技能実習制度は、開発途上国への技術や知識の移転を目的に、企業が技能実習生を受け入れて実習を行う制度です。
2017年に技能実習制度の対象職種に介護職種が追加され、介護の現場で技能実習生の受け入れが進んでいます。施設として介護技能実習生の受け入れを検討しているケースもあるかもしれません。
本記事では、技能実習制度の概要、介護職種での固有要件、介護技能実習生の受け入れ方法などを解説します。
まずは、技能実習制度の概要を見ていきましょう。
技能実習制度は、開発途上国へ技術や知識を移転して国際協力することを目的に1993年に創設された制度です。農業、漁業、食品製造、繊維・衣服、機械・金属などの分野で、幅広い職種が技能実習制度の対象職種となっています。
2017年には技能実習法が施行され、外国人技能実習機構の新設、監理団体が届出制から許可制へ変更など、旧制度から改善がなされています。
技能実習生の受け入れ方式には、企業単独型、団体監理型の2つがあります。
企業単独型 | 日本の企業が海外の現地法人・合弁企業・取引先企業の職員を受け入れて技能実習をする方法 |
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団体監理型 | 営利を目的としない監理団体(事業協同組合や商工会など)が技能実習生を受け入れ、傘下の日本の企業(実習実施者)で技能実習をする方法 |
企業単独型では、日本の企業が現地の現地法人・合弁企業・取引先企業の職員を受け入れて、企業内で技能実習を実施することになります。受け入れのための手続きは企業が行う必要があり、実習もサポートを受けることなく、受け入れ企業が実施します。
一方、団体監理型は、現地で求人をして日本へ実習生を送り出す送出機関から、監理団体(事業協同組合や商工会など)が技能実習生を受け入れて、日本の企業で技能実習を行います。企業は監理団体から手続きや実習の指導やサポートを受けることができます。
JITCOによると、2021年末の時点では、企業単独型の受け入れが1.4%、団体監理型の受け入れが98.6%(技能実習での在留者数ベース)となっています。実際にはほとんどの企業が団体監理型で技能実習生の受け入れを行っています。
技能実習生の在留資格は、技能実習1号、技能実習2号、技能実習3号の3種類があります。1年目が1号、2年目・3年目が2号、4年目・5年目が3号であり、最長5年間技能実習生として受け入れが可能です。
2号や3号への移行できる職種・作業は主務省令で定められていて、移行の前年には所定のテスト合格が必要となります。
なお、監理団体には、特定監理団体と一般監理団体の2つがあり、特定監理団体では1号・2号の、一般監理団体では1号・2号・3号全ての監理が可能です。技能実習3号まで受け入れを希望する場合は、一般監理団体からの受け入れが必要となります。
2017年からの新たな技能実習制度では、対象職種に介護職種が追加されました。
介護職種の追加は、介護人材の確保ではなく、技能移転という技能実習制度の趣旨に沿ったものという考え方であり、高齢化に伴う介護ニーズに対応してきた日本の介護技術を海外に伝えることが期待されています。
技能実習制度の介護職種は、以下の3つの要件を踏まえた制度設計がなされています。
上記の要件により、技能実習制度本体での共通の要件に加え、介護職種固有の要件も設定されています。
また、現在、政府の有識者会議(技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議)にて、現行の技能実習制度を廃止し新制度「育成就労制度」を創設する話が進められています。改正法施行は2025年~2027年の見込みです。
技能実習制度とは以下のような違いがでてきますので、変更点に留意しつつ、施行までの受け入れを進めると良いでしょう。
技能実習制度 | 育成就労制度(新制度) | |
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目的 | 人材育成を通じた国際貢献 | 人材確保と人材育成 |
対象分野 | 職種が特定技能の分野と異なる | 特定技能制度「特定産業分野」12分野に限定 |
受け入れ見込み数 | 受け入れ企業の規模により上限あり | 対象分野ごとに受け入れ見込み数は異なり、情勢に応じて適宜変更 |
転籍 | 原則不可 | 同一機関での就労が1年以上など要件を満たす場合、本人の意向で転籍が認められる(同分野に限る) |
監理・支援・保護 | 監理団体、登録支援機関、技能実習機構の指導監督や支援体制、送出機関の課題あり | 技能実習機構や労働基準監督署などによる特定技能外国人への相談援助を推進し、「財政基盤」「相談対応体制」など監理団体の許可要件などを厳格化 |
日本語能力の向上方策 | 1年目はA2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)合格レベル、2年目はB1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)合格レベル | 継続的な学習による段階的な日本語能力向上 |
人員配置基準 | 実習を開始した日から6カ月経過または、日本語能力試験のN2またはN1に合格すれば職員等とみなす | 日本語の能力および指導の実施状況、事業所管理者の意見等を鑑みて、実習開始日から6カ月未満でも職員等とみなす
ただし、以下を満たす場合 ・一定の経験のある職員とチームでケアを行う体制とすること ・組織的に安全対策を実施する体制を整備していること |
建設現場の人手不足に悩む方へ。特定技能「建設」で従事できる業務内容や特定技能1号・2号を取得する方法、外国人を受け入れる企業の要件などを詳しく解説します。
介護職種の受け入れ企業、技能実習生の固有要件を以下で見ていきましょう。
