技能実習制度は、専門的な知識・スキルを開発途上地域に移転することを目的に、外国人の受け入れや育成を図る制度です。
技能実習制度では、送出機関に支払う派遣手数料や事前教育費を実習生が負担するため、渡航費も含めると渡航した時点で借金があり、大きな負担になっている場合があります。
本記事では、送出機関に技能実習生が支払った手数料の平均金額や、実習生の借金による問題などを解説します。
送出機関は、現地で外国人材を募集して日本へ送客する機関です。特に技能実習の団体監理型では、受け入れの手続き上で送出機関が必須であり、実習生の募集、渡航前の教育など幅広い役割を担っています。
技能実習制度には、団体監理型と企業単独型の2つの方式があり、令和5年の法務省のデータでは、実習生の98.3%が団体監理型の技能実習をしています。
企業単独型 | 日本の企業などが海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施 |
---|---|
団体監理型 | 事業協同組合、商工会などの非営利の監理団体が技能実習生を受け入れ、傘下の企業などで技能実習を実施 |
出典:法務省 出入国在留管理庁 厚生労働省 人材開発統括官「外国人技能実習制度について」
技能実習制度の送出機関は、規則第25条で団体監理型の技能実習生の申し込みを適切に監理団体に取り次ぐものとして、以下の要件を満たす機関と定められています。
▼技能実習制度の送出機関の要件(概略)
出典:JITCO「外国人技能実習制度とは(2.規則 第25条における外国の送出機関の要件(概略))」
規則第25条とは、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則の第25条をさします。
送出機関は、現地で外国人材を募集して日本へ送客する機関であり、特に技能実習制度の団体監理型では送出機関が必須です。本記事では、技能実習制度と特定技能での送出機関の役割、送出機関の手数料、送出機関を選ぶ際のポイントを解説します。
「送出機関」というと技能実習の送出機関が代表的ですが、特定技能でも、送出機関を介して外国人材が日本へ送客されることがあります。
特定技能の場合、手続き上送出機関は必須ではありませんが、日本と2国間協力覚書を締結している国の場合、内容によっては送出機関の利用が義務付けられています。2国間協力覚書を締結している国の一覧は、以下のとおりです。
2国間協力覚書を締結している国 |
---|
インド/インドネシア/ウズベキスタン/カンボジア/キルギス/スリランカ/タイ/タジキスタン/中国/ネパール/パキスタン/バングラデシュ/フィリピン/ベトナム/ペルー/マレーシア/ミャンマー/モンゴル/ラオス |
上記の2国間協力覚書を締結している国でも、認定送出機関の利用が必須の場合と、必須ではない場合があります。
たとえば、ベトナム、フィリピン、ミャンマー、カンボジアなどは各国の認定送出機関の利用が必須です。
ベトナムの場合であれば、受け入れ機関が特定技能外国人を受け入れる際に、認定送出機関との間で労働者提供契約を結ぶ必要があり、手続き上、送出機関の利用が必須です。
一方、タイ、ネパールなどの国では、日本と2国間協力覚書を結んでいますが、送出機関を通じての送り出しは任意とされています。
技能実習制度では、送出機関の手数料や渡航費などが原因で、技能実習生として来日した時点で借金があり、大きな負担になっている場合があります。
技能実習生が送出機関の支払っている金額に関する調査結果について、いくつか参照して見ていきましょう。
出入国在留管理庁「技能実習生の支払い費用に関する実態調査」によると、実習生が送出機関に支払っている費用総額、主な費用はそれぞれ以下のとおりです。
調査全体では、支払費用総額の平均は521,065円、派遣手数料の平均は269,303円です。
国籍 | 支払費用総額の平均(円) |
---|---|
ベトナム | 656,014円 |
中国 | 578,326円 |
カンボジア | 571,560円 |
ミャンマー | 287,405円 |
インドネシア | 231,412円 |
フィリピン | 94,191円 |
全体 | 521,065円 |
国籍 | 派遣手数料 | 事前教育費用 | 保証金・違約金 |
---|---|---|---|
ベトナム | 320,272円 | 94,302円 | 29,339円 |
中国 | 371,629円 | 58,831円 | 5,952円 |
