在留資格の一種である「特定技能」は、人材不足の状況が特別に深刻な特定産業分野のために国によって創設された制度です。
受け入れが可能な分野は16分野です。うち4分野は2024年3月に追加が閣議決定されました。
特定技能の外国人労働者を受け入れるにあたっては、事前に把握しておきたい注意点が存在します。また、特定技能所属機関になった場合は、外国人の支援や各種届出など果たすべき義務の遂行も必要です。
本記事では特定技能受け入れの概要や、受け入れの際のポイントを解説します。
特定技能とは、日本に在留するための在留資格の一種です。
人材の確保が特に困難である特定の分野を支援する目的で、2019年に創設されました。政府も特定技能人材の積極的な受け入れ方針を発表しており、人手不足解消の一端を担う効果が期待されています。
特定技能には1号と2号の分類があり、1号は受け入れ分野の全て、2号は介護以外の分野が対象です。
なお、対象分野に「自動車運送業」、「鉄道」、「林業」、「木材産業」4分野が新たに追加され、「工業製品製造業分野(旧名称『素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業』)」、「造船・舶用工業分野」、「飲食料品製造業分野」の3つの既存の分野については新たな業務が追加等されました。
また、今回追加された4分野と、「工業製品製造業分野」で追加された新たな業務区分では、現時点においては特定技能2号での受入れはできません。
特定技能1号は、特定技能1号評価試験と日本語能力試験に合格するか、技能実習を良好に修了し取得できます。特定技能2号は、特定技能2号評価試験合格および高い技術力や実務経験が認められる場合に取得できます。
特定技能の資格を取得する方法のひとつである「技能実習制度」では、技能実習生と呼ばれる外国人が、自国の発展に活用するため、日本での就労を通じて知識や技術を習得します。
国際貢献を目的とする技能実習と、人手不足の解消を目的とする特定技能とは性質が異なる制度です。
なお、現行の技能実習に替わる制度として「育成就労」の新設が発表されています。現行制度では規制されている、技能実習生本人の都合による転籍条件の緩和や、特定技能への移行がしやすくなる改正が予定されています。
特定技能人材の受け入れが可能な分野は以下のとおりです。
*令和6年3月29日、対象分野に「自動車運送業」、「鉄道」、「林業」、「木材産業」4分野の追加が閣議決定されました。
特定技能の外国人を受け入れる際の流れを、外国人がまだ来日していない場合と、すでに日本に在留している場合に分けて解説します。
雇い入れる外国人がまだ来日していない場合のフローを解説します。
受け入れ機関は、「技能実習2号を良好に修了」または「所定の試験に合格」の条件を満たす外国人と雇用契約を締結します。
特定技能1号の外国人を受け入れる場合は支援計画を作成し、事前ガイダンスや健康診断もこのタイミングで行ってください。
本人または所属機関が地方出入国在留管理官署に「在留資格認定証明書交付申請」の手続きを行い、申請内容に問題がなければ、在留資格認定証明書が発行されます。
取得した在留資格認定証明書をもって外国人本人が自国でビザ(査証)を申請し、ビザが取得できれば来日して就労が可能になります。
日本に在留している外国人を雇用する場合のフローを解説します。
所属機関は、「技能実習2号を良好に修了」または「所定の試験に合格」の条件を満たす外国人と雇用契約を締結します。
特定技能1号の外国人を受け入れる場合は支援計画を作成し、事前ガイダンスや健康診断もこのタイミングで行ってください。ここまでは海外にいる外国人を受け入れる場合と同様です。
その後、原則として本人が地方出入国在留管理官署に「在留資格変更許可申請」の手続きを行います。申請内容に問題がなければ在留資格が変更された在留カードが交付され、就労を開始できます。
特定技能人材の受け入れにはさまざまなメリットが考えられます。
人材を確保できるメリットは当然ながら、特定技能人材は一定水準以上の知識やスキルが証明されている点が特徴です。
また、特定1号の在留期間は通算で最長5年間です。2号では在留期限が無期限となり、企業への定着が期待できます。
