採用マーケティングは、人材の獲得競争が激しくなっている中で、昨今注目されている概念です。
マーケティングのプロセスを採用活動に応用することで、より効果的かつ戦略的な採用を行えます。採用マーケティングではどのような手法やプロセスが行われるのでしょうか? 本記事では事例も交え詳しく解説していきます。
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採用マーケティングとは
採用マーケティングとはいったいどのようなものなのでしょうか。採用マーケティングの概要や、要素を見ていきましょう。
採用マーケティングとは
採用マーケティングとは、従来のビジネスにおけるマーケティングのプロセスや概念を採用活動に当てはめたものを指します。採用したいターゲット人材に刺さる訴求メッセージを的確に発信することで戦略的な採用を実現していきます。
また、イベントなどのオフライン活動だけでなく、データやデジタルツールを利用することも特徴だといえるでしょう。
採用マーケティングにおけるファネルとは
マーケティングにおいては「ファネル」という考え方が重要です。ファネルとは「漏斗」のことで、代表的なものは消費者の購買までのプロセスを可視化した「パーチェスファネル」と呼ばれるもの。
これらを採用プロセスに当てはめると認知、興味・関心、応募・選考(比較・検討)、内定承諾(購入)となります。
この各プロセスにおいて、どのような手法でアプローチするかを検討することが大きなポイントだといえるでしょう。
採用マーケティングにおけるチャネルとは
マーケティングにおける「チャネル」とは分かりやすくいうと「アプローチ手法」のことを指します。採用プロセスにおけるチャネルは、求人媒体・採用イベント・オウンドメディア・SNS・人材紹介・人材派遣など、多岐にわたります。
採用マーケティングにおいては、この「ファネル」と「チャネル」をいかに組み合わせるか、が重要になるといえるでしょう。
採用ブランディングとの違い
よく採用マーケティングと一緒に使われる言葉として「採用ブランディング」があります。上述の通り、採用マーケティングは、どんな層にどんな手法でアプローチするのかを考える取り組みです。
一方、採用ブランディングは、文字通り自社のイメージを構築していくためのプロセスです。
まず、求職者に「どのようなイメージを持ってもらいたいか」を決めます。それが叶うようなメッセージや表現を検討するのが採用ブランディングの取り組みです。
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採用マーケティングが注目される背景
平成 27 年の厚生労働省による調査では、「一般労働者がいる事業所」のうち、「転職者がいる事業所」割合は 35.7%となっており、現在ではさらに増えていると推測されます。
転職者が具体的に転職活動を始めてから直前の勤め先を離職するまでの期間は、「1か月以上3か月未満」が 27.2%、「転職活動期間なし」が 25.8%、「1か月未満」が 19.3%と比較的短期間で就職先を見つけていることが分かります。
調査結果のように、転職は近年では一般化しており、雇用市場では流動化が進んでいるといえるでしょう。
データなどを活用し、より一層スピード感を持って採用活動を展開することの必要性から、採用マーケティングが注目されているのです。
これまでとは異なる採用マーケティングのスタンス
従来の企業における採用活動は、比較的「企業側が候補者を選別する」という色が濃いものでした。採用マーケティングではこのような従来のスタンスとは異なり、「いかにして優秀な候補者に自社を選んでもらうか」という、マーケティング的な視点がより重要になります。
言い換えれば、ターゲット像をより明確にし、ターゲット人材のニーズを理解しなければならないということでもあります。ターゲット人材に的を絞って訴求することで、企業と候補者が互いに理解しあえマッチング精度を高められるのです。
候補者とのマッチング精度を高めることは、内定辞退や将来の早期離職を防ぐことにもつながります。
採用マーケティングのメリット
採用マーケティングのメリットには、どのようなものがあるのでしょうか? 3つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
ターゲット人材からの応募が増やせる
従来の採用活動に比べ、採用マーケティングのプロセスでは、とくにターゲット人材に刺さるようなメッセージ発信や訴求を行うことが特徴です。このため、訴求が成功すれば自然に母集団におけるターゲット人材の含有率が増加する傾向にあります。よりターゲットとしている人材を採用しやすくなるといえるでしょう。
事前にペルソナを設計するためマッチ度を高められる
ペルソナとは、ターゲットの年齢や志向などの属性を具体的に想定したものです。通常のマーケティング活動において、ターゲット顧客のペルソナを設定して販売活動が行われるように、採用マーケティングにおいても、採用したい理想的な人材のペルソナを設定します。
ペルソナを設定した上で採用活動を行うことにより、候補者とのマッチング精度も高めやすいといえるでしょう。具体的なペルソナの設定方法などは後述します。
コスト減も見込める
ターゲット人材のペルソナ設定や、ターゲット人材向けに特化した訴求を行い、効果的にアプローチすることで不要なチャネルにおける広告費などを削減できます。また、マッチング率を向上させ離職などが減ることにより、長期的な採用コストや育成コストの削減にもつなげられます。
