いま、派遣社員の活用を再評価する企業が増えています。労働力不足が深刻化するなかで、派遣社員の戦略的活用は、企業の生産性向上と持続可能な成長のカギを握っています。現在、派遣社員を活用中の企業からは、「派遣社員のモチベーションをもっと高めたい」「優秀な派遣社員を長期的に活用する方法が知りたい」といった声が聞かれます。
一方、これから派遣社員の活用を検討している企業では、「正社員と派遣社員の待遇バランスはどうすべきか?」「法令に則った運用ができるか不安だ」という課題が挙げられています。
これらの課題を解決し、派遣社員活用の可能性を最大化するための重要な制度として挙げられるのが「同一労働同一賃金」や「無期転換ルール」です。本記事では、制度の基本から具体的な事例、そして実務への応用方法までを詳しく解説します。
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Ⅰ 同一労働同一賃金:派遣社員の待遇改善がもたらす価値
制度の目的と基本構造
「同一労働同一賃金」の目的は、正社員と非正規雇用者(派遣社員や契約社員など)の間に存在する不合理な待遇差を解消することです。 派遣社員に関しては、派遣法に基づき、派遣会社が「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかを採用し、派遣先の通常の社員と比較して不合理な待遇差を是正し、公正な賃金体系を整えることが求められています。
(1)派遣先均等・均衡方式
① 不合理な待遇差の禁止(均衡方式)
派遣会社は、派遣社員の基本給や賞与、その他の待遇について、派遣先の通常の社員と比較して、不合理と認められる相違を設けてはなりません。不合理かどうかは、以下の要素を考慮して判断されます。
- 職務の内容
- 職務内容および配置変更の範囲
- その他の事情
これらを総合的に評価し、公平な待遇が求められます。
② 差別的取扱いの禁止(均等方式)
派遣社員の職務内容および配置変更の範囲が派遣先の通常の社員と同一である場合、基本給、賞与、その他の待遇について差別的に扱うことは許されません。同一の条件下では、派遣社員も派遣先の通常の社員と同じ待遇を受ける権利があります。
(2)労使協定方式
派遣会社が労働組合または過半数代表者と締結した協定に基づき、待遇を決定する方式です。同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金以上を保証することが求められます。
施行の取り組み状況
令和5年の厚生労働省の調査では、同一労働同一賃金が施行されてから、「同一労働同一賃金に取り組んでいる」、もともと「待遇差はない」、または「異なる雇用形態が存在しない」と答えた企業が90%を占めました。今後の雇用条件による格差是正の行方が注目されます。
Ⅱ 無期転換ルール:派遣社員の長期活用を可能にする仕組み
制度の概要
無期転換ルールは、有期雇用契約が通算5年を超えた場合、派遣社員の申請により無期労働契約への転換を申し出る権利を保障する制度です(労働契約法18条)。
<派遣社員の無期転換の促進について>
いわゆる派遣法の3年ルールにより、派遣先に同一の派遣社員をそれ以上の期間受け入れたいニーズがある場合には、派遣会社がその派遣社員を無期雇用に切り替えるケースがあります。また、派遣期間終了後に、派遣先に直接雇用を求めるケースもあります。
一方で、労働契約法の5年ルールでは、派遣社員の有期雇用契約が通算5年を超えた場合に、派遣社員からの申し出により無期雇用契約に転換することができます。派遣社員の無期雇用化を促進するルールであるといえます。
引用・出典:厚生労働省「安心して働くための『無期転換ルール』とは」
具体事例: 無期転換の成功事例
JR東日本グループの旅行会社として旅行業や観光事業を担う企業様では、現場で経験を積んできた有能な派遣社員を継続的に活用し、上質なお客さまサービスを維持するため、派遣社員の無期転換ルールを積極活用し、派遣社員を中核人材として育成。プロジェクトの成功率向上や社員満足度の向上を実現しました。詳細は以下からご覧いただけます。
Ⅲ 派遣会社が提供するサポート
これらの制度や労働法制を遵守し人材を活用するうえで、派遣会社は下記のサポートを提供します。
1. 契約開始に向けた待遇設計と法令遵守の支援
- 業務や期間に合わせた適切な人材の派遣
- 「同一労働同一賃金」の実現に向けた、派遣社員の待遇設計に関するアドバイス
- 必要書類の作成や手続きの代行
2. 教育訓練の提供
- リスキリングプログラムを通じた即戦力育成
- 長期雇用に向けたキャリア形成支援
3. 運用の効率化
- 勤怠管理・給与計算のデジタル化による効率化
- 法令対応に必要な業務負担の軽減
Ⅳ 次の一手:派遣社員活用の未来へ
このように、同一労働同一賃金と無期転換ルールは、公平な待遇と安定した雇用環境を生み出し、企業の人材活用に新たな可能性をもたらします。こうした制度のうえで人材を活用し、企業の競争力を高める未来志向の戦略を構築しましょう。
Profile
<著者略歴>同志社大学大学院法学研究科修了。2002年弁護士登録(東京弁護士会)。
「2024年版 年間労働判例命令要旨集」(共著、労務行政研究所)、「ハラスメント対応の実務必携Q&A─多様なハラスメントの法規制から紛争解決まで─」(共著、民事法研究会)等を執筆。「ビジネスガイド」等、専門誌への寄稿多数。