農業を行う地域の過疎化・高齢化・後継者不足が問題となっています。多くの農家にとって、農業を維持・発展させていくための労働力の確保は早急に解決するべき課題です。
人材を確保する手段のひとつとして、特定技能の資格を持つ外国人材を受け入れる方法が存在します。
特定技能は一定のスキルや日本語能力がなければ取得できない在留資格です。特定技能外国人は即戦力として期待できる存在であるため、政府も積極的に受け入れる方針を発表しています。
特定技能外国人の受け入れ機関になるにはいくつかの基準を満たさなければなりません。
本記事では特定技能の農業分野の概要や、受け入れ機関の基準を詳しく解説するので参考にしてください。
厚生労働省による令和5年10月末時点の調査によると、農業分野で外国人材を受け入れている事業所は全国で12,575ヶ所、就労する外国人数は51,423人です。人手不足を解消するため、多くの農家が外国人材を受け入れている実態がわかります。
農業は、重労働や収入の不安定さから敬遠され、慢性的な人手不足に陥っています。また、土地や農機具にかかる費用負担が高額である場合が多く、参入障壁が高い点も農業の人手不足の原因のひとつと考えられます。
特定技能は、日本で就労するための在留資格の一種です。外国人は、就労できる在留資格がなければ日本で働けません。また、就労許可のない外国人を雇用すると事業者側も法律で罰せられます。
特定技能制度は、人材の確保が特に厳しい状況にある特定産業分野で、スキルの高い即戦力の外国人材を受け入れるため国によって創設されました。
特定技能で受け入れが可能な分野は以下のとおりです。
上記12分野のほか、自動車運送・鉄道・林業・木材産業の4分野の追加が発表されました。
特定技能は1号と2号に分類されます。
1号は、技能および日本語の検定に合格するか、同分野の技能実習2号を良好に修了することが在留資格申請の要件となっています。在留期間は通算で5年までで、家族の帯同は許可されていません。
また、1号の受け入れ機関は支援計画を作成し、計画に基づいた適切なサポートをしなければならないとされています。
特定技能2号は、1号より高い技術力が必要な検定や実務経験が認められる場合に取得できます。在留期間は無期限となり、要件を満たせば配偶者・子の帯同が許可されます。
2号は1号と異なり、受け入れ機関による支援の対象外です。
特定技能「農業」1号の在留資格は、取得要件に実務経験が含まれないため、外国人にとって特定技能「農業」2号よりも取得しやすい点が特徴です。
特定技能の農業分野で従事できる業務内容を詳しくみていきましょう。
特定技能の農業分野は、耕種農業区分と畜産農業区分に分類されます。
主な業務の具体例は以下のとおりです。
それぞれ、「栽培管理」または「飼養管理」が必ず含まれていなければなりません。
農畜産物を原料とした製造や加工、運搬、陳列、販売、作業所の除雪作業など、主な業務に付随する関連業務への従事も認められていますが、付随業務を主たる業務として任せてはならないため注意しましょう。
出典:出入国在留管理庁「特定技能1号の各分野の仕事内容」
農業では、繁忙期と農閑期で、派遣での受け入れも認められています。特に忙しい時期のみ雇用する柔軟な受け入れ方が可能です。
特定技能「農業」の人材を派遣で受け入れる派遣先事業者は、下記の条件を満たさなければなりません。
出典:法務省「外国人材の受け入れ制度に係るQ&A」
特定技能の在留資格を取得するには、以下の2つの方法が存在します。
それぞれの方法を解説します。
特定技能の在留資格を取得する手段のひとつに、分野ごとに定められた検定と日本語能力検定の両方で一定以上の成績を証明する方法が存在します。
農業分野で必要な「農業技能測定試験」と、日本語能力を評価する「日本語能力評価試験」を詳しくみていきましょう。
農業技能測定試験は耕種農業と畜産農業に分かれており、パソコンを使用して受験する方式です。指示内容が聞き取れるかを評価するヒアリングテストも含まれます。
試験日に満17歳以上でなければ受験資格を満たさないため注意しましょう。国籍がインドネシアの場合は満18歳以上です。
日本で受験する場合は在留資格も必要です。
日本語以外に10カ国語以上の言語に対応しており、フィリピン・ベトナム・インドネシアなど日本以外にも受験できる国が存在します。
日本語能力は、「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT)」のいずれかで一定水準以上の成績の証明が必要です。どちらも簡単な日常会話ができるレベルが求められます。
具体的には、以下のいずれかの成績がなければ特定技能取得のための要件を満たせません。
所定の検定に合格する以外に、技能実習を修了して特定技能の在留資格を取得する方法が存在します。
