正規にみられる雇用形態による格差など、解決すべきさまざまな課題を抱えています。

「働き方改革関連法」はこうした現状を背景に、わが国で働くすべての人がそれぞれの事情に応じて、多様な働き方を選択することができる社会を実現し、一人ひとりがよりよい将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

まずはこれだけ!知っておくべき2つの柱と5つの項目

働き方改革関連法で取り組むべき内容には、大きく2つの柱があります。1つは「長時間労働の是正、多岐で柔軟な働き方の実現等」、もう1つは「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」です。それぞれの改革を推進するための措置が具体的に盛り込まれ、遵守できない場合は罰則となる厳しい規定も設けられています。

この2つの柱を実現するため、特に重要な5つの項目をピックアップし解説します。

年5日の年次有給休暇の確実な取得

働き方改革関連法のうち、まず対応を迫られる一つなのが「年5日の年次有給休暇の確実な取得」です。年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、年5日の年次有給休暇を確実に取得させなければなりません。対象となる労働者には管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。達成できなかった場合には30万円以下の罰金となっています。まずは対象となる労働者が自社にどのくらいいるのかを把握することから始めましょう。

時季、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした「年次有給休暇管理簿」の作成と保管も必要です。保管期間は当該年休を与えた期間中および当該期間の満了後3年間となっています。

なお、ここで忘れてはならないのが就業規則への記載です。年次有給休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項にあたり、時季指定の対象となる労働者の範囲および時季指定の方法等についての記載はマストです。記載がない場合は30万円以下の罰金となっています。中小企業の中には就業規則の内容が曖昧だったり、就業規則自体がなかったり、法規の改正を取り入れていない企業もあるようです。その場合、施行までに就業規則の見直しも必要です。

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労働時間の客観的な把握

管理監督者を含むすべての労働者(裁量労働制適用者も含む) に対して、労働時間の実績を客観的に管理・把握することが義務付けられます。2017年1月に厚生労働省が発表したガイドラインによると、始業・終業時刻の確認および記録の原則的な方法として、「使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること」または、「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」を求めています。

従来ある出勤時の押印など自己申告による方法も、客観的に管理・把握することが難しい場合において可能ですが、十分な説明や必要に応じた実態調査の実施などの措置が必要となります。なお、労働時間の記録に関する書類についても3年間の保存が必要です。

時間外労働の上限規制の導入

残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできなくなります。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)という制限が設けられました。原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月までです。

最初に着手すべきは、やはり現状把握です。従業員の時間外労働時間を洗い出して、法規制に抵触する人がいないかどうかをまず確認しましょう。従業員の時間外労働を洗い出すことで人事としてチェックすべき人や部署が見えてきます。具体的な対象が特定できたら、該当の人や部署に伝えて業務を見直し、話し合いながら対策を講じて施行に備えます。

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産業医・産業保健機能の強化

組織規模が50人以上の会社が対象になります。産業医に関する法律(改正安全衛生法13条の3)が改正され、事業者は、労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の必要な措置を講ずるように努めなければなりません。実施できない場合、これまでは労働基準監督署からの指導勧告程度だったのですが、今回の法改正により厳しくなり指導勧告を破って摘発された場合、社名の公表等もあり得るので要注意です。

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同一労働同一賃金の実現(不合理な待遇差を解消するための規定の整備)

正社員と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間の不合理な待遇差を禁止した法令です。待遇の範囲は、賃金、賞与、各種手当て、昇給など金銭的な面だけでなく、教育訓練や福利厚生(社食や更衣室等も含む)、休日・休暇なども含まれます。

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5項目以外に新たな制度の導入もチェック

働き方改革関連法には、上記5項目以外にもさまざまな内容が含まれています。人事担当者として、労働環境の変化を知っておくため、チェックをしておきましょう。

  • 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
    年収1075万円以上の高度専門職を労働時間規制から外して、新たな規制の枠組みが創設されます。
  • フレックスタイム制の拡充
    労働時間の調整が可能な期間(清算期間)が1カ月から3カ月になります。これにより、フレックスタイム制を柔軟に活用できるようになります。
  • 勤務間インターバル制度の導入
    1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みの普及促進が盛り込まれました。
  • 月60時間超の残業の割増賃金率の引上げ
    月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率に関して、中小企業には猶予措置がありましたが、2023年4月に廃止されます。これにより割増率は25%から50%になります。
  • 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
    非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自分の待遇について説明を求めることができるようになります。
  • 行政による助言・指導等や行政ADRの規定の整備
    都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きの実施。裁判外紛争解決手続(行政ADR)を整備して、「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても対象となります。

