レジリエンスとは、逆境や困難な状況にあっても適応したり、そこから回復したりする力を指します。個人としてレジリエンスを培うには、自分の心理的な反応パターンなどをよく見つめ、理解する必要があります。
企業としてレジリエンスを高めるには、環境整備はもちろん企業風土の見直しなど、長期的な視点を持って取り組むことが重要だといえるでしょう。
レジリエンスの要素やレジリエンスを高める方法について、個人と企業の2つの観点から具体的な方法などを交えて解説していきます。
人事用語に関するお役立ち情報をお送りいたします。
メールマガジン登録
レジリエンスとは
レジリエンス(Resilience)とは、「復元する力」「回復する力」「適応する力」などを指す言葉です。災害や戦争などを経験した人々の、その後の人生に大きな違いが見られたことをきっかけに研究が進んだ分野です。
レジリエンスは、個人や組織など観点によって意味合いが変わります。
例えば、個人の場合は「適応力」「ストレス耐性」、組織の場合は「ビジネス環境の変化に柔軟に対応できる」などが挙げられます。
また、レジリエンスは生まれついてのものではなく、後天的な要素が強く影響し、トレーニングなどで伸ばせます。
個人としてのレジリエンス
個人におけるレジリエンスは、人生において大きな困難や災禍に巡り合った際の回復力や復元力を指します。
戦争や大きな事故にあった人を追跡調査した結果、その後の人生に大きな差があると分かったことから研究が進み、レジリエンスという要素の解明につながりました。災害や事故などから立ち直るプロセスを明らかにするために、レジリエンスを取り入れた研究も進んでいます。
人生や仕事においては問題や課題を乗り越えて環境に適応する、あるいは成長していく力と捉えられます。
企業におけるレジリエンス
企業におけるレジリエンスは、絶え間なく変化するビジネス環境に適応する力や、市場変化に起因する業績悪化などの危機に対して対処できる力を指します。
一般的に、レジリエンスを備えた企業は、生産性も高いとされています。リスク管理の観点からも、企業経営に欠かせない要素の一つといえるでしょう。
レジリエンスが注目される背景と必要性
なぜレジリエンスが注目されているのでしょうか? レジリエンスが注目される背景と必要性を見ていきましょう。
パンデミックなど予想できない事象の発生
新型コロナウイルスのパンデミックは誰も予想し得なかった出来事で、私たちの生活様式に大きな影響を与えました。企業運営におけるBCP(事業継続計画)などをはじめ、予想できない事態に備えることはもちろん、有事の際にどう立ち直るか、という観点に改めて注目が集まっています。
あわせて読みたい
BCP(事業継続計画)の基礎を徹底解説。注目される背景、策定の流れについて
この記事では、BCPが注目されている背景や策定までの流れについて詳しく解説します。
DX・働き方改革などビジネス環境の加速度的な変化
IT技術の発達、グローバル化、DXの推進など、ビジネス環境における変化のスピードは激しさを増しています。また昨今ではコロナ禍によって働き方も目まぐるしく変わりました。
絶えず変化し続ける環境下で成果を出し続けるための力として、レジリエンスが注目されているのです。
従業員のストレス・マネジメント
厚生労働省による平成30年版の「職場におけるメンタルヘルス対策の状況(厚生労働省ホームページ)」によると職業に関する悩みやストレスを感じている労働者の割合は、平成28年時点で59.5%と過半数を超えています。
変化が求められるビジネスシーンでは一定のストレスも発生します。
難しい状況に陥った際に、従業員が自ら立ち直るためにレジリエンスを高めることは有効だといえるでしょう。
メンタルヘルスとの違い
「メンタルヘルス」は、「心の健康」を指します。精神衛生において良い状態を保つことや、精神面での健康を表します。精神的に不調を来たした場合、うつ病などに代表される精神疾患につながることもあります。
このような場合に行われるメンタルヘルスケアは主に、精神科医・カウンセラー・保険医をはじめとする専門家や他者によるケアのことであり、レジリエンスとは意味合いが異なります。
レジリエンスはメンタル面での「状態」や「ケア」ではなく「回復力」や「適応力」などの特性、能力のことです。
アデコのEAP・メンタルヘルスケア
企業の組織・人事・管理監督者・従業員、その家族に対して、さまざまなサービスをご用意しています。
レジリエンスを高めるメリット
レジリエンスを高めることは、企業にも個人にもメリットをもたらします。どのようなメリットがあるか、一つずつ確認してみましょう。
ストレスをばねに成長できる
