企業にとって、高度人材は貴重な戦力になるのは言うまでもなく、条件を満たせば幅広い業務への従事が可能、在留期間は無制限(いずれも高度専門職2号の場合)などメリットが多い外国人材です。
在留資格「高度専門職」は高度な専門性や知識を有する外国人に付与される在留資格で、外国人が一定のポイントを取得することでさまざまな優遇措置が受けられます。
2023年4月から特別高度人材制度(J-Skip)も導入され、従来のポイント制とは別途、学歴や職歴、年収が一定の水準以上の外国人は、より拡充した優遇措置が受けられるようになりました。
本記事では、高度外国人材の概要や在留資格「高度専門職」1号・2号の優遇措置、申請方法、高度専門職1号の転職時の注意点などをわかりやすく解説します。
「自社で高度人材を採用したい」「高度人材の採用手順が知りたい」方は、ぜひ参考にしてください。
高度人材とは日本が受入れを行う外国人の中でも、特に高度な資質・能力を持つ人材を意味します。
平成21年5月29日の高度人材受入推進会議報告書によると、高度人材の具体的なイメージは以下のとおりです。
「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替ができない良質な人材であり、我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」
平成24年5月より「高度人材ポイント制」が導入されました。
高度人材ポイント制は、日本の経済成長等への貢献が期待される「高度外国人材」に、ポイント制を活用した出入国在留管理上の優遇措置を実施し、その受入れを促進することを目的とした制度です。
高度人材ポイント制の対象となるのは、以下の要件を満たす外国人です。
従事する業務が、就労資格のうち「教授」「研究」や「技術・人文知識・国際業務」、「経営・管理」に該当するものでない場合や、左のいずれかの就労資格に該当しても、学歴・職歴・年収・年齢・研究実績等のポイント合計が一定点数(70点)以上を満たさない場合、また、ポイント合計が一定点数を満たす場合でも、年収が300万円未満(高度学術研究分野は除く)の場合は対象外となる点に注意してください。
高度人材ポイント制では、高度外国人材が行う活動を以下の3種類に分類し、それぞれの特性に応じて、学歴・職歴・年収・年齢・研究実績などの項目ごとにポイントを付与します。(ポイント制の評価項目と配点は、法務省令で規定)
①高度学術研究活動「高度専門職1号(イ)」 |
相当程度の研究実績がある研究者、科学者、大学教授などが研究・教授活動に従事する場合に付与される在留資格。(大学の教授や民間企業の研究所での研究員等) 主活動としては、「教授」、「研究」または「教育」に相当する活動が想定される。 教育や研究の成果を生かして事業を起こし自ら経営することも可能。 |
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②高度専門・技術活動「高度専門職1号(ロ)」 |
医師、弁護士、情報通信分野の高度な専門資格を有する技術者、証券アナリスト、その他高度な知識、技術を生かした専門性が高い業務に従事する場合に付与される在留資格(あくまで例示で、職種・業種が限定されるわけではない)。 主活動としては「技術・人文知識・国際業務」や「法律・会計業務」、「医療」に相当する活動が想定される。 これらの活動とあわせて、関連事業を起こし、 自ら経営することも可能。 |
③高度経営・管理活動「高度専門職1号(ハ)」 |
(相当規模の役員報酬が支払われる)企業の経営、管理に従事する活動(会社の経営、弁護士事務所・監査法人事務所などの経営・管理等) 会社の経営に関する重要事項の決定、業務の執行などを行う者が該当し、会社の規模や役員であるかどうかは直接の要件ではない。 主活動としては、「経営・管理」、「法律・会計業務」に相当する活動が想定される。 |
高度専門職のポイント計算表でポイントの合計数が一定数(70点)以上になった際に、出入国管理上の優遇措置が与えられます。高度専門・技術活動と高度経営・管理活動は、年収300万円以上が要件です。
平成26年の出入国管理及び難民認定法(入管法)改正により、在留資格「高度専門職1号」「高度専門職2号」が新設されました。
「高度専門職1号」とは、日本の学術研究や経済の発展への貢献が見込まれる、高度な専門性や知識を有する外国人の在留資格です。従来「特定活動」の在留資格で「高度人材」の認定を受けていた外国人を対象に、ほかの一般的な就労資格よりも活動制限を緩和した在留資格として設けられました。
高度専門職1号の要件は、以下の3つです。
高度専門職1号の優遇措置を解説します。高度外国人材として認められると、以下の出入国管理上の優遇措置を受けることが可能です。
①複合的な活動が可能
②在留期間5年が付与
③永住許可申請の要件が緩和
④配偶者の就労が可能
⑤一定の要件(主に高度専門職)を満たせば、親の入国・在留が可能
⑥一定の要件を満たせば、外国で雇っていた家事使用人の入国・在留が可能
⑦入国・在留手続きの優先処理
以下で、それぞれの優遇措置の内容を詳しく解説していきます。