採用マーケティングで必要な準備
採用マーケティングにはどのような準備が必要なのでしょうか? ステップごとに確認していきましょう。
ペルソナ設定
ペルソナとは、マーケティング活動において使われる手法の一つで、顧客やユーザーの人物像を詳細に描写したものを指します。顧客のターゲット像が複数ある場合は、いくつかペルソナのパターンを設定します。
具体的なペルソナを設定することで、ターゲットが解決したい課題やニーズを浮き彫りにできるのです。ペルソナ設定をすることにより、活用するチャネルや訴求メッセージなどの具体的な施策を考えやすくなるという効果があります。
基本的にペルソナの設定では「一人の人物」を具体的に描写することに注力します。性別、年齢、職種、収入、学歴、社内でのポジション、仕事における課題など個人的な事柄についても設定していきます。
一見仕事とは無関係にも見える個人的な趣味や嗜好なども、ターゲット像の価値観などを明確にすることに役立つため、ペルソナ設定は徹底的に行いましょう。またチーム全体でペルソナを共有することで、ターゲットに関する議論を進めやすくなるといえるでしょう。
一人の人物と記載しましたが、採用したい人物像が複数いる場合は、当然ながら男女別など複数パターンのペルソナを設定する場合もあります。
カスタマージャーニー設計
カスタマージャーニーは、求職者が、どのようなプロセスを経て採用に至るかを明確にしたものです。設定したターゲット人材を採用するには、候補者の認知から内定承諾までの具体的なプロセスを深く理解する必要があります。
情報収集・検討段階・選定段階などカスタマージャーニーにおける各プロセスにおいて、どのチャネルでターゲットと接点を設けるのか、適切なメッセージや訴求は何かを明確にすることが重要だといえるでしょう。
一度カスタマージャーニーを設計した後は、効果検証してPDCAサイクルを回すことが成功の鍵となります。
近年注目される採用マーケティングのチャネル
ITツールの普及などによってさまざまなチャネルが活用されています。採用マーケティングのチャネルを詳しく解説していきます。
- 1ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングは、企業が候補者へ直接アプローチをする採用手法です。
従来、求人媒体に広告を掲載した後、企業は候補者の応募があるまでは待っているのみでした。ダイレクトリクルーティングの場合、企業がデータベースやSNSを通じてターゲットに直接アプローチします。
そのため、従来の採用手法よりもより能動的なアプローチであるという点が特徴的です。企業自ら候補者を探すため、業務における時間や労力の負荷はかかってしまいますが、質の高い母集団の形成も可能です。
- 2リファラル採用
リファラル採用は自社で働いている社員に人材を紹介してもらうことを指します。社員が知り合いなどに声をかけてリクルートする採用の仕組みです。候補者が企業への理解を深めやすいという特徴があります。
日本では少子高齢化が続き、人材の確保が困難になりつつあります。そのような環境下でも、自社の従業員を通じて、理想的な人材にアプローチしやすいのがリファラル採用です。
紹介により採用された場合、紹介者に報酬を出すことで紹介のモチベーションを高められます。
- 3アルムナイ採用
アルムナイ採用とは、自社を退職した人を再度雇用することを指します。いわゆる「出戻り」を企業が奨励するという活動です。企業によっては、正式にアルムナイを奨励し、退職者のつながりであるアルムナイネットワークを支援している場合もあります。
アルムナイ向けのイベントなどを定期的に実施することで、退職後も関係が保たれます。
- 4オウンドメディア・リクルーティング
オウンドメディアは、自社で運用するメディアのことを指します。採用活動に生かす場合、自社で活躍している社員にインタビューしたコンテンツをまとめたりした採用専門メディアを運用することもあります。訴求力を高められるため非常に効果的だといえるでしょう。
オウンドメディアを運営するにあたり、コンテンツを制作・発信する労力はかかってしまいます。その一方で、候補者に自社についてより理解を深めてもらったり、伝えたい採用メッセージをコンテンツで具体的に訴求できたりします。
- 5ソーシャル・リクルーティング(SNS)
SNSも候補者にメッセージを伝える上で有効なツールとなりえます。特に新卒の採用においては、効果を発揮します。ターゲット層にとって使い慣れているツールを活用することは、メッセージ訴求にあたり非常に効率が良いといえるでしょう。
各チャネル一覧
それぞれのチャネルの特徴を一覧にまとめました。
- メリット
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- ダイレクトリクルーティング
- 理想的な候補者に企業が直接アプローチし、やり取りできる。
- リファラル採用
- 従業員が声を掛けることにより現在働いている人員と能力的に近い層にアプローチでき、企業への理解も深めやすい。
- アルムナイ採用
- 退職者との有力なネットワークが構築でき、すでに自社について理解している人材を採用できる。
- オウンドメディア・リクルーティング
- 社員インタビューなどを通じて、自社の特徴を訴求できる。
- ソーシャル・リクルーティング(SNS)