受け入れ企業には、技能実習指導員、事業所の体制、受け入れ人数にそれぞれ要件があります。
技能実習指導員の要件 |
|
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事業所の体制の要件 |
|
受け入れ人数 |
|
受け入れ企業は、現場で介護職種の技術を教える技能実習指導員を1名以上選任する必要があり、その技能実習指導員に固有要件が課されています。
事業所は、介護等の業務を行う事業所であり、開設から3年以上経過していることが要件です。訪問介護のみを行う場合は対象外となります。
そのほか、受け入れ人数には、事業所の常勤介護職員の総数に応じた上限があります。
団体監理型の場合の人数枠は次のとおりです。所定の要件を満たす優良な実習実施者は、人数の上限が拡大されます。
常勤介護職員の総数 | 一般の実習実施者 | 優良な実習実施者 | ||
---|---|---|---|---|
1号 | 全体(1号・2号) | 1号 | 全体(1号・2号・3号) | |
1人 | 1 | 1 | 1 | 1 |
2人 | 1 | 2 | 2 | 2 |
3~10人 | 1 | 3 | 2 | 3~10 |
11~20人 | 2 | 6 | 4 | 11~20 |
21~30人 | 3 | 9 | 6 | 21~30 |
31~40人 | 4 | 12 | 8 | 31~40 |
41~50人 | 5 | 15 | 10 | 41~50 |
51~70人 | 6 | 18 | 12 | 51~71 |
72~100人 | 6 | 18 | 12 | 72 |
101~119人 | 10 | 30 | 20 | 101~119 |
120~200人 | 10 | 30 | 20 | 120 |
201~300人 | 15 | 45 | 30 | 180 |
301人~ | 常勤介護職員の20分の1 | 常勤介護職員の20分の3 | 常勤介護職員の10分の1 | 常勤介護職員の5分の3 |
技能実習生の固有要件は、日本語能力要件と同等業務従事経験(職歴要件)の2つです。
日本語能力要件としては、第1号技能実習、第2号技能実習のそれぞれにあたって、日本語能力の要件が設定されています。入国時にはN4相当の日本語能力が必要です。
第1号技能実習(1年目) | 日本語能力試験のN4に合格している者 その他これと同等以上の能力を有すると認められる者※ |
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第2号技能実習(2年目) | 日本語能力試験のN3に合格している者 その他これと同等以上の能力を有すると認められる者※ |
※「J.TEST実用日本語検定」「日本語NAT-TEST」のいずれかで同等レベルに達している者のこと
同等業務従事経験(職歴要件)は、外国で同種の業務に従事した経験があるか、団体監理型技能実習に従事することを必要とする特別な事情があることが要件です。具体的には、以下のような人が該当するとされています。
技能実習の各号を修了する際には、一般社団法人シルバーサービス振興会が実施する「介護技能評価試験」を受験する必要があります。試験は初級、専門、上級の3種類です。
初級試験 | 専門試験 | 上級試験 | |
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受験の時期 | 1号の修了時 | 2号の修了時 | 3号の修了時 |
試験内容 | 実技(必須)
+学科(必須) |
実技(必須)
+学科(任意) |
実技(必須)
+学科(任意) |
受験資格 | 技能実習制度の介護職種に関し、6ヶ月以上の実務の経験※を有する者 | 技能実習制度の介護職種に関し、24ヶ月以上の実務の経験※を有する者 | 技能実習制度の介護職種に関し、48ヶ月以上の実務の経験※を有する者 |
※入国後講習の期間を含めません
試験は実習評価者が技能実習生の勤務先に出向いて実施されます。実技試験は、実習評価者が技能実習生の介護業務を実際に見て評価します。学科試験は、業務に必要な知識の有無を確認するもので、初級・専門は○×式、上級は多肢選択法となります。
ここからは、監理団体型で介護技能実習生を受け入れ時の流れを紹介していきます。全体の流れは、次のとおりです。
介護技能実習生の受け入れの流れを、以下で詳しく見ていきましょう。
まずは、監理団体となる事業協同組合への申し込みを行います。監理団体と連携する送出機関で技能実習生の募集・選考が実施され、企業が紹介された人材との面接を実施して採用者を決定します。
受け入れ企業は、技能実習計画を外国人技能実習機構へ申請する必要があり、監理団体のサポートを受けながら計画を作成・申請します。計画の申請が通ったら、出入国在留管理局へ在留資格認定申請を行い、審査通過後に査証(ビザ)を申請します。
採用が決まった実習生は、現地で日本語講習を受講し、日本語能力試験のN4程度に合格するところまで必要となります。
受け入れにあたっては、技能実習生の宿舎や生活必需品の準備が必要です。家電、寝具、炊事用品、洗面具、掃除用品など一通りの備品を受け入れ企業が準備します。
宿舎は、部屋の広さを4.5m3以上を確保するなどいくつかの条件があります。宿舎の準備にあたっては、技能実習制度運用要領に記載の規定の確認が必要です。
技能実習制度に2017年からは介護職種が追加され、監理団体への申し込みなどから手続きを開始することで受け入れが可能となっています。
介護職種では、技能実習制度全体での要件のほかに受け入れ企業、技能実習生のそれぞれに固有の要件があり、技能実習生の受け入れを検討する際には事前に確認が必要となります。
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