日本における労働生産人口が、少子高齢化に伴い減少していることは多くの人が認識している事実です。介護市場においても同様に、人手不足が叫ばれています。
目標とする介護職人材の採用計画を満たすために、どのような取り組みが必要なのでしょうか?利用できる助成金や採用手法まで、包括的に解説していきます。
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日本における介護業界を取り巻く状況
日本における介護業界を取り巻く状況はどのようなものなのでしょうか?厚生労働省の資料によると、20年前に介護保険が創設されて以来、65歳以上の被保険者は1.6倍に増加しています。さらにそのうち介護サービス利用者は3.3倍となっています。
要介護認定者数も約20年で3倍となり大きく増加しています。また試算では、65歳以上の高齢者が2042年に約4000万人となり、ピークを迎える見込みとなっているのです。
さらに高齢者の中でも、認知症にかかる高齢者が増加すると予測されています。このような背景からも介護の重要性は増す一方であるといえます。
介護職の2025年問題
現在の日本における後期高齢者の定義は「75歳以上」です。2025年には人口ボリュームの大きい団塊の世代が後期高齢者となり、医療や介護ニーズが高まるといえます。
厚生労働省によると、2025年度の介護人材の需要見込み253万人に対して、介護人材の供給見込みは215.2万人です。現状の推測でも40万人近いギャップがあります。これがいわゆる介護業界における「2025年問題」です。
介護職員の数は、介護保険制度創設以降右肩上がりに増加しているものの、依然として不足しているといえるでしょう。
参考・出典:2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について
介護サービスのニーズの高まり
団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、高齢者は増加する傾向にあると予測されています。一方で、生産年齢人口は減少するとされています。限られた人口のなかで、介護人材を確保する必要があるといえるでしょう。 外国人材の採用も含めたさまざまな施策を検討する必要があります。
また、従来は主婦を中心とする女性が介護を担っていた側面もあります。女性の社会進出や、核家族化などの家族構成の変化によって、介護サービスの需要をより一層高めているともいえます。
介護人材の採用の難しさ
介護に関する職種の有効求人倍率は、他職種と比べると非常に高い水準で3~4倍となっています。
都市部においては、この傾向がさらに強まっています。訪問介護員においては、4人に1人が65歳以上となっており、老々介護となっている実態もあります。それほど介護職員の人材不足は深刻なのです。
また介護人材は他の職種に比べ給与水準が低く、決して楽な業務ではありません。離職率が高くなりがちな上に、需給ギャップにより競合他社との獲得競争も激しくなっています。
そのため介護人材採用の難易度が高まっているといえます。
介護職の採用が困難な理由
介護職の採用が困難な理由には、一体どのようなものがあるのでしょうか? 一つずつ見ていきましょう。
給与水準
介護福祉職の平均年収は約339万円と他の職種と比較しても低い傾向にあります。給与水準が業務内容に対して割に合わないと感じる場合も多く、採用が難しくなる要因となっています。
参考・出典:令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況│厚生労働省
業務内容
介護職の業務内容は決して楽なものではありません。移動や入浴補助など体力を要します。排泄の介助も介護においては要となる業務です。排泄介助は要介護者の健康を維持し、快適に暮らしてもらうために無くてはならないものですが、苦手な人が多いのも事実です。
介護対象の高齢者からハラスメントを受け、対応に困ることもあります。このように、介護職という仕事の大変さも介護人材の採用を難しくしている要因でしょう。
労働者が直接雇用を避ける傾向に
介護の資格を保持し、スキルが高い労働者は勤務先との直接雇用ではなく、派遣会社を経由して就労することも多々あります。派遣会社経由で就労する理由の一つには、ライフスタイルの変化などに合わせ、希望する条件に合致した職場を選びやすいことが挙げられます。
また、直接雇用されるよりも収入が増えるケースもあり、派遣を希望する人材が多くなっています。
離職率の高さ
これまで述べたとおり、介護福祉職の平均給与は他職種と比べても低く、介助を行う上で体力や技術が必要であるなど、決して楽な仕事ではありません。職場から十分なフォローが得られない場合など、就労を続けることが困難になり、離職率も高くなる傾向にあります。
競合他社との獲得競争が激しい
介護市場における採用倍率は3~4倍で、獲得競争も激しいのが現状です。各社、目標の人材獲得に向けて自社のPRなどを行っているため、柔軟な働き方など、他社との差別化戦略が必要になります。