カンボジア | 429,788円 | 109,144円 | 14,051円 |
ミャンマー | 206,627円 | 44,736円 | 3,124円 |
インドネシア | 100,767円 | 60,299円 | 25,479円 |
フィリピン | 10,870円 | 37,905円 | 5,783円 |
全体 | 269,303円 | 73,663円 | 19,503円 |
出典:出入国在留管理庁「技能実習生の支払い費用に関する実態調査の結果について」
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「技能実習制度適正化に向けた調査研究事業 報告書 概要版(厚生労働省委託事業)」によると、送り出しに係る費用(日本入国前)は以下のとおりです。
国 | 送出機関への支払総額(主な負担者) | うち事前教育費 | うちあっせん手数料 |
---|---|---|---|
ベトナム | 26. 6〜59.4万円(技能実習生) | 5.0〜31.0万円 | 10.0〜30.9万円※1 |
インドネシア | 13.8〜32.2万円※2(技能実習生) | 3〜14万円 | (内訳不明) |
フィリピン | 8.3〜33.0万円(実習実施者) | 3.9〜18.0万円 | 2.4〜5.5万円 |
中国 | 46.1〜64.5万円(技能実習生) | 5.9〜13.9万円 | 18.0〜48.1万円 |
カンボジア | 67.5〜90.0万円(技能実習生) | 7.5〜34.5万円 | 18.0〜48.1万円 |
※1 介護で手数料徴収を禁止する事業者あり
※2 労働省の送出しは0円、漁業は40万円程度
出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「技能実習制度適正化に向けた調査研究事業 報告書 概要版(厚生労働省委託事業)」
送り出しに係る費用は国や送出機関のサービス内容によって幅があり、送出機関への支払総額はカンボジア、ベトナム、中国が高く、インドネシア、フィリピンが比較的低額であると、調査で指摘されています。
前述のとおり、技能実習制度では、送出機関の手数料や渡航費などが原因で、技能実習生として来日した時点で借金があり、大きな負担になっている場合があります。
さらに低賃金や過酷な労働を課す受け入れ先だった場合に、制度上、職場の転籍ができないために、借金返済のために仕事を求めて失踪する実習生も発生しています。
こうした問題に対して、技能実習制度に代わる新制度の「育成就労制度」で対策が取られることになりました。育成就労制度は、2027年6月頃までに開始予定です。
技能実習制度では、人材確保ではなく、人材育成を通して日本の技術や知識を開発途上国に伝え、国際貢献することを主な目的としていました。新制度の育成就労制度の大きな変更点は、人材育成とともに日本国内の人材確保が主な目的になったことです。
育成就労制度では、外国人材の転籍要件が緩和されるなど、これまで技能実習制度において指摘されてきた課題を解消し、外国人が働きやすい環境に向けた改善がなされています。育成就労制度における転籍の要件は、主に以下のとおりです。
技能実習制度では、職場の転籍は認められていませんでしたが、新制度の育成就労制度では一定の要件のもとで転籍が認められます。
技能実習制度では、送出機関に支払う手数料や渡航費を実習生が負担していました。育成就労制度では、これらの費用を企業側も負担し、実習生の費用負担自体も軽減されることになっています。
技能実習制度では、送出機関に支払う手数料などが原因で、実習生が借金を負い、大きな負担になっているケースがあります。
出入国在留管理庁「技能実習生の支払い費用に関する実態調査」によると、実習生が送出機関に支払う費用総額の平均は521,065円、派遣手数料の平均は269,303円です。
新制度の育成就労制度では、現行制度の問題を受けて、転籍要件の緩和や、手数料負担の見直しが盛り込まれる予定で、国内の人材不足の解決にも役立つ制度です。
Adeccoでは、人材不足にも役立つ特定技能の人材紹介サービスを行っております。各国の送出機関や国内外の日本語専門学校と連携し、募集活動を行っています。
また、就職開始後にはパーソナルコーチがサポートに入り、日本語トレーニングや生活全般の支援も提供しているため、高い定着率が期待されます。
在留外国人の雇用などでお悩みの方は、ぜひAdeccoにご相談ください。