通常、外国人はひとつの在留資格の範囲内の活動しか認められませんが、在留資格「高度専門職」を取得すれば、たとえば大学での研究活動とあわせて関連事業の経営も行えるなど複数の活動が可能です。
在留資格「高度専門職」は、法律上の最長の在留期間である「5年」が一律に付与されます。(更新も可能)
1年ごとに更新が必要な在留資格もある中、在留資格更新にかかる手間やコストを大きく抑えられます。
通常、「永住許可」を受けるには10年以上の在留期間が必要ですが、以下の2つのケースは永住許可対象となります。
通常、就労資格を有する外国人の配偶者として「家族滞在」の在留資格を持つ外国人が日本で就労を行うには、一定要件を満たした上で就労資格を取得しなければなりません。
高度人材の配偶者の場合は、学歴や職歴の要件を満たさなくても、以下の在留資格に該当する活動が可能です。(就労時間は無制限)
在留資格は「特定活動(告示33号:高度専門職外国人の就労する配偶者)」が付与されます。高度外国人材と同居し、日本人と同額以上の報酬を受ける等の要件を満たすことが必要です。
通常は、就労を目的とする在留資格で、外国人の親の日本への受入れはできません。
高度人材なら、以下の2つのケースで一定の要件を満たした場合、高度人材またはその配偶者の親(養親を含む)の日本への受入れが可能です。
主な要件は以下のとおりです。
在留資格は「特定活動(告示34号:高度専門職外国人又はその配偶者の親)」が付与されます。
通常、外国人の家事使用人の雇用は、在留資格「経営・管理」「法律・会計業務」などで在留する一部の外国人に対してのみ認められます。
高度人材に関しては一定の要件を満たせば、外国で雇っていた家事使用人の日本への入国・在留が可能です。(※1)主な要件は以下のとおりです。
日本で新たに家事使用人を雇用する場合、または上記(※1)以外の家事使用人を日本へ連れてくる場合は、以下の要件を満たす必要があります。
そのほか、高度金融人材と呼ばれる、証券アナリスト等の職種に就く高度外国人材も、独自のルールのもと家事使用人の帯同、雇用が可能です。
家事使用人には、在留資格「特定活動(告示2号~2号の3:家事使用人)」が付与されます。
高度人材の入国・在留審査は、優先的に早期処理が行われます。
入国事前審査の申請は申請受理から10日以内が目安で、在留審査の申請は申請受理から5日以内が目安です。
提出資料等の詳細事項の確認が必要な場合などは、目処とする審査期間を超えることがある点に注意してください。
「高度専門職2号」は、「高度専門職1号」、または高度外国人材としての「特定活動」の在留資格で3年以上活動を行っていた外国人が移行できる在留資格です。
「高度専門職1号」から「高度専門職2号」に変更する場合は、以下の要件を満たした上で、在留資格変更許可申請を行います。
高度専門職2号の優遇措置は、以下のとおりです。
高度専門職2号と永住者の違いを、以下の表にまとめます。
高度専門職2号 | 永住者 | |
---|---|---|
就労 | 高度人材としての活動を行っていることが必要 | 活動制限はなし |
業種 | 制限あり | 制限なし |
配偶者の就労 | 可能 | 可能 |
親の入国・在留 | 一定の要件を満たせば可能 | 不可 |
家事使用人の入国・在留 | 一定の要件を満たせば可能 | 不可 |
「高度専門職2号」は「永住者」と同様に、在留期間が無制限かつ上陸時に付与されることのない在留資格です。
しかし、活動制限がない永住者に対し、高度専門職2号は高度人材としての活動を行っていなければなりません。高度人材としての活動を継続して6ヶ月間以上行わないで在留することが在留資格取消し事由になるほか、勤務している会社(所属機関)を届け出る義務があります。
このように、永住者にはない制約がある一方で、高度専門職2号には一定の条件下で親や家事使用人の入国・在留などが認められています。
高度専門職1号と2号の優遇措置の違いを、以下の表にまとめます。
高度専門職1号 | 高度専門職2号 | |
---|---|---|
在留期間 | 法律上の最長の在留期間である5年 | 無制限(在留期間の更新は不要) |
活動範囲 | 複合的な活動が可能 | 1号の活動とあわせて、就労の在留資格で認められるほぼ全ての就労が可能 |
入国・在留手続きの優先処理 | あり | なし |
永住許可要件の緩和 | あり | あり |
配偶者の就労 | 可能 | 可能 |
親の入国・在留 | 要件を満たせば可能 | 要件を満たせば可能 |
家事使用人の入国・在留 | 要件を満たせば可能 | 要件を満たせば可能 |
高度専門職2号を取得する大きなメリットは、在留期間が無制限になることです。また、ほぼ全ての就労が可能になります。
2023年4月に、特別高度人材制度(J-Skip)が導入されました。高度人材ポイント制度とは別の制度で、学歴や職歴、年収が一定の水準以上であればポイント数に関係なく「高度専門職」の在留資格が付与され、特別高度外国人材としての優遇措置を受けられる制度です。
高度学術研究活動(大学教授や研究者等)と高度専門・技術活動(企業で働く技術者等)の場合は、以下のいずれかを満たすことが必要です。
高度経営・管理活動(企業の経営者等)の場合は、以下の2つの要件を満たさなければなりません。
