加速する少子高齢化を背景に、国内の人手不足問題は多くの業界で深刻化しています。
労働人口が減少するなか、多数の外国人が日本で就労している実態を、今ではほとんどの方がご存じなのではないでしょうか。
外国人労働者のなかでも特に高度な技術・知識を持つ労働者は「高度人材」と呼ばれ、さまざまな優遇措置を受けられます。
優秀な人材の確保は企業にとって大きなメリットです。
本記事では、高度人材の基準である「ポイント制」をはじめ、高度人材が受けられる各種優遇措置の概要、高度人材を企業が採用するメリットや注意点を解説します。
外国人労働者の雇用に興味がある、または採用に向けて準備をしている企業は多いと思います。
外国人労働者を雇い入れる選択肢として、高度人材を検討してみてはいかがでしょうか。
高度人材とは、国の発表によると「我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」とされています。
外国人労働者のなかでも特に高度な技術・知識を持つ優秀な外国人材の確保を促進するため、政府は「高度人材ポイント制」を平成24年5月に導入しました。
高度人材ポイント制では、ポイントを証明する資料を添付して申請を行います。審査を経て一定以上のポイントが認められる外国人は、「高度専門職」の在留資格を取得できます。
高度専門職の在留資格を取得するメリットは、出入国在留管理上のさまざまな優遇措置を受けられる点です。
高度人材ポイント制では、優秀な人材を獲得するとともに、国外への流出を食い止める効果も期待されています。就労制限の緩和や在留期間の優遇措置など、外国人労働者が長期にわたって日本で就労しやくなるよう配慮がなされています。
出入国在留管理庁が公表するデータによれば、高度人材ポイント制の認定件数は2023年6月時点で42,349件でした。認定件数は、平成24年の制度開始から右肩上がりに増加し続けています。
特に優れた技術や知識をもつ高度人材は、日本の経済や産業の発展に対する貢献が期待できるため、企業にも積極的な受け入れが求められます。
出典:総務省「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」
出典:出入国在留管理庁「高度人材ポイント制の認定件数の推移」
在留資格の1種である「高度専門職」には、1号と2号の分類が存在します。
さらに、高度専門職1号は以下の3種類の類型に分けられます。
高度専門職2号は、高度専門職1号を取得後、3年以上在留し活動を行った外国人が申請して取得できます。
在留資格が高度専門職2号になると、1号より優遇措置の範囲が拡大されます。高度専門職の外国人労働者が受けられる優遇措置は次項で解説します。
高度専門職1号の在留資格を取得すると、以下の内容の優遇措置を受けられます。高度専門職2号では、1号の優遇措置より範囲が拡大されます。
それぞれのメリットを詳しくみていきましょう。
通常、就労目的の在留資格では定められた1種類の活動しか行えません。活動の範囲を変更する場合は在留資格の変更手続きが必要です。
高度専門職の在留資格を取得すると、関連する活動を複合的に行えるようになるため、たとえば研究者が研究結果を活用して起業するなど幅広い就労が可能になります。
外国人の在留期間は、在留資格取得の申請内容に基づいて1年・3年などそれぞれ個別に決定されます。
高度専門職の在留資格の場合、法律で定められている最長の「5年」が一律で付与されます。また、在留期間は申請手続きを行い更新が可能です。
通常、外国人が永住権を取得するためには原則として在留期間が10年必要です。高度専門職の在留資格のある外国人労働者は、優遇措置によりこの要件が緩和されます。
優遇内容はポイント制の点数により異なります。申請に必要な在留期間は70点以上で3年、80点以上で1年に短縮されます。
在留資格のうち「教育」「技術・人文知識・国際業務」等で定められた内容の活動を行う場合は、原則として学歴や職歴などの条件を満たす必要があり、ひとつでも条件が満たされない場合は該当の活動を行えません。
高度専門職の配偶者であれば、優遇措置により条件を満たしていない状態での活動が可能になります。
通常、就労目的の在留資格では親の帯同は許可されていません。
高度専門職の外国人労働者本人または配偶者の7歳未満の子どもを養育する場合や、妊娠中の配偶者または高度専門職の本人の介助などが目的の場合、以下の要件を満たせば親の帯同が認められます。
外国人の家事使用人の帯同は、一部の在留資格でしか認められていません。
高度専門職の場合、本人の年収や家事使用人への報酬などの一定の要件を満たす場合に、帯同が許可されます。
高度専門職の在留資格を持つ外国人労働者の入国・在留審査は、優遇措置により優先して行われます。
入国事前審査は申請受理から10日以内、在留審査は申請受理から5日以内が目安です。
ただし、審査の内容によっては目安の期間を超える場合があり、必ずしも素早く終了するとは限らないため注意しましょう。
高度専門職2号では、1号の優遇措置の内、以下の4つの優遇措置が受けられます。