レジリエンスを高めることで、ストレスなどの心理的な負荷がかかった際にも、それを成長機会に変えることが可能です。
折れにくい心をつくれる
レジリエンスを高められれば、業務負荷が高い場合などにも折れにくい心を養えます。うつ病などになってしまった場合、治癒や寛解には多大な労力が伴います。そのような状態の予防にもつながりやすいといえるでしょう。
良い人間関係を構築できる
レジリエンスを高める過程では、同時に柔軟性も培われます。複眼的な思考や柔軟性を生かして、より良い人間関係を構築しやすくなる効果があります。
交渉力を伸ばせる
レジリエンスが高い人は、基本的に「問題解決志向」です。つまりレジリエンスを高める過程で、能動的に行動する習慣づくりにもつながります。難易度の高い交渉においても、多角的な視点から解決策を見出せるようになるでしょう。
組織の生産性を高められる
組織内のコミュニケーションが悪化することで、生産性が落ちてしまうこともあります。
またテレワークやデジタル化など、企業の環境面も変化に合わせて柔軟に対応していかなければ、生産性に悪影響が出てしまいかねません。環境を整え、従業員のレジリエンスを高めることによって、チームの問題解決能力も向上します。
現場主体で機敏かつ能動的に問題へ対処できるようになり、結果的に生産性も向上するでしょう。
ビジネスの継続性を維持・向上できる
組織そのものが変化できなければ、業績を上げ続けることは困難です。消費行動の変化や価値観の多様化を捉えきれず、新しい商品やサービスを市場に投入できず、次第に業績が悪化する危険性もあります。
企業としてレジリエンスに取り組むことでビジネスそのものの継続性を高められます。
例えばBCPや、多様な人材の登用によるイノベーションなどが挙げられます。
これらに取り組むことで、問題が起きた際に早期に収束・回復できるようになります。
レジリエンスを発揮し困難を乗り越えた企業の事例
レジリエンスを発揮し、困難な状況を乗り越えた企業の例として、株式会社日立製作所の実例を解説します。
株式会社日立製作所
株式会社日立製作所は、コロナ禍において全従業員を対象に在宅勤務を推進するなど、積極的に変革を進めました。その取り組みがさまざまなメディアにも取り上げられています。
同社によればテレワークを推進するきっかけとなったのは2004年のPC紛失による情報漏えい事故でした。そこからシンクライアント端末の導入、フリーアドレス化、ペーパーレスといった環境面の整備を着々と進めていったという経緯があります。
また同社は2006年から「ダイバーシティ」にも取り組んでいます。仕事と介護の両立支援など、多様な背景を持つ人材が能力を発揮しやすい仕組みの構築に力を注いでいます。
組織を上げてさまざまな観点からレジリエンスに取り組んだ好例といえます。
レジリエンスが高い人の行動特性とは
レジリエンスが高い人の行動特性にはどのようなものがあるのでしょうか? 行動特性を理解することによって、日々の行動の中で意識的にレジリエンスを養えます。一つずつ見ていきましょう。
- 1自己認識、気づき
-
自己認識とは、自分の思考や感情に注意し、客観的に観察できる能力であり、これによって自分の非生産的な思考パターンに気付けます。
- 2自制心、コントロール
-
自制心、コントロールは、求める結果を得られるように自分の思考や感情・行動といったものを変化させる能力です。
- 3精神的柔軟性
-
物事を複合的な視点で捉え、一見自分にとって良くない出来事に対しても、他の視点から受け止められる力が精神的柔軟性です。精神的柔軟性を備えていると、打ちのめされるようなことも少なくなります。
- 4楽観性
-
レジリエンスにおける楽観性は「ひたすらに前向きな態度」という意味ではありません。どのような環境であっても、自分がコントロールできる要素に注目して一番良い結果を求める姿勢を指します。
- 5自己効力感
-
自己効力感とは、遂行すべきことを「自分ならできる」と考え確信できることを指します。自己効力感は、主に成功体験により培われます。
関連リンク:レジリエンスを高めるには、コンピテンシーの理解が鍵
レジリエンスを高める方法
レジリエンスを高める方法にはどのようなものがあるのでしょうか? 個人と企業に分けて紹介します。
個人がレジリエンスを高めるには
個人がレジリエンスを高めるにはどのような手段が有効なのでしょうか? 要素を確認していきましょう。
-
感情の流れやメカニズムを理解する
ストレスを受けた際に「怒り」や「不安」を感じることはよくあります。それをそのままにしておくのではなく、「なぜそう感じたのか」と考えてみることで、怒りや不安の根本的な背景を察知できます。
背景を理解することで場合によっては、「怒るほどでもない」と気づけ、別の解決策を見つけることにつながるでしょう。 -