特別高度人材として認められた場合、特別高度人材証明書が交付され、在留カード裏面欄外の余白に「特別高度人材」と記載されます。
特別高度人材は、高度人材ポイント制による優遇措置よりも拡充された優遇措置を受けることが可能です。
特別高度人材の高度専門職1号は、高度人材ポイント制による優遇措置に加えて、追加優遇措置も受けられます。
「高度専門職1号」の活動とあわせて、ほぼ全ての就労資格の活動が可能です。在留期間も無期限になります。
高度人材ポイント制による優遇措置の3~6に加えて、大規模空港等に設置されているプライオリティレーンの使用も可能です。
また、永住許可までに要する在留期間は1年になります。
高度人材(高度専門職1号)の申請手続きを、以下の2つの場合に分けて解説します。
まず、海外在住の外国人を高度人材として採用する流れを解説します。
外国人の受入れ機関である企業が、地方出入国在留管理局に高度専門職1号の在留資格認定証明書交付申請を行います。
外国人が行う予定の活動(イ・ロ・ハのいずれか)のポイント計算表と、ポイントを立証する資料を提出し、高度外国人材の認定を申請します。
出入国在留管理庁の審査は、以下の流れで進めていきます。
在留資格の該当性がない、上陸要件が適合しない場合は、在留資格認定証明書は交付されません。
高度専門職1号以外の就労資格の上陸要件に適合している場合、申請人が希望すれば、当該在留資格の在留資格認定証明書が交付されます。
上記の申請により、上陸要件適合性の審査は終了です。
外国人が、在外公館での査証申請時に在留資格認定証明書を提示し、日本の空海港の上陸審査時に本証明書および査証を所持することにより、スムーズな査証発給、上陸審査手続きが可能です。
既に日本に在留している外国人が高度専門職1号に在留資格変更申請を行う場合、または高度外国人材として在留中の外国人が在留期間更新申請を行う場合の手続きの流れを解説します。
在留資格変更許可申請、在留期間更新許可申請のどちらの場合でも、行おうとする活動のポイント計算表と、ポイントを立証する資料等を地方出入国在留管理局に提出します。
出入国在留管理庁による高度人材該当性の審査のポイントは、以下の3つです。
上記の要件を満たした場合は、在留資格変更・在留期間更新が許可されます。
高度人材(高度専門職1号)の申請書類を紹介します。
日本で発行される証明書は、全て発行日から3ヶ月以内のものを提出する必要がある点に注意してください。
参考:出入国在留管理庁「手続きの流れは? 必要な申請書類は?」
高度専門職1号から高度専門職2号への変更申請をするには、在留資格変更許可申請を行います。在留資格変更を行う際には、改めてポイント計算をする必要がある点に注意してください。
対象は、高度専門職1号、または高度外国人材としての「特定活動」の在留資格で3年以上在留した外国人です。
審査期間は、概ね申請から1ヶ月~1ヶ月半が目安で、学歴・職歴・年収等の項目ごとにポイントを付与し、その合計が一定点数以上に達した場合に許可されます。
高度専門職1号の在留資格で在留中の外国人が転職などで活動内容を変更する場合(所属機関の変更を含む)も、在留資格変更許可申請が必要です。
高度専門職2号の申請書類は以下のとおりです。
参考:出入国在留管理庁「【高度専門職2号】 在留資格変更許可申請」
高度専門職1号の転職は、制度上可能ではあるものの、手間がかかる上に審査が行われる点に注意してください。
高度専門職1号は転職のたびに新たにポイント計算を行い、在留資格変更許可申請(転職先での業務に紐づいた在留資格の申請)を行わなければなりません。
また、転職時にポイントの合計が70点に到達せず、転職先において高度専門職1号の許可を受けられなければ、転職先で働くためには「技術・人文知識・国際業務」等他の在留資格に変更する必要が出てきます。。
そのため、高度専門職1号の転職は在留期間に余裕を持って行いましょう。
高度専門職2号の場合は転職が自由で、在留資格変更許可申請は不要です。ただし、1号も2号も出入国在留管理庁への「所属機関に関する届出」は必要です。
高度人材とは、専門的な知識や技術を有し、専門性の高い仕事に就く外国人材を意味します。
深刻な人手不足が慢性化する中、日本政府は高度人材の受入れ促進のために、高度外国人材に対してポイント制を活用した出入国管理上の優遇措置を提供する制度を導入しました。
高度人材ポイント計算表で70点以上のポイントを取得すれば、配偶者の就労や親の入国・在留が許可されるなどさまざまな優遇措置を受けることが可能です。
学歴や能力が抜きん出た高度な外国人材を受入れたい企業様は、国策でもある高度人材の受入れをご検討されてみてはいかがでしょうか?
また、新たに受け入れるという方法だけではありません。例えば、既存の「技人国」の在留資格で働く外国人の年収アップがきっかけで、高度専門職にランクアップできることもあります。優秀な外国人の昇給とともに、在留資格の見直し(ポイント計算など)をしてみてはいかがでしょうか?
とはいえ、高度人材の雇用には複雑な手続きがあるため、不安に感じる方も多いでしょう。
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