労働基準法は、労働時間や賃金、時間外労働などの働くルールを定めた法律です。政府による働き方改革の推進を受けて、労働者を取り巻くルールは変化しています。人事担当者にとって、労働基準法は法律を遵守するうえでも、従業員の働く環境をサポートするうえでも、把握が必要不可欠なルールです。
本記事では、労働基準法の概要や目的、法律で規定されたルールを解説します。労働基準法に対応する場合の注意点も紹介しているので、参考にしてください。
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労働基準法とは
労働基準法とは、労働条件の最低基準を定めている法律です。労働者が健康で働きやすい環境で就業できるよう、使用者が守るべき労働条件の原則や決定の仕方などを規定しています。
労働基準法は、一部の労働者を除いてすべての労働者に適用されます。正社員だけでなく、契約社員、アルバイト、パートタイマー、派遣社員、外国人労働者も対象です。
労働基準法は、人事採用や勤怠管理、就業規則の策定などに深く関わる法律で、従業員の働く環境をサポートする人事担当者にとっても重要です。改正が行われる場合も多いため、基本的な内容を押さえるとともに、最新の情報を把握しましょう。
労働基準法の目的
労働基準法の主な目的は、労働者の保護です。人を雇用する際には労働契約を結びますが、「労働条件を自由に決めて良い」とすると、企業と比較して立場が弱い労働者に不利な契約となる可能性を否定できません。
労働基準法は、賃金の支払い方、労働時間や時間外労働、解雇予告などの労働条件の最低基準を定めることにより、労働者が長時間労働や低賃金などの劣悪な環境で働くケースを防ぐ狙いがあります。
また、労働者の保護を目的とした法律には、労働基準法のほか、労働組合法や最低賃金法、労働契約法や男女雇用機会均等法などが制定されています。これらの労働に関する法律を総称して「労働法」と呼びます。
時代とともに変遷する労働基準法
労働基準法は1947年に制定されて以降、その時代の社会的背景を受けて改正が加えられてきました。
たとえば、1987年の改正では、法定労働時間を段階的に現在の週40時間労働制へ短縮していくことが明確化されました。また、新たな変形労働時間制の導入やフレックスタイム制が導入され、労働時間の柔軟な設定が可能となりました。その後、1993年、1998年、2003年、2008年に労働基準法は改正されています。
労働基準法が大幅に改正されたのは、働き方改革関連法の成立に伴った2018年です。2018年の改正では、時間外労働の上限規制の導入、年5日の年次有給休暇の取得義務化、フレックスタイム制の拡充がなされ、長時間労働の是正や多様な働き方の推進がなされています。
2019年には多様な働き方が選択できるよう、高度な知識やスキルのある労働者に対して休日や労働時間を規定外とする「高度プロフェッショナル制度」を導入しています。
2023年・2024年に関する労働基準法の変更点
労働基準法に関して、2023年・2024年から変更となった主な項目は以下のとおりです。働き方改革関連法の施行もあり、労働基準法は近年多くの改正がなされています。
- 大企業に限らず、中小企業の月60時間超の割増賃金率が50%へ
- 時間外労働の上限規制の猶予終了
- 労働条件明示のルールの変更
- 裁量労働制の導入ルールの見直し
- デジタルマネーによる賃金支払いの開始
改正前まで「月60時間超の残業割増賃金率50%」が適用されるのは大企業のみでしたが、2023年4月1日以降は中小企業も含まれています。
医師、建設業、自動車運転の業務は、2019年4月(中小企業は2020年4月)から時間外労働の上限規制が適用・猶予されていました。しかし、本期間は終了となり、2024年4月1日以降は、時間外労働の上限規制の適用が開始されています。
ほかにも、求職者や労働者に明示する必要がある「労働条件」で、今後の配置転換の見込みも含め業務内容や就業場所を明記したり、裁量労働制を導入(継続)するにはすべての事業所で一定の対応が求められたりするなど方々でルールが見直されました。
さらに昨今のキャッシュレス払いを考慮して、労働者が希望する場合に限り、賃金の一部をデジタル払いにするなど、送金手段の多様化にも対応しています。
労働基準法に違反する契約は無効となる
労働基準法は、強行法規性を持つ点に注意が必要です。使用者と労働者が合意して結んだ労働契約でも、労働基準法に違反する労働条件の場合は、その部分については無効となるという点を覚えておきましょう。
労働基準法が定めるルール
労働基準法では、労働に関するルールを広範囲に渡って定めています。なかでも、人事担当者が把握すべき主なルールは以下のとおりです。
- 1.労働条件の明示
- 2.賃金
- 3.労働時間
- 4.休憩
- 5.休日
- 6.時間外労働と休日労働
- 7.割増賃金
- 8.年次有給休暇
- 9.解雇と退職
- 10.就業規則
上記のルールは、労働者が公平かつ安全に働ける環境を整備するために重要なルールです。
- 1労働条件の明示
- 労働基準法第15条では、労働契約を結ぶ際に契約期間や就業場所、休日や賃金などに関する労働条件を明示しなければならないと定めています。明示が必要な項目は以下のとおりです。
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書面明示が必要な項目 - 労働契約の期間