介護職の採用活動におけるコツやポイント
介護職の採用活動におけるコツやポイントにはどのようなものがあるのでしょうか? 一つずつ確認していきましょう。
実態調査からみる介護職員に「選ばれる職場」とは
公益財団法人介護労働安定センターの調査によると現在の職場に就職した理由として
- 資格・技能が生かせるから
- やりがい
- 通勤などの働きやすさ
が上位となる結果となりました。
一方で離職の理由については、
- 将来の見込みが立たない
- 人間関係の問題
- 職場の在り方が不満
- 妊娠・出産・育児
が上位となっています。
職場として選ばれやすくするには、柔軟な働き方やキャリパスの提示、人間関係などに気を配ることが重要だといえるでしょう。
参考・出典:令和元年度介護労働実態調査の結果と特徴│公益財団法人介護労働安定センター
ミスマッチを防ぐ
介護業界においては、慢性的な人手不足のため候補者を即採用としている事業所も少なくありません。しかしその場合、一時的に人材は充足するかもしれませんが、中長期でみると離職率が高くなってしまうリスクも避けられません。
せっかく採用した介護職員の早期離職を防ぐためにも、念入りに業務イメージの共有やコミュニケーションを心掛け、ミスマッチを減らす努力が必要です。採用プロセスにおける事業所見学も効果的です。
人材を定着させるための工夫
人材の定着を促す一つの方法として、人材育成への投資は効果的な手段です。 人間関係の問題やアドバイスを積極的に行うメンターを設けたり、資格の取得費用を負担したりするなどが代表的な取り組みとして挙げられるでしょう。
特に業界未経験者に対しては、業務上のやり取りだけでなく、親身に相談に乗ってくれる職場の仲間の存在が非常に重要です。早期離職を防ぐ効果も高いです。
社内外での研修も一定の効果があります。研修を活用することで、事業所の介護レベルの底上げが期待できます。
OJTにおいても、ただ業務を見せて覚えさせるだけではなく、各業務の目的やポイントまできちんと解説して理解させてあげるという姿勢が人材定着への一歩です。
競合他社との差別化
獲得競争の激しい介護人材の採用では、競合他社との差別化は必須です。例えば、ITツールの導入やDX推進によって職場環境の業務効率化を推進することも有効です。柔軟な働き方や人材育成によるキャリア支援などを打ち出すケースも考えられるでしょう。
施設を認知症特化型や、入浴特化型、リハビリ特化型など各種特化型にするなどの取り組みも差別化の一つです。候補者にとっては、業務内容や企業の姿勢や理念などが分かりやすくなるというメリットがあります。
採用戦略の明確化
これまで「採用」といえば企業が候補者を選ぶものでした。これと対局にある考え方が「候補者に選ばれる企業になる」というもの。具体的には、採用マーケティングの取り組みです。
採用マーケティングは、マーケティングの一般的なプロセスを採用に応用するという手法です。求める介護人材を定義しターゲットを絞ったり、採用メッセージを洗練させたり、自社ならではの強みを訴求していきます。
戦略という観点では、あえて未経験人材を採用し育てる、あるいはいったん離職した介護士が復職しやすい環境を整え採用するといったやり方も有効です。
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介護職員採用の一般的な流れ
介護職員採用における一般的な流れを紹介していきます。
- 1企業説明会・見学
- 企業説明会は、自社の理念や事業概要について候補者に伝える段階です。事前に働くイメージを持ってもらうために、事業所見学なども効果的です。
- 2エントリー
- 説明会を行った後、候補者が正式にエントリーを行う段階です。この時点でいかに良い人材を集められるかが介護人材採用の肝だといえるでしょう。
- 3選考
- 筆記試験や面接などの採用プロセスを通して、採用の可否を決めていきます。 可否を決めるためには、事前にどういった水準の候補者を採用したいか決めておく必要があります。面接における評価基準や確認すべき項目を、マニュアルなどにまとめておくとスムーズに進められます。
- 4結果の通知
- 採用の結果を通知する段階です。候補者は結果の通知を心待ちにしています。選考に時間がかかっている場合は、その旨連絡しておくと丁寧な印象を与えられます。
- 5入所
- 準備を進め、実際に入所する段階です。入所後はOJTや研修で業務に慣れてもらいます。上述のメンター制度なども、早く業務を覚えるのには有効な施策です。
介護職の採用手法
介護職の採用手法には一般の人材採用と同様、さまざまな方法があります。
求人媒体
求人サイトは求職者のみならず、転職するとは決めていないもののぼんやりと情報収集している潜在層にもPRできます。掲載期間内に必ずしも応募があるわけではない点には、留意が必要です。
人材紹介