を良好に修了した外国人は、前項で解説した技能や日本語の検定が免除されます。
また、農業関係以外の技能実習2号を良好に修了した外国人は、日本語の検定が免除されます。
技能実習とは、外国人が日本で得た知識や技術を自国に持ち帰って活用するための制度です。途上国への技術移転による国際貢献を目的に、政府により創設されました。
技能実習の在留期間は職種により異なりますが最長5年で、1年目が技能実習1号、2~3年目が2号、4~5年目が3号に該当します。
現行の技能実習制度は、転職が規制されているなどの理由で外国人材の立場が弱くなりやすく、人権侵害が発生していると問題視されています。
不当に低い賃金で働かされる・単純労働力として酷使されるなどの問題を解消するため、政府は技能実習を廃止し、「育成就労制度」の新設することを決定しました。新制度では転職制限が緩和されるほか、特定技能への移行もしやすくなります。
特定技能の在留資格を取得する外国人本人は、以下の要件を満たしていなければなりません。
技能実習の修了や検定の合格を経ていても、上記の要件を満たさない場合は特定技能の資格を取得できないため注意しましょう。
農業分野で特定技能外国人を受け入れる場合のメリットを解説します。
特定技能外国人は、一定水準以上の知識やスキルを採用前に把握できる点が特徴です。日本語能力が高い外国人も多く、教育効率も高まります。特定技能外国人は、即戦力を要する事業者と相性の良い人材です。
技能実習制度では、技能実習生の受け入れ人数に制限があり、所定の人数までしか雇用できません。また、従事できる業務の内容や就労時間も限定的です。
農業分野の特定技能外国人の場合、受け入れ制限はないため、必要なだけ人材を効率よく確保でき、技能実習と比較して幅広い業務に従事させられます。人手不足が深刻な農業分野では大きなメリットです。
特定技能1号の在留期間は通算5年までですが、継続した5年間でなくても良いとされています。繁忙期のみ雇用して帰国するサイクルを通算5年に達するまで繰り返す形態も可能です。
また、2号は在留期間が無期限化します。人材の定着は受け入れ側にもメリットです。結果として、採用コストの削減効果も見込めます。
特定技能は、すでに日本に在留している外国人も取得もできるため、取得が見込まれる人材がいれば移行を促してみるのも良いでしょう。
特定技能外国人の受け入れ機関が注意すべきポイントを解説します。
特定技能外国人の受け入れ機関が満たすべき基準は以下のとおりです。
➀外国人と締結する雇用契約が適切である(記載すべき事項が揃っており、賃金水準は日本人と同等以上)
➁受け入れ機関自体が適切である(法令を遵守している・欠格事由に該当しないなど)
➂外国人を支援する体制がある
➃外国人を支援する計画が適切である(受け入れ機関は、1号特定技能外国人を支援する計画を作成し、計画に基づいた支援の実施が必要)
出典:出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」
特定技能の外国人材を受け入れる機関には以下の義務が課されます。
➀外国人と締結した雇用契約を確実に履行する
➁外国人への支援を適切に実施する
➂出入国在留管理庁およびハローワークへの各種届出
➃特定分野ごとに分野所管省庁が設置する協議会の構成員になる
➄農水省が行う調査や指導に対し必要な協力を行う
➅報酬は預貯金口座への振込によって支払うか、振込以外の方法で支払う場合は支払の事実を裏付ける客観的な資料を入管庁に提出する
農業分野の協議会は次項で解説します。
特定技能外国人を受け入れる事業者は、各分野の協議会への入会が必要です。農業分野では「農業特定技能協議会」です。
加入に際し費用は発生しませんが、構成員は、必要に応じて会に対する協力を行います。
はじめて特定技能外国人を受け入れる機関は特定技能外国人の受け入れに関する誓約書を地方出入国在留管理局に提出します。現在は特定技能外国人を初めて受け入れてから4か月以内に農業特定技能協議会に加入することになっていますが、令和6年6月15日以降は在留資格申請前の事前加入制になりました。
上記の変更を受け、入会申請方法などの要項も変更される可能性があるため、手続きの際は最新の情報を確認してください。
特定技能「農業」の在留資格は、技能および日本語の検定に合格するか、技能実習2号を良好に修了して取得できます。
特定技能外国人は一定水準以上のスキルを有し、幅広い業務に従事できる点、長期にわたる就労が見込める点がメリットです。
「農業」の在留資格は、本人や受け入れ機関が所定の基準を満たしていない場合は取得できません。
受け入れ機関は果たすべき義務を遂行し、協議会にも参加しましょう。
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