- 期間の定めのある契約の更新基準
- 就業場所と業務の変更の範囲
- 始業や就業時間、休憩時間や休日など
- 賃金や昇給
- 退職
使用者が定めを設けている
場合に明示が必要な項目- 退職手当
- 臨時の賃金、賞与、最低賃金額など
- 食費や作業用品など
- 安全および衛生
- 職業訓練
- 災害補償や業務外の傷病扶助
- 表彰および制裁
- 休職
- 労働条件の明示は、書面での交付が原則です。従業員が希望する場合は、メールやFAXでの送信でも交付できます。
- なお、就業場所と業務の変更の範囲は、2024年4月1日より新たに追加された明示事項です。加えて、パートタイマーや契約社員などの有期契約労働者には、更新上限の有無とその内容の書面明示、無期転換申込機会の書面明示(無期転換申込権が発生する場合)が義務付けられます。
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- 2賃金
- 労働基準法第24条では、賃金の支払いに関して5つの原則を定めています。
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- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
- 従業員へ支払う賃金は、原則として通貨で直接従業員へ支払わなければなりません。支払うタイミングにもルールがあるため注意しましょう。2023年4月の法改正により、通貨払いの原則の例外としてデジタル払いが認められました。実施には指定業者が必要で、2024年8月にPayPay株式会社が初の指定を受け、柔軟な賃金の支払いが可能になりました。
- なお、労働基準法第28条と最低賃金法第4条では、最低賃金が定められています。賃金を決定する場合は、最低賃金を下回っていないかの確認が大切です。
- 3労働時間
- 労働基準法第32条では、1日8時間、1週間に40時間の法定労働時間が定められています。一定の条件を満たした場合は、以下の労働時間制の採用も可能です。
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- 1か月単位または1年単位の変形労働時間制(繁忙期と閑散期で労働時間の配分を行う)
- フレックスタイム制(労働者が始業・終業時間を決める)
- 専門業務型裁量労働制(19業務に限り業務遂行手段や時間配分を委ねる)
- 企画業務型裁量労働制(企画や立案などの対象業務に就いた場合、一定の労働時間が適用される)
- 事業場外みなし労働時間制(業務を事業場外で行い、労働時間の算定が困難な場合、所定時間働いたとみなされる)
- 高度プロフェッショナル制度(一部の労働者に限り割増賃金が適用されない)
- 管理監督者(労働基準法の労働時間、休憩、休日が適用されない)
- 近年では労働環境の変化や多様な働き方のニーズに応える形で、複数の労働時間制が設けられています。
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- 4休憩
- 労働基準法第34条では、労働者の労働時間が6時間超の場合は45分以上、労働時間が8時間超の場合は1時間以上の休憩を義務付けています。休憩は、労働時間の途中で、従業員に一斉に与えなければなりません。休憩は自由に過ごさせる必要があり、休憩中の来客対応も労働時間に含まれます。
- なお、運輸業や商業、金融業など一部の業種は一斉に休憩をとることが難しいため、一斉付与の原則の例外とされ、交代休憩が認められています。
- 5休日
- 労働基準法第35条では、毎週少なくとも1日の休日、または4週間に4日以上の休日の付与を定めています。1年に換算すると、1日の所定労働時間が8時間の企業の場合、年間105日以上の休日が妥当です。4週4休制を採用する場合でも、できるだけ一定の日を決める方法が推奨されます。
- 6時間外労働と休日労働
- 労働基準法第36条では、従業員に時間外労働や休日労働をさせる場合には、36協定の締結と労働基準監督署への届出を求めています。
- 時間外労働は、原則月45時間、年360時間が上限です。臨時的な特別の事情がある場合は労使間の合意で特別条項を設けることができますが、年720時間以内の時間外労働、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満などの要件を遵守しなければなりません。
- 派遣社員の場合は、派遣元の企業と36協定を結びます。派遣先の企業は締結された36協定に従い、時間外労働の時間を管理します。
- 7割増賃金
- 労働基準法第37条では、時間外労働や休日労働、深夜労働をさせた場合に、割増賃金の支払いを義務付けています。支払うべき割増率は以下のとおりです。
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種類条件割増率
時間外労働
(時間外手当・残業手当)法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合 25%以上 時間外労働の限度時間(1ヶ月45時間・1年360時間など)を超えた場合 25%以上 1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合 50%以上 休日労働(休日手当) 法定休日に勤務させた場合 35%以上 深夜労働(深夜手当) 22時~5時に勤務させた場合 25%以上 - 以前、中小企業は1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合の割増率の適用に猶予措置が設けられていました。2023年4月1日以降は、中小企業にも50%以上の割増率が適用されています。