即戦力を求める事業者と特定技能人材はマッチングの効率もよく、長く働いてもらえる点は採用コストの削減にもつながります。
特定技能外国人材は、新しく採用するだけでなく既存の従業員の在留資格を変更できる場合があるため、スキルが高い外国人労働者がいれば移行の案内をしてみるのも良いでしょう。
そのほかのメリットとしては、外国人材ならではの視点による新たなアイデアが出てくる可能性も考えられます。インバウンド事業や海外進出のきっかけが生まれる効果も期待できるでしょう。
事業者が特定技能人材を受け入れる際の注意点は以下のとおりです。
外国人への義務的な支援や届出などの必要な義務を履行しない、届出の内容が虚偽である、などの違反行為を行った場合は法律により処罰されるため注意が必要です。それぞれの注意点を詳しくみていきましょう。
特定技能人材の受け入れ機関が満たすべき基準は以下のとおりです。
①外国人と締結する雇用契約が適切である
外国人である旨を理由に不当な雇用条件にしてはなりません。雇用契約の基準は次項で解説します。
②所属機関自体が適切である
所属機関は法律や条例などを順守しなければなりません。また、「禁錮以上の刑に処せられた者」などの欠格事由に該当する場合は受け入れ機関として不適切とみなされます。保証金の徴収や違約金契約も認められません。
③外国人を支援する体制がある
所属機関は、特定技能1号人材が日本で円滑に生活するための全10項目の義務的支援を実施しなければならないとされています。
④外国人を支援する計画が適切である
所属機関は、1号特定技能人材を支援する計画を作成し、計画に基づいた支援を実施しなければなりません。支援計画書は支援責任者の氏名および役職のほか、次の内容の記載が必要です。
出典:出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」
外国人と締結する雇用契約は適切な内容でなければならないとされています。特定技能外国人材との雇用契約が満たすべき具体的な基準は以下のとおりです。
①分野省令で定められた技能を要する業務に従事させる内容である
②所定労働時間が、特定技能外国人材以外の通常の労働者と同等である
③報酬額が日本人と同等以上である
④外国人である旨を理由とした不当な条件が記載されていない
⑤一時帰国を希望した場合の休暇取得の規定がある
⑥派遣の場合は派遣先や派遣期間が明確に定められている
⑦外国人が帰国旅費を負担できない場合、所属機関が負担するとともに契約終了後の出国が円滑に進むよう必要な措置を講ずる内容が記載されている
⑧外国人の健康状態や生活状況を把握するために必要な措置を講ずる内容が記載されている
⑨分野特有の基準に適合している(※分野所管省庁の定める告示で規定)
出典:出入国在留管理庁「特定技能外国人受け入れる際のポイント」
特定技能外国人材の所属機関となった場合、以下の義務が発生します。
①外国人と締結した雇用契約を確実に履行する
②外国人への支援を適切に実施する
③出入国在留管理庁およびハローワークへの各種届出
④特定分野ごとに分野所管省庁が設置する協議会の構成員になる
⑤報酬は預貯金口座への振込に限定する
建設の分野の場合、上記の内容に加え、国土交通大臣が認定する受入計画認定証の取得が必要です。
特定技能外国人材の所属機関が実施しなければならない支援を解説してきましたが、支援計画は、一部または全部を外部の登録支援機関に委託しても良いとされています。
登録支援機関は、出入国在留管理庁長官の登録を受け認定されます。
登録支援機関に支援の全部を委託した場合、所属機関は満たすべき基準をクリアしたものとみなされます。
特定技能は在留資格の一種で、人材の確保が特に困難な特定産業分野を国が支援する制度です。
特定技能外国人材は、一定水準以上の知識やスキルを有し即戦力として期待できる点が大きなメリットです。
所属機関や雇用契約には満たすべき基準があり、所属機関が遂行しなければならない届出などの義務も存在します。
特定技能外国人材への義務的支援は、一部または全部を登録支援機関へ委託も可能です。
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