月200時間の残業が発生しているのは、大変危険な状態です。日本では長時間労働が問題視されており、過労によって命を落としてしまう場合もあります。
長時間労働を強いられないためにも、労働時間の決まりを理解し、法律によって定められたルールに沿って働く姿勢が必要です。
本記事では、月200時間の残業の危険性、労働時間の上限や時間外労働を詳しく解説します。月の労働時間を減らすために必要な取り組みも解説するため、ぜひ参考にしてください。
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過労死ラインとは?
過労死のリスクが高まることから、時間外労働が月80時間を超える状況は「過労死ライン」と言われています。長時間労働を続けて過労死ラインに達すると、心身の疲弊をはじめ、さまざまな病気の原因となり得ます。
厚生労働省が発表している「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」では、以下の2点が挙げられています。
- おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と脳と心臓疾患発症との関連性が徐々に強まると評価できる
- 月100時間または脳と心臓疾患発症前2〜6ヶ月間にわたって、月平均80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる
つまり、労働時間が長くなるほど過労死との関連性は高まるため、企業は、従業員の労働時間を把握した上で、過労死ラインを超える時間外労働を防ぐ必要があります。
参考・出典:厚生労働省「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」
月200時間の残業は危険
月に200時間の残業が発生している状況は大変危険です。たとえば、月に23日出勤している場合、1日あたり8時間30分以上の残業をしていることになります。
従業員の残業の目安は1日2時間程度ですが、残業が多いと、仕事を終えて帰宅するのは毎日夜中です。そうした状態では、自由に過ごすどころか、睡眠時間もまともに取れないでしょう。
よって、月200時間の残業は異常で、心身ともに疲弊してしまう危険な状態です。また、前述した「過労死ライン」を超えており、病気の発症を引き起こす懸念もあります。
労働時間は労働基準法で定められている
労働時間は、労働基準法により上限が定められています。続いて、以下2点を詳しく解説します。
- 法律で定められた「法定労働時間」と会社が定める「所定労働時間」の違い
- 時間外労働
法定労働時間と所定労働時間の違い
法定労働時間とは、労働基準法により定められた労働時間です。
月の「法定労働時間」は、1日8時間、週40時間以内と定められています。法律で定められた「休⽇」は毎週少なくとも1日で、法定労働時間を超えての労働は原則認められません。
一方、混同しやすい「所定労働時間」は会社が定めるもので、原則、企業は法定労働時間を超えて従業員に労働させることはできません。所定労働時間を設定する際には、法定労働時間内におさめる必要があります。
法律に違反したかは「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断されます。
参考・出典:厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
時間外労働には36協定が必要
法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合は、時間外労働や休日労働に関する協定である「36協定」の締結、所轄労働基準監督署⻑への届出が必要です。
時間外労働の上限は月45時間、年360時間が原則です。さらに、原則である「月45時間」を超えられるのは、年6ヶ月までと決まっています。上限を超えて労働させられるのは臨時的な特別の事情がある場合に限るため注意しましょう。
臨時的な特別の事情があり、労使が合意した場合でも、無制限に労働させられる訳ではなく以下の制約が存在します。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
- 時間外労働と休⽇労働の合計、2、3、4、5、6ヶ月平均がそれぞれ全て⽉当たり80時間以内
- 時間外労働が⽉45時間を超えられるのは、年6ヶ月が限度
違反した場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰⾦など、罰則が科されるかもしれません。36協定を締結していても、時間外労働は必要最小限に留めることが不可欠です。
参考・出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制“お悩み解決”ハンドブック」
参考・出典:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」
時間外労働の上限規制
労働基準法によって定められた時間外労働の上限規制は、大企業では平成31年4月から、中小企業では令和2年4月から適用されています。以下の事業は適用が猶予されていましたが、令和6年4月1日から適用されています。
- 工作物の建設の事業
- 自動車運転の業務
- 医業に従事する医師
- 鹿児島県および沖縄県での砂糖製造業
これにより、時間外労働の上限規制は、一部の特例を除き全業種に適用されます。
参考・出典:厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制(旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)」
月の労働時間の目安とは?