- 時間外に勉強会や研修を行う場合でも、強制と判断されると割増賃金の対象となる可能性があるため、注意しましょう。
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- 8年次有給休暇
- 労働基準法第39条では、一定の要件を満たした労働者に年次有給休暇を付与する義務を課しています。一定の要件を満たせば、正社員やパートタイマー、アルバイトなどの職業区分にかかわらず、年次有給休暇を付与しなければならない点に注意しましょう。
- 年次有給休暇が付与される条件は、雇用した日から6ヶ月間以上継続して勤務し、その期間に8割以上出勤した従業員です。働き方改革関連法の施行により、法定の付与日数が10日以上の方は、年次有給休暇のうち5日以上を、時季指定で確実に取得させる必要があります。
- 9解雇と退職
- 労働基準法第20条では、労働者を解雇する場合には30日以上前の予告が必要とされています。解雇する場合には、客観的に合理的な理由や、社会通念上相当であると認められる必要がある点にも注意しましょう(労働契約法第16条)。
- 従業員が退職する際には、退職証明書や雇用保険被保険者離職票などを交付します。従業員から退職希望があった場合は、口頭での退職や本人の自筆でない退職届も認められていますが、トラブル防止のため、書面での申し出が望ましいでしょう。
- 10就業規則
- 労働基準法第89条では、常時10人以上の従業員を使用する場合に就業規則の作成を義務付けています。就業規則を作成した場合や変更した場合は、所轄の労働基準監督署長への届出が必要です。
- 就業規則には、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項が設けられています。
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絶対的必要記載事項 - 始業時刻
- 終業時刻
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- 交代制の場合の就業時転換
- 賃金の決定、計算、支払方法
- 賃金の締め切り
- 賃金の支払時期
- 昇給
- 退職
相対的必要記載事項 - 退職手当
- 臨時の賃金、賞与、最低賃金額
- 食費や作業用品の負担
- 安全衛生
- 職業訓練
- 災害補償や業務外の傷病扶助
- 表彰や制裁
- そのほか全労働者に適用される事項
- 絶対的必要記載事項を記載しないと法律上の違反と見なされる場合があります。相対的必要記載事項は、関連する定めをする場合に記載が求められる項目です。
人事担当が押さえておきたい労働基準法の注意
最後に、労働基準法で定められたルールを運用する際の注意点を解説します。的確に法律を遵守して、業務を遂行しましょう。
労働基準法が適用されない場合がある
労働基準法は原則全ての労働者に適用されますが、次に該当する場合は一部または全部が適用されない点に注意が必要です。
- 船員
- 同居の親族のみを使用する事業
- 家事使用人
- 国家公務員
- 地方公務員
- 農林や畜産、水産業の労働者
- 高度プロフェッショナル制度が適用される労働者
たとえば、船員は労働基準法の特別法にあたる「船員法」が設けられています。そのため、労働基準法の対象となりません。
また、農業や畜産、水産業では、労働時間や割増賃金の規定が適用されない場合があります。高度プロフェッショナル制度が適用される労働者も、労働時間や休憩、割増賃金に関する規定の対象外です。
労働基準法違反は罰則が課せられる場合がある
労働基準法に関する違反には、以下の例が挙げられます。
- 36協定を締結せずに時間外労働をさせた
- 違法な長時間労働をさせた
- 賃金や残業代を支払っていなかった
- 年次有給休暇を適切に取得させていなかった
労働基準法に違反すると、労働基準監督署の調査や罰則を受ける可能性があるため、注意しましょう。たとえば、36協定を締結せずに時間外労働をさせると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります。
まとめ
労働基準法は労働者の働く環境を守る最低限のルールです。労働基準法が定めるルールは、労働条件の提示から解雇・退職まで広範囲にわたります。社会的な状況を背景に逐次改正が行われるため、最新の情報を把握しましょう。適用の例外となるケースもあり、細部までの確認が重要です。
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おひさま社会保険労務士事務所
1977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。
(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部
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