電子帳簿保存法とは生産性向上や業務効率化のために、電子データとして帳簿や関係書類の保存を認める法律です。書類の種類によって、保存の方法などが厳密に定められています。
諸外国に比べ電子化が遅れていると指摘されている日本ですが、2021年9月にはデジタル庁を新設、ハンコレスを推進するなど電子化に大きくかじを切りました。電子帳簿保存法の改正もそうした取り組みの一つです。
本記事では、2022年1月に改正された電子帳簿保存法について詳細かつ包括的に解説していきます。ケーススタディも取り上げているので、合わせて理解を深めていきましょう。
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電子帳簿保存法とは
2022年に改正が行われた電子帳簿保存法とは、どのような法律なのでしょうか。概要や対象となる文書、改正の歴史などを紹介します。
電子帳簿保存法の概要
正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。
企業における国税関連書類は、7年間原本保存が必要になりますが、保管には場所もコストもかかります。
そのため一定の要件をクリアすれば、電子保存について認めることにしています。その詳しい要件を定めた法律が通称、電子帳簿保存法です。保存が必要な期間は紙の書類と変わらず7年となります。
電子帳簿保存法は、利便性向上や帳簿の記録水準向上のために1998年に施行されて以来、数回にわたり改正されています。
業務におけるペーパーレスや電子化などの機運が高まったことから、2022年1月に改正されることとなりました。
総務経理部門におけるDXの大きなきっかけとなる法改正だといえるでしょう。
電子帳簿保存法の対象となる書類とは
電子帳簿保存法の対象となるのは下記の3種類です。一つずつ見ていきましょう。
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国税関係帳簿
国税関係帳簿とは税法上、保存が定められている帳簿のことです。帳簿の種類には、売上/仕入台帳・現金出納帳・仕訳台帳などが挙げられます。これらは、紙だけでなく電子データによる保存が認められています。 -
国税関係書類
国税関係書類には、決算関係書類と取引関係書類の二つがあります。決算関係書類は損益計算書・決算書・棚卸表などで、紙だけでなくデータでの保存が認められています。
取引関係書類とは見積書・請求書・領収書・納品書などです。書類をスキャナで読み取って電子化の上、保存することが認められています。 -
電子取引
電子取引とは、Eメールや電子契約システムなどを通じたやり取りです。電子取引の対象となる書類としては、データで取引相手とやり取りしたもののうち、請求書・見積書・契約書・納品書などが挙げられます。こちらは反対に紙での保存も容認されています。
当初、2022年1月からは紙での保存が認められなくなる予定でしたが、政府の方針転換により、2024年までは認められることになりました。ただし、電子化が必須になることは変わりありません。 -
対象外の書類
電子帳簿保存法の、対象外となる書類もあるため理解しておきましょう。対象外となるのは、主に「手書きで作成した書類」となります。
手書きで作成した台帳や見積書などは、電子帳簿保存法の対象にはなりません。電子帳簿保存法の対象となるのは、「電子データ」か「紙の書類をスキャンして保存したデータ」の2種類となっています。
電子データで作成し、印刷して手書きで修正してしまった場合などは対象外となることに留意しましょう。
ビジネスに関連する書類の作成や修正も含めて手書きで行わないような仕組みや体制をつくることが重要です。
電子帳簿保存法における「電子取引」とは
今回の法改正で電子取引は紙での保存が認められなくなります。ではこの電子取引とはどのようなものを指すのでしょうか。電子取引とは、「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引」であるとされています。
EDI(電子データ交換)をはじめインターネットやクラウド、電子メールを通じて交わされる注文書・契約書・送り状・領収書・見積書の授受が挙げられます。
見積書や発注書などはもちろん、必要な備品の購入といった小さな取引から、規模の大きい商取引まで全て含まれるといえるでしょう。
例えば、取引先から電子メールで派遣契約の請求書を受け取った場合は、電子取引に該当します。
また紙の書類をスキャナで読み取り保存する形式のことは「スキャナ保存」と呼ぶため、違いを覚えておきましょう。
電子長保存方法改正の歴史
電子帳簿保存法はこれまで改正が繰り返されてきています。簡単にこれまでの経緯を紹介します。
- 2005年:スキャナ保存が可能に
- 2015年:金額、電子署名などの要件が撤廃される一方、適正事務処理要件※が追加
- 2016年:スマートフォンで撮影した画像も使用可能に
- 2020年:データ改変ができないシステム等で授受する場合、タイムスタンプが不要に
- ※適正事務処理要件とは二人以上の入力体制など、書類の作成・受領から入力における各事務処理を適切に行うために定められた要件です。
デジタル化の推進と技術の進化という背景から、規制緩和が繰り返されており、今後も時世に応じて、改正が見込まれる法律だといえそうです。