ABC理論を理解し自己解釈のパターンを知る
ABC理論は、臨床心理学者アルバート・エリスにより提唱された理論です。ABC理論では、出来事に対する感情は、「出来事に対する自分の受け止め方」に起因していると捉えます。
ABCとは、それぞれ以下を指します。-
Acrivating event(出来事)
逆境・困難・試練・ポジティブな出来事など、何らかのきっかけとなるさまざまな出来事を指します。ABC理論では、出来事は、それ自体には意味をなさないとします。
-
Belief(受け止め方)
何らかの出来事が起こった際、その事象に対して自分の解釈や受け止め方、自分自身への説明が発生します。
-
Consequence(感情)
出来事に対する自分自身の受け止め方や解釈により、反応として感情が生まれます。
上記のABC理論を理解し紐解いていくと、出来事に対して自分の反応がパターン化していることに気付けます。自分のパターンに気付くことで、違う受け止め方や考え方ができるようになります。
-
-
自己肯定感を高める
自己肯定感を高めることも、レジリエンス向上につながります。自身の現状を受け入れ、日常的な言動を肯定的なものに変えることで、徐々に自己肯定感を高められます。 -
思い込みを捨てる
「思い込み」を持つことで柔軟性が欠けてしまい、複合的な視点で考えることが妨げられます。レジリエンスを培うには、自分の思い込みに気付き、捨てることが重要です。
企業においてレジリエンスを高めるには
企業においてレジリエンスを高めるにはどのような手段が有効なのでしょうか? 要素を確認していきましょう。
-
経営トップによる理念や組織文化の醸成
社長や経営層など、企業トップが積極的にレジリエンスに関する情報発信を行い、能力開発や環境整備を支援する姿勢を見せることで、レジリエンスを高めるための土壌づくりになります。 -
研修の実施
従業員のレジリエンスに関して定期的な研修の実施も効果的です。社内で全てまかなうには負担が大きい場合もあるので、外部サービスを利用するのも一つの手だといえるでしょう。 -
BCPの策定
BCP(事業継続計画)を策定することで、災害時などにも業務を継続、再開しやすくなります。また日頃から従業員のレジリエンスを高めることで、現場での初期対応がスムーズに行われるなどの効果も期待できます。 -
デジタル化の推進
テレワークの導入やペーパーレスなど、職場環境のデジタル化を推進することで、災害やパンデミックなどの有事の際に在宅でも業務継続がしやすくなります。 -
セキュリティ対策の見直し・強化
昨今、サイバーセキュリティは高度化しており、かつその対象は企業から個人まで裾野が広がっています。セキュリティレベルが低い取引先や関連会社を狙う、サプライチェーン上のリスクも指摘されています。
デジタル化の推進と並行して、セキュリティ対策の強化・見直しを行うことは重要です。 -
ダイバーシティ&インクルージョンの推進
ダイバーシティとインクルージョンを推進することで、多様な人材が個性や能力を発揮しやすくなります。イノベーションについては、日本企業でも大きな課題として認識されつつあります。
さまざまなアイデアを持つ人材がポテンシャルを発揮することで、イノベーションも生まれやすくなります。こうした環境を整えることによりビジネスの継続や成長につながるといえるでしょう。あわせて読みたい
ダイバーシティとは? 基礎知識から働き方改革、施策例をわかりやすく解説近年、注目を集める「ダイバーシティ」。働き方改革の柱のひとつとしても推進されています。
この記事では、ビジネスにおけるダイバーシティの基礎知識から活用方法、人事施策などをわかりやすく解説していきます。
まとめ
本記事では、個人と企業のレジリエンスについて包括的に取り上げてきました。
個人レベルでレジリエンスを身に着けることは、公私において困難にも折れない強い心を育むために有益です。
企業としての観点から見ても、ビジネスにおいて継続的・持続的に競争優位性を維持し強い組織を作るためには、レジリエンスは欠かせません。
企業においてレジリエンスを高めるためにできることは多くあります。研修の実施や労働環境の整備など比較的すぐに取り掛かれるものもあれば、企業風土の醸成やダイバーシティ&インクルージョンの推進、BCPの策定など長期的な取り組みが必要なものあります。
短期的な取り組みと、将来を見据え長期的に取り組むことの両輪をバランス良く進めることが重要になるでしょう。
弊社では、上記のような人事関連のキーワードを分かりやすくまとめ、定期的に更新しております。
メールマガジンにご登録いただくと、労働法制や人事トレンドなどの最新お役立ち情報をチェックいただけます。