大企業と中小企業では適用時期が違う項目があるので注意

2019年4月1日から順次施行されていく働き方改革関連法ですが、大企業と中小企業では施行の時期が異なる項目があります。中小企業と大企業の分け方や時期は、以下の表を参考にしてください。

働き方改革関連法の主な内容と施行時期

年次有給休暇5日の取得義務化 2019年4月
労働時間の把握強化 2019年4月
時間外労働の上限規制の導入 2019年4月
中小企業は2020年4月
産業医・産業保健機能の強化 2019年4月
中小企業の割増賃金率の猶予措置廃止 2023年4月
同一労働同一賃金の実現 2020年4月
中小企業は2021年4月
高度プロフェッショナル制度の創設 2019年4月
フレックスタイム制度の拡充 2019年4月
勤務間インターバル制度の導入(努力義務) 2019年4月

中小企業の定義

  中小企業者
(下記のいずれかを満たしている)
業種 資本金の額または出資金の総額 労働者数
小売業 5000万円以下 50人以下
サービス業 100人以下
卸売業 1億円以下
それ以外 3億円以下 300人以下

*個人事業主や医療法人など資本金や出資金の概念がない場合は、労働者数のみで判断することになります。

働き方改革関連法に関するQ&A

「働き方改革関連法」は8本の労働法改正に関することから、その内容も多岐にわたり、わかりにくいことも……。特定社会保険労務士の嘉瀬陽介さんによくある質問を伺いました。

Profile

嘉瀬 陽介氏
特定社会保険労務士 嘉瀬特定社会保険労務士事務所 代表

横浜国立大学卒業。2003年社会保険労務士事務所開業後、2006年に特定社会保険労務士の附記を受ける。労務管理をテーマにした経営者向けセミナー講師や『会社の労務』(日経BP社)の執筆など活動は多岐にわたる。

Q.勤怠管理を行う際、デジタルシステムを導入しないといけないのでしょうか?
A.
勤怠管理のために、特別にデジタルシステムを導入しなければいけないという義務はありません。しかし、打刻忘れや提出漏れなど、管理の煩雑さや帳簿類の保管等を考えると、今回の施行を機に業務ソフトなどを使って管理の効率化に取り組むことも一つの方法かもしれません。
Q.時間単位の有休や特別休暇は「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象でしょうか?
A.
対象外です。厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署の解説をみると、「その他の年休等」として、計画年休・半日単位年休・時間単位年休・特別休暇の4種類を挙げた上で、「時間単位年休及び特別休暇は、2019年4月から義務付けられる『年5日の年次有給休暇の確実な取得』の対象とはなりません」としています。
Q. 従業員の入社日がバラバラで、起算日の管理が大変です。「年5日の年次有給休暇の確実な取得」を速やかに行うにはどうすればいいでしょうか?
A.
年次有給休暇の付与日を1つにまとめるという方法があります。例えば、入社日に関わらず、1月1日や4月1日など付与日を決めて一斉付与することで、統一的に管理することが可能となります。入社の日が浅い労働者に対しても一斉に付与されることになりますが、管理の煩雑さを簡略化し効率を上げるためには有効です。同様に、入社が月の途中であっても、基準日を月初などに統一することで管理の効率化を図ることが可能です。ただし、労働基準法第39条に規定された年次有給休暇の付与要件を上回る条件で年次有給休暇を付与する必要があります。
Q. 最近話題のテレワークは、働き方改革関連法に関連しているのでしょうか?
A.
テレワークとは、「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」で、従業員にとっても企業にとっても多くのメリットが考えられます。今回の働き方改革関連法では直接取り上げられてはいませんが、厚生労働省でも推進しており、総務省と連携したガイドブックもありますから、導入を検討する価値はあるでしょう。

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まとめ

今回の働き方改革関連法には取り組むべき項目がいくつもあります。人事担当者がまず取り組むべきは、4月1日に施行され、対応が求められる項目を押さえるとともに、自社の労働環境の現状をきちんと把握しておくことです。押さえるべき項目や就業規則の見直し、法令の対象者となる労働者の把握など、自社の労働環境を明確にすることで、講ずべき対策も見えてくるでしょう。

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