令和4年(2022年)1月における改正の内容とは
2022年1月の改正は、電子化におけるさまざまな規制を緩和し、電子化を進めることが大きな骨子となっています。
これまで原則としていた「電子取引における紙の保存」の撤廃のみではなく「電子帳簿保存法対応の事業者」を優先して取り扱う方針を打ち出していることが大きな特徴です。
猶予期間はあるものの、大きな方向転換がなされていると認識する必要があるといえるでしょう。
税務署長の事前承認が不要
改正前は、国税関連の帳簿をデータとして保存する場合には3カ月も前に管轄の税務署へ届け出を行う必要があり、税務署長から事前承認を得なければなりませんでした。
今回の改正で撤廃されることにより、さらに電子化が進めやすくなり、書類管理の利便性が向上するでしょう。
タイムスタンプ付与に関する要件の緩和
現在の要件では、スキャナで読み取って書類を電子データ化(スキャナ保存)する際に、
- 受領者の署名の後、タイムスタンプを「3日以内」に付与しなければならない
と定められています。
今回の改正では、このタイムスタンプの付与が「2カ月以内」に緩和されることとなりました。(電子取引も同様)
タイムスタンプ要件の改正により、定期的にまとめて書類にタイムスタンプを付与するなど業務上でも効率化しやすくなるといえるでしょう。
また、システム上でデータの修正削除履歴が残れば、タイムスタンプの付与そのものが不要になります。
検索機能における要件の緩和
今回の改正で、電子化やスキャン保存したデータを検索するための必須項目が大きく削減されました。
- 年月日
- 金額
- 取引先
の3つのみに緩和されます。
今までは、「日付や金額を範囲指定して検索」、「2つ以上の項目を組み合わせて検索」できる必要がありました。
項目が減ったことで、導入や運用の利便性が高まっているといえるでしょう。
電子取引における出力書面保存の廃止
これまでは電子取引において紙に出力し保存することも代替措置として認められていましたが、原則認められなくなります。
そのため電子取引に該当するやり取りについては電子帳簿保存法の要件に対応する必要があります。
ただし、罰測規定はありません。また、この措置は「2024年まで」猶予されています。
ですが、廃止になることには変わりないため、長期的な見通しをもって、電子データの保存を前提にシステムやルールを整備していくことが重要だといえるでしょう。
参考・出典:電子帳簿保存法、電子保存に2年の猶予 施行1カ月前の省令改正
適正事務処理要件の廃止
2022年1月の改正では、適正事務処理要件が廃止されます。「適正事務処理要件」とは、不正防止などのために適切に電子化したデータを保存するための手続きの要件を定めたものです。
これらの条件には、
- 社内規定の整備
- 定期検査
- 相互けん制
といった項目がありました。
今回の改正では、上記の条件をクリアするために必要だった定期検査のための原本保管が不要になります。
また2名以上必要とされていた作業を1名でも対応可能となります。
システムにおける検索保存要件の緩和と優良保存認定制度
法改正前は、電子帳簿における保存要件が厳格に定められていました。改正後の法令では、「簿記の正規原則」に従い、以下の3つを満たせばデータを保存できるようになります。
- システム関連書類(システムの説明書やマニュアル)を備え付けること
- 保存場所にパソコンやマニュアルを備え付け、速やかに出力できる状態であること
- 税務署の求めに応じ、電子化やスキャンしたデータを速やかにダウンロードできること
また、従来通りの要件を満たす事業者については、国税関係帳簿に申告漏れがあった場合にも過少申告加算税が5%軽減されます。
電子帳簿保存法に対応する必要性
なぜ電子帳簿保存法に対応する必要があるのでしょうか。対応の必要性や背景をよく理解した上で効果的に導入運用に取り組んでいきましょう。
電子化による生産性向上
働き方改革の推進や、新型コロナウイルス感染症の流行によりワークスタイルが大きく変わってきています。
リモートワークが急速に広まり、押印や書類を取りに出社することは非効率だという認識も広まりつつあるといえるでしょう。電子データで帳票を保存することにより、業務が効率化されて生産性が高められます。
紙保存がNGに。企業における帳票保存が根本的に変わる
電子取引において、電子データなしで紙のみの保存が認められなくなることは大きな変更であるといえるでしょう。
罰測は見送られたものの、今後の改正で罰測が追加される可能性はゼロではありません。また今後、他の書類にも対象範囲が広がる可能性もあります。比較的頻繁に改正されている法律であるからこそ、中長期的な見通しが重要です。
社内全体において紙文化に対する認識を改める必要が出てくるといえるでしょう。見積書・請求書・領収書・納品書など、電子取引として処理されるものは電子帳簿保存法に対応する必要があります。
ペーパーレス化によるコスト削減
紙でのやり取りを電子化することで、コスト削減にもつながります。例えば、契約書を電子化することで、印紙代や郵送代、紙の書類の保管費用などを削減可能です。
また、紙での保管に比べて検索しやすくなるなど、業務において生産性が向上するといったメリットもあります。