- 候補者にとって馴染みのあるツールで訴求できる。
- デメリット
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- ダイレクトリクルーティング
- 候補者を探す手間と時間がかかる。人材プールにターゲット人材がいるとは限らない。
- リファラル採用
- 社内周知や啓蒙などが必要。採用された場合報酬を出すなど動機付けがあると上手くいきやすい。
- アルムナイ採用
- コミュニティを維持するコストや労力がかかる。
- オウンドメディア・リクルーティング
- コンテンツを作成するコストや労力がかかる。
- ソーシャル・リクルーティング(SNS)
- SNSの種類が多いので全てすべてのカバーをするのは労力がかかる。
- 特徴
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- ダイレクトリクルーティング
- 従来の待ちの採用ではなく、攻めの採用。
- リファラル採用
- スタートアップ・ベンチャー企業でよく行われている。
- アルムナイ採用
- いわゆる「出戻り」の奨励。
- オウンドメディア・リクルーティング
- コンテンツを通じて自社に対する共感を醸成できる。
- ソーシャル・リクルーティング(SNS)
- SNS投稿を積極的に行い、自社アカウントの育成が必要。
採用マーケティングで新たな取り組みに挑戦する企業の事例3つ
採用マーケティングに取り組み、成功している企業の事例を3つ、具体的に解説していきます。
LINE株式会社
LINE株式会社では、「全員が主役の採用」というコンセプトのもと、従来の採用活動を刷新しました。
同社は、OnLINEという人事領域に特化したオウンドメディアを運営しています。このオウンドメディアでは、社員インタビューなどを通じて、事業について知れるコンテンツが充実しています。
イベントやキャンペーンの裏側を知ることもでき、働くイメージをつかみやすい構成が特徴です。
また「リファラル採用」では候補者が入社する確率が、エージェント経由よりも10倍高いという結果となったそうです。このように通常の採用プロセスよりも大きな成果がでたことからリファラル採用の強化を行っています。
採用チームだけでなくコンテンツ制作に長けたメンバーも加えた「採用コミュニケーションTF(タスクフォース)」を発足させ、各部門と採用チームが一丸となって採用活動を行っています。
参考:LINEの採用活動が変わります、「Build Lean and Exceptional Teams」への飽くなき挑戦│LINE
株式会社電通
2020年11月、株式会社電通は、「ライフシフトプラットフォーム」という新しいコンセプトを発表しました。過去に退職した約200名の個人事業主・法人を組織化して、ニューホライズンコレクティブという新会社を立ち上げています。
新しい退職者は、新会社から業務委託で安定的に仕事を請け負う仕組みです。人生100年時代を見据えて、ミドルエイジ以上の人員も、よりフレキシブルに活躍できる仕組みを目指しています。
また同社では、積極的にアルムナイ採用を行っており、採用メッセージとして積極的に発信しています。年齢によって活躍を制限されるミドルエイジ社員のニーズや、企業のニーズを採用マーケティングとしてうまく捉え事業化した好事例であるといえるでしょう。
合同会社DMM.com
同社は採用戦略として、リファラルでの採用率50%を目指す「リファラル50」という施策を推進しています。チャットツールなども駆使し継続的に社員に周知することで、同制度の社内における認知度を高める工夫を行っています。
リファラル採用でよくありがちな「紹介されない」という問題について、マーケティング的なアプローチで改善しているのが特徴です。リファラル採用はそもそも社員への認知が少なく、協力が得られないなどの課題があります。
同社はリファラル採用の普及において、「社員」を対象に社内マーケティングを徹底し、「リファラル50」を達成しています。
採用マーケティングで求められる人事の役割
採用マーケティングにおいて人事に求められるのは、ペルソナ設計やカスタマージャーニーの設計、また施策実行後のPDCAサイクルをしっかりと回すことです。事例にある3社の取り組みは、まさにこうした「上流工程」の取り組みをしっかりおこなった結果であるともいえます。
しかし、現状として人事の業務の中で労務管理や採用事務などの「ノンコア業務」が多くの割合を占めていることも少なくありません。人事部門は従来の仕事のやり方を見なおすことが求められています。
採用マーケティングを確実に進めていくためには、単純作業などの負荷をできるだけ減らし、コア業務に集中することが重要です。採用に関する業務をコア業務とノンコア業務に切り分けた上で、ノンコア業務はアウトソーシングするのも有効な手段でしょう。
アデコの採用アウトソーシング(RPO)
まとめ
採用マーケティングを成功に導くには、適切なペルソナ設定やチャネルの選定が欠かせません。コンテンツ制作など時間も労力もかかりますが、より理想的な候補者を採用できる可能性が高まります。
また、ITツールやデータを使うことで、より効率的な採用プロセスを構築できます。採用マーケティングを取り入れることで、理想的な採用活動に近づくことができるといえるでしょう。
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