日本の経済活動において、今や外国人の姿は珍しくなくなりました。
政府は専門分野の外国人の積極的な受け入れを促進しており、現在、日本国内では専門的な知識を有する「技術・人文知識・国際業務」(いわゆる「技人国(ぎじんこく)」)の在留資格で多くの外国人が就労しています。
本記事では「技術・人文知識・国際業務(技人国)」を詳しく解説します。
日本に滞在するための資格を「在留資格」といいます。在留資格は、出入国在留管理庁が審査や管理を行っています。
「技術・人文知識・国際業務」は、在留資格の一種で、略して技人国(ぎじんこく)ビザと呼ばれています。外国人本人の学歴や実務経験に関係する専門的スキルと、日本で携わる業務に関連性が認められなければ資格を取得できない点が特徴です。
出入国在留管理庁の公表するデータによると、令和5年末時点で362,346人の外国人が技術・人文知識・国際業務(技人国)の資格で日本に在留しており、永住者・技能実習に次いで三番目に多い在留資格です。
技術・人文知識・国際業務(技人国)は、理学や工学などの技術分野・法律学や経済学などの人文知識分野・通訳や翻訳などの国際業務分野の3つで構成されます。
在留期間は5年・3年・1年または3ヶ月のいずれかで個別に許可され、更新も可能であるため、受け入れ機関にとっては長期の雇用が見込める点がメリットです。「家族滞在」の在留資格を申請すれば、家族の帯同も可能になります。
技術・人文知識・国際業務(技人国)の外国人を受け入れるには、海外にいる外国人を雇用する方法のほか、すでに日本に在留している外国人を雇用する方法もあります。
日本にいる外国人の場合は、後述する「在留資格変更許可申請」または「所属(契約)機関に関する届出」の手続きが必要です。
出入国管理及び難民認定法上、技術・人文知識・国際業務(技人国)に該当すると定義されているのは以下の活動です。
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学そのほかの自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学そのほかの人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務または外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(入管法別表第一の一の表の教授、芸術、報道の項に掲げる活動、二の表の経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、介護、興行の項に掲げる活動を除く。)
具体的な職種では、機械工学などの技術者、通訳、デザイナー、民間企業の語学教師、マーケティング業務従事者などが該当します。
出典:出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
技術・人文知識・国際業務(技人国)の在留資格を取得するための要件として、出入国管理及び難民認定法で以下の2点の基準が定められています。
申請人は所定の要件に該当しなければなりませんが、外国弁護士による法律事務の取扱に関する特別措置法(昭和六十一年法律第六十六号)第五十八条の二に規定する国際仲裁事件の手続きの代理に係る業務に従事する場合は、この限りではありません。
2つの要件をそれぞれ詳しく解説します。
出典:出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
技術分野および人文知識分野の活動に従事しようとする場合は、該当する活動で以下のいずれかに該当し、かつ必要な技術または知識を修得していなければなりません。
ただし、情報処理に関連する業務に従事しようとする外国人が、法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する試験に合格している、または情報処理技術に関する資格を有している場合はこの限りではありません。
従事しようとする活動が国際業務分野の場合は、以下の条件にも該当しなければなりません。
出典:出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
技術・人文知識・国際業務(技人国)の外国人に支払う給与は、日本人と比較して同等以上の水準でなければなりません。出入国在留管理庁が行う審査で外国人の給与が不当に低いと判断された場合、在留資格の許可が下りない可能性も考えられます。
また、社会保険の加入についても日本人と同様の扱いが必要です。
外国人である点だけを理由に不利益な雇用条件を設定する行為は人権侵害にもあたります。外国人労働者を受け入れる事業者は、正当な待遇を検討しましょう。