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人事が対応すべきこと
電子帳簿保存法改正に当たり、人事が対応すべきことにはどのようなものが挙げられるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
取り扱っている取引や書類を分類する
まずは、人事部門で取り扱っている取引を整理し、書類の内容や取引形態(紙か電子か)を分類するところから始めてみるのが良いでしょう。
人事部門で取り扱う書類や電子取引には以下のものが挙げられます。
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従業員の経費精算
交通費や出張費など、ビジネス活動に伴う費用の経費精算が挙げられます。
経費精算システムを導入して全て電子的に記録を保存している企業もあれば、帳票を印刷して領収書などの添付を従業員に義務付けている企業もあるでしょう。 -
雇用契約書、労働契約書
雇用契約書や労働契約書を従業員と結んでいる場合は、これらの契約書も対象となります。電子契約システムを導入している企業以外は、紙で発行し押印している場合が多いでしょう。 -
派遣社員に関わる契約書・見積書・請求書
派遣社員を雇用する際に発生する契約書・見積書・請求書も対象となります。
派遣社員の雇用は短期間から長期間までさまざまであり、派遣会社などとも比較的頻繁にやり取りが発生する取引といえるでしょう。
重要度や頻度から優先順位付け
上記の中で、頻度の高いものや金額の大きさなどで重要度を重み付けしていきましょう。重要度を整理できたら、次のステップで電子保管に対応するためのワークフローを決めていきます。
対応フローを決める
この段階では、対象となるそれぞれの帳票について、書類を電子化して保存するまでのワークフローを決めていく段階です。
契約書であれば締結後データ化してからの保存ルールや、アクセス権限の整備が考えられます。また経費精算であれば領収書の原本保管義務がなくなるので、どのように対応するのかなどを検討する必要があるでしょう。
現場への周知
現場への「電子化から保存」までの流れの周知も必要です。必要に応じてマニュアル等を作成し、説明会などを行いましょう。トラブルがあった際の窓口を明確にしておくのも有効です。
法改正に向けた人事のケーススタディ
法改正に向けた人事のケーススタディにはどのようなものがあるのでしょうか。具体的にどのような状況が想定されるのか、理解を深めていきましょう。3つのケーススタディを紹介していきます。
派遣契約に関する書類を電子メールでやり取りしている場合
派遣契約における基本契約書や、見積書、請求書を派遣元企業と電子データでやり取りしている場合を取り上げます。
この場合は電子取引に該当し、原則的に紙の保存が認められなくなるため、電子帳簿保存法に対応した文書管理システムなどに保存する必要が生じます。
電子帳簿保存法に対応した各種クラウドサービスを導入することで対応できるケースもあるでしょう。ワークフローが変わるため、従業員への周知・研修や各種規程を見直す必要も出てきます。
雇用契約書を電子化している場合
雇用契約書を電子データとして作成し、やり取りしている場合は電子取引に該当します。この場合も原則的に紙の保存が認められなくなるため、電子帳簿保存法の要件に対応しなければなりません。
PDFで共有フォルダにアップする、だけでは不十分です。
検索項目やタイムスタンプ、変更履歴など定められた要件を満たすシステムが必要になるので注意が必要だといえるでしょう。こちらも、各種クラウドサービスで対応できるケースもあります。
経費精算を紙で行っており電子化したい場合
現状、紙で経費精算処理を行っており、法改正に伴い電子化を検討する場合について取り上げます。
スマホカメラで撮影した領収書もデータ保存できるようになるなど、電子化によって経費精算の業務は効率化できます。今回の法改正による「適正事務処理要件の廃止」によってますます業務を効率化できる可能性もありますが、一方で不正のリスクもあります。
具体的には領収書画像の使い回しや、改ざん、二重申請などです。
こうした不正への対応は各社が個別に措置を講じる必要性があります。例えば、領収書の撮影前に原本に署名してもらうなどが考えられます。
あくまで法律上は要件が緩和されるだけであって、リスクを無視してもいい、という訳ではない点に注意が必要です。
まとめ
2022年1月に改正される電子帳簿保存法について、包括的に解説してきました。今回の改正は要件緩和が主な内容となり、電子化による帳簿・書類管理の利便性や帳簿記録の水準向上が期待されます。
当初検討された内容は、2022年1月時点で電子取引について紙の保存を認めずにデータでの保存のみを求める内容でした。
改正直前である2021年11月から12月にかけて罰則の撤廃や、2024年までの猶予期間の設定が決められるなどの経緯を経ることになりました。しかしながら、対応が必要なことには変わりありません。
ケーススタディでは、人事部で対応が必要な例を取り上げました。これらを参考に、ぜひ2022年1月改正の電子帳簿保存法に対応してみてください。
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