また、在留期間は無期限になり、在留資格で認められるほぼ全ての活動が可能になります。
令和5年4月に新設された特別高度人材制度(J-Skip)では、ポイント制とは異なる基準で高度専門職の在留資格の取得が可能になりました。
J-Skipの条件は以下のとおりです。
J-Skipでは、ポイント制の優遇措置に、以下の内容が追加されます。
また、J-Skipと同時に導入された未来創造人材制度(J-Find)では、優秀な海外大学等を卒業した外国人が日本で就職活動や起業準備を行う場合に在留資格「特定活動」を取得でき、在留期間の優遇を受けられます。
現行制度では世界の一部の大学が対象ですが、今後は一定の条件を満たす国内の大学にも範囲を拡げる方針を政府が発表しています。
高度専門職の在留資格を取得する手段「高度人材ポイント制」の概要を解説します。
高度人材ポイント制では、学歴・職歴・年収・年齢・研究実績など複数の項目でポイントを判定し、合計が70点以上であれば高度専門職の在留資格を取得できます。
チェック項目の内容は高度専門職の分類によって異なるほか、ポイント判定のためには年収や実績などの具体的な数字も必要です。
実際の計算は出入国在留管理庁のウェブサイトのツールで行えます。参考にしてみてください。
高度人材ポイント制を通じて高度専門職の在留資格を取得する際の手続きを解説します。
採用したい外国人がまだ海外にいる場合、まずは地方出入国在留管理局に高度専門職の「在留資格認定証明書交付申請」を行います。申請にはポイント制の必要書類の添付が必要です。
本人による手続きのほか、受け入れ先により代理手続きも可能です。
審査を通過し、発行された在留資格認定証明書をもって外国人本人が自国でビザ(査証)を申請します。ビザが取得できれば日本に入国できます。
なお、高度人材の入国・在留審査は優先的に行われます。
すでに高度専門職の在留資格があり在留期間を更新する場合は、「在留期間更新許可申請」を、住居地管轄の地方出入国在留管理官署で手続きします。
ほかの在留資格から高度専門職に切り替える場合や、高度専門職1号から2号へ切り替える場合は「在留資格変更許可申請」を、住居地管轄の地方出入国在留管理官署またはオンラインで手続きします。
審査結果が出るまで2週間から1ヶ月程度の日数が必要です。
ポイント数が規定の水準以上あり、在留に関して問題がないと判断されれば許可がおります。
企業が高度人材を採用する場合、以下のメリットが考えられます。
それぞれ詳しく解説します。
どの企業でも優秀な人材の確保は難しい問題です。採用にお悩みの人事担当者様は多いのではないでしょうか。
高度人材は、採用前から知識・技術のレベルが一定以上である旨を把握できる点がメリットです。
高度専門職の在留資格を持つ外国人労働者は、高度人材ポイント制の客観的な基準によりスキルの高さを証明されています。
高度人材の採用は企業が求める人材との効率の良いマッチングを実現し、採用コストの低減にもつながります。
高度専門職2号の在留資格を取得すると在留期間が無期限化します。
また、ポイント制の点数により永住許可申請の要件が緩和されます。原則は永住許可の申請に在留期間が10年必要ですが、ポイント制の70点以上で3年、80点以上で1年に短縮されます。
企業に定着し、長く貢献してもらえる点は大きなメリットです。
外国人材の意見を取り入れ、インバウンド事業や海外進出のきっかけにできる可能性が考えられます。日本人では発想が難しい、思わぬイノベーションのアイデアの提案があるかもしれません。
特に優秀な技術や知識をもつ高度人材ならではの視点が入れば組織も活性化し、よりグローバルな発展も期待できるでしょう。
企業が高度人材を採用する際、以下の注意点は事前に押さえておきましょう。
各ポイントを解説していきます。
高度人材ポイント制では、年収がポイント判定に影響します。
年収が下がったからといって即座に在留資格の取り消しを受けるわけではありませんが、在留資格更新時の判定が必要なタイミングで基準を満たさなくなる恐れがあるため、注意しましょう。
高度人材を雇用するには、新規で採用する以外にも方法が存在します。すでに自社で働いている既存従業員が条件を満たしている場合、申請手続きにより在留資格の切り替えが可能です。
条件を満たす外国人材がいる場合は、切り替えを呼び掛けてみましょう。
外国人である点を理由に不当な扱いをすると差別やハラスメントに該当します。人権侵害を予防するため既存の従業員にも研修や教育を実施しましょう。
言語や文化の違いに配慮した環境整備や、日本人労働者同様の公平な評価制度も必要です。キャリアアップのフローも明確に設定すればモチベーションの向上にもつながるでしょう。
外国人労働者の受け入れには、積極的なコミュニケーションが重要です。問題の早期発見の観点から、困りごとを相談できる窓口の設置も有効です。
高度人材(高度専門職)には優遇措置が複数あり、日本で働く外国人労働者にとって有益な在留資格です。優秀な外国人材は企業の発展にも貢献が期待できます。
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