前述のとおり、法定労働時間は1⽇8時間、週40時間以内と定められています。そのため、1ヶ月を4週間とした場合の月の労働時間の目安は40時間×4週分で「160時間」以内です。
上記の時間内に収まっていれば、月の労働時間は法律で定められている制限内となるため問題ありません。
残業を含めた月の労働時間は200時間が目安
時間外労働を含む場合、月の労働時間の目安は変わります。36協定を結んでいても時間外労働の上限は月45時間のため、1ヶ月あたりの労働時間の目安は、残業を含め「200時間」程度です。
なお、時間外労働が⽉45時間を超えられるのは、年間で6ヶ月が限度なため、残業含め200時間の労働時間を1年間続けることはできません。時間外労働が年360時間を超えないよう、月あたりの残業時間を調整する必要があります。
残業200時間を超える場合に起こりやすい病気やトラブル
残業が200時間を超えると、以下の病気やトラブルが起こるかもしれません。
- 脳血管疾患
- 虚血性心疾患
- 心臓疾患
- 精神障害
- 過労を原因とした自殺
- 交通事故
- 怪我
- 食欲低下
長時間労働によって上述した「過労死ライン」を超えると、労働時間と比例して脳や心臓の働きに影響をおよぼす危険性が高まります。
上司からのパワハラやいじめなどの強い心理的負荷が原因で、精神障害を発症する可能性も無いとは言い切れません。また、長時間労働による睡眠不足で集中力が低下し、交通事故を起こす可能性もあります。
決して他人事だと思わず、長時間労働は心身ともに疲弊させ過労死の原因にもなり得ると理解する姿勢が大切です。
参考・出典:埼玉県「毎日残業続きで体調不安」
参考・出典:厚生労働省「過労死等防止対策」
【課題別】労働時間を減らすために企業ができること
従業員が心身ともに健康な状態で働ける環境を作るために、企業は法律で定められた適正な労働時間を守る必要があります。
続いて、労働時間を減らすためにできる取り組み例を課題別に紹介します。すぐに取り組めるものも多いため、ぜひ参考にしてください。
- 残業が多い
- 上司が遅くまで残業をしている
- 人事制度に問題がある
- 従業員の意識が低い
- 年次有給休暇を取得しにくい環境
- 無駄な残業が発生している
- 業務量が多すぎる
それぞれ詳しく解説します。
残業が多い
残業せず、定時で帰る「ノー残業デー」を決めると、残業を減らせるでしょう。毎週木曜日をノー残業デーにするなど、曜日を指定すると部署内や社内全体で取り組みやすいです。
残業をしない日があると、効率的な業務の進め方や残業しないためにどうすれば良いかを模索して、効率的に業務を進められるでしょう。
一律に決めて全員で実施するほか、各自でノー残業デーを設定し、互いに確認できるよう管理する方法も有効です。
上司が遅くまで残業をしている
残業が吉とされている風潮があったり、上司が遅くまで残業していたりすると、部下は退勤しにくく、結果として必要性の低い残業が発生してしまうでしょう。
上司が率先して残業をなくすよう取り組むと、部下の行動にも影響を与えます。
人事制度に問題がある
残業をしないことがプラスになるよう、人事制度や評価を見直す姿勢が必要です。
人事評価に「短時間で仕事を終わらせられる」「効率的に仕事を進められる」などの項目を加えると、目標に向けて工夫するでしょう。
従業員の意識が低い
残業を減らすと、どういったメリットがあるかを提示し、従業員の意識改革を進める姿勢が大切です。残業を減らすと個人が得られるメリットは以下です。
- 家族との時間をゆっくり過ごせる
- 自分の趣味に時間を使えてリフレッシュできる
- 疲労を蓄積せずストレスを発散できる
- 子育ての時間を増やせる
- 資格の勉強などスキルアップに時間を使える
時間外労働が減ると、ワークライフバランスも向上し、仕事に対するモチベーションも上がりやすいでしょう。
また、業務を効率的に行えるよう従業員間でコミュニケーションを密にとると、チームワークの向上にも繋がります。職場の雰囲気の改善、切磋琢磨し合える関係構築も可能です。
年次有給休暇を取得しにくい環境
年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日以上は使用者が時季を指定して取得できる決まりです。
職場環境によっては、有給休暇を取得しにくく、適切に休暇を取れていないケースも多いです。従業員が年次有給休暇を取得しやすい環境を作ることで、従業員の働きすぎを防げます。
無駄な残業が発生している
無駄な残業が発生している場合、事前申請するシステムの採用も有効です。残業内容や時間外労働が発生しやすい部署の把握などにつながるため、無駄が生まれている箇所を見つけやすくなります。
申請された内容によっては、次の日に仕事を回すよう指示できるため、無駄な残業を減らすことが可能です。業務の配分変更など、社員の業務負担の偏り改善にも役立ちます。
業務量が多すぎる
そもそもの業務量が多すぎる場合は、業務の一部を外部に委託するアウトソーシングを活用すると、個々の労働時間を減らせます。アウトソーシングは、業務の効率化や最適化に役立つサービスです。
残業にまわっている分の業務を外部に委託すると、時間外労働をなくせます。アウトソーシングでデータ入力、専門性の低い業務を委託すれば、重要なコア業務への集中が期待できます。
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まとめ
月200時間の残業が発生しているのは異常な状態で、そうした状況が続くと心身の疲労、病気のリスクが高まります。
そもそも労働時間は、労働基準法により上限が定められており、月の法定労働時間は、1⽇8時間、週40時間以内です。これを上回り時間外労働をさせる場合は、36協定の締結、所轄労働基準監督署⻑への届出が必要です。
働きやすい環境を作るために、企業は時間外労働を減らす取り組みが不可欠です。残業の事前申請やノー残業デーの設置など、工夫を行いましょう。
業務が多く時間外労働が発生している場合、外部のサービスを活用するのもひとつの手です。たとえば、アデコの「BPO・アウトソーシングサービス」「EAP」「コンプライアンスダイヤル」などのサービスは、どれも企業のさまざまな問題や悩みに対応しています。
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