人材紹介は、人材紹介会社が推薦する人材を、企業側で選考し入社の可否を決めるものです。 初期費用がかからないという特徴があります。
人材紹介会社に登録されている多くの人材から、企業の希望に見合った能力の人材を推薦してもらえるため、即戦力採用も可能です。
人材派遣
派遣会社に依頼して、必要なスキルがある人材を派遣してもらう方法です。人材派遣サービスを利用することで、正社員の産休育休や退職などの急な人材不足をカバーできます。また人材派遣という就業スタイルを好む人材も一定層いますので、押さえておきたい手法です。
リファラル採用
「リファラル」は紹介という意味で、自社に勤めている介護職員から候補者を紹介してもらう方法です。自社の職員経由で紹介してもらうことで、会社の実情を理解し入社してもらえる上、友人のサポートも得られるため、離職率が低くなるメリットもあります。
リファラル経由で採用に至った場合、紹介者に特典(金銭など)を与えるケースが一般的です。特典を設けることで、自発的な紹介を促すことができます。
紹介という特性から、定期的な採用は実現しにくいためプラスアルファの施策として捉えるのが良いでしょう。
ハローワーク
ハローワークでの求人も有効な手段の一つです。公的なサービスとして、日本最大規模のアクセス数、訪問者数があります。ハローワークでは人材紹介や雇用保険・助成金の適用など法人向けサービスも展開しています。
オウンドメディア
オウンドメディアとは自社が運営するWebサイトやYouTube、TwitterなどのSNSアカウントです。最近ではオウンドメディアを職場の雰囲気や特徴をPRする場として、活用するケースも増えています。
ブランディングや他社との差別化になり、採用につながる場合もあります。
外国人雇用
介護職における需給ギャップを解消するために、国は外国人労働者の受け入れを進めています。日本人労働者と異なる点は、在留期間が定められている点です。外国人労働者が介護福祉士の資格を得て、介護分野の在留資格が得られれば長期的な雇用が可能です。
一方で、企業側には外国人労働者が定着しやすい制度を整える努力も欠かせません。日本固有の制度や文化については、丁寧に説明しておかないと誤解を招いたり、不安を感じさせたりしてしまう場合もあります。
厚生労働省では外国人雇用を円滑に進めるための、労務説明文例集を配布しています。参考にしてみてください。
また、自治体によっては、利用できる助成金などもあるため調べてみると良いでしょう。
人材採用に活用できる助成金
人材採用に活用できる助成金をいくつかご紹介します。2022年3月時点での情報ですので、最新の情報は各自治体、団体等のWebサイトをご確認ください。
中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)
中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)は、雇用管理制度を整備・中途採用の拡大を行う事業者に対して支給されます。 条件は、
- 中途採用率の拡大
- 45歳以上の人員の初採用
- 情報公表+中途採用者の拡大
のいずれかとなっています。
中途採用等支援助成金(UIJターンコース)
対象となる労働者一人以上を雇い入れた事業主が対象となる助成金です。
中途採用等支援助成金(UIJターンコース)では、地方において東京圏からの移住者を雇い入れた場合に経費の一部が助成されます。
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)は、満年齢が65歳以上の求職者を一年以上雇用する企業に対して助成されます。 支給条件は、
- ハローワークもしくは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
- 雇用保険の高年齢被保険者として雇い入れ、1年以上の雇用が確実であること
をいずれも満たすことが必要となっています。
トライアル雇⽤助成⾦
トライアル雇⽤助成⾦では、安定的な雇用を得ることが難しいとされる、下記要件のいずれかに該当する人を雇用した場合に受給できる助成金です。
- 過去2年以内に2回以上離職や転職を行っている人
- 離職期間が1年を超えている人
- 妊娠出産育児などが理由で安定した職業についていない期間が1年を超えている人
- ニートやフリーター等で55歳未満の人
をいずれも満たすことが必要となっています。
まとめ
介護職における採用を成功させるには、採用プロセスを工夫し、ミスマッチを防ぎつつ、人材を定着させることが必要です。介護人材の定着には、メンター制度や、資格取得支援などが取り組みとして有効でしょう。
競合他社との差別化に取り組むことも欠かせません。業務に活用できるITツールの導入なども検討してみると良いでしょう。業務効率化によって働きやすさの向上につなげられます。
戦略・計画を立てて介護職採用に取り組んでいきましょう。
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