技術・人文知識・国際業務(技人国)の在留資格を申請して雇用するまでの流れを、外国人が海外にいる場合と日本に在留している場合に分けて解説します。
在留資格に関する諸申請は、外国人本人のほか、受け入れ先となる事業者や弁護士・行政書士といった申請等取次者も手続きが可能です。申請等取次者として認められるためには、地方出入国在留管理局長へ所定の届出が必要です。
まずはハローワークや国内外の人材紹介機関・求人サービス・ウェブサイトなどを通じて採用活動を行い、外国人と雇用契約を締結します。技術・人文知識・国際業務(技人国)の分野では派遣契約に基づいた就労も認められています。
民間の仲介業者を活用する場合は、トラブルを防止する観点から厚生労働大臣の許可を受けた業者の選定が望ましいでしょう。
次に、雇用契約書や外国人本人に関する資料、受け入れ企業に関する資料など、在留資格の申請に必要な書類を準備して、地方出入国在留管理官署に「在留資格認定証明書交付申請」を行います。揃えなければならない資料は多数あるため、漏れのないよう注意しましょう。
申請内容や提出書類に不備がなく、在留資格認定証明書を取得できれば、外国人本人が自国でビザ(査証)を申請します。ビザが取得できれば来日して就労が可能です。
就労ビザに関して解説しています。外国人材を雇用する際に必要となる就労ビザと在留資格の違いや申請方法などを解説しているので、これから外国人材の受け入れを検討している企業担当者の方はぜひ参考にしてください。
別の在留資格で日本に在留している外国人を雇用する場合は、雇用契約を締結後に、原則として本人が地方出入国在留管理官署に「在留資格変更許可申請」の手続きを行います。
手続きが問題なく完了して在留資格が変更された在留カードが交付されれば、就労を開始できます。許可が下りるまでは就労はできないため、外国人本人にも伝えておきましょう。
前職も技術・人文知識・国際業務(技人国)の在留資格で就労しており、同じ活動範囲内で転職する場合は、在留資格の変更手続きは必要ありません。
ただし、就労先の変更を届け出る「所属(契約)機関に関する届出」は行わなければなりません。この届出は、退職した際と転職した際の両方のタイミングで必要です。
届出は、事由が発生した日から14日以内に外国人本人が手続きします。インターネットによる電子届出のほか、最寄りの地方出入国在留管理官署の窓口に持参する方法や、東京出入国在留管理局在留調査部門へ郵送する方法も選択できます。
外国人労働者を雇用した際は、ハローワークへの届出を行わなければなりません。特別永住者の場合と、在留資格が「外交」「公用」の場合は不要です。
外国人労働者が雇用保険の被保険者の場合は、雇用保険の適用を受けている事業所の管轄のハローワークが届出先です。提出期限は雇い入れ日の翌月10日までです。
安定した収入が求められる技術・人文知識・国際業務(技人国)分野の外国人は、雇用保険の被保険者である場合がほとんどであるはずですが、被保険者とならない外国人を雇用した場合は当該労働者が勤務する事業所の管轄のハローワークに翌月末日までに届け出ます。
また、離職の際も所定の届出が必要なので注意しましょう。届出の義務に違反すると30万円以下の罰金が課されます。
なお、雇用保険被保険者資格取得届または雇用保険被保険者資格喪失届を提出する場合は、上記の届出に代えることができます。
在留資格の取得や更新の申請は、不許可となる場合もあります。一部の例として、出入国在留管理庁が公表する具体的な事例を解説します。
詳しく見ていきましょう。
外国人本人が有する専門的な学歴や実務経験と従事する業務の間に関連性がない、または低い場合は不許可となります。具体的には以下のような事例です。
教育学部を卒業した者から、弁当の製造・販売業務を行っている企業との契約に基づき現場作業員として採用され、弁当加工工場において弁当の箱詰め作業に従事するとして申請があったが、当該業務は人文科学の分野に属する知識を必要とするものとは認められず、「技術・人文知識・国際業務(技人国)」の該当性が認められないため不許可となったもの。
出典:出入国在留管理庁「許可・不許可事例」
外国人が従事する業務自体に専門性がない・または低い場合は不許可となります。たとえば以下のような事例です。
電気部品の加工を行う会社の工場において、部品の加工、組み立て、検査、梱包業務を行うとして申請があったが、当該工場には技能実習生が在籍しているところ、当該申請人と技能実習生が行う業務のほとんどが同一のものであり、申請人の行う業務が高度な知識を要する業務であるとは認められず、不許可となったもの。
出典:出入国在留管理庁「許可・不許可事例」
外国人の給与水準が日本人と比較して低い場合は不許可となります。具体的な事例は以下のとおりです。
工学部を卒業した者から、コンピューター関連サービスを業務内容とする企業との契約に基づき、月額13万5千円の報酬を受けて、エンジニア業務に従事するとして申請があったが、申請人と同時に採用され、同種の業務に従事する新卒の日本人の報酬が月額18万円であることが判明したことから、報酬について日本人と同等額以上であると認められず不許可となったもの。
出典:出入国在留管理庁「許可・不許可事例」
以下の事例のように、外国人本人の素行に問題がある場合は不許可となります。
商学部を卒業した者から、貿易業務・海外業務を行っている企業との契約に基づき、海外取引業務に従事するとして申請があったが、申請人は「留学」の在留資格で在留中、1年以上継続して月200時間以上アルバイトとして稼働していたことが今次申請において明らかとなり、資格外活動許可の範囲を大きく超えて稼働していたことから、その在留状況が良好であるとは認められず、不許可となったもの。
出典:出入国在留管理庁「許可・不許可事例」
技術・人文知識・国際業務(技人国)の外国人を雇用する際の注意点は、以下の4点です。
それぞれの注意点を詳しく解説します。
在留審査の手続きで揃えなければならない書類は種類が多く、準備期間が必要です。また、申請してすぐ許可が下りるわけではありません。
出入国在留管理庁が公表する令和6年1月~3月のデータによると、技術・人文知識・国際業務(技人国)で在留資格認定証明書交付までにかかった日数は、約58日でした。在留期間更新の場合は、告知までの日数が約32日、在留資格変更の場合は約55日です。
提出書類に不備があれば、余分に日数がかかります。特に日本に在留している外国人の申請を行う場合は、在留期間にも注意してください。手続きをする際は、余裕のあるスケジュールを組みましょう。
出典:出入国在留管理庁「在留審査処理期間(日数)」
技術・人文知識・国際業務(技人国)の外国人が従事できるのは、在留資格で認められた活動範囲に限定されます。在留資格と関連性のない業務に従事させてはならないのはもちろんですが、高度な知識が必要ない作業や、単純労働なども認められないため注意しましょう。
研修の実施にも配慮が必要です。合理性があり必要な研修であれば認められる場合もありますが、日本人に対しても同様に実施される研修であり、在留期間の大半を占めない内容・日数でなければなりません。
たとえば、「評価により配属先が決まる」といった選考を兼ねた研修の場合では、在留資格の許可申請が不許可となった事例もあります。
技術・人文知識・国際業務(技人国)の外国人は、勤務先の就業規則で禁止されていない場合、副業としてアルバイトが可能です。
定められた活動範囲内の業務であれば問題ありませんが、範囲外の職種で就労する場合は、資格外活動許可を得なければなりません。また、技術・人文知識・国際業務(技人国)では資格外活動が許可される職種は限定されます。
申請先は、住居地を管轄する地方出入国在留管理官署です。申請用の様式は出入国在留管理庁のウェブサイトで公開されています。必要な添付書類を揃えて外国人本人が手続きを行います。
技術・人文知識・国際業務(技人国)の資格で在留する外国人には、転職制限がありません。受け入れ先があれば、本人の意思による転職が可能です。ただし、離職の際と再就職の際には本人が「所属機関に関する届出」を行わなければなりません。
受け入れ機関には離職を防止する取り組みが求められます。外国人材が働きやすい労働環境を整備し、定着率を高めましょう。
技術・人文知識・国際業務(技人国)の在留資格で在留する外国人は、所定の届出を行わなければなりません。届出が必要なタイミングは以下のとおりです。
住居地を定めたときと住居地に変更があったときの届出先は、住居地の市区町村の担当窓口です。
在留カードの住居地以外の項目に変更があったときは、住居地を管轄する地方出入国在留管理官署に届け出ます。
所属機関に変更があったときは、最寄りの地方出入国在留管理官署への窓口持参のほか、東京出入国在留管理局在留調査部門への郵送やインターネットによる電子届出も可能です。
出典:出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
技術・人文知識・国際業務(技人国)は、日本で就労できる在留資格の一種です。理学・工学などの技術分野・法律学や経済学などの人文科学分野・通訳や翻訳などの国際業務の3分野で構成されます。
外国人本人の学歴や実務経験と、従事しようとする業務との間に関連性が認められない場合や、給与水準や待遇が日本人より不当に低いと判断された場合、外国人本人の素行に問題がある場合など、在留資格の取得や更新が認められないケースがあるため注意が必要です。
転居した際や、在留カードの項目や所属機関に変更があった際は、外国人本人が必要な届出を行わなければなりません。
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